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カエルの腰掛
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匂いを嗅がれてもぼっちちゃんは抵抗できる - カエルの腰掛の小説 - pixiv
匂いを嗅がれてもぼっちちゃんは抵抗できる - カエルの腰掛の小説 - pixiv
3,640文字
匂いを嗅がれてもぼっちちゃんは抵抗できる
ぼっちちゃんは総受け(白目)
前回(novel/18893476
3444587373
2022年12月15日 13:50

「うーん、わからないわ。やっぱりギタリストにしかわからない匂いなのかしら」
 スタ練の前。それぞれが楽器をチューニングしたり、準備運動をしたりする大切な時間。
 なぜかギターを置いてきて、私のジャージの肩のあたりをスンスンと嗅いでいる喜多さんがいた。
「な、なんで嗅ぐんですか?お、押入れの匂いがします、よ」
「そうね。押入れの匂い。それはするわ」
「な、なにを私に、求めてるんですか?」
私はギターをチューニング中だから下手に動けない態勢。だから、喜多さんのなすがまま。
「ギターの匂いがするっていうのよ」
「え?」
「店長さんがね、前に後藤さんからギターのにおいがするってポロっといってたのよ。とってもいい匂いだって。それで、なんだかだんだん気になってきてしまって」
 店長さん……なんでそんなこと喜多さんに話してるんだ……。
「というか言ってて気が付いたんだけれど、後藤さん、店長さんに匂いを嗅がれたってこと?」
「え、あ、あ、はい」
 ここで認めてしまって良かったのだろうか。店長さんの名誉とか、でも、嗅いできたのは事実だし、いいっか。
「そう……」
 喜多さんは、そう呟くと俯いて、何故か私の首元にがばっと顔を埋めた。
「すんすんすんすんすんすんすんすんすんすんすん」
 すごい勢いで嗅いでくる!?陽キャ美少女に近づかれるのは悪い気はしないけど、なんだか怖いっ!
「悔しい。わからないわ。ギターのにおい。でも、なんだかいい匂いな気はするわ。でも、香水とは違うわね」
「つ、つけたことないです。それにしても、喜多さんはなんだか良い匂いがしますね、好きな匂いです」
「そう?それなら私のつけてるアクアシャボン使う?なんだか悔しいし、後藤さんを私とお揃いのにおいにしちゃおうかしら」
「く、悔しいんですか?」
 喜多さんは、いつもは常識人っぽいけど、時々暴走気味になる。
「悔しいわ。きっと、ギターが上手な人にしか嗅げない匂いがするのよ、後藤さん。私がまだギターが下手だから、きっと嗅げないんだわ。そうなれば、ギターの練習あるのみね!後藤さん、練習これよりも増してお願いね!」
 なんだかわからないけれど、喜多さんがさらにギター練習にやる気になったのなら、良かったのだろうか?

「ぼっち、ちょっとこっち来て」
 スタ練が終わって片づけをし始めてた時、リョウさんにスタジオの裏に呼ばれた。
 は!?
 もしかしたら、今日の演奏がひどいかったから、シメ上げられる!?
「ご、ごめんなさい。これ、これでなにとぞ、ご勘弁を」
 私は、お財布から千円札を差し出した。
「え、なに?」
「これからぼこされるんじゃ?」
「そんなことしない。というか、それでお金出すって、わたしどんなイメージ?」
「……お金借りていくベーシスト……」
「うっ。反論できない。まぁいいや。それより、今日練習始まる前に、郁代に匂い嗅がれてたでしょ?」
「え、はい」
「いい匂いがするって聞こえてきた。気になる」
「えっと、そう言われてますけど、たぶんしないと思いますよ……」
「自分じゃわからないっていうからね」
 リョウさんはそう言って、私の手を取って、鼻のそばまで持ち上げる。そのまま深く吸い込んだ。
「ギターのにおいするね」
「え?分かるんですか!」
「え?なんのこと?さっきまで練習してたから、ギター弦の匂いがする。でも、いい匂いとは言えない」
「あ、そうですか……」
 なぜかとっても凹んだ。
「でも、なんか石鹸みたいなにおいがするな。いや、違う。これ、郁代の香水のにおいだ」
「え、あ、はい。するかも」
「なんで?」
 リョウさんが見上げてくる。クールな顔立ちが近くにあって少しドキっとしてしまう。
「練習の休憩中に、ちょっとつけてもらって」
「ふーん、そう」
 リョウさんはそういうと、ポケットからハンドクリームを取り出して、私の手に塗り始めた。すこし何かの花の匂いがする。
「なんですか?」
「乾燥は大敵だからね。いいにおいでしょ。これ」
「あ、はい」
 塗り終わると、リョウさんは「じゃあね」と言って帰っていった。

「今日大変だったね、ぼっちちゃん」
 私がスタジオから出て、学校の荷物を置き忘れたSTARYYに入ると後ろから声がする。
「なんか二人に嗅がれてたね」
 虹夏ちゃんが、私の後ろから両手を私の肩にかけて伸ばしてくる。
「あ、はい。なんだか、二人とも変でした」
「あれでしょ、ぼっちちゃんの匂いが気になるんだよ」
 そういいながら、虹夏ちゃんの頭が私のうなじに顔が近づいてくる気配がした。
「じつは、私も、この間のお姉ちゃんが嗅いでたの知って、少し気になってたりして」
 そういいながら、優しい触れ方で虹夏ちゃんがにおいを「すぅ」と吸い込む音がした。
「シャンプーのにおいしか分かんないや」
 弾むようにいう虹夏ちゃん。
「そ、そうですか」
「あ、でも、なんかいい香水のにおいがするね、あ、これ喜多ちゃんのだ。ん?なんか知ってるにおい、あ、リョウのハンドクリームだ」
「え、わかるんですか?」
「どうしたのこれ」
「ふ、二人がなぜかつけてくれて」
「あーなんだろう、におい付けてマーキングみたいな?」
「そんな、電柱みたいな扱い……」
「いや、そういうイメージじゃないんだけど。でもぼっちちゃん犬飼ってるもんね……」
「はい。ジミヘンがたまにしてます」
「あーでも、似たようなもんなのか?まぁ、いいや。でも、これかぁぼっちちゃんのにおい。わかってきた気がする」
 そういいながら、また虹夏ちゃんが私の後頭部を嗅ぎ出す。
「あ、練習後だし、汗臭いと、思います」
「それはそうなんだけど、でも、なんだろう」
 そういいながら虹夏ちゃんは嗅ぎ続けてくる。
「こみ上げてくる不思議な感じ。……もしかして、わたし結構ヘンタイなことしてる?」
「はい、たぶん……」
 ばっと私から離れて、赤面している虹夏ちゃん。
「あはは。お姉ちゃんのこと言えないや」
「い、いえ、いやじゃなかったです、から」
「そ、そう?」
 そういってはにかんだ虹夏ちゃんは、可愛らしくて、私はこの笑顔を見れるなら、すこし恥ずかしい思いしてもいいかなぁって心の中で思った。虹夏ちゃんが離れると、虹夏ちゃんがいつも振りまいている夏の太陽みたいな爽やかな匂いがほのかに自分から薫った。

虹夏ちゃんが自宅に戻ってから、私も帰ろうと、一応声はかけておこうと思ってバックヤードに行くと、店長さんが書類仕事をしていた。
「あ、あの、帰ります」
「ああ、お疲れぼっちちゃん」
 店長さんが顔を見上げる。少し、バツが悪そうな顔をしている店長さん。そういえば、店長さんから匂いを嗅がれてから、二人きりで会うのは初めてだった。少し身構えてしまう。
「なに?」
「い、いえ。その」
 私がいい淀んでいると、店長さんはガタッと立ち上がった。
「もしかして、いいのか?」
「な、何がですか?」
「いや、また嗅がせてくれるつもりじゃ?」
「え?」
「悪い、やっぱり駄目だよな」
 店長さんがシュンとした顔をする。
「えっと、ちょっとだけなら」
「ほんとうか?」
 そんないい笑顔しないでください店長さん……。
 店長さんが近づいてくる。私のそばまで来て、匂いを嗅ぎ始めた。店長さんの化粧のにおいがする。だめだ。なんだかもう今日はこれ以上は、無理だ。
私は思わず手を伸ばして押しとどめた。
「あ、あの、今日は、その、嗅がれ疲れたので、また、後日に」
「あ、ああ。あ?嗅がれ疲れ?」
「バンドのみんなに嗅がれたので、今日はもう……」
 これ以上は限界です。

 なんだか落ち込んでいた店長さんは置いておいて、STARYYのドアを開けて階段を登っていくと、階段を上がった花壇のところに、廣井お姉さんが倒れていた。
「お姉さん……」
 お姉さんが私を見て起き上がる。
「あ、ぼっちちゃん。今帰り?」
「あ、はい」
「シャワー借りようとここまで来たんだけど、力尽きちゃってさぁ。おえぇ」
「だ、大丈夫ですか」
「へーきへーき。いつものことだから」
 手をふらふらと振るお姉さん。
「あ、あの、お店まで、運びます」
 私は、途中でゲロが降ってきませんようにと祈りながらお姉さんに肩を貸して階段を下りていく。
 廣井さんが、すっと私の体に顔を付けた。お願い吐かないで……。
「なんか今日のぼっちちゃん、いつもしてない、いい匂いがいっぱいするね?」
 そういえば、今日の私はみんなの匂いが付いちゃったんだ。え、えへへへ。
 私は、自分の二の腕に鼻を埋めて今日の自分の匂いを嗅ごうとして、うっかりお姉さんを落としそうになってバランスを崩した。
「あ、揺らさないで、ゆら、お、お、おうぇええええええええ」
 でも、その匂いは全部その音ともに掻き消されていった。

匂いを嗅がれてもぼっちちゃんは抵抗できる
ぼっちちゃんは総受け(白目)
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