おまたせしました!
「主人公じゃない!」の方でやりたかったことは済ませたので、恥ずかしながら戻って参りました!
「――ここが最前線、かぁ」
剣聖グレンさんとの衝撃的な再会の数時間後、僕は車上の人になっていた。
というのも……。
《ヒノカグツチ(武器):遥か東の国の秘術によって、刃に炎の精霊を封じたとされる名刀。「父の形見をその手に、少女は何を思う」
攻撃力 : 666
装備条件: 腕力666 魔力666》
グレンさんがセイリアに渡した武器の、「父の形見」というフレーズが、どうしても気になってしまったから。
この〈ヒノカグツチ〉という刀がセイリアに渡されたのは、おそらくは原作的にはイレギュラー。
だから実際にはグレンさんは死んでいないけれど、これから死ぬ可能性が高い、ということだ。
だからどうせなら、と僕はレベルアップでの遠征先を変更。
こっそりとグレンさんと同じ場所に向かうことにしたのだった。
(この刀を渡されたのは、正直予想外だったけど……)
出発前のことを思い返しながら、僕は自分の手の中の〈ヒノカグツチ〉を見る。
僕はこっそりと魔列車で最前線に行くつもりだったのだけれど、なぜかそれはトリシャたちにもバレていた。
これは魔列車に乗り込む寸前、見送りに来たセイリアが無理矢理に押しつけてきたものだった。
「まだボクじゃ使えないから……。でも、あとで返しに来てね」
と言っていたけど、
「僕じゃなおさら、使えないんだけどなぁ」
レベル84のセイリアに使えないものが、まだレベル25の僕に使えるはずがない。
それとも、このレベル上げで自分以上のレベルを手に入れてこい、みたいな意味なんだろうか。
(……女の子の考えることって、よく分からないな)
ともあれ、今はそこまで気にすることはないだろう。
列車の旅は最初は楽しいけれど、綺麗な景色も数時間も眺めていればそれも飽きてくる。
僕がねんがんの優勝トロフィーを手に持って、それをピカピカに磨き上げていた時、「それ」は起こった。
「――は?」
なんの前触れもなかった。
本当になんの前触れもなく突然、視界が赤に染まったのだ。
「――あ、がっ!」
轟音と振動は、遅れてやってきた。
視界が二転三転して、真っ赤な世界が回転する。
(な、にが、おこって……)
まず感じたのは、肌を焼くほどの熱気と、身体を苛む痛み。
それでも必死に身を起こした僕の目に飛び込んできたのは、想像もしなかった光景だった。
「……え?」
魔列車が、燃えていた。
横倒しになった車両は一つとして完全なものはなく、何か恐ろしい力によってところどころが抉れていた。
金属製のはずのその車両はめらめらと今も燃え盛っていて、僕が幸運にも車両の外に投げ出されなければ、今頃命はなかったのだと否が応でも確信させてくる。
「なん、なんだよ、これ」
さらに辺りを見回して、気付く。
目の前に転がった細長く炭化したモノ。
これは……。
「マーシュ、さん。あ、あ……うぁああああああああ!!」
その正体が魔列車で隣に座っていた格闘家の青年だと気付いた時、僕は叫んでいた。
けれどそんな叫びは、さらなる轟音にかき消された。
ドオン、と腹に響くような轟音に顔を上げると、そこにはとんでもないモノが見えた。
LV 141 フレイムジャイアント
身の丈三十メートルは超えようという巨人が、魔列車をちぎって遊んでいた。
いや、それだけじゃない。
LV 132 グレーターガーゴイル
LV 146 デュラハンレムナント
LV 133 サイコネクロマンサー
一匹一匹が街を滅ぼせそうなレベルの魔物が、魔列車を、そして魔列車に乗っていた乗客たちを、まるで玩具のように破壊していた。
――これが、最前線。
僕は、この世界のことを何も分かっていなかった。
僕らの安全が何によって担保されているかなんて、考えもしていなかったんだ。
「……ぁ」
ただ、僕に自分を顧みる暇なんて、なかった。
渦巻く煙と血しぶきの向こうに、真っ赤な影が揺れた。
LV 160 クリムゾンドラゴン
一目見ただけ、目が合っただけで、勝てないと悟った。
あまりに大きすぎる存在感に逃げることも出来ない僕に、「奴」が確かに笑ったのを、見た。
「う、あ……」
竜が、その顎を開く。
口腔から覗くのは、煉獄の炎。
万物を焼き尽くす炎が、身動きの出来ない僕に襲いかかる。
「――〈絶影〉!」
最後の最後、とっさの状況でその技が出たのは、ほとんど反射の域だった。
虚空に向かって放たれたその技は、魔物を斬ることはない。
けれど、ほんの数メートル。
しかし生存に必須な数メートルの距離を、僕は一瞬で移動して、
――轟音。
背後からの熱波に押され、何度も地面を転がる。
地面に落ちた残骸が何度も肌を刺し、熱波の余韻が皮膚を焼く。
とても無事とは言えないし、HPを確認するのが怖いほど。
だけど……。
「……生き、てる」
僕はまだ、生き残っていた。
「は、はは……。〈ファイア〉、連射した甲斐があったな」
熟練度を上げると、同系統の攻撃によるダメージを軽減する。
それが、レベルが低いはずの僕が、二度もの危機を残り超えて生き残った理由だ。
僕がこの世界に来て一番熟練度が高かった火属性の攻撃だからこそ、あの煉獄の炎を耐えることも出来た。
けれど……。
「……っつ!」
それでもなお、傷は浅くない。
(もし、あのブレスが直撃していたら……)
不吉な想像を首を振って追い出す。
僕はよろめきながらも立ち上がって、
「――っ!?」
次の瞬間、鋭い痛みと共に、僕は地面に転がっていた。
(な、にが……)
混乱を抱えながら身を起こすと、肩を襲う激痛。
それから……。
LV 151 タイラントオーガ
目の前に降り立った、絶望の影。
もはや、言葉すら浮かんでこない。
何も出来ない僕の前で、目の前の脅威が、腕を持ち上げた。
それを認識した、瞬間だった。
「――ぐ!」
右足に激痛!
「ぐ、あ、あああああああ!!」
反応どころか、目視すら出来なかった。
気付けば目の前にオーガがいて、僕の右足はそのオーガの持っていたこん棒に潰されていた。
痛みに悲鳴をあげる僕にオーガがもう一度腕を振るい、僕はあっさりと吹き飛ばされた。
ガン、と音がして何かにぶつかって、僕の身体は地面に落ちた。
(ああ……。僕はバカだ)
絶え間ない激痛と朦朧とする意識の中で、僕は思う。
たかだか学生の試合で優勝したくらいで舞い上がって、来てはいけない場所に来てしまった。
主人公気取りで、英雄気取りで、全てを救えるなんて、うぬぼれてしまった。
「……これが、終わり、か」
僕は、ここで死ぬ。
主人公は倒れ、物語は幕を閉じる。
やがて生まれる魔王は世界を支配して、人間は全て死に絶えるだろう。
(ごめん、セイリア……。約束は、守れないみたいだ)
世界を、魔王を残して逝ってしまうこと。
それよりもなぜか、セイリアとした些細な約束が僕の頭をよぎって、
――カラン。
音を立てて、僕の目の前に金色の光が転がった。
――優勝トロフィー。
僕の栄光と、思い上がりの象徴。
その、はずだった。
(なんだ、この、光)
見ると、優勝トロフィーが光っていた。
いや、違う。
光っているのは優勝トロフィーではなく、その中身。
トロフィーの中に偶然入り込んだ「血液」が、淡い光を放っていた。
(……そういう、ことか)
その時、ようやく分かった。
この優勝トロフィーに込められた、本当の力。
そして……。
――「魔王に至る鍵」という言葉の、本当の意味が。
僕はトロフィーを、いや、〈聖杯〉を手にすると、震える手でそれを口元まで運ぶ。
そして、そこに残っていた血液を一息に飲み干した。
「あ、が、ぐあああああああああああああああ!!」
途端に身体が内側から沸騰するような痛み。
僕は激痛に身をよじりながらも、こう叫んでいた。
「――
叫びが、意志が、存在を塗り替える。
それと同時に自分の中から何か大事なものが抜け落ちていった気がするが、今はどうでもよかった。
「あ、あは。あはははははははは!」
笑いが、止まらない。
身体の裡から、魔力が満ち満ちる。
とても、とても爽快な気分だった。
「ガアアアアアアアアアアアア!!」
目の前の異変を感じ取ったのか、オーガが吼える。
でももはやそんなものは、なんの意味もなさなかった。
そっと手を横にかざして、「それ」に呼びかける。
「――
瓦礫の中から燃え盛る刃が一直線に飛び込んできて、右手に収まる。
「馴染むな、これは」
それはまるで、数十年、いや、数百年にわたってずっとこの手に握られていたかのように、奇妙に手に馴染んだ。
燃え盛る刀身を鞘に納めて、手を添える。
「――ガアアアアア!!」
その行動に何を感じたか、いきり立って襲いかかるオーガに笑みを返して、
「開演早々申し訳ないけれど、もう最終演目としようか」
慣れ親しんだその動作から放たれるは、絶望の一太刀。
「――〈絶禍の太刀・
スッと刃を振り抜いて、また納刀する。
たったそれだけの動きが、世界を壊した。
あれほど僕を恐れさせた目の前のオーガも……。
列車を玩具代わりに出来るほどの大きさの巨人も……。
絶望を形にしたような強大な炎の竜も……。
そして、魔列車に残っていた生き残りの人間も……。
――全てが等しく、悲鳴すら残せずに真っ二つになって死んでいく。
血しぶきがあがり、生命が散る。
そしてその度に、その「存在力」が僕の力をさらに増してくれるのが分かる。
「――ふ、ふふ。あははははははハははハハハハハ!!」
気が付けば……。
誰も、人どころか魔物すらいなくなったその魔列車の残骸の上で、僕は哄笑をあげていた。
(――ああ。たのしい!!)
最高に自由で、最高に愉快な気分。
けれど、そんな最高の時間に水を差す、無粋な乱入者がいた。
――斬!
魔列車の残骸が切り裂かれ、そこから見慣れた男の姿が覗く。
「――剣聖、グレン・レッドハウト」
振り向き、小さくその名を呼ぶと、能面のようだった剣聖の顔が、驚きに歪んだ。
「てめえ、まさか……レオハルトの坊主、か」
そう言いながらも、目の前の「獅子頭の魔物」から決して切っ先はずらさない、その「英雄」の姿に笑顔を浮かべながら、僕は首を横に振った。
「……いいや、違うよ」
そして……。
予言を成就させるべくヒノカグツチを大きく振り上げながら、「新しい僕」はこの世界に初めての名乗りをあげる。
「――僕の名前は〈アリマ・レオ・ハルト〉。もっとも強く、もっとも新しい……〈魔王〉だ!!」
April End!!
ということでこっちでも四月一日ネタでした!
いえ、まあガチで衝動的に書いたものなのであんま意味はないです
こっちでもエイプリルフールやるつもりは全然なかったんですけど、「なんか書けそう」って思ったからつい……
でも、こう、割と設定的にありそうな感じに出来た気がするんですよね!
まあ正式な続きについては本編をお待ちください!
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