「日本酒はオワコン」と言われて、僕は言い返せなかった。
だってそれは紛れもない事実だから。斜陽産業どころじゃない、何をやっても右肩下がりが続く日本酒業界だ
酒屋をやっていると「日本酒は売れている」とつい錯覚するんだ。確かに毎日のようにお客様が来てくれて、嬉しそうにボトルを抱えて帰る
TwitterやInstagramを見れば、今をときめく多くの日本酒ブランドがスマホを埋め尽くす
けれど数字は嘘をつかない。20〜30代の70%は一年以上も日本酒に触れていない。消費量もピークの1/3を下回る寸前だ
もちろん高齢化や少子化だって、理由の一つだ
何がよくない?
何があれば人々は日本酒を求めてくれる?
小瓶にすれば売れる?
コンビニで気軽に手に入れば売れる?
いや、違う。
売れない理由を掘り当てて、それを解決したって日本酒は売れない
売れる理由、買ってもらえる理由がなければダメなんだ
僕らが日々見ている世界は「井の中」であって、僕らは「蛙」なのだろう。世の中の多くの人にとって、日本酒は必要なものだと思われていないのだ
こう書けばTwitterの人たちは
「そんなことない」
「日本酒は私たちにとって必要なものだ」
「無くなってほしくない」
と、きっと優しい声をかけてくれるのだろう
しかし、それもまた「井の中」の出来事であって大海においてはマイノリティなのだ
ありとあらゆる企業が、自社の商品をお客様に買い求めてもらうために日々競い合う世界
自分たちの商品は「世の中のため人のため」であると信じて、いかに有益であるかを伝え続ける
しかしユーザーは冷徹で残酷である
その商品が「お金を払うにふさわしい価値のあるもの」だと消費者に伝わらなければ、決して買い求めてくれないシビアな世界
その影には商品を生み出した様々な人がいる。企画、製造、ブランディング、流通、卸、小売…その商品には多くの人々の感情や汗、体温が通っている
けれど、その商品を知られなければ、手に取られなければ「存在しないこと」と同義なのだ
だから多くの企業は、その商品に買い求めるだけの「価値がある」ということを消費者に「伝える」ために注力している…とも言える
日本酒においては、どうだろうか
もしかすると私たちは大きな誤解をしていたのかもしれない
日本酒が売れない理由を。
日本酒は確かに「価値がある」ものなのだろう
太古から続く歴史、パスツールよりも早くに微生物の働きに気づき、世界唯一のアルコール製法
古くは市井の人々に愛され、農家や酒蔵の多くの人々の営みによって生み出される酒
味わいはたおやかで、近代では稀に見る高い品質となり、ほぼすべての料理や食材との相性も申し分ない
私たちの自国の名が刻まれた誇らしいアルコール飲料であり、海外の人たちがその魅力に気づきつつある酒
しかし、多くの人たちに「日本酒が一体どんなものなのか」が伝わらなければ、無価値なのである
たぶん世の中の多くの人たちは「日本酒」を知らない。歴史や製法も知らなければ、ブランドの有名無名も、どんな味わいなのかも、たぶん知らない
もしかすると「日本酒はお酒」ということ以外、わからないのかもしれない
もしかすると僕ら日本酒業界の人間が思っている以上に、誰も日本酒のことを微塵も知らないのかもしれない
だから…
僕はもっと多くの人に「日本酒」を知ってもらうために、ありとあらゆる手段で発信し続ける
伝えなければ、知られないのだ
知られなければ、それは存在しないことと同義なのだ
ときに店先で熱く語り、
ときに一心不乱に筆を執り、
ときにYouTubeやTikTokでピエロを演じ、
ときに内外から批判されるほどにふざけたことも言うだろう
世の中の多くの人々が振り向かずに他方へ進む中で、
たった一人でも僕の方を見て歩みを変えてくれれば
望むなら…たった一人ではなく二人、二人ではなくより大勢が僕の声に気付いてくれれば
僕が「きっと皆を豊かにしてくれる」と信じて止まない日本酒が一人でも多くの人に手に取ってもらえるのではないか
だから僕は『日本一お客様に近い酒屋』を目指す
だって、ここに一人、日本酒に魅了されて人生を賭した人間がいるんだもの
僕の周りには、逆風吹き荒れる業界に望みをかけた、代々続く酒蔵の若き後継者や、志を同じくする酒屋の店主がたくさんいる
「日本酒はオワコンではない」
それは僕らが身をもって証明するんだ。
19.8万
件の表示