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今日は、ちょっと憂鬱なバイトの日。
前に比べたら、大分足取りは軽い方になったと思うけど、それでも辛いものは辛い。今日は喜多ちゃんが学校の用事で少し遅れるというので、先に1人でSTARRYへと向かっていた。
「お、おはようございます」
いつもならここで、おはよう!ぼっちちゃん!といつも元気な虹夏ちゃんの声が響いてくるのだが、、、
「あれ?誰もいない・・・」
特に遅れるという連絡はなかったが、何かあったのだろうか?店長さん達も居ないみたいだし、定位置のゴミ箱も今日はどこかに移動しているのか見当たらないし、取り敢えずテーブルに座って待ってよ・・・
入り口近くのテーブルに座り、ふぅ、と一息付いた時、テーブルの上に置いてあるそれに目が止まった。それは黒いメガネケースだった。その上には付箋が貼っており、こう書き記してあった。
「ご自由にお掛けください?」
勝手に開けていいものなのか思慮したが、好奇心が勝り、私はケースを開けてみた。その中には特に形容するものもない、至って普通のメガネが入っており、ケースの内側を見てみると、そちらにも文字が刻まれていた。
"これは貴方への好感度を数値化する事が出来るメガネです"
うさんくさい・・・第1印象は正にそれだった。ここは漫画やアニメの世界ではないのだ。どう考えてもあり得るわけがない。その中身自体は全く信じていなかったが、メガネ自体には少し興味があった。星型サングラスなんかは掛ける機会はあるのだが、こういうシンプルなメガネを掛けた経験はなかった。私の視力は生まれた時から両目ともずっと2.0。メガネとは無縁の生活をしてきた。視力が良ければかける理由など存在しない。だが、世の陽キャ達が伊達メガネなるものを掛ける事を私は知っていた。何でも、おしゃれ目的で必要がなくともメガネをかける風習があるらしい。陽キャの文化というものはよく分からない。だが、メガネを掛けるだけで陰キャを脱する事ができるかも知れない。それに、メガネを掛けて学校に行ったら、きっとクラスのみんなから・・・
「えー!?後藤さんのメガネ超素敵!」
「超似合ってる!」
「抱いてーーーー!!」
「お前が人間国宝!」
ってなって、話し掛けて貰えるかもしれない!
ご自由にって書いてあるし、ちょっと掛けるだけならいいよね?周りに誰もいない事を確認してからメガネを掛け、鏡のある方まで歩いていく。
お、おぉ・・そんなに悪くない?初めて掛ける伊達メガネ姿の自分をじーっと眺めていると、階段辺りから誰かの走ってくる音が聞こえてきた。
「おっはようございまーーーーす!ごめん!
ぼっちちゃん喜多ちゃん!遅れちゃって!」
「あっ、おはようございます」
そう言いながらSTARRYに入って来たのは、同じ結束バンドのメンバーである虹夏ちゃん。私が結束バンドに加入するきっかけになった人で、恩人と言っても過言ではない大切な人だ。
「あれ?ぼっちちゃんがメガネ掛けてる!何イメチェン!?似合ってるじゃ〜ん!」
「あっ、そ、そうですかね・・」
「うんっ!すっごく良いよ!
だけど急にどうしたの?」
「あっ、これはさっきそこの」
テーブルに、と言い掛けた私は気付く。
メガネを通して見ている虹夏ちゃんの頭の上にぼんやりと数字が浮かんでいる事に。
伊地知虹夏 (0)
?????????、え?これは何?さっきまで鏡で自分を見ていた時は、こんな数字は出て来なかった筈だ。疲れてるのかな??目を擦ってもう一度虹夏ちゃんの方を見る。
「?、ぼっちちゃん?」
やっぱり同じだ。先程と同じ0の数字。
謎の現象に困惑している私の脳内に、先程メガネケースに記してあった文面がフラッシュバックする。
"これは貴方への好感度を数値化する事が出来るメガネです"
え??まさか、本当に???????いや、ちょっと待って欲しい。百歩譲ってそれが真実だったとして、今見ている光景も真実なのだとしたら、虹夏ちゃんは私に好感を1ミリも抱いてないという事になるのでは??????た、確かに虹夏ちゃんから呆れられたり、怒られたりする事もあるけど、優しくて、私が1番相談もしやすい頼り甲斐のある結束バンドのリーダーで、ギターヒーローとしての私も、そうでない私も好いてくれている。いや、好いてくれている筈だと信じていた。その筈がまさかの0?あの打ち上げの時に、ヒーローみたいに見えたって。私のロックを聞かせて欲しい、なんて殺し文句まで言ってくれたのに・・・・0?????????い、いやいやいや、そ、そそそそんな訳ががががががが。
「ど、どうしたの、ぼっちちゃん?
急に1人百面相しだして。
ちょっと怖いんだけど・・・」
「ごめん、遅くなった」
「リョウ、やっと来た。
買い物は終わったの?」
「うん。あれ?ぼっちそのメガネ・・」
「何かイメチェンだって〜。
けど、急にぼっちちゃんの様子がおかしくなっちゃってさぁ。いや、いつも通りなのか?」
「ハッッッッッッ!?」
「おっ、ぼっちちゃん戻ってきた」
「おはよう、ぼっち。そのメガネだけどさ、」
「り、リョウさん・・」
リョウさんは、結束バンドの作詞作曲コンビとして行動する事も多いし、よくお金も貸してるし、そんなに悪い数字が出てくる筈ないよね?うん。10くらいは期待してもいいはず・・
山田リョウ (0)
・・・・・・・・・・・・・・えっ??
メガネを取って、目をゴシゴシと擦った後にもう一度メガネを掛け直してからリョウさんの方を見る。
山田リョウ (0)
あ、あはははははははははははははは、そそそそそそそそそ、そうですよね。所詮私みたいな根暗で陰キャのコミュ障が、ちょっとバンド始めたからって、いきなりそんな人に好かれるわけないですよね。あっやばい、ちょっと泣きそう・・結束バンドの一員として頑張ってきて、ちょっとくらい好かれてると思ってたんだけどなぁ・・・
「ど、どうしたんだろう、ぼっちちゃん…。
アタシ、何かしちゃったかなぁ?」
「ぼっち、あのさ」
「す、すすいません!虹夏ちゃんリョウさん!
今日体調悪くなっちゃったんで帰ります!!」
「えっ!?ぼっちちゃん!
ちょ、ちょっと待って!」
「し、失礼します!!!!」
私は虹夏ちゃんの静止する声を振り切り、逃げ出す様にSTARRYを飛び出した。あのままSTARRYに居たら、どうにかなってしまいそうだったからだ。脇目も振らずに走り出す。すると誰かにぶつかってしまった。
「あっ、す、すいません!すいません!
大丈夫ですか!?」
「えぇ、大丈夫よ、ってひとりちゃん?」
「あっ、喜多ちゃん・・」
「ど、どうしたの、ひとりちゃん?
STARRYの方向は反対よ?
それに、そのメガネ・・」
「あっ、いや、これは・・」
どう答えたもんかと思慮していた時、私はうっかり喜多ちゃんの方を見てしまった。見てはいけないと分かっていた筈なのに。
喜多郁代 (計測不能)
け、けいそくふのう?
あっそうか、嫌われすぎて最早数値としてすら出せないという事ですかそうですか・・・。喜多ちゃんは私とはまるで正反対。私には眩し過ぎる、交わる事のない存在だと思っていたけれど、ギターやバンドを通して、喜多ちゃんの優しさや温かさに触れて、特に文化祭ライブの後からは仲良くなれたって思ってたんだけどな・・。どうやらそう感じていたのは私だけだったらしい。
「ひとりちゃん?」
「ほ、、、、いて、、、」
「え?」
「ほっといてください!!!!!!
そうやって気遣って、無理に優しい言葉をかけないで下さいよ。勘違い、するじゃないですか。私が好かれてるのかも知れないって。仲良くなれてるのかも知れないって勘違いするじゃないですか。だから、だからもう、嘘はやめて下さい…」
私は生まれて初めてかも知れない大きな声を荒げ、涙を流した。それに呼応する様に下北沢の街に降り出した雨。まるで私の心の内の様だった。
「ひとりちゃん」
あぁ、これでもう完全に嫌われただろうな。喜多ちゃんの顔がもうまともに見れないや。だけど、これでいいんだ。私と喜多ちゃん、それに虹夏ちゃんやリョウさんも、私なんかと関わるべき人達じゃなかった。住む世界が違ったんだ。押入れの世界に戻ろう。またあのひとりぼっちの世界へ・・・・
「もう大丈夫よ、ひとりちゃん。
何も心配いらないわ。」
ギュッ…と喜多ちゃんに私は抱き締められた。えっ??なんっ、で。
「ひとりちゃんに何があったのかは知らないけれど、きっと沢山傷付く様な事があったのね…だって、ひとりちゃんこんなに泣いてるじゃない」
「あっ、いや、これは…」
「大丈夫よ、ひとりちゃん。
だって私、ひとりちゃんの事大好きだもの」
「えっ、で、でも、だって・・・」
「もう何?私の言ってる事が信じられないの?
結構恥ずかしいのよ、これでも。信じられないならキスでもしてみせましょうか?」
「い、いいいや!大丈夫でしゅ!」
「そう?残念♪」
いつもと変わらない優しく微笑む喜多ちゃんの姿に、私は溢れる涙が止まらなかった。先程の様な悲しみの涙ではなく、今度は喜びの涙が。
「取り敢えず場所を移しましょう。
ひとりちゃんがこのままじゃ風邪ひいちゃう。
そうだっ!私の家に来てちょうだい!」
「えっ、そ、そんな悪いですよ」
「いいの、いいの!
先輩達には今日は2人で休むって、
ロインしておくから!」
「あっ、はい」
☆☆☆☆☆☆☆
「さっ!どうぞ入って。ひとりちゃん♪」
「お、お邪魔します」
初めて入る喜多ちゃんの家。何か緊張する・・
「はい、ひとりちゃん、このタオル使って。お風呂が沸くまで、もうちょっとかかるから」
「ありがとうございます。
あっ喜多ちゃん、ご両親は?」
「ん?今日は2人とも帰るのが遅くなるみたいなのよね。今日は寂しくなるなって思ってた所だから、ひとりちゃんが来てくれて嬉しいわ♪」
「そ、そうなんですね」
「それで、ひとりちゃん。
そのメガネはどうしたの?」
「あっ、これは・・」
好感度が見えるメガネ、なんて言って信じてもらえるだろうか。いや、このメガネは信用ならない。だって、喜多ちゃんが私に見せてくれたあの笑顔と優しさが嘘だなんて到底思えないから。この事は私だけの秘密にしておこう。後で虹夏ちゃんやリョウさんにも謝っておかなきゃ・・
「い、イメチェンです・・」
「へぇ〜〜、そうなの!
似合ってるわよ、ひとりちゃん!
今度一緒にお揃いの伊達メガネでも
買いに行きましょうよ!」
「あっ、はい!」
そう言ってニコニコと笑う喜多ちゃんの笑顔に、私は救われた。喜多ちゃんは優しいな…
「あ、もうお風呂沸いたみたい!
ひとりちゃん、先に入って来ていいわよ!」
「えっ、でも」
「いいの!ひとりちゃんは大切なお客様なんだから。風邪なんて引かれちゃったら困るわ」
「あ、ありがとうございます。
じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん!いってらっしゃい♪」
脱衣所までの短い間、喜多ちゃんは私に手を振り続けてくれていた。こんな優しい人を疑ってしまった自分が本当に恥ずかしい。そう思いながら私はお風呂に入る為に服を脱ぎ始めた。あっ、メガネ持って帰ってきちゃった・・・明日返さないとな。
☆☆☆☆☆☆☆☆
ぼっちちゃんがいきなり飛び出した後の
STARRYは重苦しい雰囲気に包まれていた。
「ぼっちちゃん、本当にどうしちゃたんだろう。体調が悪いって、アレ絶対嘘だよね?何かあったんだろ・・」
「さぁ、それはぼっちにしか分からない」
「分からないって…リョウちょっと冷たいんじゃない?」
「そうかな?」
そう言いながらリョウは、テーブルの上に置いてあるメガネケースを手に取り、何やらまじまじと見つめている。こんな時にも自由なやつだ。リョウがこんな薄情なやつだとは思わなかったよ。
「あ〜やっぱりか」
「・・・やっぱりって?」
私は少し不機嫌そうにリョウに返事をする。
「ぼっちがおかしい原因は多分これ」
「?、メガネケースが一体何なの?」
「ケースじゃなくて、ぼっちが掛けてたメガネあったでしょ。あれの事」
「益々よく分かんないんだけど。
メガネを掛けたから何だっていうのさ」
「だってあれ、性欲を数値化させるメガネだから」
「は???????????????」
「だから、性よk」
「聞こえた上で聞き返してるの!!
ちょっと待って、どゆこと!!?」
「要するに、メガネを通して見ている人物が自分にどれだけ性欲を向けてるかっていうのを数字で分かる様にした優れもの」
「優れてる部分が何ひとつ理解出来ないんだけど!?っていうか、言ってる事がそもそも意味分かんないんだけど」
「だから、眼鏡を通して見ている人物が」
「そこは分かってんの!!まずさぁ、何でそんなもんがここにあるわけ?それにリョウは何でそんな詳しいのさ」
「だって、これ作ったの私だから」
「HA????????????????????」
「コレ、ツクッタノ、ワタシ」
「片言風に言わなくても分かってるっつうの!!いやいやいやいや、待って待って待って!情報量が多すぎて私の脳内処理が追いつかないんだけど!?」
「偶然出来ちゃったんだよね」
「そんな説明で納得しろと!?」
「後これは、昨日私が間違って持ってきた時に、STARRYに置き忘れたやつ」
「うちのライブハウスに、
なんちゅう特級呪物持ち込んでんの!?」
「間違って鞄の中に入ってた」
「何をどう間違ったら、そんなもんが鞄に紛れるのさ・・・」
「私にも分からない」
「あーー、もうっ!で!それが本当なら何でぼっちちゃんはあんなに傷付くの!?別に私はぼっちちゃんの事、その、えっちぃ目で見た事ないよ?」
「あぁ、それは。はいこれ」
リョウはメガネケースに刻まれているその文面を見せてくれた。
「なになに。これは貴方への好感度を数値化する事が出来るメガネですって、さっきと言ってる事が全然違うじゃん」
「私が作ったメガネはもう一個あって、それと中身が入れ替わってたんだと思う。だから、ぼっちはアレが好感度を見る事の出来るメガネだって勘違いしてる」
「何かもう突っ込むの疲れたから、もう一個のメガネの存在は詳しく聞かないけど、要するにぼっちちゃんは自分の好感度が低いって、勘違いして傷付いたって事?」
「そう。虹夏頭良い」
「こんな事で褒められても全く嬉しくないんだけど、、。取り敢えず、ぼっちちゃんを探しに行くよ!」
「えーー」
「誰のせいだ誰の!ん?いや、ちょっと待って。確かこれ、その、性欲がどうのって言ってたよね?」
「そうだけど。具体的には・・」
「言わんでいい!!あのさ、わたし前々から気付いてたんだけど、喜多ちゃんがぼっちちゃんを見る目って完全に狼だよね?」
「いつが食べ頃か見定める目してるよね」
「もしもだけどさ、今の弱ったぼっちちゃんを喜多ちゃんが見つけたとしたらどうなると思う?」
「100%食われる、絶対」
☆☆☆☆☆☆☆☆
遠くから聞こえるシャワーの音を聞きながら、わたし喜多郁代は行動に移していた。よし…ドアも窓も鍵はバッチリ。カーテンも閉め切っているし、インターホンの音も切ってる。突然の来訪者が来ても問題ない。さて、と・・・・
ハァ…ハァ…もう我慢出来ない。あんな雨も滴る顔の良いひとりちゃんを見たら、我慢出来る訳ないじゃない??ここが正念場よ喜多郁代!!私の名前が郁代なのは、正にこの時の為だったのね!ひとりちゃん!!今行くわよーーーーーーーー!!!!!!
「ちょぉぉぉぉっと、待ったァァァァァァ!」
「い、伊地知先輩!?それにリョウ先輩まで!?どうしてここが!」
「住所は店長に教えて貰った。
ぼっちの貞操の危機だって言ったら、
すぐに教えてくれた」
「か、鍵をかけてた筈なんですけど」
「ピッキングした」
「普通に警察案件!!で、でも、どうしてひとりちゃんが私と一緒にいるって…!!」
「勘、かな?喜多ちゃん、いっつもぼっちちゃんを邪な目で見てたし」
「ふっ、ふふふふふふふふふ。
そこまでバレているならしょうがないですね」
「喜多ちゃんが、追い詰められた犯人みたいな台詞言い出した!」
「お二人とも大事な先輩達ですが、ひとりちゃんと私の将来を邪魔するなら、容赦はしませんよ?」
「くっ…!完全に喜多ちゃんの目が据わってる。ヤらないとヤられる!!けど喜多ちゃん、忘れてない?今の状況。2対1なんだよ?」
「確かに不利かもですねぇ…。あっ、リョウ先輩♪これから私が1年間、ずっとご飯の面倒見てあげますんで、こっち側に付きませんか?」
「はっ!!、リョウがそんな説得に応じると思ってんの?」
「本当に。郁代は私を舐めす・・・」
「1年間ノルマ代も面倒見てあげますよ?」
「虹夏。私と郁代の2対1で、本当に勝てるなんて思ってる?」
「先輩、ありがとうございます♪」
「リョウにプライドってものはないの???」
「プライドだけじゃ、ご飯代もノルマも稼げない。その浮いたお金で私はベースを買えるし、郁代はぼっちを抱けるし、良い事尽くめ」
「清々しい程の屑だな、こいつ」
どうする…!?リョウまで向こうに行っちゃった以上、私の勝ち目は限りなく薄い。この状況をひっくり返す方法は…!!!
「無駄ですよ、伊地知先輩。
ここで大人しく私達を見逃すなら何もしません。
な〜んにも見なかった事にしちゃえばいいんです」
私は目を瞑り、天を仰いだ。
「話が分かるじゃないですか、さすが伊地知先輩♪」
確かにこのままじゃ勝ち目はない。
けど・・・・!!
「リョウ」
「・・?、伊地知先輩なにを・・」
「これから一生、わたしがリョウの面倒見てあげる。だからお願い、喜多ちゃんを止めて」
「!!!!?!!??、り、リョウせんぱ」
「ごめん、郁代」
「カッ…!?ひ、ひとり、ちゃん…」
リョウは恐ろしく速い手刀を喜多ちゃんの首に浴びせ、一瞬にして意識を奪った。いや、あいつ何者だよ。
「作戦通り。虹夏、私たちの絆の勝利だネッッッッ!?!!」
私はリョウの顔面に思いっきりグーパンをかまし、一撃で意識を刈り取った。
「どこがだ、全ての元凶」
こうして、2人の尊い犠牲を出したものの、ぼっちちゃんの貞操の危機は去った。
「あっ、あれ?虹夏ちゃん??
えっここって、喜多ちゃんの家…」
「ぼっちちゃん、もう心配いらないよ。全部の悪は倒したから」
「えっ、悪って一体……それに喜多ちゃんとリョウさんが縄で縛られているのは何故??」
「細かい事は全部後で!!
まずはこっから逃げるよ!」
「あっえっ!に、虹夏ちゃん!?」
うっ、お風呂上がりぼっちちゃん。めちゃくちゃ良い匂いだし、いつも青白い肌の血色が良くなって妙に艶々しいし、何か色っぽい・・。元々顔立ちが良いっていうのはあるけど、お風呂入っただけでこれって凄くない?
ゴクリ…と生唾を飲み込みながら、ぼっちちゃんをじっと見つめてしまう私。
「に、虹夏ちゃん?」
「ハッ!?ごめん、ぼっちちゃん。さぁ出よっか!」
こうして、ぼっちちゃんを私の家に保護し、ぼっちちゃんの貞操を守り切ったのであった。そして今回の一件について経緯を説明をすると、ぼっちちゃんは不思議がるというより、どこか納得してほっとしたような表情をしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
〜〜〜〜〜翌日〜〜〜〜〜
「で?2人ともぼっちちゃんに言う事は?」
「「大変申し訳ございませんでした」」
「あっあの!2人とも顔を上げてください!私は何ともなかったですし」
「喜多ちゃんは未遂だし、何ならリョウは全ての元凶だけどね」
「本当にごめんなさい、ひとりちゃん。私どうにかしてた。危うく大好きなひとりちゃんを私の手で泣かせる所だった。謝って許される事じゃないでしょうけど、本当にごめんなさい」
「あっだから、顔を上げてください。
喜多ちゃん、本当に」
「で、でも、軽蔑したわよね?
気持ち悪いって思ったわよね?
わたしは、本当に最低な」
「そ、そんな事ありません!!」
「ひとりちゃん・・?」
「わ、私は喜多ちゃんの言う好きっていうのは、あんまりよくわかってないです、けど・・。それでも嬉しかったです!喜多ちゃんが私をそれくらい思ってくれてるんだって分かって。とっても嬉しかったんです。だから、そんなに泣かないで下さい。喜多ちゃん」
「ひ、ひとりちゃん(トゥンク)」
「私が喜多ちゃんを想う気持ちは、今回の事が分かっても何も変わりませんでした。だから、これからも私とお友達でいてくれませんか?」
「うん…うんっ!ありがとう、ひとりちゃん!私とひとりちゃんはずっと一緒よ!!」
「え?これもしかして、良い話で終わろうとしてる?」
抱き合いながら、感動の絵面を演出している2人の後輩の姿に、何とも言えない顔をしていると、
「友情って良いものだね、虹夏。だから、私も」
「お前はもっと反省しろ」
元凶たるリョウにはもっと厳しくいかないと・・・
「あっで、でも、リョウ先輩もありがとうございました」
「えっ?リョウにお礼を言う様なとこあった?」
「私、人から好かれてるかどう見られてるかばっかり気にしてました。だけど、今回の件で分かりました。私がどう思うかどうかが1番大切、なんですよね。気付かせてくれてありがとうございました」
ぼっちちゃん聖人??????????
そんな教訓を学べる様な所あった???
「ぼっち…うん、そう。私が教えたかった事ちゃんと伝わった様で良かった」
「おい」
「いいんです、虹夏ちゃん」
「ぼっちちゃん、でも……!!
・・・はぁ、これ以上わたしが何か言うのは野暮ってもんだよね。分かったよ、ぼっちちゃん」
「あっありがとうございます、虹夏ちゃん」
「でも2人とも!!ちゃんと反省はする事!!私の目が黒い内は、ぼっちちゃんに手は出させないよ!」
「はいっ!次はちゃんと合意の上でヤります!」
「うん。次はちゃんと合意の上でやる」
うん。やっぱり、だめだこいつら。
「まぁいいや。いや本当は良くないけど……。
だけど、ぼっちちゃん!勝手知ったるライブハウスの中の物とはいえ、勝手に知らない人のメガネを掛けちゃダメだよ?」
「あっ、すいません。
で、でも、あのメガネケースにはご自由にって」
「ん?ご自由に??リョウのやつ。
間違って持ってきたとか入れ替わったとか、
何とか言ってたような。
ちょっと、リョウ!どういう・・・・
山田ァァァァ!!山田の馬鹿はどこ行ったァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
「さっき荷物をまとめて、暫く旅行に行くって言って飛び出していきましたけど・・」
おわり