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婦人科部長の闘病記 Part7

原三信病院婦人科便り7

原三信病院 婦人科 片岡 惠子

こんにちは、皆様

最近、闘病記じゃないじゃん、自伝になってるじゃんと言われつつ、それでも書き続けている片岡です。お元気ですか?
原三信病院のホームページのアクセス数がなんだかいつの間にか婦人科がトップになりました。皆様のおかげです。ありがとうございます。毎日2回くらいアクセスしていただくと嬉しいです(冗談)。
闘病記と言うことで始めたこのブログですが、あちこち話が脱線し、「徒然草」的なものになりつつありますが、その後のご報告など今回はしたいと思います。

診療上、患者さん方からよく聞かれるのが
「先生はなぜ子宮を摘出したんですか」との問いです。
私は一応、女性なので、子宮を取らないといけないよと言われた患者さんがいかに衝撃を受けるかは理解できます。男性の先生が気軽に子宮を取れ、取らないと治らない、取らないならよそへ行けと言葉だけは丁寧に言うのを聞くにつけ、そんなに簡単じゃないのになあと思います。大体、男性自身が前立腺や睾丸を摘出せよと言われたらどんなに動揺するでしょう。想像してみて欲しい。あ、はい、そうですか、取りましょう取りましょうとはならないはずなのです。
子宮摘出を言われるのは子宮にがんができたときか、筋腫などの良性疾患であっても妊娠出産をする、いわゆる生殖年齢を過ぎたと医療者側が判断したとき、だと思うのですが、筋腫だったら子宮を取らずに筋腫だけ取りたいと思うのが当然な流れでしょう。だって、肺だって肝臓だって胃だって良性疾患では全摘しないじゃないか。ま、生きるのに必要だから、ではありますが。
ただ、子宮は「妊娠をする」ということ以外に使い道がない臓器なので、こと「生きていく」ためにはあってもなくてもさほど困りません。現に生まれつき子宮がないという不運な方もいらっしゃいますが、健康上何の問題もありません。それどころか美人が多い。
なので、どうしても子宮に未練がある方はいくつであっても摘出しなければならない理由(癌とか肉腫とか、いわゆる悪性疾患)がなければ子宮を温存していていい、と思います。

で、最初の問いに戻るのですが、
「先生はなぜ子宮を摘出したんですか」 それは、いつか更年期が来たときにホルモン補充療法をしたかったから、です。
もちろん、気が短いので閉経まで過多月経や再発に怯えてもう役に立たないだろう子宮とつきあうのに嫌気がさしていたというのも理由の一つなのですが、更年期に入り、不眠だのイライラだのかーっと暑いだの汗がいきなり吹き出すだのといった「卵巣のホルモンが出ないことによる症状」が本当に「しゃらくせえ」と思った上、女性ホルモンって「デパートの1階で売ってあるどんな高級な化粧品」よりも効果があるんですよ~。いわゆる化粧ののりが違う、ってやつです。ちまたに言われているプラセンタなるものはなんだか怖いじゃないですか。混ぜ物が多そうだし、何が入っているか分からないし。でも、ホルモン補充療法に使うホルモン剤は、厳しい臨床検査をくぐり抜け、長年副作用の研究がしつくされ、全世界で既にお試し済みの安全安心なもの。幸いにもまだ「不眠だのイライラだのかーっと暑いだの汗がいきなり吹き出すだのといったいやな症状」は出現していないのでホルモン投与はしていないのですが、そんな日が来たら我慢せずにさっさと同僚に処方してもらおうと思っています。
そのホルモン剤を服用するとき、問題になるのが筋腫です。筋腫は女性ホルモンによって大きくなるので、筋腫がある方には慎重投与(絶対に飲むなとは言えないが、飲むと筋腫が増大するので飲め、とも言えない)になってしまうので、将来ホルモン剤を飲みたいなと思う方には飲む時になっていよいよ邪魔になってしまう。患者さんの中には閉経まで一所懸命筋腫と闘い、子宮を守り抜いた挙げ句、更年期に入ってホルモン剤を飲もうとしたら、筋腫による症状、つまり不正出血や過多月経などが再発し、泣く泣く閉経後に子宮を全摘したという悲劇の方もいらっしゃる始末・・・侮るなかれ、筋腫もなかなかどうして、やるのです!

今はあれだけ痛かった創もきれいに治り、先日執刀してくださった先生に
「もうあれから1年になるのね」としみじみ言われ、
「ん?なんのこと?」
と、失礼こいちゃうくらい、すっかり忘れています。ついでに娘のナプキンを買うのもしょっちゅう忘れ、ユニチャームと王子製紙の株価も確認しなくなりました。現金なものです。

ですが、ひとつだけ。
「こどもを産まない、ということと、こどもを産めないということは絶対に違う」
ということを実感しました。
患者さんにはよく上記の台詞を決め台詞にしていたのですが、自分が
「ああ、もう取り返しがつかないのだなあ」と実感するのとでは大きな違いがあります。
それは、悪い男にさんざん翻弄され、だまされ、貢がされ、泣かされたけれど、やっぱりあの人のこと、好きだったなあと思い返すのに似ている。
もちろん、私の年齢から妊娠することは当時も今も不可能であったし、その気もすっかり失せていたので問題はありません。ですが、iPS細胞が出現した現代、いつか卵子を作ってしまえるとも限らない。そしてそれを元に赤ちゃんが生まれるとも限りません。子宮を摘出してしまうと、そういったSFのようなお話もなくなってしまうのだなあという考えはちょっと私をブルーにしたのでした。

しかし、慶応大学産婦人科では子宮移植の研究が始まってしまったというし、もしかしたら子宮を失った後でも誰かの子宮、もしくはiPS細胞から作成した子宮をくっつけて妊娠する世の中になるやもしれません。今更あの過多月経と不正出血に翻弄されためくるめく日々には戻れませんが、子宮を摘出するには相当の決断が必要です。子宮摘出をお考えの方は十分よく検討し、今後の人生についてよくよく計画を練られてください。ま、生理がない人生は「自由」な人生ですけれどね!