この素晴らしい世界に呪術を!   作:不落八十八

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沢山の感想ありがとうございます!
誤字修正&ここすきもありがとう!
仕事が物理的にきつくて死んでてごめんね!


35話

 キールのダンジョンでのバニルとの騒動がつい先日の事となるくらいに、俺たちの日常は実に平穏だった。

 土木工事のアルバイトでお世話になった親方に頼み込んで、DIYスキルもとい工作スキルを取得した俺は冬に入ってからずっと欲しかったものを作るべく奮闘し、師匠の手も借りて完成させたこたつで丸くなっていた。

 木製の四つ脚と言うシンプルスタイルを採用。

 掛け布団を挟み込むための平たい板には丁寧にやすり掛けして角と表面を滑らかに。

 師匠が手慰みに錬金術で作ったと言う魔力を込めると温まる火の魔石を魔導回路に組み込み。

 全長が全員が入れるくらいの大きさとなったので専用のモフモフとした絨毯を敷いて完成。

 いやぁ、自分の天才さに惚れ惚れするぜ。

 こたつをリビングに出してからと言うものの、懐かしさと心地良さから師匠が垂れ師匠となり、その隣で甲斐甲斐しくお世話する何処か人妻っぽい色気の出て来たダクネスもといララ、そんなララを見習いながら幼馴染視点でサポートをするめぐみん、それを羨ましそうに対面する位置に座ったゆんゆんが最近ハマっているらしい苔をお世話し、やけに高そうな一升瓶を抱えながら俺の隣でアクアが爆睡する、そんな光景が続いていた。

 ゆんゆんの隣にたまにアンナがこっそりとメイド姿で温まっているが、幽霊に温度は感知できるのだろうか。

 

「はふぅ……、それにしてもカズマは良い物を作りましたね。彼方の世界のこたつ、でしたか。最高です。我が家にも一つ欲しいですね」

「へへっ、そうだろそうだろ。やっぱり冬にはこたつが無いとな。後は、みかんと……アイスか?」

「適温に暖かいからこそ冷えるアイスを冬場に、クーラーで冷えた部屋でラーメンを食べる夏場みたいなものだな。残念ながらみかんは無いが、アイスなら牛乳、卵、生クリーム、砂糖で作ったシンプルなものなら冷凍庫の方にあるぞ。パンケーキに合わせようと思って作り置きしてある」

「流石ですね師匠。バニルからレシピ本貰ってから増々磨きが掛かってますよ」

「ふっ、自他ともに認めるお得意様になってしまった訳だな。……見通す力便利過ぎんだよなぁ」

「ですよねー」

 

 あれからバニルは宣言通りウィズのところでアルバイトしているようだった。

 そして、師匠はちょくちょくバニルに質問しに出掛ける事が増えた。

 バニルが見通したように師匠はお得意様となり、ウィズ魔法雑貨店の運営をコンサルティングする事を代価に色々と見通して貰っているらしかった。

 その中でも一番驚いたのは庭に作った訓練スペースで、前に師匠に倒された筈のベルディアと実戦染みた模擬戦をしていた事だろうか。

 師匠曰く、バニルの助言によりベルディアのソウルを遺灰に混ぜる事で触媒として完成し、魔力の続く限り召喚び出せるようになったとの事だった。

 漆黒の鎧であった第一印象から離れるべく正統な意匠が施された白い騎士鎧になったベルディアは、屋敷の正門を守る警備員として働いている。

 師匠都合で召喚び出している事もありお小遣いを渡す予定だったらしいが、ベルディアの性格が割と生真面目らしく生前の騎士団長としての誇りからか労働による金銭の供給を求めた事でそうなったらしい。

 業務内容としては完全時給制でしたい時に働いて休む時は勝手に休めと言う斬新な形式で、ベルディアも御恩と奉公が確りしている師匠が上司であるため週休二日ぐらいの頻度で真面目に働いている。

 最初は魔王軍幹部だったし逃げ出して魔王軍に与するんじゃないかと疑われていたものの、分かりやすく言えばFateで言うマスターとサーヴァントの関係にあるらしく、令呪は無いが命令権を持っているので従わせる事ができるようだった。

 ダメ元でベルディアに訓練を申し出てみれば快諾され、理由を聞いてみれば魔王軍に与する理由が今は無いかららしい。

 ベルディア曰く、魔王様に拾って貰った恩義、義理があったから今まで幹部として働いていたのであって人類が憎くて魔王軍に居た訳じゃないとの事だった。

 自分を謀殺した奴らは国ごと腐ってたので復活後に直ぐに滅ぼした事もあって人類に恨みは無いらしい。

 まぁ、目下の悩みはアンデッドであるデュラハンたるベルディアとして召喚されている訳では無く、霊体として生前の姿形そのままで生身があるため娼館に通いたいがちょっと時給的に厳しい、だなんて生々しい愚痴を零すくらいだから大丈夫だろう。

 こっそりとサキュバス店を教えてあげたらピシガシグッグッと男の友情が芽生えた。

 

「(持って来たよー)」

「お、アンナありがと。こたつから出れないから助かる」

 

 ふわふわとキッチンの方から飛んできたアンナが深皿に入ったアイスを持って来てくれた。

 相変わらず言葉は分からないが、口パクと何となくのフィーリングで言いたい事が最近分かるようになってきた。

 ポルターガイストでふわふわと浮かんできた人数分の小鉢とスプーンを受け取り、労いも兼ねてアンナの分を先に取って手渡してやった。

 にっこにこの笑顔でゆんゆんの隣に座ったアンナが美味しそうに食べ始めるのを見て雰囲気が明るくなる。

 アイスの波動でも感じ取ったのかアクアが寝ぼけ眼で上半身を起こし、口を開いていた。

 食べさせろってかこの駄女神。人数分にアイスを取り分けてからスプーン山盛りにしたそれを口に入れてやれば、おいひーとニコニコしていた表情が直ぐに急転直下して頭痛に苛まれていた。

 うぼぁーとこめかみを押さえるアクアの姿を見てくつくつと悪戯が成功した俺は笑いを堪えた。

 

「……これで付き合ってないんですもんねぇ」

「ふふっ、良いじゃないか。所謂秒読みと言う奴だろう」

 

 だなんて茶化しが飛んできたので華麗にスルーしておく。

 アクアを恋人に? ははっ、ナイスジョーク。……と、鼻で笑えたら良かったんだがなぁ。

 最近こいつ俺への物理的な距離が近いんだよなぁ。

 何をしても後ろについてくるし、逆に出掛けようとすると付いて来ないのと言いたげにするし。

 自由気ままでありながら、俺と言う飼い主になついている家猫みたいな奴なので俺もついつい構ってしまう。

 ……まぁ、こいつなら良いかもな。俺を裏切ろうとはしないだろうし、他の奴に靡く感じもしないし、それだけの信頼関係を築き上げて来た自信がこいつに限ってはちゃんとある。

 それに……、あのミツルギとやらにこいつを取られるのは我慢ならないし。

 そんな事を考えていたのがバレたのだろうか、対面する女性陣からの視線がニヨニヨとしている。

 バツが悪くなり視線を反らすと能天気で何も分かって無さそうなアクアが可愛く小首を傾げていた。

 過去一の深い溜息を吐き出した俺は自分のアイスを食べ始めた。

 

「なんかどっと疲れたな……。そう言えば、この世界って温泉あるんだっけ?」

「あるぞ。此処から近いのはアルカンレティアだな」

「アルカンレティア……。確か、これを崇めてるアクシズ教の本部があるところでしたっけ」

「あぁ。今はアクシズマーケット開催のために色々と賑やかだぞ。ふむ、冬景色の温泉と言うものも乙なものか。そろそろ雪解けの季節であるし、観光の計画を立ててみるか?」

 

 アクシズマーケット。略してアケット。師匠が提案したらしいそれってまさかと思うがコミケの……。

 聞く話によれば、師匠が草案を纏めた同人小説の即売会であるらしく、変態揃いのアクシズ教徒のガス抜きに丁度良いだろうと計画したそうだ。

 師匠はそう言っていたが、何処か違う事を考えている節が見受けられた。

 何故ならこのアケットの開催を告知するチラシに日本語で一文追加されているからだ。

 ――勇者候補オフ会のお知らせ。

 この勇者候補ってのは俺たち地球からの転生者の事を指す。

 今のところ俺が知っているのは師匠、ミツルギ、裏通りに店を構えるユウキさんの三人だけだ。

 俺を含めて四人。駆け出しの冒険者の街を拠点としているから少ないと言うべきか、聞く話によれば転生特典の強さから対魔王軍の最前線である王都に居る事が多いらしい。

 ……まぁ、ミツルギみたいなテンプレみたいな勇者野郎が居る訳であるし、その逆にモブみたいな人たちも多いようで気の合う奴らでグループを組んでいるのはマイノリティで、ソロが多いらしい。

 まぁ、陰キャな俺らだもんな……。と納得してしまった。そう考えると俺ってほんと恵まれているよなぁ。

 男一人に対して女五人だぞこの空間。それも一つ屋根の下で、朝昼晩は手料理が食べられる。

 ……俺ってギャルゲーの主人公だったのか、だなんてうぬぼれても良い環境である事は間違いない。

 まぁ、師匠によってめぐみんとララは攻略されているので、多分主人公は師匠だろうなそのギャルゲー。

 

「アクセルに来るまでの旅でアルカンレティアに寄りましたが、温泉とっても良かったですよね。……色々と変態に絡まれましたが、今ならおんおんが居るので大丈夫でしょう」

「あはは……、ゼスタさんにセシリーさんは濃い人たちだったもんね……」

「なんかめぐみんとゆんゆんが遠い目し始めたが大丈夫なのか?」

「ん? あぁ、今のアクシズ教はぶっちゃけ私が最高権力を握っていると言って過言では無いからな。暇してる穀潰しの変態共に勧誘よりも役に立つ慈善事業や印刷業の出店計画を投げて、アクシズ教内部の団結のために月一で教団内合コンとか計画して人口増加を図ったり、アクシズ教の印象を良くするために色々としているからな。私に物言える奴が居たら大したものだよ」

「聞く話によればおんおん、最高司祭に祭り上げられるとこだったらしいですからね。……今も似たような事してません?」

「してないな。それに今はもうゼスタが最高司祭になったから、その一件も終わりを迎えたよ」

「……あの、それってより強い権力を動かせるようになったという事では?」

「さてな、私は外部顧問でありながらアクシズ教聖母の称号を貰っているだけの余所者だからなぁ。あくまで運営はゼスタの行動だから、私はアドバイスをしているだけだ。あいつは鵜呑みにして原案そのままで通してるみたいだが」

 

 いったいどうなってるんだアクシズ教。

 聞く話によれば、しつこい勧誘とどいつもこいつも変態を地で行く奴らで、アクア成分を薄めて広めたような考え方をしている狂信者の頭のおかしいやべー奴ら、であったらしい。

 けれども、師匠の口出しにより戒律が作られ、エリス教への嫌がらせ行為や性的な軽犯罪(セクハラ)が鳴りを潜めて普通のそれになり、先程の発言のように発展のためにノリノリであるらしい。

 正しく聖母のように母として叱り、褒めてくれる存在が現れた事でフィーバー状態らしい。

 ……わかりみが深いな。師匠に、めっ、とかされてみてぇわ俺も。

 未だに垂れ師匠のままで机に突っ伏しながらララにアイスを口元にあーんして貰っている姿を見て思わず頬が緩む。

 

「まぁ、そう言う事で近々アルカンレティアに向かおうか。それなりの歓待をさせるように手を回しておくから期待していてくれ」

「発言がもう明らかにお偉いさんのそれじゃないっすか……」

「なぁに、お願いするだけだ、命令はしていないさ」

「アルカンレティアまでは馬車ですか?」

「あぁ、うちにはトレントが居るからな。ドラクエみたいな天幕の付いた牽引荷台を買ってあるから御披露目といこうか。この人数だし、寄り合い馬車は気疲れするだろうしな」

「わぁ、凄く楽しそうだね! わ、私も行って大丈夫だよね……?」

「なんでそこで不安になるんですかゆんゆんは……。貴女も頭数に入ってるに決まってるでしょう」

「えへへ、そうだよね。ありがとめぐみん」

「本当にこの頭ゆんゆんは……。いつになったらぼっち気質を卒業出来るんだか」

「いっそアクシズ教に放り投げてみるか? 一敬虔な信徒になればそれなりに成長するだろう」

「前までのアクシズ教なら即却下でしたけど、今なら……うーん」

「ぶっちゃけセシリーに投げとけば一ヵ月くらいで改善されそうだなって」

「あ、それもそうですね。でもその場合、ゆんゆんが大変な事になってるんじゃ?」

 

 そのセシリーと言う人が誰だか分からないが、内容からして相当な変態な人なんだろうなぁ。

 師匠が何やら考え事をし始めて、ふむ、と内容を纏めた後にゆんゆんへ横顔を向けた。

 

「ゆんゆん、孤児院を建設する予定があるからそこで働いてみないか? 子供相手ならそのぼっち気質も多少は改善されるだろう」

「まさかのパーティ脱退宣告!? えっ、確かに私影薄いけどそこまで悪い事したっけ!?」

「いや、そう言う訳じゃなくて、アルバイト感覚でそこで働いてみないかというお誘いだ。今のままだと色んな意味で子供好きなセシリーを責任者に投げようと思ってたんだが、生贄コホン常識人が居れば暴走も抑えられるだろうと思ってな」

「生贄っ!? 今生贄って言った!? た、確かにセシリーさんはスキンシップが激しい人だけど……」

「嘘でしょうおんおん。あのセシリーを孤児院の主にするつもりなんですか?」

「本人強っての希望でもある。まぁ、そういうシチュも良いんじゃないかなって」

「子供たちの性癖が曲がりますよ!?」

「それはそれで美味しいだろ。むしろそうなった方があの変態を御しやすいだろう。防音の地下室でも作ってそこをセシリーの部屋にでもしてやればお膳立ては十分だ。後は坂を転がるようにそういう目に遭う事だろうよ」

「……何と言うか、ほんとインモラルな考え方をするようになりましたよねおんおん」

「そう言うのは嫌いか?」

「うぅ、それこの場で言わなくちゃ駄目ですか?」

「言わなくても良いが、言うまでもない反応だけどな」

 

 その言葉で顔を真っ赤にしてこたつに潜り込むめぐみん。

 物理的に顔を隠したところでさっきの肯定めいた発言が俺らの記憶から失われる訳じゃないんだがなぁ。

 

「まぁ、そう言う事でゆんゆん。テレポート代は此方で持つからアルバイト受けてみないか?」

「今の聞かされたら止めるために行くしかないじゃない! そ、そう言う事は好きな人同士ですべき事なんだからね!!」

「……ほぅ、大分濁したが内容分かってるんだなゆんゆん」

「はぅううぅっ!?」

 

 こたつむりが二人に増えた。

 めぐみんと言い、ゆんゆんと言い、紅魔族は意外と純情なのな。

 と言うか……師匠、ナニとは言わないが隠さなくなってきたなぁ。

 ララと婚約をしてからというものの師匠は日常的なイチャラブを解禁したのか、ふとした時に見てみるといちゃついている事が多くなった。

 正妻枠であるララとの逢瀬は、何処かしっとりとした心が繋がっているという感じの夫婦のいちゃつきで。

 愛妾枠であるめぐみんとの逢瀬は、からかい上手の、という枕詞が付きそうな感じで初心な反応を見せるのを楽しそうに弄る。

 この世界における成人年齢は十五歳であるため、少なくとも後二年は今の様な日常が続くんだろうなぁ。

 こうも百合百合しい尊い光景を見ていると失恋の痛みが癒されていく心地だった。

 

「ゆんゆんがむっつりなのは取り敢えず置いといて、いつ頃出発します?」

「明日の朝で良いだろう。普通の馬なら一日くらいは掛かるがトレントなら半日くらいで行けるだろうからな。前は商隊の後ろについていく形だったから一泊したが、個人で速度も早ければ夕方、遅くても夜には着くだろうよ」

「三泊四日くらいにしておきます?」

「んー、春を迎えるまでで良いんじゃないか? この感じなら一週間も掛からないうちに春になるだろうしな」

「了解です。個人的に受けてる依頼は無いだろうし、大丈夫だと思います」

「うむ。彼方では浴衣があるから衣服は三日分くらいあれば問題無いだろう。他に誘っておきたい者は居るか?」

「えーっと、居ませんね。あ、知り合いって事ならクリスくらいですかね?」

「ふむ、クリスか。良いかもしれないな。……頻度的にも結構疲れてるだろうしな」

 

 クリスの身体の調子を案じている筈なのに師匠は何処か仄暗い笑みを浮かべていた。

 あれ、師匠ってクリスとそんなに接点無いよな。

 と言っても俺もあんまり無いんだが、たまに酒場で出会ったりしてジョッキを空にするくらいの仲だ。

 そう言えば最近のクリス、何でか色っぽいんだよなぁ。

 彼氏でもできたのかと聞いてみればもにょもにょとした感じで小首を傾げながら、そんなところかなと誤魔化されてしまったので詳細は聞いてないんだよな。

 ……この前、バニルと初対面した時にクリスの話題が師匠から出たような……。

 …………クリスの事を呼び捨てにしている事もあえて聞かないでおこう。

 ………………うん、そっとしておこう。地雷原でタップダンスだなんて踊りたくねぇや。

 

「さて、と。そろそろ夕飯を作るか。今日の夕飯は鶏出汁の具沢山のお鍋だぞ。無論、締めは白米でおじやだ」

 

 短い溜息を吐いてから師匠が渋々と言う感じでこたつから這い出た。

 では私も、という感じで最近は料理を教わりながら手伝っているらしいララが同じく立ち上がる。

 めぐみんは……、うん、未だにこたつむりだ。寝息が聞こえているし、温かさに負けて寝てしまっているらしい。

 そんなめぐみんの胸元にちょむすけが置かれ、温もりを求めるように抱き抱えた姿を見てほっこりする。

 

「……可愛いなぁ」

「うむ、子供が出来たらこんな風なんだろうな」

「まだ気が早いぞ、魔王を討伐するまでは作らないって決めただろう?」

「ふふっ、そうだったな。でもまぁ、時間の問題じゃないか? こうも魔王軍幹部の討伐ペースが速いと」

「またまたー、そう毎回幹部級に出くわす事なんてないだろうよ。アルカンレティアで魔王軍幹部と出会ったらこの前のアレ叶えてあげるよ。まぁ、そんな事は無いだろうけどな」

「ほぉー、それは楽しみだ」

 

 だなんて熟年夫婦染みた距離感でイチャイチャする師匠たちをキッチンへ見送った俺は、静かにアイスを食べる事にした。

 いやぁ、ダストの言う事を聞いてみるもんだな。

 今のアレ見て淫夢で本番なんかしてたら虚しいったらありゃしねぇや。

 今度一杯だけ奢ってやる事にしよう。

 ふぅー、アイスで口の中が甘いな。お茶取って来るかー。

 そう思って立ち上がろうとしたらコトリと俺の前に湯飲みが横から置かれた。

 こんのぉ駄女神め、丁度良いからって便乗しやがってからに。

 まぁ、いいけどさ。

 アクアの湯飲みも一緒に持って行き、キッチンスペースへと入ろうとした時だった。

 俺の耳に水っぽい音が聞こえて何処か甘い嬌声が聞こえたのは。

 

「んっ、はぁっ、ちゅっ、じゅるるっ、んんっ、ぁっ、ちゅっ」

 

 壁に背を向けて顔だけ半分出して見やれば、台所の所で膝立ちになったララに濃厚なキスを落とす師匠の姿があった。

 うっわぁ、傍目から見ても舌が動いているのが分かるんだなぁアレって。

 数十秒程濃厚な蹂躙爆撃染みたキスに晒されたララは色っぽい顔で蕩けた顔で師匠を見上げていた。

 

「まったく、料理の手伝いをしてくれるんじゃなかったのか?」

「や、やる気を出して貰おうかな、と」

「ふぅーん、ほんと可愛い奴だなララは。違うヤる気が込み上げてくるじゃないか、お預けだぞ」

「うっ、そ、それは……、そうだが……」

「なんだぁ? もしかして期待してたのかララ。流石に此処じゃヤらないぞ、誰かが来たらどうするんだ」

「…………」

「それも有りだなとか思ってなかろうなこの変態淫乱娘め。だーめっ、お預けです。そのまま悶々としながら夕飯待ってるように」

「………………はい」

 

 なんかしっかり者の新妻と駄目亭主みたいな遣り取りしてんだけど。

 あの頃のまま、淡い想いを抱いたままだったら頭沸騰して変な性癖芽生えそうな光景だったわ、尊み深い。

 近くの椅子にくったりと座ったララを一瞥した師匠が魔導冷蔵庫に向かった辺りで、こっそりとヤカンに入った麦茶を入れてそそくさと戻る。

 クリスから教えて貰った『潜伏』が役に立ったな。

 流石に、やぁやぁどうもと入って行くには度胸が足らんわ。

 湯飲み二つ持ってリビングに戻り、こたつに入って夕飯を待つ。

 ……今思えば、ほんと贅沢な暮らしをしているよなぁ、俺。

 かつての自分の生活はどうだっただろうか。ゴミ袋が散見する所謂汚部屋で一人寂しくオンラインゲームとネットサーフィン、SNSにソシャゲする毎日だった。

 そんな俺が朝はランニングと素振りをして、クエストか庭でベルディアに教練を受けて身体を動かして、朝昼晩を黒髪の可愛い年下の女の子の手料理を食べて、一対五の男女比率の屋根の下で暮らして、ふかふかベッドでアクアを隣に寝る日々を送っている訳で。

 うーん、順風満帆な異世界ライフだな。ラノベの主人公かなってレベルで恵まれている。

 ……魔王討伐してまで叶えたい願い無くね?

 もうこのままずっとこの暮らしをしてたいんだが。

 師匠のお零れで高額賞金首や魔王軍幹部討伐の報酬で懐も温かいからクエストを受けなくても向こう十数年は自由気ままに生きられるお金もあるし。

 でもまぁ、師匠に良い所見せたいから、身体を鍛えるのは止めないしクエストに行って実戦経験積みたいし。

 何よりもレベルとスキルで自分が強くなっていると自覚できるからもう少し頑張ってみたい。

 随分と前向き頑張りボーイになったもんだな、と内心で自嘲する。

 あんなダーウィン賞ばりの死に方をした俺だけど、異世界で何とかやれている。

 ……そろそろ、良いんじゃないか? 俺も、青春って奴を謳歌しても良いんじゃないか?

 

「ふへぇー、おいひぃー」

 

 ちらりと湯飲みを静かに啜るアクアを見やる。ぽけーっとした寝ぼけ顔でへんにゃりしている。

 いや、うん、分かってるんだよ俺も。鈍感系って訳ではないし、視線とかにも敏感だったから尚更に。

 最近、アクアの距離の詰め方が近過ぎるのも、スキンシップが手慣れて来て回数も多くなってるのも、髪の手入れとか衣服とかに力を入れてお洒落してるのも、……その傾向が俺の好みに合わせてる事にも気づいている。

 お、俺の勘違いじゃ、無い、よな……? 自意識過剰、そんな言葉が浮かぶ。

 身近に居る男が俺しか居ないからそれに合わせているだけかもしれない。

 ……けど、何の感情も抱いてない男と隣で寝れるものなのか?

 流石にそれは危機感が足りないと言うか、もしも違ってたら俺がヘタレだと決めつけて嘲笑っている訳であるし少しむかつくんだが。

 だけど、隣で寝る事を許してくれるくらいに心を許してくれているのであれば。

 ……それだけの好意を持っていると判断しても良いんじゃないだろうか。

 水と温泉の街アルカンレティア。温泉と言えば、と思い浮かぶ一つのフレーズ。

 少し、賭けであるが試してみる価値はあるかもしれない。

 流石に此処では誘わないが、あちらでそれとなく、誘ってみてみるか。

 その時の反応で色々と分かるものがあるのかもしれない。

 流石に好意を持たない相手に裸同然の姿を見せる事なんてしないだろうしな。

 そう悶々と胸の奥から込み上げてはナイアガラの様に落ちていく妙な感情を整理していると、何時の間にか時間が経っていたようで土鍋を抱えた師匠とコンロを持って来たララが夕飯を準備してくれていた。

 

「お待たせしたな。具沢山の野菜たっぷりお鍋だ。おかわりは沢山あるからしっかり食べるんだぞー」

「わぁい! 私おんおんのお鍋大好きですっ!」

「冬の頃はいつも一緒に食べてたものな。しっかり食べて大きくなるんだぞ。……私はもう諦めた」

「お、おんおん……。分かりました。貴女の骸を越えて成長しますっ!」

 

 するりすとんと胸元を撫で下ろす師匠。それと似たようななだらか体型のめぐみんが拳を突き上げた。

 ……その隣で豊満な胸を机に置いて取り皿に具を取っているゆんゆん。

 何処でそんな差がついてしまったのやら……。聞くに食事情がアレだったらしいのでそのせいなんだろうなぁ。

 男性よりも女性の方が成長が早いと言うし、十三歳ならまだリカバリーは利くだろう、多分、きっと、メイビー。

 いただきますの合掌に別の思いも乗せておく。女性陣が具を取っていくのを見届けてから残りを取る。

 基本的に肉も野菜も大量に師匠が買い揃えたり狩ったりしているので焦る必要が無いんだよな。

 肉の争奪戦になると見越すと師匠は良い笑顔でキロサイズの肉塊を叩き込んでくるのでその心配も無い。

 

「そう言えばこの土鍋って何処で買ったんですか? 日本の物っぽい形ですし、東国の輸入物です?」

「あぁ、これは錬金術で作った物だぞ。最近になってアトリエ式錬金釜システムっぽい何かができるようになったからな」

「なんて???」

「ほら、アトリエシリーズの大釜に材料を入れてぐるぐるすると作れるアレだ。錬金釜の内部に分解、再構成、燃焼、冷却、分離、とか色々と魔法術式を刻み込んで本来なら薬品を作る過程の手作業を省略、いや、圧縮? してみたんだ。簡単なものならこれで作れるようになってな。この土鍋は粘土質の土塊、金属鍋、染料を合成して錬金したものだ。ベースである金属鍋に粘土質の土と染料を加えて再構成させた訳だな」

「もはや趣味の領域越えてませんか?」

「まぁな、自覚はある。多分と言うか憶測なのだが、人の集合的無意識でギャグみたいな精霊が爆誕するような世界だろう? 転生者の集合的無意識で錬金術とはこういう物だ、という形で法則が生まれる訳だ。この場合、ハガレンかアトリエシリーズかに大別されると思うんだよな錬金術って。ハガレン式だと複雑な錬金術式と真理の扉みたいな要素が必要だから普通は試せない。けれど、アトリエ式だと大釜に材料入れてぐるぐるすると何故か作れるみたいな曖昧な感じだから再現しやすいんだよな。あー、ドラクエの錬金釜も似たような感じだな。まぁ、そんな曖昧だからこそ、それを理由に作れてしまう法則も生まれてしまう訳で」

「鶏が先か、卵が先か、みたいな感じですか」

「まぁ、そう言う事だな。だからなんちゃって錬金釜で指向性を与えてやれば出来てしまう訳だ。まぁ、試行錯誤はしたけどな。研究室はアトリエシリーズの錬金部屋めいた感じになってるよ。流石に取り扱っている物が物だから私以外は入れないようにしているが」

 

 それとなく言っているが凄い事言って無いか師匠。世界の法則を乱しましたって言っているようなもんだろう。

 けどまぁ、確かに、という納得もあった。

 何せ、この世界は冒険者カードを経由してスキルや魔法やらを習得、発動できる世界観が土台にある。

 レベルの概念も王道なRPGなそれであるし、元々がそう言う世界観で成り立っている世界である、とも言える訳で。

 そこに俺ら転生者と言う異物と言うか、言い方を変えればアップデート、DLCみたいな概念が追加されているのだろう。

 でなきゃ、金属鎧よりも頑丈なララの肌とか意味不明な現象に説明が付かないからな。

 多分、この世界の住人がそういう物だと認知しているからそう成り立っているんだろうな。

 

「まぁ、そう言う事で簡単なものなら作れるようになったから気軽に言ってくれ。買った方が安いものもあるだろうけどな」

 

 あっはっは、と師匠は至極楽しそうに言った。確実にDIYのノリで言ってるなこれ。

 まぁ、師匠が楽しそうで何よりです。

 そう内心で独り言ちて出汁の染みた白菜を食べる、うん、美味い。


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