究極の経済政策? 「ヘリコプターマネー」とは
日銀が国債買い入れで財政資金を供給する「ヘリコプターマネー」が検討されている――。こうした臆測が広がり、この1週間の円安・株高を呼び込んだ。財政規律を損なうとして禁じ手とされている政策が今、なぜ注目されるのか。
返済不要の金を国民に
政府・日銀が国民にお金をばらまくヘリコプターマネー(ヘリマネ)政策に踏み切るとの臆測が金融市場で浮上し、円安・株高が進んでいる。
財政や通貨の信認を揺るがす禁じ手で、政府・日銀は否定するが、緩和相場を続けたい投機筋などがはやし立てている。
ヘリマネ政策とは、中央銀行が生み出した返済する必要のないお金を、政府が国民に配る政策だ。
国が元利払いの必要がない債券(無利子永久債)などを中央銀行に渡し、引き換えに受け取ったお金を商品券などの形で国民にばらまく。
ヘリマネ政策なら国民は将来の負担を心配せずにお金を使える。
だが、弊害は大きい。世の中に出回るお金が増えるのでインフレになりやすくなる。
円安・株高、背景に「ヘリコプターマネー」の臆測(7月14日)この言葉はミルトン・フリードマンが最初に使ったものですが、2000年代に米連邦準備理事会(FRB)理事だったベン・バーナンキやジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授が論じて注目されました。
当時、彼らの念頭にあったのは日本のデフレ不況でした。
その後いったん下火になりましたが、08年のリーマン・ショック以降の先進国の景気停滞を受けて復活します。
ヘリコプターマネーとは何か(1)=6月16日今になって脚光を浴びる背景には金融政策だけでは先進国の「長期停滞」を突破できないとの危機感がある。
昨年11月、国際通貨基金(IMF)はワシントンで開いた金融政策に関する会議の冒頭テーマにヘリマネ政策を取り上げた。
元英金融サービス機構(FSA)会長のアデア・ターナー氏は「日本は5年以内にヘリマネ導入を余儀なくされる」と予言する。彼が考える処方箋は「日銀が保有する大量の国債を政府への無利子・無期限の預け金に切り替える」というものだ。
形の上では国債による大量の借金が帳消しになり、財政再建への道が開かれる。通常の財政支出の選択肢も増えるうえ、消費者の将来不安も高まらない――。
またも「ヘリコプター・マネー」論(5月29日)前FRB議長の来日で臆測
今回の円安・株高は「ヘリコプター・ベン」の異名を取るバーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長が12日に安倍晋三首相と面会したことがきっかけだ。
「日銀には金融緩和の手段がまだいろいろ存在する」。12日午後、首相官邸で安倍首相と30分会談したバーナンキ氏はこう語ったという。同氏は前日には黒田東彦日銀総裁とも意見交換した。
バーナンキ氏はデフレ克服のために「ヘリコプターからお金をまく手もある」との例え話をしたことがある。市場では同氏の動向が伝わる度に円安が進んだ。
「空からマネー」臆測 バーナンキ氏、首相らと会談(7月13日)14日午後には一部通信社が、首相ブレーンが4月にバーナンキ氏と同政策を議論したと伝え、円相場は1ドル=105円台に急落した。
円安・株高、背景に「ヘリコプターマネー」の臆測(7月14日)菅義偉官房長官は13日午前の記者会見で、日銀が国債を買い取って政府に財政資金を提供する「ヘリコプターマネー政策」について「政府が検討している事実はない」と述べた。
一方で「金融政策としてどのような手段が望ましいかは、日銀が市場動向や様々な意見、議論を踏まえつつ検討するだろう」と指摘した。
ヘリコプターマネー「検討の事実ない」 官房長官(7月13日)海外ヘッジファンドなどの短期筋が攻勢に出ている。
英国の欧州連合(EU)離脱決定で息を吹き返し、今週は政府の財政出動を日銀が返済不要のお金で支えるヘリコプターマネー(ヘリマネ)への思惑を材料に買いを膨らませている。
彼らが次の収益機会を探すタイミングで降って湧いたのがヘリマネ観測だった。財政と金融緩和の組み合わせはアベノミクス相場の再来を予感させるだけに、一部の短期筋が格好の材料と判断して資金を振り向けたようだ。
息吹き返した短期筋 英EU離脱決定が契機に(7月15日)安倍晋三政権がデフレ脱却に向けて打ち出す経済対策を日銀が追加緩和で支援する――。そんな財政・金融連携が進むとの見方が海外投資家などの間で広がり、日本の市場環境が改善する背景になっている。
菅義偉官房長官は13日、「(ヘリマネの)検討の事実はない」としたが、海外には金融政策による何らかの財政支援を広い意味でヘリマネとする人もいる。
日銀が国債購入などで財政支出を支えるのは、空からお金をばらまく姿を連想させるからだろう。
経済対策に日銀支援観測(7月14日)財政規律を失うリスク
日銀の黒田東彦総裁は6月16日の金融政策決定会合後の記者会見でヘリコプターマネー政策を改めて否定した。
日本を含む先進各国では財政政策は政府、金融政策は中銀が担う仕組みが確立していると指摘し「現行の法制度の下では実施できない」と述べた。
いまの日銀の金融政策は「物価安定を目的としており、財政ファイナンスではない」と強調した。
日銀総裁、財政再建「着実な取り組みに期待」 ヘリマネ否定(6月16日)全国銀行協会の国部毅会長(三井住友銀行頭取)は7月14日の記者会見で「財政規律が失われるリスクがあり、必ずしも好ましい政策ではない」と指摘した。
日銀は今でも市場から国債を大量に買い取り、間接的に政府にお金を渡している。だが、いずれ保有国債の量を減らすはずで、財政規律はぎりぎりで保たれている。
ヘリマネ政策は出口のない大規模緩和ともいえる。「円の信認を押し下げるどころかたたき壊す」(みずほ銀行の唐鎌大輔氏)との危惧も強い。
円安・株高、背景に「ヘリコプターマネー」の臆測(7月14日)関連企業・業界
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