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婦人科部長の闘病記 Part18

原三信病院婦人科便り18

原三信病院 婦人科 片岡 惠子

どうもどうもどうも~片岡です。

お察しの通り、イモトアキコさんが大好きです。ついでに、最近悩んでいることは
「綾小路きみまろ」さんのDVDセットを大人買いするのはよくないことか否か?ということ・・誰か感想を聞かせて欲しい。 絶対面白いに違いないと思っているのだけど、これを買う私って、どうなんだろう・・・

さてさて
本日はよくある質問への回答をつらつら書いてみたいと思います。

かの有名なアガサ・クリスティーの短編集に「パーカー・パイン氏の事件簿」というのがあって、愛読しているんですが、彼は名探偵・・・ではなくて、前職が「統計局のお役人」なんですよ。彼の決めぜりふが
「皆さん、自分のことはいつも特別で唯一無二だと思っておられる。でも大抵は統計で解決できるお悩みです」
なんだな。

こう言われると、言われた方はむっときちゃいますが、きっとものすごく珍しいことには名前がないから、名前が存在するものは、おおかた、この世の中にはありふれた悩みであるわけです。読んでない方はぜひご一読ください。

で、私の外来でよくある相談で一番よくあるのが、要約すると
「 やっぱり、子宮を全摘しなくてはなりませんか ? 」
むむう・・・

私がかつて研修医だった頃は、もう少し皆さん子供を産む時期が早くて、30代半ばで3人お子さんがいらっしゃるなぞ、珍しくありませんでした。筋腫や内膜症などの病気があって重い生理に苦しんいる方は、子宮を摘出しさえすれば 「パラダ~イス(楽園)」が待っているので、ご出産の希望さえなければとっちゃえ、とっちゃえ、になっていましたし、 実際30代でも子宮摘出を選択する方も多かったです。「ついでに卵巣も取ってしまえ」というすごく乱暴な考え方も 横行していたので、子宮も卵巣も卵管もいっぺんに取って、そのまま更年期障害になってしまったり。

しかし、今は人生100年。人生を50年と謳って、49歳で本能寺に散った織田信長もびっくりの長寿社会。30代で子宮も卵巣も取ってしまうと、あと70年近くを「子宮や卵巣のない時間」を過ごさなくてはならなくなり、 もうちょっと慎重に検討すべき事柄になっています。

子宮筋腫や子宮内膜症は「死ぬ病気」ではないため、ある程度患者さんご自身に治療の選択権があるかな、と思います。子宮を摘出するのが死ぬほど嫌なのに、医者の言うことを聞く必要はないし、所詮自分の人生を生きるのは自分以外に いないので、その長い旅路のお供に子宮がぜひとも必要ですと思われる方はそうすればいいと思うの。

でもね~。
たま~に「典型的なだめだめ男」みたいな子宮がいますもんね。

私だったら全速力で逃げちゃうけどなあと嘆息するような見事にヤクザな子宮に恋しちゃってる人がいて、これをどう説得するか、がわりと課題です。
いや~その「だめ」の正体が誰にでも分かるわかりやすいワルイやつだったら(たとえば子宮頸がん、とかね) まだ説得のしようもあるんですが、一見いい人で、何がどうしてワルイやつなのか、解説が延々と必要な 状況であるときが問題なんですよ。

過多月経で貧血になっている、これは一見分かりやすいようですけど、貧血に至っている本人は、自分が土偶のような顔色であるにも関わらず、全然平気。生理中、車の運転席がよごれないように ブルーシートを引いていても平気。生理のたびに洗面器いっぱいに血が流れても、見慣れているので平気。
実は、ちょっとずつちょっとずつ状況が悪くなっていっているので、 その少しの変化には人間、慣れてしまうモノなんですよ。

で、ご本人、
「せんせ、私ぜんぜん症状がないんですよ。手術なんてしなくていいですよね」
・・・・んなわけあるかそんな土偶みたいな顔色、埴輪でもないわ!と、心の中で叫んでいても、 はっきり言ったら嫌われちゃうこと必至。
それはまるでのぼせ上がっている乙女に
「彼は悪人よ。さっさと別れなさい」という危険性に似ている。
学生時代から恋愛相談だけは苦手だったわ~と思いつつ、懇切丁寧にいかにあなたの子宮がだめんずかを諭す。 エネルギーがいるので、外来中にすっごいお腹が空きます。
なんとか説得に成功し、原因となっている子宮筋腫を摘出する手術を説き伏せてもさらになお、 子宮本体をどうするか悩みに悩みます。

子宮とは、嫁入り道具の桐のタンスであり、20年前に買って、一回もそでを通していないシャネルのスーツでもあるのです。捨てられない。捨てるに忍びない。
・・・わかるわ~気持ち分かる。
場所を取るし、本人の邪魔にしかなっていないんだけど、捨てたら後悔しそうで、買ったときの高揚感や、私には何はなくてもあれがあるという安心感は本当に捨てがたい。

そういった状況の時、無理に捨てさせちゃったりすると心に穴がぽっかり空いて、それを埋める力は誰にもないので、私は無理強いはしません。
でも、筋腫も内膜症も再発しますからね・・・
だめんずはいつまでたってもだめんずのままであるのと一緒。
浮気もギャンブルも暴力も絶対に治らないのと一緒。
人間ひとりを心底更正させるのは至難の業であるのと同じで、筋腫や内膜症を再発させないのも至難の業であります。

それで結論。
断捨離しましょう。だめんずとはおさらば。
私ですら、子宮を摘出した後、小さいお子さんを見ると
「ああ、私は取り返しのつかないことをしてしまったなあ」という、思いに囚われずにはいられませんでした。 妊娠しない、と自分で決断するのと、妊娠できない、と思うのとではちょっと意味合いが違うのです。

でも、孤独と自由はセットでやってくる。
私は「iPS細胞で卵子が作れる時代になっても妊娠はしない」という孤独と引き替えに
「生理のたんびに外来のいすを真っ赤に染めちゃうことはない」という自由を手に入れました。
これから自由な40代、50代を楽しむために、多少の犠牲は必要なのかな、と今は思います。
もし、今後妊娠を希望されていなくて(iPS細胞に一縷の望みをかけているときは別として) あの「生理ナプキンを気にしないでいられる」自由を手に入れてみたいと思ってみたあなた。だめんず子宮とおさらばしませんか。