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婦人科部長の闘病記 Part6

原三信病院婦人科便り6

原三信病院 婦人科 片岡 惠子

この数年、秋がちゃんと来ず、すぐ冬になっているような気がするのですが、そう感じているのは私だけでしょうか・・・皆さん、もうすぐ2016年が行ってしまいます。小学生の頃は一日、1ヶ月、一年、時間が大河のようにゆったりと流れていたようなのに、このところ3ヶ月くらいの間隔でびゅんびゅんと早送りで走っているようです。
原三信病院婦人科はおかげさまでなんとか診療体制も軌道に乗り、土曜日などは完全予約制といった生意気なことも始めちゃったりなんかして、ぼちぼち形になりつつあります。この勢いで来年も駆け抜けていきたいものです。

さて、よく話の流れから「なんで産婦人科医になったの?」と聞かれます。
ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、平成14~15年くらいから研修医制度が大幅に変わり、最初の2年間は希望の科だけではなく、内科、外科、その他の科をまんべんなく研修するようにカリキュラムが組まれるようになりました。おかげで若い先生たちはじっくり腰を据えて将来を考える時間を得て、学生時代に目指していた科とは違う科に進むことも、まま、あるようです。実際、思い描いているイメージとは違う部分も多いので現実と照らし合わせて進路を考えることはいいことだろうと思います。若い先生たちと接すると、真剣に自分たちの行く末を考えていて好感が持てます。
私は言わずもがな、旧体制の人間でして、学生からいきなり産婦人科へ進まねばなりませんでした。6年生になると臨床実習と言って、白衣を身につけちょっと見学に毛が生えているくらいのまねごとなどはするのですけれど、いかんせん、患者さんには医師としては見てもらえないまま。一度は糖尿病を患っているおじいちゃんから、枕頭台の引き出しから
「嬢ちゃん、うまいものもらったけん、食べんしゃい」
と、まんじゅうをもらって、担当の先生に言うべきか言わないべきか「ちょっとだけ」迷うという事件があったくらい、患者さんも私には脇が甘いのです。医師として患者さんに責任があるとだめですよと言わなければいけませんが、所詮学生、
「ありがとう~」
と一緒にベッドに座らせていただき、一緒に
「おいしいね~」
と食べてしまう私も私・・・そして見つかって二人ともしこたましかられると言う・・・
実は私、学生時代は麻酔科に入ろうと思っておりました。
周囲の人はどう私を見ているか分かりませんが、私自身は対人恐怖症の気があると思っていたことと、オン、オフがしっかりしていた方が女性医師としては働きやすいのではないかという皮算用からそのように計画していたのですが。
いよいよ医学部6年生、12月頃麻酔科の医局に赴き、入局の挨拶をしようと医局長と面談したとき、思わぬところで「考え直した方が良い」と言われてしまったのです。
思うに、そのときルクルートスーツではなく、ピンクのミニスカートで行ったことがやる気のなさ、覇気のなさを感じさせてしまったのではないか、と今なら分かるのですが、遠回しに
「女医はもうこれ以上いらないんだよね」
と言われてしまい、
「考えてもまだ麻酔科がいいようならまたおいで」
とのことで、その日は保留になったのです。まさか、ふられるという衝撃。
とぼとぼと帰途についていたその途中で、産婦人科に入局の決まった私の同級生が通りかかり、
「どうしたの~。僕ね~今日産婦人科に入局して、
お祝いにお寿司を食べに行くんだよ~。一緒にいかな~い」
と誘われ、お腹も空いていたのでそのままついて行き、・・・で、酔った勢いで産婦人科に入局してしまいました。ほんとの話。
勢いと当てつけで入局したものの、最初の2年間はあれこれ慣れないことばかりで
「は~」とか
「ほ~」とか、
毎日毎日はひふへほ五段活用で過ごし、驚きと衝撃の連続です。何をしてもどつかれ、けなされ、でも、石の上にも3年ということわざがあるように、20年が経ち、産婦人科医であることが当然でぴったりしているかのような顔つきになってきました。今になって思えば、現在は手術をすることにやりがいとプライドを感じており、麻酔科医になっていたら、患者さんの枕元で執刀医に嫉妬していたのではないかと思うのですが、そんなこたー学生時代には分からない。
一緒に入局した彼は大学病院で皆に尊敬される、とても偉い先生に出世しており、私を産婦人科に誘ったことなんてとっくの昔に忘れ去っているでしょうが、密かに人生の恩人だと思っている人の一人なのです。
ちなみに、同期の女医はしっかり麻酔科に入局しており、あの「女医はいらないんだよね」は実は、美人には当てはまらなかったのではないかという疑惑が生じております。
ちぇっ。

私が今、学生さんたちや若い研修医の先生方にお伝えしたいことはただ一つ。どこの科に進もうが、諦めなければ道は開けますよ、ということ。内診してもエコーをしても全くな~んにも分からなかった、医者とは名ばかりの私ですら、20年も経てば「生まれながらの産婦人科医」みたいになっているではないですか。継続は力なり。天職は空から降ってくるのではなく、意外に自分で地道に引き寄せるものなのかもしれません。