「風の歌を聴け」の謎③・『小指のない女の子の元カレは鼠だった』説について

衝撃的な事実?

ちょっと衝撃的なので、前回の記事には書かなかったのですが、小指のない女の子の元カレは鼠だったいう説があります。「僕」が彼女の部屋に泊まったのも親友の元カノを心配したからだとも、その説の中では言われます。

平野芳信氏は「村上春樹と<最初の夫の死ぬ物語>(2001.4)」の中で言います。

「僕」は鼠と彼女の関係を知っていたので、彼女から前の晩のことを問われた時に、ジェイズ・バーに鼠がいなかったことから話し始めたり(9章P33)、 鼠のことを「奴」と呼んだりした(9章P34 )。
 「僕」が鼠と彼女の関係を知ったのは、彼女のバッグの中の葉書の差出人が鼠だったからである(9章P36 )。
 彼女から「昨日の夜のことだけど、一体どんな話をしたの?」と訊かれ「ケネディーの話」と「僕」が答えた(9章P43)のは、6章の鼠の書いた小説の一部を彼女が知っていたからである。(6章P26~27)
鼠が自分の指を数える癖がある(3章P14)のは、彼女に指が9本しか無かった(8章P32など)ためである。
誕生日プレゼントに鼠が聴いたこともないレコードを贈ったのは、彼女にレコード店に勤めていることを伝えようとしているからである。(15章P62)
「僕」に対する彼女の誤解(眠っている間に性的関係を強いられた)が解けたのは、彼女が鼠に会って「僕」が鼠の友人であることを知らされたからである。(22章P90)


斎藤美奈子氏(「妊娠小説」筑摩書房, 1994.6)と石原千秋氏(「謎とき村上春樹」 光文社新書,2007.12)もほぼ平野氏と同じ議論を展開しています。この作品にははっきりしたストーリーがないために、特に一度「風の歌を聴け」を読んだだけの人はこの説を知るとあっさり納得してしまうかも知れません。しかし、この説が論拠としている部分をもう一度読み返してみると、この説がかなり強引なものであることがわかるのです。

この記事では、『小指のない女の子の元カレは鼠だった』説が論拠としている部分を実際の作品から過不足なく引用して検証をしていきたいと思います。