これは TITLE: 南アルプスのトンネル工事による水資源への影響のシミュレーションの懸念の続きです。

山梨県方向からの工事がすすんでるので、もたもたしてると情報発信が間に合わないと思うので、出来たところから小出しに書いていきます。

今回はソフトウェアについて。

すでにFacebook の関連ページには投稿した静岡県のシミュレーション、JR東海のシミュレーション、そしてオレゴン州のシミュレーションで使われたソフトウェアについての簡単なサマリーをここに少し編集して記録しておきます。あまり長くなると読みづらいと思い別の記事として投稿しました。

JR東海の使っているシミュレーションソフトウェア: TOWNBY


JR東海がつかっているのは TOWNBY というプログラムであると。下の 参考文献[J-1] に書かれています。(このページの参考文献はこのページの最後にまとめます。)

下の [J-3] は そのソフトウェアTOWNBYの著者の1人が書かれたTOWNBY の背景の記事でいろいろ触発される内容が書かれています。特に
  1. pp.226 の『とはいいながら,水収支解析には,対象地域に関し事前に得ておくべきいくつかの必要なデータがある。それらは①できるだけ詳細な水利用の実態把握,②できるだけ多くの点における長期の水文データ(河川水量,地下水位,降水量,蒸発散量など),③地下水の入れ物としての水理地質構造の把握とモデル化,などである。』の当たりの記述とか、
  2. pp.227 の『 ①急がば回れ:直線的路線が有利なことは自明。そうしたばかりに失敗した事例は多数。②断層地形は避けよう:断層鞍部地形や遷緩線(ある線を境に下方が緩傾斜となる地形境界線)付近は避ける。避けられない場合は極力小土かぶりまたはそれに直交させる。』
などは JR東海というか、工事をしている会社には耳の痛い記述ではないかと想像。

なお、JR東海のシミュレーションは使われているデータをみると 平成25年頃に行われたものかと想像します。それ以降いろいろシミュレーション内容に意見が出されているようですが更新してないのかな?
H.25からこれまでの間に気象観測点 (アメダスみたいな装置を)2-3か所おくだけでも、[J-1] の「図5-16 降水量メッシュ平年値分布図 」(ページ 別5-17)にある気象観測点が2つしかないのにかなり無理に内挿・外挿しているように見える点などを補正できたのにと思わざるを得ません。残念です。
(無理に見えるというのは、*私には*無理に見えるということですが、これも続編でオレゴン州での解析例と比較して評価していきたいと思います。)

静岡県のシミュレーションソフトウェア: GETFLOWS


JR東海が TOWNBY というソフトウェアを使っているのに対して、静岡市の シミュレーションは GETFLOWS というソフトウェアを使っているようです。それは先に書いたJR東海の「(2)各種条件設定表(JR東海モデル及び静岡市モデル)」の資料の記述の別5-29ページに
『出典:静岡市提供資料「平成 28 年度環境創委第 19 号静岡市南アルプス地域水循環モデル構築業務成果報告書」及 び静岡市による解析の受託者である株式会社地圏環境テクノロジーへのヒアリングをもとに作成』という記述を元に調べた静岡県の資料 [S-1] の ページ VI-12に 『解析は、表流水と地下水を合わせて解析できる「統合型水循環シミュレータ GETFLOWS」によって行った。GETFLOWS の主な機能(設定データ、入力データ、出力データ)は表 6 に示すとおりである。」 とあることからわかります。

なお、GETFLOWS の質問のページ[3]に 「Q2:調査データのない範囲をモデル化して意味がある?」という質問があり、その回答の中に次の文があります。
『逆に、モデル解析結果から地表踏査・観測やボーリング調査の重要地点を割り出し、そこでの調査結果をモデルにフィードバックし、それを繰り返すことで地表・地下の水理状態が次第に明らかになることが期待されます。』。
*私には* まさにどこの調査が不足してるかがシミュレーションのモデリング過程と計算の過程で明らかになってさらなるデータ収集のための調査を行う段階だとしか思えないのです。

[S-4] によれば GETFLOWS  は日本で開発されて、日本でこれまで多く利用されていることが分かります。そこからの引用。:『GETFLOWS の初期版は東京大学登坂博行教授によって開発され、それまで別々に扱われてきた地表水と地下水の動きを、独自に開発したアルゴリズムを用いることで結合させ、従来困難であった地上・地下相互作用解析を可能とする新たな数値解析技術の開発に成功しました。
株式会社地圏環境テクノロジーは、東京大学より GETFLOWS の技術移転を受け、その開発継続と保守・普及ならびに GETFLOWS を用いた様々な解析業務を請け負う専門会社として、並列化による大規模問題への対処、プロファイラーを用いた処理速度の大幅な高速化、化学反応を伴う多成分物質や土砂の移動現象の取り扱いなど、様々な品質向上機能拡張に取り組んできています。これまでに、国内外で 500 事例以上のプロジェクトへの導入実績を有し、流域問題を含む様々な分野で適用性が検証されています。』

なお、[S-5] をみると1990年代に開発がされた GETFLOWS は2001年までにすでに日本国内で30の大規模事例の解析をおこなっていると。

静岡県が GETFLOWS を使った解析を外部に依頼してるのはまず妥当な選択だと思えます。

それに比べるとJR東海のはトンネルを掘るために特化したソフトウェアTOWNBYを使っていると。(周りに対する影響が上手く考慮されてないのではないかという懸念がありますが、それは調べて行けばおいおいその懸念の是非がわかるはず。)

オレゴン州の事例の使っているシミュレーションソフトウェア: GSFLOW


GSFLOW のメインのドキュメントは、GSFLOW の概要ページ[g-1]からたどれる
a) ダウンロードリンクページ[g-2]
b) ドキュメントページ [g-3]
のドキュメントページの方にダウンロードリンクが掲載されてます。
GSFLOW メインの解説書 [g-4]は254ページもある大部の解説になります。

なお、注意が必要でこのソフトウェアのメインの解説書の 入力データの記述は古いので最新の記述の方を見よと注意があります。メインの解説書のそのページに古い / outdated と書いてくれてるといいのにと思います。無駄な時間を費やさないために注意が必要です。その注意書きと最新の情報がどこに書かれているかは Summary of GSFLOW, including release history [g-5] にあります。

実は最初の投稿で、次のようなことを書いてました。
i)『(なお、前見た類似の資料にもっと書いてあったと思ったことが今回のレポートですぐにみつからないので、それらについては後で続編を書く予定です。)
』と
ii) 『以前このPDFの原稿レベルの資料か、それに準ずる資料を読んだ時にはプログラムの記述だけでも数十ページあって、データのことが詳しくかかれていたと記憶するのですが、今回見つかったPDFではちょっと様子がかわってしまっているような気がします。(TODO: 後で記述を追加予定。今気づいたのですが、データは別に付録というかアーカイブされていたのかもしれません。https://water.usgs.gov/GIS/metadata/usgswrd/XML/sir2017-5097.xml
ですが以前見た資料ではもっと詳しくプログラムの議論があったような気がするのです。)』
ですが、ブログで紹介したレポートが最近改訂された様子もないし、古いモデリングの話を探しましたが、どうも違うし、おかしいなとおもってました。

GSFLOW のドキュメントを見ていて勘違いに気づきました。GSFLOW のメインのドキュメント [g-4] の例題にもオレゴン州のデータを使ったものがでてくるので頭の中で個別の解析事例のレポートとGSFLOWそのもののドキュメントの二つを融合して記憶してたようです。
というわけで、私が以前みた資料は無事今でも全部ダウンロードできることが分かりました。

なお、USGS は全米でのこのソフトウェアの利用の普及に熱心だとみえて、[g-1]にトレーニング資料や使い方の説明へのリンクが多数置かれています。
どうも水理学の解析技術を大部の著書で発行しているらしくて、その本の 表面水と地下水の相互作用なんていう部の章1が GSFLOW の説明 (メインの解説書)となってるようです。
ですが先にも述べたように細かな記述が古くなってるということで、[g-5] を読んで、必要ならメインの文書の古くなった章の先頭に「古くなったから、こっちの文書を見よ。」と書き込んでおくのが良いかと思います。

シミュレーションソフトウェアの入手について


シミュレーションソフトウェアについていえば、JR東海のシミュレーションで利用された TOWNBY、静岡県のシミュレーションで利用された GETFLOWS を無料で入手することはオレゴン州での解析事例に使ってる US Gological Survey の GSFLOW の場合とは異なり無理だろうと想像できます。

ですが、シミュレーションに使ったデータは公開していただけると嬉しいなと思います。

このページの参考文献