第7話 相性抜群だから

「ねね、お兄ちゃん。私たち、相性抜群だよね?」


「……っ!?」


 ————私たちきっと、相性がよくなかったんだね……。

 

 苦い記憶がリフレインした。

 しかしもう、そんなのはどうでもいい。

 

 兎姫は頬を染めて、甘えるように抱きついてくる。

 

「私と元彼女さん、どっちがよかった?」

「それは……兎姫だ」

「だよねだよね。ぜったいそう。私はお兄ちゃんとしかしないけど、でも、お兄ちゃんがぜったい1番だよ」


 あの頃とは自分の経験値も多少違うと思う。

 だけど、兎姫との行為はそんなもので説明できないほどの快楽と満足感で、心が満たされた。


「俺も兎姫が1番だよ」

「うん……♪」


 兎姫は嬉しそうに俺の胸板へ頭を擦り付ける。


「それならね、お兄ちゃん、私と、ほんとうの恋人に————」

「ちょっと待った」

「え?」

「その前に、俺の話も聞いてくれるか?」


 大事な言葉を途中で遮ったのは申し訳ないが、俺もけじめをつけておきたい。

 そして、最後くらいは俺から言わせてほしい。


「俺さ、自信をなくしてた」

「自信?」

「ああ、彼女と別れた……っつーか、本当言うとその、寝取られてさ……」


 原因の起源は、初めて行為に及んだ日だったと思う。

 お互い初めてだった俺と彼女は、何もかも上手くすることができなかった。

 最初は、初めてだから仕方ないと納得して……それからも何度か挑戦した。

 しかし、何度やっても彼女との行為が上手くいくことはなくて……彼女も俺も満足いくことはなかった。

 それをきっかけに少しずつ、関係がぎくしゃくするようになった。

 一緒に過ごす時間が少なくなって、遊びに誘うこともなくなって、ぎこちない会話ばかりが続いて——ついには教室で話すことさえ避けるようになって……。


 気づいた時にはもう、手遅れになっていた。

 

 彼女の隣には、親友の姿があって……


『彼とする方が、あなたとするよりいいの……』


 と、そう告げられた。


 それが俺の初恋で、初彼女との末路だ。


 事細かに話すのは憚られるが、兎姫が告白されたことを話してくれた分、俺も返さなければならないだろう。


「ねとられ……? って、なあに?」


 しかし、兎姫はきょとんとしていた。


「え? いや、その寝取られとはいわゆるNTRで……えっと、その……」

「えぬてぃーあーる?」

「…………すまん、自分で調べてくれるか?」

「うん、わかった」


 兎姫はスマホを手に取り、検索する。


 そして用語の意味を理解すると、あからさまに不機嫌そうに口を尖らせた。


「と、兎姫? どうした?」

「兎姫は怒っています。ぷんぷんです。こんなの、ぜったいしちゃいけないことだよ。不道徳だよ。なんでこんなことするの? 好きだったんじゃないの? 愛してたんじゃないの? 私、わかんないよ……。でも、……こんなの、これじゃ……お兄ちゃんが……」


 やがて感情が振り切れてしまったのか、涙を流し始めてしまった。

 それは純粋すぎるほどに透き通った、綺麗な涙だ。


「いいんだよ兎姫、もう終わったことだから」


 本当に、もういいのだ。俺の心は十分に洗われている。


「でも、でもぉ……」


 ポロポロと零れる涙を拭ってあげる。

 それから兎姫の様子が落ち着くまで、頭を撫でてあげていた。


 話を続けよう。


「それでさ、色々嫌になってたんだけど……兎姫のおかげで立ち直れそうだ。ありがとう、兎姫」


「お兄ちゃん……」


 相性抜群だと兎姫は言ってくれたけど、それを本当の意味でより強く感じていたのは俺だった。


 この1ヶ月で、俺は完全に上書きされたのだ。


「好きだよ、兎姫。俺と付き合ってくれますか?」

「うん。私もお兄ちゃんのこと、だいすき。お付き合いしたい」

「ありがとう」


 兎姫の小さなカラダを抱きしめる。

 今度こそ、もう2度と、大好きな人を離さない。

 その決意と自信が、今の俺にはあった。


「末永く、よろしくお願いするね、お兄ちゃん」

「ああ、もちろん」


 このあとめちゃくちゃ————したのは言うまでもない。





 ☆




 そして、翌日。


「あなたたち、うちを出ていきなさい」

「は?」「え?」

「2人暮らしをしなさい」


 開口一番、母さんはそう言った。

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