三遊亭楽天の本棚

落語家・三遊亭楽天がお薦めの一冊をご紹介!

小説

水野良『ロードス島戦記1 誓約の宝冠』

待ちに待った『ロードス島戦記』の12年ぶりの新刊が出た。
『ロードス島戦記1 誓約の宝冠』である。
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パーンやスパークたちが活躍していた時代から100年後のロードス島が舞台。

魔神戦争、英雄戦争、そして邪神戦争を経て諸国の王たちはロードスの騎士パーンの立会いのもと、平和的に会議にて話し合いを行っていた。
時の大賢者ウォートが、諸王たちに祝いの品として持参した9つの魔法の冠「誓約の宝冠」。
この冠を戴いた王は魔力により他国に攻め込む事が出来なくなる。誓約を破ると呪われるのである。
諸王たちはこぞってこの冠を戴いたが…。

…これ以上詳しく書くとネタバレになってしまうので書けないが、100年後でもロードス島はちゃんとロードス島なので、往年のファンにこそ読んで欲しい一冊。
シリーズとして続くので、これからが楽しみである。

神秋昌史(原作:EJIN研究所)『ハコオンナ』

かみさんと2人でハマっているボードゲームがある。
それが『ハコオンナ』(EJIN研究所)である。

ハコオンナと呼ばれる哀れな少女の怨霊が潜む恐怖の館が舞台である。
プレイヤーは、ハコオンナ役のプレイヤー1人と訪問者役のプレイヤーたちとに分かれる。
ハコオンナ役のプレイヤーは、訪問者を1人残らず殺すのが目的で、訪問者役のプレイヤーは恐怖の館から無事生還するのが目的である。
ハコオンナの館から生還するには、三つの方法がある。ハコオンナを討伐するか、ハコオンナを成仏させるか、秘密の脱出口から逃げ出すか。
館のあちこちに物陰がある。ハコオンナはこの物陰に隠れている。彼女は訪問者たちを鬼に見立てた「かくれんぼ」をして遊んでいるのだが、ハコオンナが隠れている物陰を覗き込んでしまったが最後、ハコオンナに殺されてしまうばかりか、ハコオンナの手下・ハコビトに成り果ててしまう…。
物陰にはハコオンナを討伐、成仏させる為に、又、館から脱出する為に必要なアイテムなども隠されている為、覗かない訳にはいかないのだ…。

この恐ろしくも楽しいボードゲームが、小説になった。
それが神秋昌史先生・著『ハコオンナ ─小説版─』(マイクロマガジン社)である。
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ゲームのノベライズというと、中にはタイトルばかりが同じで内容が伴わないものもあるが、この『ハコオンナ ─小説版─』は見事にゲームを小説に落とし込み、かつ小説オリジナルの設定が、物語に深みを与えている。
ゲーム上での設定や処理が小説でどの様に表現されるのか…。ゲームのノベライズはそこが最も楽しみな箇所だが、『ハコオンナ ─小説版─』は実に巧みに再現されており、実際に自分がハコオンナの館に閉じ込められた様な気分になり、読んでる間中、家の中にある物陰が怖く感じた。

これからの蒸し暑い季節、恐ろしくも面白い『ハコオンナ ─小説版─』で涼んでみては如何だろうか?
ゲームを実際に遊んだ事がある人はもちろん、ゲームを遊んだ事が無い人でも十二分に楽しめるホラー小説なので、読後にはゲームでも遊びたくなる事うけあいである。

ハコオンナ ―小説版―
神秋昌史
2018-05-23


ハコオンナ 第四版
EJIN研究所
2017-12-08

蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』シリーズ

蝸牛くも先生の『ゴブリンスレイヤー』が、非常にTRPGっぽくて面白い。
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主人公はゴブリンスレイヤー(小鬼を殺す者)とあだ名される只人(ヒューム)の戦士。
この作品世界のゴブリンは非常に厄介な魔物で、子供くらいの力しか無いのだが、徒党を組んで人々を襲う。作物や家畜を盗んだり、女子供を攫ったりする。攫われた人々の運命は非常に陰惨なもので、文字通り玩具にされた挙句に殺されたりする。
そうしたゴブリンどもを専門に鏖殺して廻る男が、ゴブリンスレイヤー。彼は銀等級という高いレベルの冒険者だが、ゴブリン退治のみを請け負っている。彼の関心事はゴブリンを殺す事、ただそれだけ。
角の折れた古びた鉄兜、鎖帷子を下に着込んだ皮鎧、中途半端な長さの剣と小さな丸盾が彼の装備。魔法の武器などの強い武器や防具はゴブリンに奪われた時の事を考えて使わない。

この作品の特徴として、まず人物に具体的な名前がついていないというのが挙げられると思う。
ゴブリンスレイヤーはあだ名だし、他の登場人物は牛飼娘、女神官、受付嬢、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶…といった塩梅。しかし、読んでいてこれによる不自由は感じない。

また、所々に往年のファンタジー好きやTRPGユーザーがニヤリとする仕掛けが散りばめられており、元ネタがわかる人にとっては思わずニヤリとしてしまう。
例えばレーアという小人の種族が登場するのだが、レーアは圃人とも表記される。圃人をホビトと読むと、ホビットの事かしら?とも読める。
他にも魔法の使用回数が決まっている辺り、『Dungeons & Dragons』を彷彿とさせるし、全体的な世界観は『ソード・ワールドRPG』の様だし。
妖精弓手がゴブリンスレイヤーの鏖殺手段にダメ出しをする辺りは、マンチキンプレイヤーを叱るプレイヤーの様で面白かったり。
こうしたネタが無数に散りばめられているので、往年のファンタジー好きは懐かしさすら感じる事と思う。
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現在は小説が7巻とコミックスが4巻、外伝が小説とコミックスがそれぞれ1巻ずつ出ており、今後はテレビアニメ化とTRPG化されていくという事なので、目が離せない(テレビアニメ化の際にゴブリンの悪虐な振る舞いはどう表現されるのだろうか?という心配はさておき…)。


ゴブリンスレイヤー (GA文庫)
蝸牛 くも
SBクリエイティブ
2016-02-25

水野良『ロードス島戦記』シリーズ

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小学校高学年の頃、テーブルトークRPG(TRPG)に出会った。
T島兄弟という双子の同級生が、『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』(TSR / 新和)で遊んでおり、その仲間に入れてもらったのが、私とTRPGとの出会いであった。
彼らの家には実に様々な本があったが、その中に「戦うパソコンゲームマガジン」『コンプティーク』(角川書店)もあった。当時、コンプティーク誌に連載されていたのが、水野良先生とグループSNEによる『D&D誌上ライブ ロードス島戦記Ⅱ』であった。
私は後に「リプレイ」と呼ばれるこの読み物に非常にハマり、毎号楽しみに読んでいた。
やがて、この『ロードス島戦記』が小説になると知って、私の期待は頂点に達した。

そして、30年前の本日、小説版『ロードス島戦記 〜灰色の魔女〜』(角川文庫)が刊行された。

ロードス島戦記はこの後に、ハミングバードソフトからパソコンゲーム版、そしてOVA版、オリジナルルールのTRPGシステム版、更にはテレビアニメ版と正にメディアミックスの寵児となっていくのだが、それはさて置き。
実にこの小説が面白く、私は更に『ロードス島戦記』のファンになっていった。

ロードスという島がある。アレクラスト大陸の南に浮かぶ辺境の島だ。大陸の人間からはロードスは「呪われた島」と呼ぶものもいる。事実、ロードスには呪われたとしか思えない様な地域がいくつもあった。帰らずの森、風と炎の砂漠、そして怪物の跋扈する暗黒の島マーモ。かつてロードス全土を揺るがす魔神との戦争があった。六英雄と呼ばれる勇者たちの働きにより、魔神は再び自らの住処へと追いやられた。

白竜山脈に程近い辺境の寒村・ザクソンに住むパーンは、聖騎士だった父に憧れる血気盛んな若者である。彼は村のすぐ近くの洞穴に住むゴブリンを退治しようと村人たちに呼び掛けるが、無駄な諍いを嫌う彼らに相手にされず、幼馴染である至高神ファリスの神官・エトと二人でゴブリン退治に出掛ける。
村長から村の若者が二人でゴブリン退治に出掛けた報せを受けた賢者スレインは、目的のある旅に出掛けようとしていた友人のドワーフ・ギムとパーンたちの救出に向かう。
こうして出会った四人はやがて出逢うエルフの娘ディードリット、盗賊ウッドチャックと共に、ロードスの裏で蠢く陰謀に巻き込まれていく…。

TRPGにハマり込んでいた私にとって、『ロードス島戦記』は文字通り、バイブルとなった。
中学に上がってからは、私がTRPGの伝道師となり、クラスメイトに広めていった。その際に、まず『ロードス島戦記』を友人に貸して、その後TRPGも薦めるという感じで、仲間が増えていったからである。

放課後は美術室に集まってよく、TRPGに耽ったものだが、その頃にはアレクラスト大陸や呪われた島を含む世界・フォーセリアを舞台とした『ソード・ワールドRPG』(富士見文庫)、『ロードス島戦記コンパニオン』(角川書店)というTRPGが出ており、よく遊んだものである。

あれから30年の歳月が流れた。

水野良先生、安田均先生、グループSNEの先生方、『ロードス島戦記』30周年、おめでとうございます!



千葉暁『聖刻1092』シリーズ

あれは、中学の頃の事である。
いつもの様に放課後、吉祥寺駅前にあった「まんがの森」という漫画専門の本屋さんの一角に平積みされていた、全体的に茶色い表紙の文庫を手に取ってみた。
千葉暁『聖刻1092 旋風(かぜ)の狩猟機(しゅりょうき)』(朝日ソノラマ文庫)であった。
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表紙や挿絵を描いていた幡池裕行先生のイラストに惹かれ購入。

『聖刻1092』の舞台はア・ハーン大陸。神秘の力「聖刻(ワース)」が眠る大地。
聖刻石を然るべき配置に並べた仮面(ペルソナ)を用いて超自然的な力「練法」を操る「練法師」が歴史の裏に暗躍し、やはり仮面の力で動く巨大な人型のからくり人形「操兵」が軍事力として運用されている世界。

中原にある村カロウナに暮らす修行僧・悪たれフェンは、父の遺した老操兵「ニキ・ヴァシュマール」を駆って外の世界に飛び出す事ばかり夢想する少年である。
人間離れした頑強な肉体を持ち、欲望のままに行動するフェンに、ほのかな想いを寄せるリムリア。二人は喧嘩しながらも仲睦まじく暮らしていた。

しかし、《蒼狼鬼》ガシュガル・メヒム率いるグルーンワルズ傭兵団の操兵隊が現れ、村を蹂躙し、リムリアを拉致する事件が起こる。
フェンは怒りに燃え、ヴァシュマールで迎え撃つが、ガシュガルの操兵の操る《気闘法》の前になす術もなく倒されてしまう。
数日後、回復したフェンは、リムリアの養父でソーブン寺の管長ハラハ・ヴァルマーから、リムリア奪回を託され、ヴァシュマールと共に旅立つ。

フェンは旅を続ける中で、自称“カグラ一の占い師”ジュレ・ミィやダマスタの美しい剣士クリシュナ・ラプトゥ、豪放たる聖騎士ガルン・ストラといった仲間と出逢い、やがて練法師たちの組織《聖華八門》、そして《八の聖刻》に絡んだ巨大な陰謀に巻き込まれて行く。

物語の魅力の大半は操兵にある。
操兵には三種類あり、それぞれ《狩猟機》、《呪操兵》、《従兵機》と呼ばれている。
狩猟機は騎士が乗る操兵で、鎧を身に纏った武者の様な姿をしている。武器戦闘が主な役割で、国家においては主な軍事力として扱われている(個人で所有出来るほど安価では無い)。
呪操兵は練法師が乗る操兵で、奇妙な姿(腕が複数ついてたり、左右非対称だったり)をしている。練法を使う為の仕掛けが施されている。格闘には不向きな機体がほとんどだが、中には例外的に格闘を得意とするものもある。
従兵機は下位機種で、首が無く、胸にあたる部分に仮面がついている無骨なデザインのものが多い。兵士用の機体で複数人が乗れるものも多い。

操兵は操縦者である操手と仮面の相性が合わないと、動かせない。
その為、あたかも操手が操兵に対して、生き物の様に接するような描写も多く見られる。
これは聖刻世界を舞台としたTRPG『WARES BLADE』においてもルール化されており、ダイスの目が悪ければうんともすんとも言わなかったり、転倒してしまう事もある。
操兵の操縦は難しい。

千葉先生の操兵の描写は、躍動感すら感じられる。
質感や動きなどが緻密に描かれ、実際に操兵があったらこんな感じなんだろうな、というイメージがしやすい。
そして、壮大で豪快な作風で読んでてワクワクしてくる。
いわゆる「血沸き肉躍る」冒険活劇という感じなのだ。
男の子の世界である。
文庫版は絶版、新書版も10年くらい前に出たが、近頃本屋で見かけなくなった。

この度「聖刻リブート」として新田祐助『聖刻-BEYOND-』(朝日文庫)として蘇る。
非常に楽しみであるが、是非とも以前の作品も復刊して戴きたい今日この頃である。




聖刻-BEYOND- (朝日文庫)
新田祐助
朝日新聞出版
2017-12-07



※以前書いた【書籍】聖刻1092に加筆修正したものです。



三遊亭楽天オフィシャルサイトも宜しくお願い致します。
http://www.rakuten3ut.com

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