第9話 初めてのちゅー
目覚めるとそこは見知らぬ天井で、自分が実家を出たのだということを改めて自覚する。
昨日は結局、流されるまま力尽きるまでエッチに耽ってしまった。
その間にしたことといえば、ベッドの組み立てだけ。初日から母さんたちに申し訳が立たない有様だ。いきなり2人だけの秘密ができてしまった。
流される俺も俺だが、兎姫の色事への貪欲さは日毎に増すばかりで、どんだん堕落させられている気がする。
「すぅ……すぅ……」
兎姫は裸のまま、隣で寝ていた。
相変わらず美しい銀色の髪に目を奪われる。白い肌も、大きな胸も、ふにふにの頬も、小さな口も、ぜんぶが愛おしい。
妹への感情だったはずのそれは、異性に対するモノへと完璧に上書きされていた。
もっと顔がよく見たくなって、目にかかった銀髪をかき分ける。
「んん…………ふぁ、お兄ちゃん……?」
「悪い。起こしたか?」
「もう朝?」
「朝だよ」
「そっかぁ……じゃあ起きなきゃぁ……」
兎姫は寝ぼけ眼を擦りながら、非常にふにゃふにゃした様子で身体を起こす。
激しくしすぎたせいもあるのだろうが、すごく眠たそうだ。
「んみゃ……目覚ましに、朝エッチ……する?」
「なっ」
それでも性欲はバッチリあるのか……。
「お兄ちゃんも、おっきしてるね♡」
「いや、これは生理現象だからっ」
股間のテントは毎朝恒例の行事である。
べつに兎姫の裸に興奮したからではない……とも言い切ることはできないが。
「手でしてあげよっか♡」
慣れたふうに手が伸びてくる——が、俺はそれを止めた。
「ダメ」
「なんで? お兄ちゃん、私とエッチするのやなの?」
不安げに瞳を潤ませる兎姫。
「い、いやその、兎姫とエッチはしたいが……でも、今日はダメだ。引越し作業をしないとだから」
本日は日曜日。
つまり明日からは通常通り、俺も兎姫も学校だ。
昨日サボった分、どうにか今日のうちに作業を終わらせなければならない。
「やーだー。エッチするー」
しかし兎姫は未だに半分寝ているようなふわふわした調子で駄々をこねる。
「引越し作業ってめんどーくさいよ。ダンボールたくさんだし、重いし」
「でもやらないと。いつまで経っても新生活始められないぞ」
「う〜……」
兎姫はとてもマイペースな女の子だ。
興味が向いたことへは一生懸命でひたすら夢中になるが、物事を強制されることは好まない。
学校の勉強とかがその最たる例で、兎姫はできる教科とできない教科の差が激しい。
このまま渋々作業を開始したとしても、効率は最悪だろう。
何かやる気を出させる方法はないだろうか。
「じゃあ、ちゅー」
「へ?」
兎姫は瞳を閉じて、両手を広げる。
「ちゅー」
「ちゅーって……もしかして、キス、か?」
「そうだよ。ちゅーして。ちゅ〜」
身体をゆらゆらと揺らしながらキス待ち態勢をやめない。
「恋人同士の初めてのちゅー。してくれたら、引越しちゃんとするから」
実のところ、俺と兎姫はまだキスをしたことがない。なんとなくだが、それだけはいくら兎姫が許そうと練習でしていいことではないような気がしたのだ。
だけど今はもう拒む理由がない。
それで兎姫がやる気を出すというのなら尚更だ。
「わかった。約束な」
「うん、約束」
「……じゃあ、しよう」
「はやく。はやく。恋人の朝ちゅー♡ んー♡」
あからさまなキス顔に少しクスッとするが、俺は兎姫を抱きしめて、唇を奪った。
「んっ————はぁ……♡ 」
瑞々しい唇は吸い付くかのような気持ちよさだった。同時にそれだけではなく、気持ちが通じ合っていくような不思議な感覚。
「これが、ちゅー……♪」
兎姫はうっとりと瞳を細めて、キスの余韻を楽しむ。
それだけでお互いの好きの証明になるし、好きがさらに深まったような気がする。
キスって行為はやっぱり、恋人専用だ。
「どうだった?」
「うん、ちゅー、しゅきぃ……♡」
「それは何より。じゃあ朝飯食って、作業を————わっ、兎姫!?」
兎姫はふわりと身体を投げ出して、抱きついてくる。
2人重なってベッドに倒れた。
「おい兎姫、約束だったろっ?」
「うん、ちゃんと約束守る。けど、まだ……時間あるよね? もっと、ちゅー、する…………ちゅ……」
「んんっ!?」
強引にキスされる。
1度目よりずっとディープなキス。
唾液を交換するかのように舌が交わり絡まる。
「んっ、ふっ、ちゅぷ……れろぉ、はぁ……お兄ちゃんしゅきぃ……もっと、もっとぉ……」
結局、俺たちがベッドを出たのは1時間後のことだった。
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