世の中は思い通りにならないけど、願いは叶う可能性がある。そんな幻想にリアリティを感じるようになったのはいつの頃からでしょうか? なぜならば俺もしくは俺たちはトクベツだから! 市井に紛れている自分が実はトクベツな人間なんだ! お前たち凡俗とは違うけど今日のところは大目に見てやってんだ、そこんとこ忘れて勘違いすんじゃねえぞ! と心の中で吠える狐狼インマイマインド!
それもこれもやはり、私が思春期に出会った富野喜幸※さんのせいです。
※『ガンダム』シリーズの総監督。現・富野由悠季氏
「つながりの悪さなんて気にしないぜヒャッハー!」多感な時期の樋口真嗣の感性を形作った、富野喜幸(現・由悠季)監督の凄まじい仕事量とスピード【『機動戦士ガンダム』劇場版3部作編】
『シン・ウルトラマン』が絶賛配信中の樋口真嗣監督。1982年、17歳の頃に見て“爪痕”ともいうべき強烈な印象を得た、原点ともいうべきその映画たちについて、熱情を燃やしながら語るシリーズ連載。第4回は前回の続きで『ガンダム』の劇場版を語る。作る側に回って初めてわかった、富野監督の凄さとは。
私を壊した映画たち 第4回
1本の映画のなかで唐突に絵が変わる
さすがに劇場版『ガンダム』1作目ではそれほど多くないのですが、さまざまな理由や事情が絡み合った結果、新規作画されたカットが挿入されることとなります。 当時、総監督の富野氏はフィルムで編集することを許されず(デジタル動画ファイルでもなくビデオではなくフィルムベースで編集をするため、作業用のプリントをネガから焼くだけでもとんでもない金額がかかるから)、なんと絵コンテを切り貼りして、コンテ上で編集をしたといいます。当時のサントラのライナーノーツに、監督が“切り貼りアニメ”と卑下したくだりを含む寄稿文がありましたが、当時は何のことだかわからず、同じような仕事をして初めてその苦渋に気づいた次第であります。
そうやって紙の上のコンテだけで1本の映画を再構成していく上で、足りない場面、整合性を取るための場面が新たに作られるのですが、この新作カットがいい言い方をすればクオリティが異様に高く、悪い言い方をすればテレビ版をそのまま使っている前後のカットとのつながりに違和感がありました。 病に伏し、テレビシリーズ後半に離脱したキャラクターデザイナーの安彦良和さんが復帰して、本来の設定とかけ離れた顔の作画(過酷なスケジュールのテレビシリーズでは、すべて修正しきれないことがままあったのです)を片っ端から直したからだけでなく、彩色、撮影という画のルック、トーンもめちゃくちゃ精細になっていたのです。
特に、ヘルメットの防眩シールドを通したモビルスーツのパイロットたちの顔色が、テレビシリーズでは青っぽいモノトーンで平坦に塗られていたのに対し、劇場版ではワントーン落ちた色合いのなかに微妙な濃淡をつけてありました。おそらくテレビシリーズでは使えない、特色の使用によって実現したイメージだったのです。
左がテレビ版、右が劇場版(『Ⅲ』)のアムロ。シールド越し部分などカラー表現の違いが見える
…長期にわたる制作期間とそれに見合わない予算で作らされていた当時のテレビアニメでは、セル画を彩色するための絵の具にも制約があったと聞きます。なんせ1枚1枚パートタイマーに塗ってもらうためには、各家庭にそのためのセル絵の具一式を置いてもらわねばならないのです。あの時代の限られた色を使ってあの崇高なイメージを定着させるのはまさに戦いであったのです。
1本の映画のなかで、唐突に画面全体のトーンが変わり、わずか1年間を経ただけのテレビ版と劇場版の画質、というよりも、絵作りのフィロソフィーが格段に進化している。たかだかロボットアニメでも、ここまでリアルな絵で勝負できる! 俺たちだって本気を出せばこのくらいやれるぜ!というテレビアニメ専門スタジオの意地が、数少ない新作カットからあふれていました。均一な品質が低コストで実現できるデジタルの着彩&撮影が当たり前の世の中で育ったなら、その矜持も理解できないかもしれませんが、当時の観客としては「つながらない!」とダメ出しの気持ちより、「うおー新作やべえー!」という高揚感が勝っていました。
私を壊した映画たち
「これが映画だ、ということに電撃に近いショックを受け、打ちのめされた」…大人が嗜む苦み走ったコーヒーやシガーのような滋味を初めて知った樋口真嗣を、同時に震撼させた劇場での光景【『ブレードランナー』】
私を壊した映画たち 第5回
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私を壊した映画たち 第2回
「アメリカのような資金力はなくとも、ドイツではアイデアひとつですごい映画が生まれている!」1982年、17歳の樋口真嗣に灼きついた『U・ボート』の疾走感
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