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前話から来た人はようこそ!

「前話を読まずに先にこっち来ちゃった!」というイレギュラーな人は、何も考えずに一話戻って先に前話を読んでみてください










……大丈夫でしょうか?

一応解説をすると、去年は「本編の投稿直後にエイプリルフールネタを投稿して読者を騙す」という試みをしたんですが、「更新チェックから最新話に跳ぶ人よりも、実は順番に読んでいく人が多い」という驚きの事実のせいで大多数の人をひっかけることが出来ませんでした

ゆえにその経験を糧に、今回は去年とは逆で「最新話を本物、その一つ前を偽物」としてみましたがどうだったでしょうか?


……いえまあ、今回は仕掛け以前に、内容が嘘だと分かりやすすぎたかなという反省はあるんですよ!

だって普通に考えて、こんな突発的な話であっさり主要キャラが死ぬとかありえないですからね!



ということで、ここからは本編です!

仮面に手をかけるところまではほぼ同じですが、そこからは嘘ネタとは一味も二味も違うフィンの活躍を楽しんでいってください!

第七部 偽りの仮面
第百七十四話 仮面の向こう


「やぁ。浮かない顔をしているね、フィン」

「アイン王子……」


 フィンが顔を上げると、やたらとさわやかな顔をしたアイン王子がこちらに近寄ってくるところだった。


「また、レクスたちのことを考えているのかい?」

「それは……まあ」


 レクスは、フィンの師匠で恩人だ。

 フィンとしては、恩人のレクスのために隣で戦うつもりだったのだけれど……。


(レクスさん、三週間で帰ってくるって言ってたのになぁ)


 向かった先で予想外のことが起こったらしく、もう何ヶ月も帰ってきていない。

 アイン王子の護衛も重要なのは分かっているけれど、フィンとしては一緒についていきたかった。


(……まあ、剣士としては王子から学ぶことは多くて助かるんだけど)


 単純な剣術の才能で言えば、師匠のレクスよりも、そして今は亡きフィンの兄であるルインよりも上だろう。

 その王子の教えを乞うことが出来ているので、フィンの剣の腕も数ヶ月前と比べるとずいぶんと上がった。


(ルインの代わりに世界一の剣士になる、という目標を掲げていた頃なら、それも嬉しかっただろうけれど……)


 もう自由に生きていい、となってから望みが叶うなんて、なんとも上手くいかないものだ、とフィンは思う。

 正直今は剣術を学ぶより、師匠と一緒に冒険をしたかった、というのが本音だった。


(王子も完全にわたしを当てにして、護衛の人数絞っちゃうしなぁ)


 一国の王子が外を歩くのに、今の護衛はフィンを含めてたったの三人。

 ほか二人も凄腕とはいえ、とても王族の護衛にふさわしい人数だとは思えない。


(……まあ、気持ちはわかるけど。王子を狙った襲撃なんて、結局全然なかったし)


 レクスさんは、暗殺者ギルドが王子を狙っている可能性については話していたが、やっぱり杞憂だったんだろう。

 そんな風に、フィンが判断した、矢先だった。


 アイン王子の背後に、光るものが見えた。


「アイン王子!!」


 叫びながら前へ飛び出すとアイン王子を背後に庇い、放たれた白光を弾く。

 キィン、と耳に響く音と共に地面に落ちたのは、鋭く尖ったナイフだった。


 何とか防げたとホッと息をついた直後、


「フィン!!」


 アイン王子の鋭い声。

 その視線の先を見ると、ぬるりと地面から浮かび上がるように、仮面をつけた黒装束の人影が現れる。



「――暗殺者」



 それも、一人ではない。

 二人、三人、四人……。


 どこに隠れていたのか、前後を挟むように十人を超える黒装束がアインとフィンの周りを取り囲んでいた。


「……まいったね。完全に囲まれているようだ」


 アイン王子は小さく嘆息をして、それが戦いの合図になった。

 四方八方から、暗殺者が一斉に向かってくる。


「ふっ!」


 気合の声と共に、向かってくる飛び道具を一刀のもとに切り伏せると、時間差で迫ってきた暗殺者たちに応戦する。


(こいつら、なかなかやる!)


 王都にいる冒険者のトップ層と比べても遜色のない実力。

 それに……。


「くっ! 邪魔を……」


 何よりも、連携が上手い。


 膂力では完全にフィンが勝っているため、攻撃を押し返して隙を作るところまでは出来る。

 なのにそういう状況になると、すぐに別の誰かが横から攻撃をして牽制をしてくるのだ。


「大丈夫ですか、アイン王子!」

「問題はない。……けど、これじゃきりがないね」


 それに、フィンはアイン王子を守るため、深追いは出来ない。

 それが膠着した戦況を作り出していた。


(ロスリット様がいれば……)


 一瞬だけこの場にいないアイン王子の婚約者の姿を脳裏に思い浮かべるが、すぐに首を振った。

 今はないものねだりをするよりも、身体を動かすべき時だ。


 そして、そういった戦術においてはアイン王子は優秀で、誰よりも果断だった。


「守るだけじゃ勝てないね。遊撃は任せたよ」

「それは……いえ、分かりました!」


 すぐさま下された決断に、ほんのわずかな逡巡のあとに決断する。

 アイン王子の実力なら、この程度の暗殺者にすぐに負けることはない。


 だから自分が、状況を打開する!



「――〈スティンガー〉!」



 そんな思いで、王子の護衛を放棄して前に出る。

 その一撃は、初めて暗殺者の身体を捉えた。


(まず一人!)


 次に標的としたのは、三人一塊となってフィンに向かってこようとしている暗殺者たち。


「はあぁぁぁ!」


 三対一。

 正面からの戦いでは分が悪い。


 普通なら、そう考えるところ。

 けれど……。



「――〈バーニング・レイブ〉!!」



 フィンは人数差など関係ないとばかりに必殺の技を放つ。


「なぁっ!?」


 対峙する暗殺者の一人が、思わずと言ったように呻きのような声をあげる。

 だが、それも無理もない。


〈マニュアルアーツ〉によって加速した連撃は、三対一の人数差を覆して手数でも威力でも圧倒。

 三人の暗殺者を正面から切り伏せ、ねじ伏せてしまったのだ。


(これで、四!)


 瞬く間に四人の暗殺者を倒したことで、包囲に穴が出来る。

 同時に、暗殺者たちの圧力も少し減じたように見えた。


(王子は……!)


 一息を入れつつ王子の姿を捜すと、彼は一対一で暗殺者の一人と斬り合っているところだった。


(あの暗殺者、強い!)


 暗殺者は全員同じ格好、同じ仮面をつけているため、その顔は見れない。

 ただ、その暗殺者は襲ってきた者たちの中でもひときわ小柄で、ひときわ異質だった。


「――シッ!」


 静かな呼気と共に、暗殺者の手から鋭い剣撃が繰り出される。

 それは、かろうじてアイン王子の剣によって防がれるが……。


(あの王子と互角、だなんて……!)


 全てにおいて高水準の力を持ち、〈マニュアルアーツ〉まで使いこなすアイン王子は、生半可な相手ではない。

 そんな王子と渡り合うのだから、その小柄な暗殺者の実力は強力な暗殺者集団の中でも、一線を画していると言えた。


「――これで、五人!」


 一瞬だけ視線を王子に向けたのを隙と見たのか、背後から迫ってきた暗殺者をさらにもう一人切り伏せると、王子と小柄な暗殺者との戦いも、進展があった。


「なかなかやるね。ただ……」


 王子がこれまでと違う構えを取った、次の瞬間、



「――〈稲妻斬り〉〈一閃〉!」



 今までとは比べ物にならない速度と鋭さと速度を持った剣閃が、暗殺者を襲った。


「――がぁ!?」


 流石のその暗殺者も、王子の〈オーバーアーツ〉を利用した連続アーツには成す術がなかった。

 かろうじて剣を合わせるものの押し負けて、暗殺者の剣が大きく弾かれる。


「僕も、昔の僕じゃないんだ。……悪いね」


 勝負あり、という状況。

 けれど、




 ――カチャリ。




 武器を奪われた暗殺者が、その右手を自らの仮面にかけた。


「……どういうつもりだい?」


 困惑する王子の前で、もうすぐで仮面の下の素顔が見える、そんな時に、



「――させ、ない!!」



 横合いから飛んできたフィンの一撃が、無防備な暗殺者の横腹を襲った。


「――ッ!?」


 成す術もなく飛ばされ、地面に転がる暗殺者。


「フィン!? 何を……」

「コイツの相手は、わたしがします!」


 叫びながら、アイン王子を後ろに下がらせる。

 なぜならフィンは、自分が一番信頼する師匠から、聞いていたのだ。



 ――アインに襲撃があるとするならば、その弟が暗殺者として駆り出される可能性がある、と。



 この相手を、このままアイン王子と戦わせる訳にはいかない。

 そう思っての必死の介入だったのだけれど、何とか間に合ったようだ。


「悪いけど、わたしは相手が王族だったとしても、遠慮なんてしないよ」


 そう口にしつつも、本当のところはフィンだって、知り合いの弟なんて斬りたくはない。


 ――このまま、倒れていてくれればいい。


 そうフィンは願ったが、その膠着はそう長くは続かなかった。

 フィンが祈る様に見守る中、異様な身体の動かし方で、まるでバッタのように一息に暗殺者が立ち上がったのだ。


(……薄々とは感じていたけど、間違いない。中身は、人間をやめている)


 アイン王子の弟が、どんな思いで暗殺者の仲間入りをしたのかは分からない。

 暗殺者たちが彼に施した洗脳と改造がどのようなものなのか、想像は出来ないししたくもない。


 でも……。


(容赦は、しない!)


 王子を守るため、師匠に胸を張って会うためにも、ここで負ける訳にはいかない。


 ――必ず王子を無事に守り抜いて、笑顔でレクスに会う。


 それが、今のフィンの全てだった。

 起き上がった暗殺者は、先ほどのダメージを感じさせないすさまじい勢いで剣を振るが、



「――そんな攻撃、効かないよ」



 しかし、その一撃はあっさりとフィンの剣によっていなされる。


(……なん、だろう)


 暗殺者の剣は、威力はあっても未熟だった。

 まるで、兄のルインを失った直後の自分を、島を出て師匠やアイン王子に師事する前の自分の剣技を見ているようで、さらにイライラが募る。


(もう、終わらせよう)


 そうしてフィンの方から放った一撃が、暗殺者の身体を切り裂いた、が、


(浅い、か)


 手加減はしていないつもりでも、相手がアインの弟だと思うと、どうしても剣が鈍る。


 ただ、それでも決して無視は出来ない怪我を負った暗殺者はよろめいたあと、ふたたび自らの仮面に手を添えた。


「わたし相手にそんなことしたって――」


 フィンは仮面が外されるのも気にせずに、むしろその動作を隙と見てひときわ大きく足を踏み込んで、



「……え?」



 振り上げた剣が、ピタリと止まる。


 仮面の向こう。

 暗殺者が見せた素顔に対して、フィンは思わず目を見開き、




「ルイン……おにいちゃ――」




 次の瞬間、ブスリ、と。

 最愛の兄の顔をした暗殺者の手によって、自分の胸に刃が突き込まれるのを、見た。



 ※ ※ ※



「――フィン!!」


 ゆっくりとフィンの身体が傾き、地面に崩れ落ちる中で……。

 異変が起こっていたのは、フィン一人にではなかった。



「――ば、ぁ、うぁ、フィぃ、んん……」



 相手を刺したはずの暗殺者の少年もまた、胸を押さえて苦しみ始める。


「くっ! フィンを救え!」


 王子の言葉に、騎士たちも我に返って倒れたフィンを庇うように取り囲む。

 もちろんもっとも警戒するのは、フィンの兄と同じ顔をした少年。


 しかし、少年は明らかに尋常な状態ではなかった。

 自らで自らを痛めつけるかのように自分の手で自分を叩き、首を押さえ、そして最後には、


「か、は……」


 まるで呼吸が出来ないかのように喉をかきむしると、突如として身を翻してその場を駆け去ってしまった。


「待てっ!!」


 騎士が誰何の声をあげるが、ルインの顔をした少年の速さは普通ではなかった。

 あっという間にその姿は見えなくなってしまう。


 いつの間にか残っていた暗殺者の姿も消えていて、残されたのは幾人かの暗殺者の死体と、倒れた少女だけ。


「フィン! しっかりするんだ、フィン!」


 倒れたフィンに、アイン王子が手ずからポーションをかけて延命を試みるが、彼女は苦し気に呻くだけ。


 傷口がふさがってもなお、その症状が緩和されることはなかった。


「これは……おそらく暗殺者の使う特殊な毒です」


 護衛の騎士の言葉に、アイン王子の眉は吊り上がる。


「解毒法は……」

「分かりません。ですが普通の方法では、おそらく……」


 騎士の返答を聞いて、王子はグッと拳を握りしめた。


「クソ! 僕はレクスに、なんと言って謝れば……」


 王子は悔やむようにきつく目を閉じたが、それは一瞬のこと。

 すぐにカッと目を見開き、強い意志を込めた目でフィンを見た。


「まだだ! あの暗殺者を捕まえれば、解毒薬を持っている可能性がある」

「で、ですが、あの者たちがどこに行ったかは……」


 当然ながら、それはアイン王子にも分かっていた。

 やみくもに捜しても、見つかるはずがない。


 しかし……。



「――手がかりは、ある」



 あの、暗殺者の少年。

 フィンが最後に「ルインおにいちゃん」と呼んだ少年は、何かに必死に抗っていた。


 彼が「何者か」に洗脳されていて、あの奇妙な行動が「何者か」の支配に必死に抗っていた結果だとしたら……。



「――あの少年の言動に、行き先のヒントがある」



 それは荒唐無稽な思いつき。

 けれどアインの〈光の王子〉としての直感は、それが真実だと告げていた。


 ――思い出せ!


 奴が襲ってきてからこれまでの全てを、頭に思い浮かべる。



 ――思い出せ思い出せ思い出せ!



 アイン王子と切り結び、仮面を外そうとしたところでフィンが介入し、圧倒されたところで仮面を外し、最後には苦しんで……。


(ダメ、だ!)


 どれだけ思い出しても、そこに一貫した意味などまるで感じられない。

 少年の行動に意味なんて……。


「……いや、待てよ」


 行動だけに注目するなら、そうだ。


 けれど、奴の言葉。

 言葉にだけ、注意を払って考えてみると……。


「まさかっ!?」


 奴は、「――シッ!」と声をあげて襲いかかってきて、「――がぁ!?」という叫び声を上げて殴られ、「――ッ!?」と驚きをあらわにして、「――ば、ぁ、うぁ」と苦しみだし、最後には「か、は……」と苦し気に呻いてから去っていった。


 全てを抜き出すと、



「シッ!」

「がぁ!?」

「ッ!?」

「ば、ぁ、うぁ」

「か、は……」



 そして、これら全てを、つなげると……。




 シ

 が

 ッ

 ば

 か




 つまり……。



「――これも、エイプリルフールネタだ!!」



ということで、今回のコンセプトは「二重エイプリルフール」!

あえてガバガバなエイプリルフールネタを前座に出して油断させ、次の本命で刺すという作戦でしたがどうだったでしょうか?


正直この話を書くためだけに連載再開したので、一人でも多くの方に楽しんでいただけたらこれに勝る喜びはありません(奉仕の心)


では、ハッピーエイプリルフール!!

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