寿命に従ってせっかく静かに亡くなっていたKさんの口に、そんな器具を突っ込み、のどに太いチューブを差し込んで機械で息をさせ、火傷を起こし、ときには皮膚に焼け跡をつける電気ショックを与え、肋骨や胸骨がバキバキ折れる心臓マッサージをして、心臓を無理やり動かしてまで、家族が死に目に会えるようにすることが、果たして人の道に沿ったものでしょうか。
非道な蘇生処置の理由
Kさんに非道な蘇生処置をした当直医は、(1)まだ経験の浅い若い医者か、(2)医療に前向きな信念しか持たない医者か、あるいは、(3)あとで遺族から非難されることを恐れる保身の医者のいずれかでしょう。
(1)の医者は未熟なので、心肺停止という状況で反射的に(つまり何も考えず)教えられた通りの処置を行ったケースで、これは経験を積めばそんな無駄で残酷なことはしなくなる可能性があります。
(2)の医者は、医療の善なる面のみに目を向け、医療の弊害や矛盾、あるいは限界から目を背ける医者です。こういう医者はイケイケですから、むずかしい状況の患者さんを積極的な治療で救うこともありますが、無理な治療で患者さんを苦しめたり、逆に命を縮めたりする危険性もあります。まじめで純粋、かつ努力家である反面、己の非はぜったいに認めないタイプですが、医師としては優秀な者に多いのが困りものです。
(3)の医者は、もっとも厄介なケースで、患者さんのためにならないことを知りつつ、言わばアリバイ作りのために蘇生処置を行う医者です。なぜ、そんなことをするのかというと、何もしないで静かに看取ると、遺族のなかには、「あの病院は何もしてくれなかった」とか、「最後は医者に見捨てられた」などと、よからぬを立てる人がいるからです。
看護師が巡回したら、心肺停止になっていましたなどと、ほんとうのことを告げたら、遺族によっては、「気づいたら死んでいたというのか。病院はいったい何をやっていたんだ」と、激昂する人も出かねません。