今でこそ知らぬものはいないあの作品が、実は日陰に咲いた花だった…って事例は、幼いころからそのへんに転がってた。視聴率が振るわないのは内容に問題があるからだと、スポンサーのオモチャ会社やテレビ局が介入し、物語の改変や放送期間の短縮が横行、ヘタすりゃ打ち切りにだってなる。“会社にいる大人たち”に番組をズタズタにされる、理不尽な世の中の仕組みに、子供ながら悶々としたものだ。
あとになって作品の評価が上がり、理解を示さなかった世間が追いついて今さらのように騒ぎ出す。そんなときに付和雷同する大衆を冷ややかな視線で見下すようになった。連中があのとき時面白がっていればという、忸怩たる感情が、心の最底辺で沈殿し腐乱し異臭を放っていたのだ。
「俺たちは誰よりも先にいいものを見出してきた。センスとんがってるんじゃねえの?」と慢心し、消費しかできやしないのに、その消費を自己表現と勘違いする。ただ見ているだけのくせして、俺たちが素晴らしい作品を世に送り出したんだという歪んだ選民意識を育て、根拠のない自信とそれが周囲から認められぬがゆえに自我が肥大化…すなわち承認欲求の塊となっていたわけですよ、14歳の春に!
そんなとき、自我増幅装置、すなわち巨大ロボットに乗って人類同士の戦争に飛びこむような番組が突然始まったんです。しかも主人公は自分とタメ歳、技術系の親父の仕事の都合で荒涼とした開拓地で周囲から孤立して過ごしているという境遇も一緒。あのとき俺は確信していたんだよ、戦場で取り残され泣いている赤子を見て涙を流しながら叫ぶ菊千代※の如く得心して。
※黒澤明監督『七人の侍』で、三船敏郎が演じた主人公
「あいつは俺だ! 今やっている番組の主人公、アムロ・レイ14歳は、俺そのものなんだよ!」
「あいつは俺だ! アムロ・レイ14歳は、俺そのものなんだよ!」中2の樋口真嗣の選民意識と承認欲求を満たし、創作の道へと(多分)進ませた、アニメ作品の金字塔!【『機動戦士ガンダム』テレビ編】
『シン・ウルトラマン』が絶賛配信中の樋口真嗣監督。1982年、17歳の頃に見て“爪痕”ともいうべき強烈な印象を得た、原点ともいうべきその映画たちについて、熱情を燃やしながら語るシリーズ連載。第3回は3年さかのぼって14歳の春、その人生を決定づけた『ガンダム』登場。
私を壊した映画たち 第3回
打ち切りが決まるも、物語は盛り上がる
1979年春から放送が始まった『機動戦士ガンダム』は、クラスの片隅で小さくなっている俺たち以外は誰も見てなかった。そりゃそうだ。土曜日の夕方5時半、普通は部活だし、部活に入っていないやつもゲームセンターでインベーダーとかギャラクシアンとかやってたもん。仮にアニメに興味のある奴らは、松本零士先生のまつげと髪の毛が超人的に長い美女や、王道のロボットアニメに出てくる貴公子然とした敵キャラクターに夢中だった。
もはや『ガンダム』を流行らせてクラス内での待遇逆転を図る気にもならず、誰にも理解されない素晴らしいものを誰にも気づかれずに手に入れている優越感にひたっていたけど、やはり破滅の日は訪れる。視聴率というよりもスポンサーが販売しているオモチャの売り上げが振るわないために、番組の打ち切りが決まった。それと前後して、クオリティを担保していたキャラクターデザイナーが病に倒れ、絵が信じられないような乱れかたをしていく…。スポンサーやテレビ局、広告代理店の欲望や保身を欺いて、我を通し走り抜いてきた制作者たちがどんどん疲弊していくのである。
が、彼らの意図とはかけ離れた内容になるかと思えば、元から構築してある物語の盛り上がりは決してスポイルされなかった。我々もそのクオリティのズレは“脳内補完”という、選ばれし者にのみ宿る超能力を駆使して、制作者たちの目指したであろう真の姿をそれぞれの心の中で結像させていた。
第32話よりホワイトベース
制作者たちは作品を、映像以外の要素、とりわけセリフ、音楽、効果音のサウンド面のみで相当の完成度に持ち込んでいて、当時の追体験装置として活躍したカセットテープに音声だけ録音して何度も聴いて反芻するだけで充分に楽しめただけでなく、追体験を重ねるごとに欠落している映像に勝手な補正がかかっていくのです。この時期の鍛錬が、のちに作る側に回ってずいぶん役に立っているような気がしますが、多分思い込みだけでしょう。
ご多分に洩れず、『ガンダム』は本放送終了後もなお人気が衰えることを知らず、雑誌等のアンケートでも高いランクに入り、そうすると今度はそこにゼニの匂いビジネスチャンスを見出した大人たちが掌を返します。あれだけ制作者たちの…いや、楽しみにしてきた俺たちの邪魔をしてきたのに!
レコード会社は劇中で使用した音楽をくまなく網羅したレコードを何枚も出して、オーケストラで新規録音した交響組曲をも発売、オモチャ会社が設定通りのフォルムをした精緻な模型玩具のラインナップを発表し、映画会社は劇場版3部作をぶち上げます。
私を壊した映画たち
「これが映画だ、ということに電撃に近いショックを受け、打ちのめされた」…大人が嗜む苦み走ったコーヒーやシガーのような滋味を初めて知った樋口真嗣を、同時に震撼させた劇場での光景【『ブレードランナー』】
私を壊した映画たち 第5回
「つながりの悪さなんて気にしないぜヒャッハー!」多感な時期の樋口真嗣の感性を形作った、富野喜幸(現・由悠季)監督の凄まじい仕事量とスピード【『機動戦士ガンダム』劇場版3部作編】
私を壊した映画たち 第4回
「映画でここまで人間の葛藤を描けるのか!」高2の樋口真嗣を打ちのめし、池袋の街をさまよわせた『未知への飛行』。それを日本に持ち込んだ『シベ超』のマイク水野とは?
私を壊した映画たち 第2回
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私を壊した映画たち 第1回
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