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ゆう
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『クズのベーシストがセックス下手なワケない』 - ゆうの小説 - pixiv
『クズのベーシストがセックス下手なワケない』 - ゆうの小説 - pixiv
19,516文字
『クズのベーシストがセックス下手なワケない』
――今夜、一線を越える。
両親が不在なのをいいことにぼっちを家に誘う山田リョウ。未成年が買っちゃいけない呑むと気分が良くなるドリンクをコンビニで買ってぼっちに呑ませ、雰囲気を良くし身体を触るが……
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2023年4月2日 16:41

「ぼっち、今日ウチ親いないんだ」
「は、はぁ……」
 リョウの台詞にぼっちはそんな気のない返事をした。いや、彼女の名誉のために言っておくがぼっちとて友人にそんな素っ気ない返事をしたかった訳ではない。
 ただ、ぼっちの頭の中では……
――えっとその耳より情報はどういうことなんでしょうか。ご両親がいなくて大変だから同情してってことなのかな。でも、リョウさん家ってお金持ちじゃなかったっけ。お手伝いさんとか雇えるんじゃ。そうでなくっても困ってるなら虹夏ちゃんに言えばなんやかんやで助けて貰えるんじゃ……はっ、もしかして私に助けて欲しい……なんてあるわけないか。家事全般ダメダメで勉強も面白トークも出来ない私なんかがご両親がいなくって困ってるリョウさんに何かしてあげられる事なんてあるわけないし、ああっ、というか早く返事しないと無視してるって思われちゃう。でも、なんて返事すれば。そういえば合コンマル秘テクニック返事のさしすせそみたいなのをネットで見た記憶が……さ:さぁ? し:知らんし? す:すげぇどうでもいい。 せ:せめて意味のある話をして。そ:So Bad !! いいや、違う。そんなんじゃなかった。と、取り敢えずこういい感じにリョウさんに不快感を与えないような返事を……
 というようなことを考えた結果、出てきたのが「は、はぁ」という気のない返事だったのだ。
「えっと……」
 もっともそれで話が続くわけはなかった。しどろもどろ何とか何か言葉を発しようとするぼっちと無言のままのリョウでSTARRY前の通りに微妙な沈黙が流れる。
――これはもしかして私が何か返事しないといけない番だったのかも。でも、今更こんな微妙なふいんき(何故か変換できない)をガラッと変えれるような気の利いたセリフなんて言えないし……ううっ、沈黙がキツい。い、いや、負けるな後藤ひとり。私だって今はバンドやってるような陽キャラなんだ。な、なにか言うんだ。取り敢えず口開いて後は流れでいい感じに……
「あっ、あの……!」
「あっ、あのさ」
 ぼっちの不意の大声がビルとビルに挟まれた通りに響き渡る。リョウも何か言おうとしていたが、その声もかき消されてしまった。
「あっ、えっと、その……すすすす、スイマセン!」
 リョウも何か言おうとしていたことに気が付き頭を下げるぼっち。いや、頭を下げるなんてものじゃない。ペコペコペコペコとヘッドバンギングよろしくピンクの髪を振り乱してる。そんないつもの調子のぼっちを見てリョウは笑みを溢した。
「ぼっち」
「す、す、すいません。お詫び、死んでお詫びしま……へ?」
 そこまでしなくても、とリョウはぼっちを窘める。
「取り敢えずウチ来て」
「えっ?」
 えぇぇぇぇぇ、というぼっちの叫びが夕暮れ時の下北沢にこだましたのであった。


◇◆◇


 それから商店街にあるお店で夕食をとり(山田が持ち合わせがないと言ったためぼっちが立て替えることになった)リョウの申し出でコンビニエンスストアによりお菓子などを買って(こちらは山田は自腹で払った)二人は道中、口数少ないままに山田家へと赴いたのだった。
――他人の部屋って緊張する。
 ぼっちはリョウに「そこに座ってて」と進められた場所に正座したままだった。借りてきた猫のように視線を不安げにさ迷わさせている。リョウは「ちょっとおやつとか用意してくる」と部屋から出ていってしまっていた。それが十分以上前。ぼっちは待ちぼうけていた。
――それにしても、スゴい。楽器とかアンプとかいっぱいある……それにポスターとか植木とか飾ってあってお、おしゃれ……っ
 自分の殺風景な部屋と比べてぼっちは軽く絶望していた。世の中の女子高生の部屋とはやはりこういう風におしゃれであるべきなのだ。フローリングにマットを引いてめいめい趣味のグッズやポスターで飾りたて、機能美に溢れたデスクやベッドがおいてあるものなんだ。六畳間に折り畳めるちゃぶ台をおいて、寝るときに布団を敷いて、いや、それどころかネコ型ロボットよろしく押し入れに引きこもっているのはJKにあるべき姿ではない。その事実に愕然としぼっちは「あばばばばばばばば」と奇声をあげて抽象画めいた顔をしていた。
「ぼっち何してるの? ゴーギャン?」
「あばばばばb……あ、りょ、リョウさん」
 飲み物の缶とお菓子を両手に持ってリョウが戻ってきた。Tシャツに短パンのラフな格好。それに妙にさっぱりしている。心なしかいい匂いもしていた。
「ごめん、ちょっとシャワー浴びてた」
「えっ、あっ……はい」
 戻ってくるのが遅かった理由はそれらしい。けれど、悪びれた様子のない謝罪だった。テーブルの上にお菓子と飲み物の缶を置いてリョウはぼっちの横に腰を下ろす。
「えっと……その……」
 素敵なお部屋ですね、とでも言いたいのだろう。だが、ぼっちはそんな簡単なことも言えずうつむき加減に視線をさ迷わせていた。
「ぼっち」
「はっ、ハイ!」
 不意に、いや、客観的に見れば不意でも何でもないのだが、ぼっち主観からすれば不意に声をかけられぼっちは甲高い悲鳴めいた返事をしてしまった。すこしだけだがビクりとリョウも目を開く。
「えっあっ、すいません」
「ん、大丈夫。で、どっちがいい?」
 どっちとリョウはテーブルの上においていた飲み物の缶2つを揺らしてみせた。ブドウの絵柄がかかれた缶と乳酸菌飲料らしい白色と青色のストライプがデザインされた缶だった。
「えっと、ど、ちらでも……ハイ」
 たっぷり三〇秒は悩んでから結局、ぼっちはそんな答えを口にした。リョウは「じゃあ」と乳酸菌飲料の方の缶をぼっちに差し出した。
「じゃあ、かんぱーい」
「えっあっ、はい、かんぱーい」
 封を開けて缶を軽く当てる二人。えへへ、とここでやっとぼっちは笑みをこぼした。
「かんぱいって……お、お酒みたいですね……」
 尊敬する廣井きくり……は置いておいて、ライブの打ち上げに居酒屋に行ったときお酒を美味しそうに呑んでいるSTARRYの店長やPAさんの姿を見ていたのでぼっちはお酒に少しだけ興味をもっていた。少しだけだ。自分が呑みだせばきっときくりお姉さんより酷いことになってしまうだろうという不安もあったからだ。
「……ああ、うん」
 曖昧な返事をするリョウを他所にぼっちは飲み物に口をつける。
「ん? か、変わった味ですね。カルピスソーダってもっと甘くて爽やかな感じだったような……」
 妙な苦味のようなものを感じてぼっちは首をかしげた。
「……そうかな」
 ぐびぐびとリョウもブドウの飲料を呑む。
「……」
「……」
 そうしてまた微妙な沈黙。えっと、とぼっちは缶に口をつけたまま視線を彷徨わせる。
「あっ、そうだ。りょ、リョウさん、これさっきのコンビニで買ったヤツですよね。お金、払います」
「いや、いい」
 間髪入れずリョウからそんな返事があった。少なからずぼっちは内心驚いていた。今まで奢らされたり借りられたり集られたりしたことは多々あったが山田リョウ先輩から施された事なんて一度も無かったからだ。
 ぼっちは目を点にしたままコクコクと乳酸菌飲料の飲み物を呑んでいた。どういう事なんだろう、と考える。
――急に家に呼んだりして。ああううん、お友だちの家に呼ばれたのは嬉しかったけれど、リョウさんってそんなキャラだったかな……私と一緒で、いや、一緒って言うのはおこがましいけど、リョウさんもパーソナルスペース大事にする方だと思ったんだけれど……私も虹夏ちゃんとか喜多さんが遊びに来たときも押入れは見せなかったし……なんか、部屋に他人を入れるっていうイメージが……
「ぼっち」
「ひゃっ、はっ、はい!?」
 一人考え込んでいたぼっちにリョウが声をかけてきた。今度は本当に唐突だった。リョウは赤い顔をしてじっと缶越しにぼっちの顔を見ていた。長い前髪に隠れた瞳は潤いを帯びているようだった。
「そっち行っていい?」
「えっ、は、はい?」
 ぼっちの答えを聞かずリョウは缶を手にしたまま立ち上がるとゆっくりとぼっちの方へと近づいていった。何とはなしに危なっかしい動作。一瞬、ぼっちはきくりみたいだと思った。どうしてそう思ったのかは分らないけれど。
「えっ、えっと……リョウさん?」
「何?」
 なに、と聞き返しながらぐびともう一口呑むリョウ。真横にでも座るのかと思っていたリョウはなんとぼっちのすぐ後ろに座った。脚の間に正座するぼっちを挟むような格好になっている。
「……ぼっちも足伸ばしたら?」
「あっ、いえ、お構いなく……」
「うーん、もしかしなくても緊張してる?」
「えっ、あっ、いえ……そんなことは」
 そんなことはあると誰にでも分るような態度だった。ぼっちには見えなかったがリョウはどうしたものか、と唇を尖らせていた。こく、ともう一口呑む。それで何か閃いたようだった。
「ぼっち全然呑んでないね。美味しくなかった? こっちと交換しようか」
「あっ」
 そう言った矢先にリョウは手を伸ばしてぼっちの手から乳酸菌飲料の缶を取ってしまった。代わりに自分が呑んでいたブドウのを空いた手に嵌めるように渡す。
「そっちの方が美味しいかも」
「えっ、あっ、そうですね……」
 ハハハ、と愛想笑いみたいな笑みを浮かべながらぼっちは缶に口をつけた。ブドウジュースとはちょっと違った味わい。こちらも妙な苦みが口の中に広がった。それも若干、舌が麻痺したように感じられたが。
「あっ、コッチの方が美味しいですね……そ、それと、あははは、こっ、これじゃあ間接キスですね……」
 笑いながらぼっちはそんなことを口にした。冗談のつもりだったのだろう。珍しくコミュニケーション能力が発揮されていた。もっとも……
「……」
 リョウは何の反応も示していなかったが。フリーズしたようにぼっちから取った乳酸菌飲料の缶を手にしたままリョウは固まってしまっていた。
「えっ、あっ、いや……す、すす、すいません。やっぱり、私が飲んだヤツなんて汚いですよね……ははっ、あっ、アルコール消毒します……!」
「あっ、いや、うん。必要ない」
 と、再起動したようにリョウは珍しく声のトーンを大きめにそんなことを言った。次いでぼっちが口をつけていた乳酸菌飲料の缶に自分も口をつけた。コクコク、と静かに呑む。
「……うん、こっちのも美味しい」
 ぼっちが自分の肩越しに覗き見たリョウの顔はいつもと違っていた。優しげな笑みを浮かべていた。
――わわわわ、やっぱりリョウさんって顔が良いなぁ。というか、距離、近いような。ああ、でも虹夏ちゃんも時々こんな感じなんだし……ううっ、リョウさんも私と同じ陰属性かと思ったけれど実は陽の者だったりして、あははは。というか、本当に近いような……?
 気が付くとリョウはぼっちにしなだれかかっていた。空いている方の手をぼっちのお腹の方に回し、後ろから躊躇いがちに触れていた。
「ええっと、リョウ、さん……?」
 スキンシップに驚きながらも、そういうものなのかなぁと疑問符を浮かべるぼっち。そんなぼっちには答えずリョウの手はもっとはっきりとぼっちに触れつつあった。
「ん……っ」
 ぼっちが身をよじる。他人に触れられることを忌避してか、それとも。そんなぼっちの反応に火がついたようにリョウの手つきも力強いものになる。
「ぼっち……」
 リョウの呼吸が荒くなる。いつの間にか手にしていた飲み物を呑み干し、空いてしまった缶を無造作に床に置いて両方の手でぼっちの身体を弄り始めた。ぼっちの身体が反応し、固くなる。
「りょ、リョウさん……?」
「ぼっち」
 お腹、ふともも、脇腹。あちらこちらに伸びていたリョウの手のひらがついにそこに達した。ぼっちの胸。普段、ジャージに隠されている豊満なそこを。ジャージの上からでもふわりと沈み込むような弾力がある。その感触を確かめるとリョウの指は両手ともそこに吸い寄せられるように移動した。後ろからぼっちの胸を鷲づかみにする格好になる。
「ん……リョウ、先輩……」
「ぼっち、ぼっち……」
 リョウの声に艶が混じる。吐き出す吐息が熱くなる。指の動きも激しく、ジャージの分厚い布地が邪魔だと言わんばかりだ。そうして、指はハッと脱がせばいいのではと思いついたようでチャックに手が伸び……
「りょ、リョウさんっ!!」
「……!?」
 ぼっちの叫びで動きが止まった。リョウだけでなくぼっちもだった。二人とも電池が切れたように静止していた。
「えっと、ごめん」
「あっあっあ」
 先に言葉を発したのはリョウだった。今度は、いや、彼女にしては珍しく心底申し訳なさそうな声色だった。
「イヤだった……よね。ごめん、気持ち悪かったよね」
 リョウの声のトーンは沈んだままだった。あわあわ、とあわてふためくぼっちにリョウは「ごめん」と言葉を続ける。
「あっ、いや、その……きゅ、急に触られたので、ちょ、ちょっとびっくりしただけ……です」
 あわあわと声を漏らしていただけのぼっちだったが、それでも何かハッキリとした言葉を言わなければならないと気が付いたのだろう。しどろもどろになりながらも何とかそういう言葉をリョウに伝える。
「ホントに?」
 僅かにリョウの声にトーンが戻る。それでもまだ僅か。ぼっちが何か失言すればふて腐れて離れてしまいそうな危うさがまだあった。
「あっ、ハイ……そ、そうです」
「じゃあ、キモチは……良かった?」
 えっ、と濁点付きの声を漏らすぼっち。「そっか」とまたリョウの声のトーンは沈んでしまった。
「いや、えっと、そのスイマセン……」
「ああ、いや、いいよ。私がヘタクソだったってだけの話だし。私、ベーシストだし顔がいいからコッチも上手いと思ってた」
 ため息。実はもうリョウは普段の調子を取り戻していた……無理やり、だが、ぼっちにはそれが分からなかった。まだまだ顔面を作画崩壊させながらあわてふためいている。
「あっあははは、じゃ、じゃあたぶん私はじょ、上手かもしれないですね。ギタリストで、かっ、顔は人様にお見せできるようなものじゃありませんし……」
「……」
 だからでもないだろうが、そんないい加減なことをついぼっちは口走ってしまった。いや、正直なところぼっちも何も考えていない訳ではなかった。ぼっちはぼっちなりに色々考えてはいたのだが……生憎と場の雰囲気を和ませるウイットに富んだジョークを言えるようなコミュニケーションスキルを持ち合わせていなかった。結局、口から出てきたのはそういう反応に困る言葉だった。
「じゃあ」
 それにリョウが反応する。自分のセリフが滑ってしまったと思っていたぼっちは思わぬ状況に「へっ」と声を漏らしていた。いや、声を荒げるのはこの後だ。
「ぼっちも試してみて」
 そうリョウは少しだけぼっちから離れる。ぼっちが触りやすいように。両手を後ろ向きに床について、胸を反らせる格好になる。
「えっと……りょ、リョウさん?」
「ほら」
「な、何を試せば……」
「胸、私の、さわって」
 ええっと、とぼっちは固まる。
――さわる? なにを? リョウさんの? 胸を? 誰が? 私が? なんで?
 疑問符を五個も十個も浮かべながらぼっちは混乱の極みにあった。
「……」
 リョウはそれ以上、なにも言わずぼっちが行動するのを待っていた。潤いを帯びた瞳。紅潮した頬。恥ずかしそうな表情と大胆なポーズ。時計の針の歩みが極端に遅くなる。
「あう……えっと……」
――ど、ど、どういうこと。こういう場合、どうすればいいの? 友達に胸を触ってって言われたら本当に触っていいの? 私が言われたら? 他の人にべたべた触られるのはイヤだけど、スキンシップってそういうものっぽいし……いや、胸を触るのはスキンシップの範疇を超えてる気が。それとも世の中のリア充はそういうことするの? あっ、でも、確かに喜多ちゃんの手がたまに私の胸に触れることあったし、もしかすると仲のいい友達と二人っきりになったらこういうことをするのも普通なのかも。そ、それにリョウさんをこんな変なポーズのままにさせるのも悪いし……ちょ、ちょっと触ってみれば私もヘタだって証明になるだろうから。どうなったら下手でどうなったら上手なのかよく分からないけれど……うん、がんばれ。後藤ひとり。これでもっとリョウ先輩と仲良くなるんだ……!
「そ、それじゃあ……」
「ん、うん……」
 ぼっちの手が伸びる。リョウは薄く目を閉じる。ぎこちない手つきでぼっちはリョウの胸にTシャツの上から触れた。
――柔らかい、かな。リョウさんってスレンダーで私みたいに無駄な塊がついてないし……いいなぁ、スタイル良くって。
 そんな事を考えながらぼっちはリョウの胸を触る。おっかなびっくりではあるが手のひらで薄い布地の下の柔らかさを感じ取るように動かしている。
――何かしこりが……えっ、もしかしてリョウ先輩、ぶ、ブラジャーつけてない……!? あっ、そっ、そうか。シャワー浴びてきたって言ってたし、もういつでも寝れるつもりの格好なのかも。と、取り敢えず……こういう所は流石に触らない方が……
「んっ……ぼっち、そこ」
「ひゃっ、はっ、はい」
 リョウに言われぼっちは引き続き手のひら全体で胸を触った。Tシャツの下であっても主張するぽっちを手のひらに感じながら、何か生地でもこねるように指を動かす。
「っ……んっ」
 リョウは俯いている。表情は胸を触るぼっちからは伺いしれない。けれど、時折、吐息混じりに声が漏れている。嬌声。身体も自分の意思に関わらず反応を示している。
――これは……いいの、かな。上手なのかな。だとしたら……えへへ、やっぱり私は天才なんだ。いきなりやってこんな……でも、これって何の上手い下手なんだろ……
 ぼっちの手はリョウの胸だけでなく脇の下やお腹にも伸びていた。どちらかと言えば痩せ気味なリョウの身体をまんべんなく触っている。躊躇いと暴走気味の勢いが強弱となってリョウの身体に刺激を与え続けている。考えての事ではない。ぼっちの意識はもう完全に内側に向いてしまっている。偽客観的に自分を自分でみている。或いはそれは意図的に。自分が何をしているのか直視したくなくて、無意識のうちに。けれど。
「ぼっち……」
 リョウが身体を起こした。あっ、とぼっちはリョウの身体を触ったまま声を漏らす。目の前にはリョウの顔。ユニセックスな、整った顔、青色の髪、金色の瞳。その距離が近くなる。非常に、とても、零に。唇に柔らかな触感。
――ん、えっ!?
 キス、されているのだと気が付いてぼっちは大きく目を見開いた。離れようとしたのは自然な反応だった。けれど、リョウの手がぼっちの腰を抱く。離れられない。触れあった唇がもっと強くくっ付き、リョウの舌がぼっちの口のなかへと差し込まれる。口内に流し込まれた他人の唾液の味を感じ、ぼっちは驚いた顔のまま固まってしまう。
「ぷはっ……」
 それからどれぐらいの時間が流れたのだろう。実際の時間はほんの数秒だったはずだが、二人……りょうとぼっちはとても長い時間、唇同士が触れ合っていたような感覚を覚えていた。
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「ぼっち、今日ウチ親いないんだ」
「は、はぁ……」
 リョウの台詞にぼっちはそんな気のない返事をした。いや、彼女の名誉のために言っておくがぼっちとて友人にそんな素っ気ない返事をしたかった訳ではない。
 ただ、ぼっちの頭の中では……
――えっとその耳より情報はどういうことなんでしょうか。ご両親がいなくて大変だから同情してってことなのかな。でも、リョウさん家ってお金持ちじゃなかったっけ。お手伝いさんとか雇えるんじゃ。そうでなくっても困ってるなら虹夏ちゃんに言えばなんやかんやで助けて貰えるんじゃ……はっ、もしかして私に助けて欲しい……なんてあるわけないか。家事全般ダメダメで勉強も面白トークも出来ない私なんかがご両親がいなくって困ってるリョウさんに何かしてあげられる事なんてあるわけないし、ああっ、というか早く返事しないと無視してるって思われちゃう。でも、なんて返事すれば。そういえば合コンマル秘テクニック返事のさしすせそみたいなのをネットで見た記憶が……さ:さぁ? し:知らんし? す:すげぇどうでもいい。 せ:せめて意味のある話をして。そ:So Bad !! いいや、違う。そんなんじゃなかった。と、取り敢えずこういい感じにリョウさんに不快感を与えないような返事を……
 というようなことを考えた結果、出てきたのが「は、はぁ」という気のない返事だったのだ。
「えっと……」
 もっともそれで話が続くわけはなかった。しどろもどろ何とか何か言葉を発しようとするぼっちと無言のままのリョウでSTARRY前の通りに微妙な沈黙が流れる。
――これはもしかして私が何か返事しないといけない番だったのかも。でも、今更こんな微妙なふいんき(何故か変換できない)をガラッと変えれるような気の利いたセリフなんて言えないし……ううっ、沈黙がキツい。い、いや、負けるな後藤ひとり。私だって今はバンドやってるような陽キャラなんだ。な、なにか言うんだ。取り敢えず口開いて後は流れでいい感じに……
「あっ、あの……!」
「あっ、あのさ」
 ぼっちの不意の大声がビルとビルに挟まれた通りに響き渡る。リョウも何か言おうとしていたが、その声もかき消されてしまった。
「あっ、えっと、その……すすすす、スイマセン!」
 リョウも何か言おうとしていたことに気が付き頭を下げるぼっち。いや、頭を下げるなんてものじゃない。ペコペコペコペコとヘッドバンギングよろしくピンクの髪を振り乱してる。そんないつもの調子のぼっちを見てリョウは笑みを溢した。
「ぼっち」
「す、す、すいません。お詫び、死んでお詫びしま……へ?」
 そこまでしなくても、とリョウはぼっちを窘める。
「取り敢えずウチ来て」
「えっ?」
 えぇぇぇぇぇ、というぼっちの叫びが夕暮れ時の下北沢にこだましたのであった。


◇◆◇


 それから商店街にあるお店で夕食をとり(山田が持ち合わせがないと言ったためぼっちが立て替えることになった)リョウの申し出でコンビニエンスストアによりお菓子などを買って(こちらは山田は自腹で払った)二人は道中、口数少ないままに山田家へと赴いたのだった。
――他人の部屋って緊張する。
 ぼっちはリョウに「そこに座ってて」と進められた場所に正座したままだった。借りてきた猫のように視線を不安げにさ迷わさせている。リョウは「ちょっとおやつとか用意してくる」と部屋から出ていってしまっていた。それが十分以上前。ぼっちは待ちぼうけていた。
――それにしても、スゴい。楽器とかアンプとかいっぱいある……それにポスターとか植木とか飾ってあってお、おしゃれ……っ
 自分の殺風景な部屋と比べてぼっちは軽く絶望していた。世の中の女子高生の部屋とはやはりこういう風におしゃれであるべきなのだ。フローリングにマットを引いてめいめい趣味のグッズやポスターで飾りたて、機能美に溢れたデスクやベッドがおいてあるものなんだ。六畳間に折り畳めるちゃぶ台をおいて、寝るときに布団を敷いて、いや、それどころかネコ型ロボットよろしく押し入れに引きこもっているのはJKにあるべき姿ではない。その事実に愕然としぼっちは「あばばばばばばばば」と奇声をあげて抽象画めいた顔をしていた。
「ぼっち何してるの? ゴーギャン?」
「あばばばばb……あ、りょ、リョウさん」
 飲み物の缶とお菓子を両手に持ってリョウが戻ってきた。Tシャツに短パンのラフな格好。それに妙にさっぱりしている。心なしかいい匂いもしていた。
「ごめん、ちょっとシャワー浴びてた」
「えっ、あっ……はい」
 戻ってくるのが遅かった理由はそれらしい。けれど、悪びれた様子のない謝罪だった。テーブルの上にお菓子と飲み物の缶を置いてリョウはぼっちの横に腰を下ろす。
「えっと……その……」
 素敵なお部屋ですね、とでも言いたいのだろう。だが、ぼっちはそんな簡単なことも言えずうつむき加減に視線をさ迷わせていた。
「ぼっち」
「はっ、ハイ!」
 不意に、いや、客観的に見れば不意でも何でもないのだが、ぼっち主観からすれば不意に声をかけられぼっちは甲高い悲鳴めいた返事をしてしまった。すこしだけだがビクりとリョウも目を開く。
「えっあっ、すいません」
「ん、大丈夫。で、どっちがいい?」
 どっちとリョウはテーブルの上においていた飲み物の缶2つを揺らしてみせた。ブドウの絵柄がかかれた缶と乳酸菌飲料らしい白色と青色のストライプがデザインされた缶だった。
「えっと、ど、ちらでも……ハイ」
 たっぷり三〇秒は悩んでから結局、ぼっちはそんな答えを口にした。リョウは「じゃあ」と乳酸菌飲料の方の缶をぼっちに差し出した。
「じゃあ、かんぱーい」
「えっあっ、はい、かんぱーい」
 封を開けて缶を軽く当てる二人。えへへ、とここでやっとぼっちは笑みをこぼした。
「かんぱいって……お、お酒みたいですね……」
 尊敬する廣井きくり……は置いておいて、ライブの打ち上げに居酒屋に行ったときお酒を美味しそうに呑んでいるSTARRYの店長やPAさんの姿を見ていたのでぼっちはお酒に少しだけ興味をもっていた。少しだけだ。自分が呑みだせばきっときくりお姉さんより酷いことになってしまうだろうという不安もあったからだ。
「……ああ、うん」
 曖昧な返事をするリョウを他所にぼっちは飲み物に口をつける。
「ん? か、変わった味ですね。カルピスソーダってもっと甘くて爽やかな感じだったような……」
 妙な苦味のようなものを感じてぼっちは首をかしげた。
「……そうかな」
 ぐびぐびとリョウもブドウの飲料を呑む。
「……」
「……」
 そうしてまた微妙な沈黙。えっと、とぼっちは缶に口をつけたまま視線を彷徨わせる。
「あっ、そうだ。りょ、リョウさん、これさっきのコンビニで買ったヤツですよね。お金、払います」
「いや、いい」
 間髪入れずリョウからそんな返事があった。少なからずぼっちは内心驚いていた。今まで奢らされたり借りられたり集られたりしたことは多々あったが山田リョウ先輩から施された事なんて一度も無かったからだ。
 ぼっちは目を点にしたままコクコクと乳酸菌飲料の飲み物を呑んでいた。どういう事なんだろう、と考える。
――急に家に呼んだりして。ああううん、お友だちの家に呼ばれたのは嬉しかったけれど、リョウさんってそんなキャラだったかな……私と一緒で、いや、一緒って言うのはおこがましいけど、リョウさんもパーソナルスペース大事にする方だと思ったんだけれど……私も虹夏ちゃんとか喜多さんが遊びに来たときも押入れは見せなかったし……なんか、部屋に他人を入れるっていうイメージが……
「ぼっち」
「ひゃっ、はっ、はい!?」
 一人考え込んでいたぼっちにリョウが声をかけてきた。今度は本当に唐突だった。リョウは赤い顔をしてじっと缶越しにぼっちの顔を見ていた。長い前髪に隠れた瞳は潤いを帯びているようだった。
「そっち行っていい?」
「えっ、は、はい?」
 ぼっちの答えを聞かずリョウは缶を手にしたまま立ち上がるとゆっくりとぼっちの方へと近づいていった。何とはなしに危なっかしい動作。一瞬、ぼっちはきくりみたいだと思った。どうしてそう思ったのかは分らないけれど。
「えっ、えっと……リョウさん?」
「何?」
 なに、と聞き返しながらぐびともう一口呑むリョウ。真横にでも座るのかと思っていたリョウはなんとぼっちのすぐ後ろに座った。脚の間に正座するぼっちを挟むような格好になっている。
「……ぼっちも足伸ばしたら?」
「あっ、いえ、お構いなく……」
「うーん、もしかしなくても緊張してる?」
「えっ、あっ、いえ……そんなことは」
 そんなことはあると誰にでも分るような態度だった。ぼっちには見えなかったがリョウはどうしたものか、と唇を尖らせていた。こく、ともう一口呑む。それで何か閃いたようだった。
「ぼっち全然呑んでないね。美味しくなかった? こっちと交換しようか」
「あっ」
 そう言った矢先にリョウは手を伸ばしてぼっちの手から乳酸菌飲料の缶を取ってしまった。代わりに自分が呑んでいたブドウのを空いた手に嵌めるように渡す。
「そっちの方が美味しいかも」
「えっ、あっ、そうですね……」
 ハハハ、と愛想笑いみたいな笑みを浮かべながらぼっちは缶に口をつけた。ブドウジュースとはちょっと違った味わい。こちらも妙な苦みが口の中に広がった。それも若干、舌が麻痺したように感じられたが。
「あっ、コッチの方が美味しいですね……そ、それと、あははは、こっ、これじゃあ間接キスですね……」
 笑いながらぼっちはそんなことを口にした。冗談のつもりだったのだろう。珍しくコミュニケーション能力が発揮されていた。もっとも……
「……」
 リョウは何の反応も示していなかったが。フリーズしたようにぼっちから取った乳酸菌飲料の缶を手にしたままリョウは固まってしまっていた。
「えっ、あっ、いや……す、すす、すいません。やっぱり、私が飲んだヤツなんて汚いですよね……ははっ、あっ、アルコール消毒します……!」
「あっ、いや、うん。必要ない」
 と、再起動したようにリョウは珍しく声のトーンを大きめにそんなことを言った。次いでぼっちが口をつけていた乳酸菌飲料の缶に自分も口をつけた。コクコク、と静かに呑む。
「……うん、こっちのも美味しい」
 ぼっちが自分の肩越しに覗き見たリョウの顔はいつもと違っていた。優しげな笑みを浮かべていた。
――わわわわ、やっぱりリョウさんって顔が良いなぁ。というか、距離、近いような。ああ、でも虹夏ちゃんも時々こんな感じなんだし……ううっ、リョウさんも私と同じ陰属性かと思ったけれど実は陽の者だったりして、あははは。というか、本当に近いような……?
 気が付くとリョウはぼっちにしなだれかかっていた。空いている方の手をぼっちのお腹の方に回し、後ろから躊躇いがちに触れていた。
「ええっと、リョウ、さん……?」
 スキンシップに驚きながらも、そういうものなのかなぁと疑問符を浮かべるぼっち。そんなぼっちには答えずリョウの手はもっとはっきりとぼっちに触れつつあった。
「ん……っ」
 ぼっちが身をよじる。他人に触れられることを忌避してか、それとも。そんなぼっちの反応に火がついたようにリョウの手つきも力強いものになる。
「ぼっち……」
 リョウの呼吸が荒くなる。いつの間にか手にしていた飲み物を呑み干し、空いてしまった缶を無造作に床に置いて両方の手でぼっちの身体を弄り始めた。ぼっちの身体が反応し、固くなる。
「りょ、リョウさん……?」
「ぼっち」
 お腹、ふともも、脇腹。あちらこちらに伸びていたリョウの手のひらがついにそこに達した。ぼっちの胸。普段、ジャージに隠されている豊満なそこを。ジャージの上からでもふわりと沈み込むような弾力がある。その感触を確かめるとリョウの指は両手ともそこに吸い寄せられるように移動した。後ろからぼっちの胸を鷲づかみにする格好になる。
「ん……リョウ、先輩……」
「ぼっち、ぼっち……」
 リョウの声に艶が混じる。吐き出す吐息が熱くなる。指の動きも激しく、ジャージの分厚い布地が邪魔だと言わんばかりだ。そうして、指はハッと脱がせばいいのではと思いついたようでチャックに手が伸び……
「りょ、リョウさんっ!!」
「……!?」
 ぼっちの叫びで動きが止まった。リョウだけでなくぼっちもだった。二人とも電池が切れたように静止していた。
「えっと、ごめん」
「あっあっあ」
 先に言葉を発したのはリョウだった。今度は、いや、彼女にしては珍しく心底申し訳なさそうな声色だった。
「イヤだった……よね。ごめん、気持ち悪かったよね」
 リョウの声のトーンは沈んだままだった。あわあわ、とあわてふためくぼっちにリョウは「ごめん」と言葉を続ける。
「あっ、いや、その……きゅ、急に触られたので、ちょ、ちょっとびっくりしただけ……です」
 あわあわと声を漏らしていただけのぼっちだったが、それでも何かハッキリとした言葉を言わなければならないと気が付いたのだろう。しどろもどろになりながらも何とかそういう言葉をリョウに伝える。
「ホントに?」
 僅かにリョウの声にトーンが戻る。それでもまだ僅か。ぼっちが何か失言すればふて腐れて離れてしまいそうな危うさがまだあった。
「あっ、ハイ……そ、そうです」
「じゃあ、キモチは……良かった?」
 えっ、と濁点付きの声を漏らすぼっち。「そっか」とまたリョウの声のトーンは沈んでしまった。
「いや、えっと、そのスイマセン……」
「ああ、いや、いいよ。私がヘタクソだったってだけの話だし。私、ベーシストだし顔がいいからコッチも上手いと思ってた」
 ため息。実はもうリョウは普段の調子を取り戻していた……無理やり、だが、ぼっちにはそれが分からなかった。まだまだ顔面を作画崩壊させながらあわてふためいている。
「あっあははは、じゃ、じゃあたぶん私はじょ、上手かもしれないですね。ギタリストで、かっ、顔は人様にお見せできるようなものじゃありませんし……」
「……」
 だからでもないだろうが、そんないい加減なことをついぼっちは口走ってしまった。いや、正直なところぼっちも何も考えていない訳ではなかった。ぼっちはぼっちなりに色々考えてはいたのだが……生憎と場の雰囲気を和ませるウイットに富んだジョークを言えるようなコミュニケーションスキルを持ち合わせていなかった。結局、口から出てきたのはそういう反応に困る言葉だった。
「じゃあ」
 それにリョウが反応する。自分のセリフが滑ってしまったと思っていたぼっちは思わぬ状況に「へっ」と声を漏らしていた。いや、声を荒げるのはこの後だ。
「ぼっちも試してみて」
 そうリョウは少しだけぼっちから離れる。ぼっちが触りやすいように。両手を後ろ向きに床について、胸を反らせる格好になる。
「えっと……りょ、リョウさん?」
「ほら」
「な、何を試せば……」
「胸、私の、さわって」
 ええっと、とぼっちは固まる。
――さわる? なにを? リョウさんの? 胸を? 誰が? 私が? なんで?
 疑問符を五個も十個も浮かべながらぼっちは混乱の極みにあった。
「……」
 リョウはそれ以上、なにも言わずぼっちが行動するのを待っていた。潤いを帯びた瞳。紅潮した頬。恥ずかしそうな表情と大胆なポーズ。時計の針の歩みが極端に遅くなる。
「あう……えっと……」
――ど、ど、どういうこと。こういう場合、どうすればいいの? 友達に胸を触ってって言われたら本当に触っていいの? 私が言われたら? 他の人にべたべた触られるのはイヤだけど、スキンシップってそういうものっぽいし……いや、胸を触るのはスキンシップの範疇を超えてる気が。それとも世の中のリア充はそういうことするの? あっ、でも、確かに喜多ちゃんの手がたまに私の胸に触れることあったし、もしかすると仲のいい友達と二人っきりになったらこういうことをするのも普通なのかも。そ、それにリョウさんをこんな変なポーズのままにさせるのも悪いし……ちょ、ちょっと触ってみれば私もヘタだって証明になるだろうから。どうなったら下手でどうなったら上手なのかよく分からないけれど……うん、がんばれ。後藤ひとり。これでもっとリョウ先輩と仲良くなるんだ……!
「そ、それじゃあ……」
「ん、うん……」
 ぼっちの手が伸びる。リョウは薄く目を閉じる。ぎこちない手つきでぼっちはリョウの胸にTシャツの上から触れた。
――柔らかい、かな。リョウさんってスレンダーで私みたいに無駄な塊がついてないし……いいなぁ、スタイル良くって。
 そんな事を考えながらぼっちはリョウの胸を触る。おっかなびっくりではあるが手のひらで薄い布地の下の柔らかさを感じ取るように動かしている。
――何かしこりが……えっ、もしかしてリョウ先輩、ぶ、ブラジャーつけてない……!? あっ、そっ、そうか。シャワー浴びてきたって言ってたし、もういつでも寝れるつもりの格好なのかも。と、取り敢えず……こういう所は流石に触らない方が……
「んっ……ぼっち、そこ」
「ひゃっ、はっ、はい」
 リョウに言われぼっちは引き続き手のひら全体で胸を触った。Tシャツの下であっても主張するぽっちを手のひらに感じながら、何か生地でもこねるように指を動かす。
「っ……んっ」
 リョウは俯いている。表情は胸を触るぼっちからは伺いしれない。けれど、時折、吐息混じりに声が漏れている。嬌声。身体も自分の意思に関わらず反応を示している。
――これは……いいの、かな。上手なのかな。だとしたら……えへへ、やっぱり私は天才なんだ。いきなりやってこんな……でも、これって何の上手い下手なんだろ……
 ぼっちの手はリョウの胸だけでなく脇の下やお腹にも伸びていた。どちらかと言えば痩せ気味なリョウの身体をまんべんなく触っている。躊躇いと暴走気味の勢いが強弱となってリョウの身体に刺激を与え続けている。考えての事ではない。ぼっちの意識はもう完全に内側に向いてしまっている。偽客観的に自分を自分でみている。或いはそれは意図的に。自分が何をしているのか直視したくなくて、無意識のうちに。けれど。
「ぼっち……」
 リョウが身体を起こした。あっ、とぼっちはリョウの身体を触ったまま声を漏らす。目の前にはリョウの顔。ユニセックスな、整った顔、青色の髪、金色の瞳。その距離が近くなる。非常に、とても、零に。唇に柔らかな触感。
――ん、えっ!?
 キス、されているのだと気が付いてぼっちは大きく目を見開いた。離れようとしたのは自然な反応だった。けれど、リョウの手がぼっちの腰を抱く。離れられない。触れあった唇がもっと強くくっ付き、リョウの舌がぼっちの口のなかへと差し込まれる。口内に流し込まれた他人の唾液の味を感じ、ぼっちは驚いた顔のまま固まってしまう。
「ぷはっ……」
 それからどれぐらいの時間が流れたのだろう。実際の時間はほんの数秒だったはずだが、二人……りょうとぼっちはとても長い時間、唇同士が触れ合っていたような感覚を覚えていた。
「えっあつ、ううっ……」
 何が起こったのか未だに理解できていない様子でぼっちはうろたえていた。意味不明の言葉が唇から漏れ、素人が動かしているマリオネットのように身体をばたつかせていた。混乱が手足にまで及んでいる様子だった。
「……やっぱり、イヤ、だった?」
 たっぷりの沈黙の後、リョウがそう訪ねてきた。ぼっちの顔を見ていられないのか伏し目がちに。けれど、腰に回した手はまだ放さないままだった。そうしまた沈黙。答えを待つ沈黙だった。
――ええっと……ど、どう答えるのが正解なんだろう。ううっ、なんて答えてもダメな気しかしない。というかなんて答えたらいいのかさえも分からない。お友達同士でもキッ、キスってするものなの。親密なスキンシップってそういうものなの。いやいや、後藤ひとり、そんな訳ないじゃん。これはもう真面目に考えた方がいい話だ。目をそむけてふざけて済ませちゃいけない話なんだ。そうだよ。私もいつかはするんじゃないかって漠然と考えてたけれど……万が一、億が一、一兆分の一、そういう事になることもあるんじゃないかって思ってたけれど……妄想は男の人とだったけれど、ああ、うん。そういうことをする相手が女の子だっていう話だって世の中にはある筈なんだ。それで後は私が、リョウさんを受け入れるかどうか……
「その……」
「ごめん。ぼっち。やっぱり今日はもう帰って」
「い、イヤじゃなかった……です」
 諦めたようなリョウの言葉に被せるよう、ぼっちは強く、声は小さかったけれど、彼女にしては力強い言葉でそう答えた。「えっ」とリョウは声を上げる。
「その、び、びっくりはしました。リョウさんがこういうことしてくるのは。で、でも、さっ、さっきも言いましたけれど……べっ、別にイヤじゃなかった……でっ!?」
 不意に抱き寄せられるぼっち。ひやっ、と可愛らしい悲鳴が漏れる。
「うん、うん、ありがとう。ありがとうぼっち」
 すすり泣く声が耳元に聞こえる。押し付けられた胸から力強い鼓動を感じる。リョウはめいいっぱいの力で強くぼっちを抱き締めていた。溢れだした気持ちが抑えきれない。そういう反応。「はい……」とぼっちも優しげにリョウの身体を抱き返す。


「それで……ぼっち、いいかな?」
 それから二人の体温が均一になるほど抱き合ってからまたリョウはそんなことを聞いてきた。「ええっと、何がでしょうか」と察しの悪いぼっち。
「セックス。ぼっちと、するの……」
 ハッキリと言われてぼっちは顔を真っ赤にした。いや、実はそう訪ねたリョウもそうだった。赤い顔を見られないよう視線を背けていたが、リョウの耳は茹でたように赤くなっていた。
「その、私初めてだし、ぼっちみたいに上手く出来ないかもしれないけど」
「ええっと、ハイ。大丈夫です。わっ、私もはっ、初めてですし」
「初めてでアレだけできるのはマジ天才」
 ふふふっ、とリョウは笑った。つられてぼっちも。二人はそうして笑いあってから、見つめあって、またキスをした。
「んっ……」「ぷはっ……」
 ついばむようなバードキス。今度のそれはリョウからぼっちへの一方的なものではなく、ぼっちからのお返しがあった。唇を触れ合わせ、舌を絡ませあう。今まで感じたことのない感覚にぼっちは自分の身体が昂っているのを感じとっていた。
――なんだか、ライブのあとみたい。頭がふわふわして、心臓がドキドキして、楽しいに溢れてて……
「んっ……」
 知らずのうちにぼっちはキスの度に気持ち良さそうな声を漏らしていた。リョウの方もだった。静かな部屋に二人の吐息と時おり漏れる嬌声がBGMになる。
「ぼっち」
「あっ……はい」
 キスはリョウの方から離れることで終わった。ぼっちは名残惜しそうに声を漏らす。リョウもまだまだしたりない様子だった。けれど、それはキスだけではなかった。
「胸触って、また」
 言いながらリョウはシャツを首のところまでめくり上げる。下にはなにも身に付けていない。控えめな胸が露になる。シャワーを浴びたばかりでそこは雨上がりの地面のように湿り気を帯びていた。
「は、はい……」
 きれいな胸にゴクリとぼっちは喉を鳴らす。
――同性だけれど、こんなきれいなのだったらドキドキするのも仕方ないよね。
 それじゃあ、とぼっちはまたおっかなびっくりになりながらも手を伸ばす。直にリョウの胸に触れる。「んっ」とリョウは身体を震わせた。
「あっ、痛かったとか気持ち悪かったとか、そっ、そうですよね。私の手じゃ……」
「違う。その……気持ちよすぎただけ。やっぱりぼっちは上手いね。ギターもこっちも」
 昂り顔を紅潮させながらリョウは微笑んだ。あう、と声を漏らすぼっち。けれど、誉められて気分が良くなってきたのか、それでリョウの胸を優しく揉み始めた。
 リョウはもう上着を完全に脱いでしまった。ぼっちの手の感触をより強く味わおうとしてか身をよじっている。
「ぼっちのも、触らせて」
「えっ、い、いや、そのぅ……」
「脱いで。私だけ裸なんてズルいと思わないのぼっちは」
「ううっ」
 それでもぼっちはジャージを脱がなかった。肌を見せるにはやはり抵抗があるのだろうか。リョウは黙ったまま手を伸ばした。チャックを摘まみ、ジィーと下げる。ぼっちは「あっあっ」とうろたえているが止めるまでには至らない。ピンク色のジャージの下は中学生男子が好きそうな黒いTシャツだった。
「ぼっち」
「ううっ、はい」
 リョウに急かされぼっちはTシャツを自分でめくり上げた。可愛らしい下着に包まれた大きなバストが露になる。
「うぉでっか」
「すすす、すいません無駄な塊をぶら下げてて……」
「いや、その卑屈はぺちゃパイからすると傷つくよ」
 スイマセンスイマセンとなおも謝るぼっちをいとおしげに笑ってからリョウはブラをはずした。片手では余るサイズの胸がこぼれる。リョウが触るとそれはずしりと重く、そうして柔らかかった。
「おっ、おぉぉ……!」
 妙な感動をしながらリョウはぼっちの大きな胸を揉み始めた。性愛というよりストレスボールを触るようなそれだったが。
「りょ、リョウさん……?」
 それも最初だけだ。手付きは優しいもの愛しげなものに変わっていく。
「んっ……」
 ぼっちの口からも可愛らしい声が漏れる。
――さっきと全然違う。さっきはくすぐったいだけだったけど、今のは、これはキモチいいのかな。たぶん、そう。でも、なんで。じかに触られてるから? それとも、これがセックスだって私が気付いたから?
「リョウさん……」
「ぼっち」
 身体と感情が昂り、二人はもう相手の名前を呼ぶか、短い声を漏らすかしかできなくなっていた。ぼっちはリョウの身体を抱き寄せた。また、キスをする。リョウの身体にもっと触れていたいと胸も触る。小陵の頂の桜色を優しくつまむとぼっちの口のなかにさしこまれていた舌が反応した。
――リョウさんこれがいいんだ。なんだかかわいい、気がする。でも、私がこんなに触っていいのかな……
「ぼっち……もっと……」
 ぼっちの誤りはけれどリョウが更に強く求めてきたことで吹っ切れた。ぼっちはリョウから唇を離すと、それを下の方へと持っていった。リョウの脇に手を差し込み、身体を押さえ胸に口づけをした。「んっ」とリョウが声を漏らす。指や手とは全く違う未知の感触。快楽に身体中の力が抜け落ちていく。そんなリョウの反応に気が付いていないのかぼっちは口でリョウの胸を愛し続けた。吸い付き、あま噛みし、舌先で転がし、絶えず刺激を与え続けた。
「あっ、ダメ……そこ……弱いっ」
 リョウが弱々しく抵抗するがぼっちの耳には届いていなかった。演奏中、最高のパフォーマンスを発揮している時の集中力でぼっちはリョウのという名前のギターを奏でていた。
「っぅ……♥️」
 そうして、リョウは果てた。一際強く身体を震わせ、声にならない声を漏らした。
「りょ、リョウさ……きゃっ」
 そのまま脱力し、後ろに倒れこむ。リョウの身体を押さえていたぼっちがそれに巻き込まれる。「ぷぎゅ」とかわいい悲鳴。
「ううっ、リョウさん……?」
「うぁーなんだこれ。すごく柔らかい。もう一生ここに住んでいたい」
 ぼっちの見事なサイズのバストの下からそんな声が漏れてきた。倒れた拍子にリョウを下敷きにしてしまったようだ。ぼっちは慌てて離れようとする。それをリョウはぼっちに抱きついて邪魔をした。
「りょ、リョウさん?」
「まだ離れないで。こうしてて」
 ぼっちの胸の下から顔を出すリョウ。息が上がっている様子だったが、満ち足りた顔をしていた。
「ええっと、いいですけれど……いや、練習上がりだから汗臭いから……」
「大丈夫。ぼっちのはいいにおい。私はシャワー浴びてきたし。それに」
「それに……?」
「ぼっちがまだ満足してない」
 ぼっち胸をわしづかみにし、下にいるリョウはそうニヒルに笑ってみせるのだった。

――もっとも、結局その日、ぼっちの身体が満足することはなく、代わりにリョウはこの後二回もイかされてしまったのだが……

END



『クズのベーシストがセックス下手なワケない』
――今夜、一線を越える。
両親が不在なのをいいことにぼっちを家に誘う山田リョウ。未成年が買っちゃいけない呑むと気分が良くなるドリンクをコンビニで買ってぼっちに呑ませ、雰囲気を良くし身体を触るが……
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2023年4月2日 16:41
ゆう

ゆう

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