第10話 ずっとずっと
荷物の整理を始めた午後。
兎姫とはそれぞれの自室に別れて作業をしていた。
ずっと一緒にいるから自分の部屋なんていらないと言っていた兎姫だが、キスのおかげで一応はやる気を出してくれている。
「お兄ちゃんお兄ちゃんっ」
作業に没頭していると、兎姫が駆けてきた。
「またダンボールひとつ開けたよ」
「お、はやいな。すごいじゃないか」
「ご褒美にちゅーして?」
「ん……っ」
求められた通りにキスをプレゼントする。
「……えへへ。続きもがんばるね」
兎姫は何かの作業が一段落するたび、褒めてもらうために俺の元へやってくる。
その姿は飼い主にしっぽを振る小犬のようで可愛らしい。
キスも一回でとりあえずは満足してくれるので、あまり時間のロスにならない。
やる気のないままの兎姫にむりやり作業させるのに比べれば、これが最高効率と言えるだろう。
順調に新たな住処は完成へ向かっていた。
それから兎姫は自室へ戻っていく————と思ったが、俺の開けていたダンボールを見て立ち止まり、覗き込んできた。
「それ、ゲーム?」
「ああ、うん。最近ハマってたからな」
元カノと別れた後に買った最新ソフトとか、昔やっていたレトロゲーとか色々だ。
「これからも暇つぶしになるかと思って、ぜんぶ持ってきたんだ」
「……ぷぅ」
なぜか兎姫は頬を膨らませて仏頂面になってしまう。
「お兄ちゃんは、ゲームと私、どっちが大事なの?」
「は? いや、それはもちろん兎姫だけど……」
「じゃあ、もうゲームはいらないね。捨てよっか」
いい笑顔。
「いやいやいや!? だからってそういうことにならないが!?」
最近はゲームソフト一つの値段だってバカにならないんだぞ!?
そう言うと、兎姫はまたしてもふくれっ面に戻ってしまった。
「…………お兄ちゃんには私がいれば、暇なんてないんだもん」
頬を赤くして、拗ねたように呟く兎姫。
俺は慌てて彼女のさらさらの銀髪を撫でてなだめる。
「ごめんごめん。兎姫がいればたしかに、暇つぶしなんかいらないかもな」
事実として兎姫とエッチするようになってからほとんどゲームに触れてないしな……。
「でも、こういう考えもあるぞ?」
「……?」
「兎姫も一緒にゲームしよう」
「私も、一緒に?」
「そう、きっと楽しいよ」
「でも私、あんまりやったことないし……それにお兄ちゃんの、1人用だよね? 一緒にできないよ」
子供の頃、俺の家にはテレビゲームがなかった。あるのは小型の携帯ゲーム機1つだけ。
だから兎姫と一緒に、というのは叶わなかった。俺がゲームを始めてしまうと、小さな兎姫がひとりぼっちで寂しそうにしていたのを覚えている。
あまり覚えてないが、その影響もあって俺は一度ゲームから離れたのかもしれない。
「ところがどっこい。今どきのゲームはすごいんだぞ?」
俺は買ってから日の浅い最新のゲーム機を取り出して、演説を開始する。
「こいつは普段は携帯ゲーム機だが……ほら、左端のここを分解。右端も分解。これでなんとコントローラーが2つ。そして残ったスクリーン部分をこちらの機器にセットすればあら不思議。リビングの大画面で一緒にプレイ可能だ」
そう言ってコントローラーの1つを手渡してあげた。
「わ、わー……! こ、これ、ほんとうにお兄ちゃんと一緒にできるの……!?」
兎姫はぴょんぴょん跳ねて銀髪を揺らしながら、ご機嫌で瞳を輝かせる。
「もちろん。今度の週末にでも一緒にやろう」
「っ、やる……! やりたい!」
喜んでくれたようだ。
少しだけ、安心する。
「実はね、お兄ちゃんとゲームね、ちっちゃい頃からずっとずっと、やってみたかった……!」
「そっか。ごめんな気づけなくて。その分、これからはたくさんやろう」
「うん……嬉しいな……♪」
そんな兎姫を見て、俺も嬉々たる気持ちが湧いてきた。
ゲームもまた、現実逃避のような行為とはいえ俺を助けてくれた存在。
すっかり愛着が湧いてしまっているし、そんなゲームを兎姫にも好きになってもらいたい。
そして何より、恋人と一緒にのんびりとゲームする時間というのはきっと幸せに違いない。
「でも、お兄ちゃんはゲームより私を大事にして」
「お、おう……当たり前だろ」
そこはブレないんだな……。
「愛の証拠に、ちゅー」
「りょ、りょーかい」
「————ん。えへへ……ちゅー、どんどんよくなるみたいだね、お兄ちゃん♡」
しばらく兎姫のキスブームは続きそうだ。
まぁ、一日中エッチしているよりはずっとずっと健全だろう。
キスから気持ちが盛り上がってしまうことも、たびたびあるかもだけど。それは許してもらいたい。
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