うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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オスが虜 魔性で魅惑のシルエット スケベ女には天誅だ

 

 

 ドーベルを家に上げてから少し経って。

 意外と公園での会話が長引いてしまっていたようで、家について落ち着く頃にはもうすっかり遅い時間になっており、デュアルという方法を試す前に彼女と夕餉を共にすることになった。

 

「パスタでいいか? 大体の食材いま切らしちゃっててさ」

「あ、うん。お願いします……」

 

 サンデーから聞いた話によれば、俺とドーベルの間にパスを繋げるための行為は割と時間がかかるらしく、今から更に数時間ウチに滞在してもらうことを考えると、もう寮の門限には間に合いそうにないのだ。

 そのため飯はウチで済ませてもらって、何事もなければ今日はそのまま俺の家に泊まってもらう。片想いしてる憧れの女子を家に連れ込んでしまった……♡

 正座しながらソワソワしててかわいいドーベルはテーブルの前で待たせ、一旦調理に取り掛かる。

 ほんの少しだけ見栄を張っておしゃれなパスタを作ろうと奮闘しつつ──俺の頭の中は絶賛男子高校生の真っただ中であった。

 

 まず現在の状況を冷静に俯瞰してみる。

 ──恋人でもない他校の女子を自分の家に泊まり前提で上がらせてるの、今更ながら普通にめちゃくちゃヤバい状況じゃない?

 確かに怪異だのなんだのと特別な事情もあるにはあるが、それを差し引いても健全とは言い難い状況だ。

 それとなく『仕方ない』と思えるような理由を使って美少女を家に上げるなんて、ラブコメというかエロゲみたいな事してないか。ベルちゃんルート突入。

 いま改めて自分の感覚が若干麻痺しかけていたことを思い知っている最中だ。俺はたぶん結構とんでもない事をしているようだぜ。

 ドーベル本人が多くのファンを持つ全国規模の有名人だというのはもちろんだが、何よりサラッと女子を家に連れ込むことが()()()()()()()()()()が信じられない。

 なんかシリアスにいろいろ考えてるターンがあったような気がするが冷静に考えておかしくないかしら。コレがモテるという事なの!? これじゃ俺の理性が持たない! 何を考えているのだ秋川葉月。

 

 ドーベルが家に入る前に気合いを入れ直して『ツッキーも……男の子、だしっ。……よ、よーし!』と意気込んでいたあのセリフからして、なにか理由さえあれば俺を()()()()()で見てくれるというのも現在確定している事実のひとつだ。交尾したくてたまらない感じが如実にあらわれているよ!

 もちろん彼女が慈愛に満ちた心優しい少女だという前提条件は理解している。

 だがその部分を加味した上で、明らかにドーベル自身も俺と同じように“そういう事”に対して強い興味があるのは間違いないのだ。

 それを知るためであれば、最低限必要な相手として一応俺を選んでもいいと考えてくれている。

 本能的な知的欲求は勿論のこと、マンガに必要な知識を蓄える勉強の為であれば、選ぶ男性の選択肢の中に俺が入る程度には、メジロドーベルの好感度をそこそこ得ることができている、ということなのだ。やっぱり相性最高だ……分かるんだよ頭じゃなく心でね。

 

 ……女子からモテている、と豪語できるようなクソ高い自己肯定感は全くもって皆無だが、スーパー有名人でどんな異性でも選び放題なはずの少女から、多少特別な存在──少なくともとりあえず一つの選択肢としてはありだとして見られている、という状況は素直に誇ってもいいのかもしれない。男子冥利に尽きるというものだ。遂に俺のキカン棒も我慢の限界を迎えた!

 

「うーん……サンデーさんは良さげなデザインの案ある? ……ふむふむ、なるほど」

 

 ドーベルはウチに来てから時間が経って多少落ち着いてきたのか、自身のタブレットでヒーローっぽいコスチュームのデザインを描きだしながら、視えないサンデーと筆談で相談し合っている。

 噂によるとユナイト時の仮面を被っていた俺は『ノーザンテースト』という名前で世間から認知され始めているらしい。

 どうやらあの怪異三体同時撃破レイドイベントにおいて予想以上に街で派手に暴れすぎてしまっていたようだ。

 そしてその話題は当然トレセンにも伝播するわけで、事情と正体を知っているドーベルが、俺のためにああしてノーザンテーストの基本フォームをどういうものにするかを考えてくれる流れになったというわけである。

 

「なるべく目立ちづらい配色で、尚且つ動きやすい格好がいいよね。なにより簡単に身バレしないためにも顔の隠し方をもっと工夫しないと……」

 

 ブツブツと呟きながら設計図のようなイラストをタブレットに書き込んでいくドーベルの表情は真剣の一言だ。そこまで真面目に俺のことを……!? 恋心にさきっちょが侵入開始。

 

「ほい、完成。……それ、割と凝ったデザインだな」

 

 とりあえず料理が完成したためテーブルに運びつつ、コスチュームについての話題を続ける。

 

「ありがと、いただきます」

「そのバットマンみたいなマスクデザインはお気に入りなのか?」

「えぇと、そういうわけでもなくて……やっぱり目元を隠すのが効果的だと思うんだ。とはいえコレだと視界が狭まってレースが難しくなっちゃうよね。むつかし……んっ、パスタおいしい」

 

 確かに視界が遮られてしまうと機動力が下がってしまう恐れがある。

 やはり理想としては山田がくれたような視界がクリアかつ外からは顔が見えないミラータイプの仮面が望ましいかもしれない。

 

「……なぁベル。裁縫とか衣装の工作が得意な知り合いとかいないか? 自分で作ろうとしてもお遊戯会レベルがせいぜいで……」

「あっ、それならデジたんが適任かも。あの子他のウマ娘の勝負服の精巧なコスプレとか作れるし」

「そりゃ随分と多才だな。……あぁ、でも事情を共有しないといけないか」

 

 アグネスデジタルには怪異の事は話していない。

 目の前にいるドーベルとバイト先の二人を除けば、俺の秘密を知っている人物はやむにやまれぬ事情で教えるしか選択肢がなかったゴールドシップと樫本先輩くらいのものだ。

 特に先輩にはまだしっかりと詳しい内容は説明していない。

 今回の入院で随分と怪しまれたため、やよいと同じく怪異について改めて話す必要がある。なのでドーベルたち以外で怪異と闘って俺が死にかけている事実を知っているのはゴールドシップだけだ。よりによって知ってるのがどうしてあの女なのだろうか。なんだアイツ……。

 

 つまるところ、それほど知っている人が少ない、秘匿された情報だという事である。

 自分から言い出しておいてなんだが、アグネスデジタルに俺の事情を教えてしまってもいいのだろうか。

 

「──たぶんもう知ってるよ、デジたん」

「えっ」

 

 ドーベルが憂いを帯びた表情で小さくそう告げた。ちょっと美人すぎ。

 あの少女に秘密を打ち明けた覚えなんてこれっぽっちも無いが。

 一応修学旅行の時に勘づいたような発言はしていたような気もするけども。

 

「ちょっと前から薄々気づいてはいるっぽい。夏のイベントの悪夢の時に、ツッキーの顔を覚えてた内の一人だったし……ただ、知りたそうではあるけどアタシたちには質問してこないの。まだ踏み込むべきか迷ってくれてるんじゃないかな」

 

 なんという気遣いの達人だろうか。俺が彼女の立場だったらミーハー全開で質問攻めをしているところだ。

 もう察しているにもかかわらず、明らかに事情を隠そうとしているドーベルたちのために、聞いたら困らせてしまうだろうと考えて遠慮してくれていただなんて。

 モーレツに感動♡ プランBでいこう。

 

「……よし、事情を打ち明けてお願いしよう。彼女の力が必要だ」

 

 とりあえず土下座して頼み込むことになる。

 多少なりとも仲を深めた相手ではあるが、アグネスデジタルからすれば自分が大好きなウマ娘ちゃんたちを危険なイベントに巻き込もうとしている野蛮な男だ。生半可な頼み方では蹴っ飛ばされて終了してしまう。

 

「アタシも協力するから、一緒にお願いしよ。デジたんにスケジュール聞いてみる」

「ありがとな。……今さらなんだが、ベルってデジタルさんと交流あったんだな」

 

 山田と同じ『デジたん』という愛称で呼んでいる辺り、ただの同じ学校の知り合いというだけの関係では無さそうだが。

 

「ふふ。実はデジたんにもアタシの漫画を読んでもらってるの。きっかけはウマッターだったんだけど、少し前にいろいろあってお互いに正体を知ってさ──」

 

 ドーベルはアグネスデジタルの話題になった途端、分かりやすく上機嫌に変わった。

 どぼめじろう先生を知る数少ない仲間という特別な立ち位置だという事もあるのか、彼女とデジタルは俺の想像以上に親密な関係にあるのかもしれない。いつか山田も呼んでダブルデートしませんか♡

 

「ごちそうさまでした。……あっ、もうこんな時間かぁ」

「そろそろ始めないとだな。俺は準備があるから先にシャワー使ってくれ」

「──ッ!!」

「着替えはサンデーのやつが何着か……」

「あ、だっ、だだ大丈夫! ジャージちゃんと持ってきてるから! おおぉおお風呂お先に頂きますぅッ!」

 

 てんぱりすぎ可愛すぎ女は着替えを持ってドタドタと風呂場へと直行していった。狼狽の度合いが尋常じゃない……俺との交尾を期待しすぎている……。

 あからさまなあの態度を鑑みて、少なくとも俺が相手でも構わないと考えている事は明白だ。

 まぁこれからする事に関しては普通に彼女の勘違いなのだが、問題はその勘違いに該当する行為に対してドーベルが忌避感を持っていない──ある種の“覚悟”を決めてしまっていることにある。

 ラブコメを通り過ぎたエロゲをさらに超えてもはや成人向け漫画になりつつある展開だ。

 あいつは俺となら『別にいい』と考えてしまっているのだ。多分だけど。

 

「ハヅキ、紙に魔法陣を描いておいた。ここにアルファベットで自分の名前を書き入れて、反対側にはベルちゃん自身に書いてもらって。もう一度説明するけど、あとは黒ペンダントを二人で握っておでこをくっつける。そのまま三十分くらい目を閉じて待機。これで適応されるパスの持続期間は大体一週間で──」

 

 相棒から今一度儀式の説明を受けつつ、もう半分の頭では男子高校生特有の抗えない性欲に突き動かされた思考が駆け巡っている。

 そういえば少し前に『ストレス発散ができる何か』が欲しいと考えた時があった。 

 あまりにも怪異関連でフラストレーションが溜まりやすく、そのうえペースが早すぎるのだ。

 一応夢で多少は解消できるとはいえ、冷静に考えたら頑張りすぎているくらいだし、そろそろ自分に甘くしないといずれプツンと突然やる気が無くなりかねない。

 なんとか自分を俯瞰して見ることができている内に対抗策を講じるべきだろう。

 

 俺は選ばれし者でも何でもない一般男子高校生なのだ。

 常日頃からバトルするような漫画の主人公ではない。あんなストイックにはなれっこない。

 そう、割合的には楽しい事が八割で多少頑張らないといけないことが二割程度であるべきだ。それが普通の高校生ってもんです。なのに今は頑張るべきことが八割になってる。俺の中の俺がストライキ寸前。

 ──という思考から、いっそメジロドーベルの勘違いを現実にして、そのまま若気の至りレベル100な行為をして間違ったルートへ進んでしまおうと考えている俺がいる。俺のこと好きなんだろうなぁ。報いねば。

 

「サンデー……俺を殴ってくれ……俺は弱い……」

「やらない」

「ううううぅぅぅゥっ……!」

 

 したい。

 めっちゃしたい。

 ぜひともこの間違った感情に流されてしまいたい。

 ユナイト時のデメリットだとかの外的要因がなくとも湧き上がってくるものなのだ。ただ思春期の男子高校生が当たり前に持ちうる感情としてあの少女と間違ったことがしたいのだ。

 互いに合意の上なら問題ないだろう。

 もうミスってしまおう。

 これからバケモノ共と闘っていくためにも、適度な息抜きをして人間性を保つべきではないのか。

 修行僧も腰を抜かすほどの理性を発揮して『耐えろ……耐えるんだ俺ぇ……!』とか言ってラブコメ主人公を気取ってる場合ではないだろう。

 てかラブコメの主人公って何で耐えようとするんだろ。全然もっと間違えてよくね? もっと自分に正直になろうぜ。結婚しよう♡ 赤ちゃん作ろう♡

 

 そうだ。

 もういっそ近しい相手を全員娶ってもれなく幸せにしてやるくらいの気概を見せてやるべきだ。

 それが王というものだろう。

 全てを幸福に導き、全てを支配する邪悪の王者。

 それになってしまえばいい。

 誰にも文句は言わせない。

 たとえ仕方のない事情や、冷静に考えて()()()()を利用したら卑怯だと言われてしまうような事だとしても、それら全てをひっくるめて俺が引き寄せた(えにし)であり、俺自身が手にした運命だ。

 

 だから、いいんだ。

 もういい。俺は十分頑張った。

 ドーベルと間違えよう。兵は神速を尊ぶ。

 これからそれっぽいことを言って、それっぽい雰囲気で流して、それっぽく言い訳や御託を並べてそのまま間違えてしまえばいい──

 

「ハヅキ。電話きてる」

「っ! ……あ、あぁ。サンキュ……」

 

 思考が完全に煩悩によって支配されていたようだが、不意の電話というイベントで少し正気に戻れた。

 バイブレーション機能を存分に発揮していたスマホを手に取ると、そこに表示されていた名前はあまりにも馴染み深い相手のものであった。

 

「もしもし……どした、山田」

『あー、秋川。いま暇?』

 

 電話口からは聞き慣れた声が聞こえてくる。こんな時間にどうしたのだろうか。

 

「悪い、ちょっとやらなきゃ駄目な事があって……何かあったのか?」

『えっとね、僕もウマデュエルレーサーを本格的にやろうと思ったんだけどさ、隣のクラスの子がリモートで手元を映しながら一緒にデッキ考えたりしないかー、って誘ってくれたんだ。ほら、この前の大会の時とか秋川もガチでやってたじゃん? 一緒にどうかなって』

「……そりゃいいな」

 

 なにそれ。

 めちゃくちゃ良いじゃん。

 あの大会前の準備はかなり急ぎ足だったし、あの後すぐにクリスマスイベントが入った影響でウマデュエルレーサーの研究に付き合ってくれたクラスメイトともほとんど遊んでいなかったのだ。

 みんなでデッキを考えたり、リモートで決闘(レース)をしたりするなんて凄く楽しそうだ。

 ……そういえばあのカードゲームもきっかけこそアレだが、今にして思えば新しく得た趣味じゃないか。

 カードの組み合わせを考えながらデッキを組むのは楽しいし、クラスメイトと決闘してた時も独自の空気感があってなかなか良かった。それが大勢で出来るならきっともっと楽しいし──いいガス抜きになるだろう。

 

「明日もやるのか?」

『一応そのつもりだけど……』

「じゃあ明日は俺も参加させてくれよ。今度ブースターパック出るし情報が見えてるカードの話もしたいな」

『そ、そう? よかった。じゃあ明日もこれくらいの時間にやるから、あとで招待コード送っとくね』

「おう、頼んだ。……デジタルさんも呼んでみるか?」

『ヴぇえアッ!!? いいぃいやいやきっと忙しいだろうからいいって!!』

「はは。冗談だよ、焦りすぎなお前。それじゃ」

『全くもう……また明日ね』

 

 ──と、そんなこんなでサラッと新しい予定が組まれる事となった。

 どうやら俺という人間は、追い詰められると極端に視野が狭くなってしまう傾向にあるらしい。

 それこそ知り合いの誰かにでも『ストレス発散ができる何かないかな』と相談すればすぐにでも見えてきたはずの答えだ。ウマデュエルレーサー以外にもきっと他に何かあったに違いない。

 とにかく突然の電話イベントのおかげで助かった。コレがなかったらマズかった。

 

「……つ、ツッキー。先にお風呂……いただきました……」

 

 今の電話がなければ、俺はきっと目の前に現れたこの風呂上りで頬が若干紅潮しているジャージ姿の美少女を目にした途端に理性がはじけ飛んでNSFWのCG回収(差分8枚くらい)をこなしてしまうところだった。なんとかエロゲの領域に足を踏み入れずに済んだな。

 今日のところは勘弁してやるから儀式が終わったらちゃんと距離を取ってさっさと寝るんだな! 美人な女め。

 

 

 

 

 とくに何事もなく朝を迎え、ほんの少し残念そうな雰囲気の淫猥ベルちゃんをトレセンへ送り届けてから少し経って現在は夕方。

 実は今日の昼頃に怪異と一回バトっており、いつも通りユナイトの負荷を感じてはいるのだが、帰路につく最中俺はとても驚いていた。

 

「……スゲェな、デュアルシステム。お前とのユナイト後でこんなにも体が軽いのは初めてだよ。おぉー……頭がぜんぜん重くないし視界も明瞭で気持ちいい」

「うん。二人で分割してこれだから、スズカちゃんとカフェにも協力してもらって四分割したら、いよいよちょっとお腹が減るくらいで済むかもね」

 

 今の俺はサンデーのその言葉がより一層魅力的に思えてしまう程、この現状に感動していた。

 闘った後の負担がここまで少ないなら、体感的にあと二回くらいはレースをしても体調を崩す事は無さそうだ。デュアル万歳。レースで勝ちまくりモテまくり。

 

「……ん? メッセージ……ドーベルからか」

 

 丁度自宅の前に到着し、そのまま気分よく帰ろうとしたところ、スマホが昨夜パスを繋げたばかりの彼女からの言葉を受信した。

 

≪つつっき つっき≫

≪どした?≫

 

 これ交尾の催促?

 妙にたどたどしい文章に対して反射的に普通の返事を返してしまったが、初めてのユナイトの負荷についてどう感じているのかを聞いた方がよかったかもしれない。

 一応事前にどのような渇きを感じるのかはしっかり説明してあるし、レースした後すぐにその事は連絡しておいたが、どうだろうか。

 この程度なら少し運動をした後くらいの疲労感だと思うが──

 

≪マジ? これまじ? ほんと???≫

≪何がだ≫

≪ふふ負荷!!!!、! ゆらいとのテメリットってこんな矢場いの!!?≫

 

 なんだか誤字が散見され始めている。

 確かに最初は多少驚くかもしれないが、まともにタップできなくなるほどのダメージではないはずだ。

 何が起こってるのだろうか。

 

≪ちょっとたすけれ 校門の前にいるから むかえに来て!!、!≫

 

 なにはともあれ相当ヤバいようだ。バイクで早めに彼女の下へ向かおう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「ツッキー!!!!!!!!」

「うおっ……っ」

 

 指定通りにトレセン学園の校門付近に訪れると、ヘルメットを外すよりも先にドーベルが俺に抱きついてきた。まだバイクも降りていないのに。

 

「だ、大丈夫かベル……?」

 

 その質問に彼女は全力で首を横に振ることで応えた。コレは重症だ。アクメで仕事が手に付かないのかい。

 

「つ、ツッキー、こんなのを数か月も体験して何十回も我慢してたの……?」

「あぁいや、まぁ……半減されてるから今は平気だよ」

「はっ半減されてコレなの……っ!? もうずっとクラクラしてるしムラムラしてるしで死んじゃいそうだよ……!」

 

 あのドーベルが恥ずかしげもなく必死に『ムラムラ』という表現を声に出すなんて、もしや俺が想像しているよりも何十倍も大変な症状に陥ってしまっているのだろうか。

 どうしてこうなっている?

 デメリットが半減されている俺はこの通りあまり問題はないというのに。

 まさか普通のウマ娘と俺みたいな男子高校生だと受けるダメージ量が異なるとか、そういう知らないシステムがあったりするのか。

 

(…………ごめんなさい。盲点だった)

 

 どういうことだ? また俺なにかやっちゃいました?

 

(たぶんこの状況は、半減されたダメージ程度なら問題ないと感じるほど私たち二人がデメリットに()()()()()()()()なのかも。……おそらくベルちゃんの反応が普通なんだと思う)

 

 それは──なんと言うか。

 つまり俺たち二人が異常な体験を重ねまくったせいで、妙に耐性が出来ているだけで。

 どんな方法でデメリットを二分割にしようが四分割にしようが、常人からすればユナイトの負荷ダメージというのはさして変わらず激ヤバだった──という事か。

 

「はぁーっ、ハァー……ツッキー、どうしよう……♡」

 

 おっ、瞳の中にハートが浮かんで見える気がする。吐息もだんだん甘くなってきたようだ。なにより発汗量がとんでもない。そろそろてめぇも気絶アクメくるか?

 ……なるほど。

 今回の件でよく学べた。

 誰かを頼ること自体は何も間違いではない。頼ったことでドーベル自身が喜んでくれたのもまた事実だ。

 しかし何事にも経験に付随する許容量というものがあるという事を忘れてはいけないらしい。

 俺は数か月の間、常にユナイトの負荷という限界ギリギリな環境に身を置いていた。

 その経験のおかげでデメリットに対する許容量が増えていただけであり、他の人にはそんな経験も体験も皆無なのだ。俺が悪い。本当にただ、この状況に置いて俺が普通じゃないのが悪い。

 ……デュアルシステムを使うのはこれっきりにしよう。

 

(いいの?)

 

 ドーベルにはトレーニングやレースもある。

 いまの彼女に求められている仕事量を考えれば当然の結論だろう。

 俺と同じくらい負荷を感じないのであれば頼りたいところだが、この様子じゃそれも無理だ。人には得意不得意がある。頼ることと無理を強いるのでは話が違うのだ。

 

(分かった。じゃあ、カフェに連絡して白のペンダントを持ってきてもらって。装着すればパスは切れるから。……その瞬間にベルちゃんの分の渇きはハヅキに飛んでくるけど)

 

 こればかりは仕方がない。調べ不足だった俺の落ち度なので甘んじて受けよう。ハメさせてください……!

 

「ドーベル」

「はぇ……?♡♡」

「マンハッタンさんが来るまで学園内のベンチに座って待っててくれるか。負荷はすぐ消えるようマンハッタンさんが何とかしてくれるから」

「や、やだ、ひとりにしないで……」

 

 淫の気、はるかぜとともに。

 俺に引っ付いて離れようとしないドーベルのやわらかメロンが当たってます。このままじゃ恋人契約が成されると思え! ハンドル握るのにマジで邪魔だ! この弾力新たまねぎ♡

 

「か、カフェが来てくれるならそれでいいから、それまで一緒にいて……♡」

「……分かった。バイクを停めたいから、近くのコンビニまで行きたいんだが……」

「後ろッ、乗るっ」

 

 うわぁ! 柔らかい感触が背中一杯に広がって非常にグッド。しかしマゾメスだ。

 

「待て待て、とりあえずヘルメット被ってくれ」

「……ねぇ。このヘルメット、そういえばアタシの為に買ってくれたんだっけ」

「っ? あ、あぁ、まあ。夏休みに出かけた時に後ろ乗りたいって言ってたし──」

「えへへっ♡ 嬉しい……好きっ♡♡」

 

 うわわわわわわっわわわァッ!!!? 告白されてしまったワケですが。本当にユナイトのデメリットは怖い……この理性が完全に薄れて言動がバグる感じめっちゃ懐かしいね。デカケツ小刻みに震わせんな!

 木枯らしが吹きつける寒い冬だというのに、これがどうしてサウナよりも今は暑い。奥さんがそんな淫らに誘惑するから……!

 

「ツッキー……あったかい……♡」

「ど、ドーベル? コンビニで水とか買うからそれ飲んで落ち着こう。今はユナイトの負荷で情緒が一時的に乱されてるだけで」

「ぎゅう~~っ!」

「オ°ッ」

「ほら、コンビニいこっ♡ ツッキー号しゅっぱーつ♪」

 

 浅ましい手つきやな。ほんとに人妻かよ?

 この女さすがに猥褻が過ぎないか。

 ……いや、夏休みの時のユナイト慣れしてない頃の俺もこんな感じだったんだろうな。

 今のような友達以上に一歩足を踏み入れたかどうかという状態ではなく、あの頃は間違いなくただの友人でしかなかったにもかかわらず、こんな事をしでかした俺を嫌わず根気強く支えてくれたドーベルには感謝してもし足りないくらいだ。

 

「ふへへ……♡ やっとツッキーにくっつけたぁ……♡」

「やっと、って何だよ……」

「だってだって、ずっと我慢してたんだもん……みんなの目もあるし……でももういいかなって♡」

 

 なんだなんだけだものか? はたまたマゾメスか? そんなに交尾したいならいいけど……。

 

「おい、ベル」

「……?」

「フラフラになるのは仕方ないが……落ちたら危ないから、絶対に俺から手は放すなよ。いいな」

「っ! ぁ、ぇと──は、はい……♡」

 

 服従度93%。緊張感をもって注視していく。

 とりあえず爆速でマンハッタンに救援を要請しつつ、柔らか生白汗だくボディのガチマゾと化した愛するベルちゃんを後ろに乗せて、俺はバイクを走らせるのであった。軟弱な女だ。ひ弱な女だ。守ってあげるからね。

 

 


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