第15話 彼女のお仕事

「……やっぱり今日もおっきくなってるね♡」


 早朝の微睡みの中で、ぼんやりと兎姫の声が聞こえる。


「う、うーん……?」


 なにか、下半身の方でゴソゴソと動いているような……。

 

 そう思った次の瞬間、股間のあたりが一気に涼しくなった。


「わぁぁ……♡」


 今度は感嘆を漏らすような声。


「すんすん♡ 〜〜っ♡♡♡」


 続いて、可愛らしく鼻を鳴らす音。


「とき……?」

 

 瞼を開くと、隣に恋人の姿はなく、掛けていた布団がもっこりと膨れ上がっていた。


「まさか……」


 布団の中を覗くと、案の定そこには銀色の髪を垂らした恋人がいて、俺のパンツを脱がしていた。

 

「…………あの、兎姫さん?」

「おはよう、お兄ちゃん」

「お、おう。おはよう」


 兎姫は股間から視線を外して、上目遣いにこちらを見上げる。

 

「で、何してんの?」

「朝のご奉仕したくて」

「いや、だから朝のそれはね? 男なら仕方ないことと言いますか、生理現象なので……」


 何気ない朝にテント張ってても触れないでいただきたい事象なのだよ……。


「それでも、だよ」

「うっ……!?」


 兎姫は小さな手のひらで股間を撫でる。


「彼氏のがおっきくなってたら、それを発散させてあげるのは彼女にとって最重要のお仕事だと思うな」

「あ、おい……兎姫……っ!?」


 刺激を与えられて背筋を電流が走る。


 やばい、これ。朝からこんな……。


「すぐにすっきりさせてあげるね、お兄ちゃん」

 

 だから、と色っぽく囁く。


「兎姫に濃厚な朝ごはん、ちょーだい♡」


「……っ!?!?!?」


 そうして、朝から肉食な恋人の餌食になった。



 

 その後は朝ご飯を食べて登校準備をした。

 教科書の入ったバッグとお弁当を持って玄関へ向かう。


 ちなみに、朝も昼も相変わらずおにぎりがメインだ。

 具材で違いはでるし、しばらくはまあいいだろう。何より俺は恋人の手作りというだけで幸せだ。

 新メニュー挑戦は時間のある夜に、ということで。


 兎姫は玄関で靴を履いて立ち上がる。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「うん?」

「いってきます」


 わざとらしくピシッと背筋を伸ばす兎姫。


「ああ、いってらっしゃい」

 

 そう口にすると、なんだか心が温かくなったような気がした。

 同時に、小っ恥ずかしいようなむず痒さも湧き上がる。


 それから兎姫はニコッと笑って、両手を広げる。


「いってきますの、ちゅー」


 そしてちょんと背伸びしながら俺の唇にキスをした。


「お兄ちゃん、次次。お兄ちゃんの番」

「……?」


 キスを終えると、兎姫は俺に何かを促す。その何かにはすぐ得心がいって、俺は頷いた。


「兎姫、いってきます」

「うん。いってらっしゃいの、ちゅー」

 

 再びのキス。

 ああ、甘い。甘ったるすぎて胸焼けしそうな恋人の朝。

 だけど、何度でも繰り返したいと願う。


「もうちょっと、ちゅー」


 今度はすぐに離れず、名残惜しむかのように何度もついばむんでくる。

 背中に回した両手の抱きしめる力が強くなっていく。抱きついたまま、兎姫は離れない。


「兎姫?」

「2日間ずっと一緒だったから、お兄ちゃんと離れるの、さみしいよ……」

「……そうだな。俺も寂しいよ」


 それほどに濃い2日間だった。

 ずっと一緒で、楽しくて、心地よくて、それでいて刺激的で、淫らこともたくさんしたけれど……幸せだった。


「一緒の学校ならよかったのに」

「そうだな」

「たとえばお兄ちゃんと同い年のクラスメイトでね、もちろんお隣の席でね、授業中に隠れてお話して、みんなにバレないようにイチャイチャして……ちゅーして……そうできたらきっと、すっごく楽しかったのに」


 兎姫はもしもの話に思いを馳せる。


 俺は高校へ。兎姫は中学へ。

 どうしても通う場所が異なるのだから、部屋を出てしばらく歩いたら別れることになる。


 来年になれば、兎姫の進路によっては1年間、同じ高校に通えるかもしれないんだけどな。


 2歳差というのはなんとも、もどかしい。

 

「学校が終わるまでの辛抱だ。がんばろう」

「うん……がんばる」

  

 兎姫もここでこれ以上駄々をこねてしまうほど子供じゃない。


 ゆっくりと頷いて、それから微笑んでくれた。


「放課後になったら、すぐにね♡」


 そう言って、俺たちはそれぞれの学舎へと向かうために別れた。

 

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