(続)とある最底辺歯科医の戯れ言集

日本語が不自由な歯科医師のろくでもないお話 

COVID-19で死亡した人から大量の歯周病菌?

 

新年1発目の投稿

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

さて、かしこまった文章はここまでとして、平常運転でいきたい。

昨年の大晦日に出会ったプレジデントの記事について検討してみたい。

 

「ちゃんと歯を磨いてない人」は新型コロナウイルスにかかりやすい

というタイトルの記事である。

 

さて、私のプレジデントに対する印象はもの凄く悪い。

だってこんな表紙で歯科特集くむんだから

減菌ハミガキの手順、本書を実行すれば、感染症リスク89.8%減とか意味がわからない。

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売れりゃなんでもいい、という姿勢が明確である意味清々しい。

そういう雑誌であるプレジデントの口腔ケアに関する記事を軽く読み始めたところ、違和感しか感じなかったので、少し調べてみることとした。

 

COVID-19で死亡した人から大量の歯周病菌?

のっけから衝撃的な内容が書かれている。 

今、あらためて話題になっているのが7月に英国の医学雑誌「ランセット」オンラインで公開されたリポートだ。リポートのタイトルは「The role of oral bacteria in COVID-19」(COVID-19での口腔内細菌の役割)。英国リーズ大学歯学部などの研究チームの報告だ。

新型コロナウイルス感染症の死亡や重症化リスクを高める要因として、これまで言われていた心臓病、高血圧、糖尿病などだけではなく、口腔内細菌(歯周病菌など)も関係しているというのだ。

研究チームが新型コロナウイルス感染症で死亡した人を調べると、歯周病菌が大量に見つかったという。口腔内の衛生状態が悪い、つまり口の中が汚れていて歯周病などがある人は、感染した場合に重症化リスクが高まる可能性があることがわかった。

 死亡した人を調べると歯周病菌が大量に見つかったという。

死亡した人のどこの部分からどう定量したというのだろうか?

また、一体どれぐらいのオーダーで見つかったというのか

Lancetだし、もし本当なら凄いことなのかもしれないので原文を調査するためにアマゾンの奥地に旅立つこととした(pubmed)。

 

以下の論文であるが、純粋な原著ではなく、レターというかそんな感じだった。

The role of oral bacteria in COVID-19

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この文章をどう読んでも、死亡した人から歯周病菌が多量に検出されたという文章が見つからなかった。

可能性があるのはこの部分になる。

Metagenomic analyses of patients infected with severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 have frequently reported high reads of cariogenic and periodontopathic bacteria,

SARS-CoV2に罹患した患者を対象としたメタゲノム解析では、う蝕原生細菌と歯周病原性細菌が高頻度で検出されている事が報告されている。

プレジデントの記事と全く内容が違うわけだが、ここ一応引用文献ついてるので、それも調べてみた。

 

Metagenome of SARS-Cov2 patients in Shenzhen with travel to Wuhan shows a wide range of species - Lautropia, Cutibacterium, Haemophilus being most abundant - and Campylobacter explaining diarrhea

https://osf.io/jegwq

 

プレプリントで正式に査読を受けていない。

題名的に口腔内細菌にはあまりフォーカスされていない気がする。武漢に旅行してCOVID-19に感染、肺炎を発症した5人に関してメタゲノム解析を行ったというもののようだ。

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確かにこのトップ30の細菌をみると、Streptococci、prevotella、Fusobacteriumなどが検出されているが、正直5名の研究では・・・という気がする。メタゲノム解析に詳しい先生、是非ご教授頂きたい。

 

どちらにしてもこの2つの論文から

 研究チームが新型コロナウイルス感染症で死亡した人を調べると、歯周病菌が大量に見つかったという。

この内容は全く分からなかった。

この記事を書いたライターが誤訳したのではないかと思うが、タイトルにもしてセンセーショナルに扱っている部分の誤訳は致命的な気がする。

 

スペイン風邪と口腔内の関連性を示唆した報告がある?

のっけから煽ってるタイトルと論文内容が乖離していてわけがわからないが、次の文章にいってみた。

 

歯周病研究の第一人者で日本歯周病学会元理事長の伊藤公一・日本大学名誉教授によれば、「歯周病がウイルスや細菌の感染リスクを高めることは、歯周病研究者や臨床医にとって、"常識"と言えます。多くの論文もあり、古くは100年前のスペイン風邪(インフルエンザ)でも、むし歯や歯周病のある患者はインフルエンザに感染しやすいという報告があるくらいです」という。

 

100年前のスペイン風邪(インフルエンザ)でも、むし歯や歯周病のある患者はインフルエンザに感染しやすいという報告がある

 

まじですか!!!

早速また我々はamazonの奥地に旅立つこととした(pubmed)

pubmedで

spanish fluで検索すると1812件ヒットした。

spanish flu + periodontitis 0件

spanish flu + caries 0件

spanish flu + oral 13件 それっぽい論文なし

大体、虫歯はともかくとしてペリオは100年前に学問として存在していなかったのではないか・・・という疑問がある。

 

 

もしかしてスペイン風邪のH1N1型という意味なのか?

 

 

それでも「100年前のスペイン風邪(インフルエンザ)でも、むし歯や歯周病のある患者はインフルエンザに感染しやすいという報告」という文章は100年前からの常識みたいに読めるのだが、煽りすぎではないだろうか。

 

追記(1/6)

神奈川県歯科医師会のサイトに以下の文章を発見したが、論文は発見できていない。

しかし、この研究発表を現代のエビデンスレベルと同等に扱う事はできないと考えている。

実は、口腔ケアとインフルエンザの感染の関係については、スペイン風邪のパンデミックが発生した当時、ウェストン・A・プライス (Weston Andrew Valleau Price)が研究発表しています。

プライスは、米国歯科医師会研究所の初代所長や米国歯科医師会の会長を務めた歯科医師、医学者です。
プライスは、スペイン風邪に罹患した患者をむし歯などの歯科感染症の有無によって2群に分け、重症患者の割合や罹患率を比較したところ、歯科感染症がある群では重症者が72%であったのに対し、歯科感染症がない群の罹患率は32%と低かったのです。

 

コロナ禍の今、歯科医としてお伝えしたいこと ~口腔ケアとインフルエンザ~|公益社団法人神奈川県歯科医師会

 

こどもが新型コロナに感染しにくいのは「歯周病」がないから?

次もまた衝撃的な内容が続く

伊藤名誉教授によると、主な原因は歯周病菌が出す毒素や酵素、さらに歯周病による歯ぐきの炎症が関係しているという「歯周病菌はプロテアーゼという酵素を出しますが、これが粘膜を傷つけてウイルスを侵入しやすくしています。また、歯周病で歯ぐきに慢性的な炎症が起きていると炎症物質()が産生され、ウイルスによる感染を促進するのです」(伊藤名誉教授)

子どもが新型コロナウイルスに感染しにくく軽症や無症状ですむのも、子どもには歯周病がほとんどないことが理由のひとつだという。

これだと歯周病を治せばコロナに罹患しないという風な文章に読めるし、そういう意図ではないかと思う。子供でも歯を磨かなければ歯肉炎になるが、あれは歯周病原因菌以外の細菌によるものだったのだろうか・・・。

どちらかというとDMや肥満、喫煙の既往など、基礎疾患や要素がある人が重症化しやすいという話の流れが主流であり、小児は歯周病が殆ど無いから感染しにくい、重症化しやすいというなら、その論文をまず提示するべきだろう。一番最初に論文を提示していたわけだから、ここで論文が提示されていないのは整合性がない。

 

正しいブラッシングや舌磨きでインフルエンザ発症率が10分の1に

現在、歯科医師会がより所としている論文の内容も引用されている。

他にも国内で同様の臨床研究がたくさんあり、たとえば、正しいブラッシングや舌磨きを行うと、インフルエンザ発症率が10分の1に減った例や、歯科衛生士が週1回、口腔ケアや歯のクリーニングを実施したところ、インフルエンザの発症率が87%も減少し、風邪の発症率も24%減少した例などが挙げられる。

 

この論文は

Professional oral care reduces influenza infection in elderly

であり、歯科医師会がウイルス感染を口腔ケアで予防できる、エビデンスがある!というそのエビデンスの本丸みたいになってしまっている論文である。

 

日本語の総説もあるので是非読んで頂きたい。

 

口腔ケアによる誤嚥性肺炎予防

https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/182/1/105_129.pdf

 

総説を読むと、まるで口腔ケアが魔法の様に効果がある様に感じたかもしれない。

しかし、ベースとなっている研究は、要介護高齢者に対して週1回専門的口腔ケアを行う事でインフルエンザの発症が抑制されたというものであり、健常な人の通常の歯磨きは想定されていない。

また、本当に口腔ケアが効いたのか、という事に関する交絡の調整がしっかり出来ていない可能性がある。例えば年齢、性別、基礎疾患の有無、などである。また母体数や施設、地域の偏りなども考慮しなければならない。

この論文が発表された当時と今ではエビデンスレベルの求められ方も変わっている。現在ではもっと厳密で大規模な研究デザインが求められるのではないかと思う。

 

ちなみに上記論文だと風邪に関しては逆に増えているのだが、プレジデントの記事だと風邪も減っていることになっている。

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プレジデントはこの論文と違う論文を引用したのだろうか。

 

舌を磨けばコロナの感染予防になる?

もう疲れてきたのだが、最後の最後までぶっ飛んだ文章が続く。

また、口腔ケアで舌の汚れを落とせば、新型コロナウイルスの感染予防になるということもわかってきた。新型コロナウイルスは細胞表面のタンパク質ACE受容体にくっついて細胞に侵入する。このACE受容体は口腔粘膜にも存在しているが、特に舌の表面に多いという。

唾液の研究で知られる槻木恵一・神奈川歯科大学副学長は「歯と口の健康シンポジウム2020」(日本歯科医師会主催)で、舌に付く細菌の塊である舌苔には新型コロナウイルスが感染しやすくなる酵素が大量に存在すると話している。

口の中が汚れていて舌苔が多い人は新型コロナウイルスに感染しやすいということになる。逆に、口腔ケアで舌を磨いて舌苔を落とせばこれもまた感染予防につながるわけだ。

 確かに舌表面にはACE2受容体がある程度多く存在しており、感染経路の1つとして考えられている。

しかし、ACE2受容体は別に舌だけに存在しているわけではない。

High expression of ACE2 receptor of 2019-nCoV on the epithelial cells of oral mucosa

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肺にまで届けば肺の方がACE2受容体が多いので、舌だけガードすることに意味があるとは私は思えない。

関与が全然ないとはいわないが、まだエビデンスが不明瞭なところで不安を煽り扇動するのは歯科医師、歯科医師会として正しい事だろうか。

 

終わりに

もっと詳細に検討する予定だったのだが、あまりにも凄い文章のオンパレードで浅い検討で終わってしまった。申し訳ない所である。

自分の専門外の所に関しては是非得意とする先生がいらっしゃるなら教えて頂きたい。

お正月休みを無駄な感じで使ってしまった感が半端ないよ!!

 

プレジデントシリーズ2発目

spee.hatenablog.com