昔は、地方を中心にどこの映画館でも当たり前のように行われていた“2本立て同時上映”。だが、最近はアニメ作品を除いては同時上映を行う映画館はめっきり減り、とりわけ、都心では目にする機会がほとんどなくなってしまった。映画ファンにとっては、1本の値段以下で2作品が見られるのだから、多くの人が劇場に押し寄せてもよさそうなものだが、なぜ同時上映は廃れてしまったのだろうか。映画関係者に聞いた。

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 この同時上映とは、1本ぶんの値段で2本の映画を観られる興行形態のことで、70年代~90年代などは、宮崎駿監督のアニメ『ルパン三世 カリオストロの城』と香港コメディ『Mr.BOO!ギャンブル大将』、ホラー映画『バタリアン2』とファミリー映画『ドン松五郎の大冒険』、モンスター映画『トレマーズ』とSF『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』といった具合に、各映画館にもよるが驚きの組み合わせがなされていたのだ。

 また、旧作映画の上映を主体とする名画座では、今も『レ・ミゼラブル』と『オペラ座の怪人』のミュージカルくくり、『マダム・イン・ニューヨーク』と『めぐり逢わせのお弁当』のインド映画くくりなど、こだわりを持った同時上映がなされている。このように、いくら旧作とはいえ、最低でも2本は映画を借りる必要があるのだから、利益を上げるのが難しそうな気がするが…。

 「実は、そうでもないんですよ」と、関係者は口にする。「自社で配給機能を持っている劇場で他社の作品をかけようとすると、配給会社の取り分は必然的に低くなります。基本は5:5ですが、劇場の強さやコンテンツの強さ等を総合的にみて細かく調整するため、興行収入が100億円でも、上映した劇場によって配給にいくら入ってくるかはまちまちになります。でも、二番館や名画座で上映する準新作やレトロスペクティブ(回顧上映)、旧作は、取り分の部率を調整せずに、フラットの金額でやる場合が多いんです。例えば、1週間プリントを貸し出して10万円とか、1回上映につきいくらとかで貸し出す」。

 確かに、10万円程度でフィルムを借りられるなら赤字は出にくそうだが、映画を上映するには、色々なところで経費がかかってくる。

 「デジタル機器の導入問題や設備の老朽化、観客現と収入減など、様々な要因が相まって、銀座シネパトス、三軒茶屋シネマ、新橋ロマン等、名画座の閉館は相次いでいます」と、関係者は憂う。

 「しかし、原因はこれだけはありません。大きいのは、2000年あたりから急速に普及し出したシネコンの存在でしょう。シネコンでは基本的に新作を各回入れ替え制・指定席で上映することが一般的で、さらに効率を重視するため、プログラムも画一的なものが組まれます。新作の同時上映は、一部アニメ作品などで行われていますが、1本の上映時間が長いと飽きてしまうという子どもに配慮したところも多く、純粋に2本立てを楽しめる機会は減少中。シネコンの1スクリーンを名画座仕様の2本立てにするなどという大枠での取り組みが叶わない限り、複数本立ての上映は難しいものになると思います」。

 同時上映を取り巻く現実は厳しい。だからこそ、消えてしまう前に、1度は同時上映を味わってみてほしい。シネコンでは不可能な非日常が体験できるはずだ。

意外な組み合わせも楽しかった、懐かしの2本立て同時上映(C)AFLO