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「妻から『あなた、たぶん病気だよ』と」緊急搬送、自宅の火事、住民とのトラブル…“限界集落”に移住したYouTuberが明かす、移住失敗までの経緯

文春オンライン / 2023年3月21日 11時0分

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現在住んでいる高知県大川村で撮影したもの 写真=本人提供

「すぐに“あらぬ噂”を流される」教員を辞め、収入は3分の1に…東京から“限界集落”へ移住したYouTuberが語る、田舎暮らしのリアル から続く

「もう限界、引っ越します」

 2022年12月、そんな言葉が大きく打たれた動画が YouTube で公開された。東京から四国の限界集落へ移り住んだ男性が、絶えない住民トラブル、持病の悪化、被災による住居の水没によって他の地域に引っ越すことになった経緯を伝えた動画は、350万回超も再生されて話題に。

 投稿したのは、YouTubeチャンネル「 小さな村で暮らす 」を運営する柳生明良氏(34)。そんな彼に、破ってはならない田舎のルールや地元団体とのトラブル、再移住先での生活などについて、話を聞いた。(全2回の2回目/ 最初から読む )

◆◆◆

田舎特有の暗黙の了解

――2021年11月に四国の限界集落に移住するも、“あらぬ噂”を流されたりして2022年4月に「きついな」と感じたとのことですが、これはパートナーも同じように感じていたのですか。

柳生 夫婦間で意見は一致していました。それでも自然に恵まれていましたし、自分たちでそういう環境を望んで移住してきたわけですから。そこはとどまる要因にはなっていましたね。

――田舎特有の破っではいけないルールや暗黙の了解みたいなものはありましたか。

柳生 ありましたね。そういうものなんだなと思いましたけど、ものをもらったら必ずものを返すとか、遊びにいく時は手ぶらでは行かないとか。そういうルールは教えてもらいました。で、実際にそれをやるとよい形で関係性を維持できていましたから。

 なにかいただいたり、なにかお手伝いしていただいたら、東京のちょっと高級なお菓子を取り寄せてお返ししました。そこは感謝の意ですから当然ですけどね。

 これは挨拶の話になりますけど、引越した時も東京のお菓子を渡しました。20人分くらい用意して、ちょっと力のある方、お世話になるだろうなという方のお宅に直接うかがって渡しました。礼儀正しくしていると、いろいろよくしていただけるので。

高齢化が進んだ集落

――逆に柳生さんのほうでも、他の住民の方が困っていたら駆けつけたりしましたか。

柳生 台風が直撃したことがあって、土砂災害に遭った民家とかには一番に飛んでいって、片付けとかを率先してやってました。

――動画を拝見すると、お手伝いしてくれる方は年配者が多いような気がしました。

柳生 住民の60%が60歳以上で、メインになっているのが70代、80代の方々で。かなり高齢化が進んだ集落ではありました。30代、40代は、ほぼいなくて、その年代の方々は市街地のほうに移ってしまっていて。

――高齢化が進んでいても、住民のみなさんはお元気なのでしょうか。

柳生 山を歩いて生活してますから、もう足腰が違うんです。60代じゃまだ若い、70代はまだまだ労働力、80歳になっても畑仕事をやっているという感じで。

 みなさん、食に関しては畑や猟で自給自足されていて。作った野菜を売ったりもしていました。あと、地域内に市内の子どもたちを山村留学させる寮とか働き口も何ヶ所かあったので、そういったところで働いている方もいました。

「僕たちも田舎に染まってるな」

――東京にいた時と比べて柳生さんの中で何か変わった心境などはありましたか。

柳生 これは自身の問題になるのですが、自分を過信する、力を見誤ってしまうのではないかと危惧していました。どうしても東京にいたことで、情報感度が圧倒的に高くなってしまうんです。なので、YouTubeで予想よりも早く目標に到達してしまったりすると、凄まじい万能感みたいなものが溢れてくるんですよ。

 これが東京にいたら、僕なんかよりも上のすごい人たちがいっぱいいるから、そんなこと思いもしないんですけど。人の少ない地域にいると、そういったことで鼻高々になる危険性が出てくる。井の中の蛙以下になってしまわないようにと、それだけは気をつけていました。

 あと、他の住民のことを覗くまではいかないけど、気になってくるんですよね。「○○さんちの車がないけど、どこに行ってるんだろう」「たしか、今日は○○さんの家に行ってるよ。なんの話ししてんだろうね?」なんて会話を夫婦でしちゃっているんですよ。これには「僕たちも田舎に染まってるな」って。

――YouTubeをやっていることで何か言われたりすることは?

柳生 地元のある団体から、YouTubeが地域のPRになっていないと言われました。動画を見ても、この地域のことだとわからないという。

――そのあたりがYouTubeでも話していた移住失敗につながるわけですね。

柳生 自然に恵まれてはいますけど、突出したなにかがある地域ではないんです。だから、地域を取り上げるんじゃなくて、誰々が住んでいる、何々を作っている、といった感じでブランディングしないと埋もれてしまうなと考えたんです。

 そこでまずはYouTuberとして自分の影響力をつけて、「この人はいったいどこに住んでいるんだろう?」と興味を抱いてもらえるようにしてから「ここは〇〇です」と出したほうが、インパクトがあるだろうって。

――なるほど。

柳生 それを説明していたんですけど、そういった経営的な視点が折り合わなくて。それでその団体とすれ違いが起きるようになってしまいました。「こいつは自分のことしか考えてない」と捉えられてしまったようで、そこから「柳生が協力隊の仕事を放棄した」みたいな噂が広まるようになりましたね。

 それが2022年の4月か5月あたりです。YouTubeの収益化ができているのを行政の方も把握していて、ちょっと評価されていたんですけど。そういういざこざを筆頭に、いろいろとあって「これはきついかも」と。

 でも、僕の場合はあくまで一例で。もちろん向こうにも言い分があると思いますし、どちらが悪いとかではなく、合う合わないというところが大きかったと思います。

喘息による呼吸困難で緊急入院

――その後、ストレスから柳生さんは倒れて入院していますよね。

柳生 2022年10月に喘息による呼吸困難で倒れたんですけど、そこがストレスのピークでした。倒れる1ヶ月くらい前に不眠になって、1日1時間も眠れないような感じだったんです。それで「ああ、寝られそう」と思ったら赤ちゃんが泣きだして寝れなくなって、ついつい大きな声で怒ってしまったんです。上の子たちに対しても「疲れて眠くて仕方がないのに絡んでくる」と厄介者のように感じて、優しく相手することができなくなってしまって。

 そうしたら、妻から「あなた、たぶん病気だよ」と言われました。ちょっと自分でも調べてみたら「これはうつ病じゃん」と思って。家族と平穏に暮らしたくて移住したはずなのに、家族に迷惑をかけていたら本末転倒だなって。それで「もう限界、引っ越します」と。まずはお世話になっていた人たちに「ごめんなさい」と言って、その後に行政側の支所長にも話をしました。

――地域で仲良くされていた方々は、柳生さんの決断に対してどのような反応を。

柳生 「早く引っ越したほうがいいよ」という感じで、引き留められることはなかったです。住民の方からも以前辞めていった方たちもやはりトラブルが原因だったという話を聞いたので、私の前にいた元隊員の方に連絡を取って「なぜ地域を離れたか教えてもらってもいいですか?」と聞いてみたんです。

 いろいろ無理難題を押し付けられたり、地域内の対立構造があったがゆえに双方どちらの言うことが正しいのかわからなくなって病んでしまったと。田舎と都会というバックグラウンドの違いもあってか、やり方や考え方の溝を埋められず、だんだんと大きくなってしまって最後には取り返しがつかなくなるということはよくあるみたいです。

自宅が火事に巻き込まれて

――そして、とどめを刺すとばかりに柳生さんのご自宅は火事に巻き込まれてしまうんですよね。

柳生 あれは、次の移住先に引っ越す5日くらい前に起きたんです。家族そろって晩ごはんを食べていたら、別の方が暮らしている2階の部屋が火事になって。僕らはまったく気づいていなくて「今日は換気扇の吸い込みが悪くて、部屋のなかがモクモクしてるな」くらいにしか感じてなくて。

 お世話になっている方が気づいて、消防車を呼んだ後に電話してくれたんです。「柳生さん、火事だから出てきなさい!」と言われて飛び出したら「メチャクチャ燃えてるじゃん!」って。「CGかよ」ってくらいに燃えてましたね。地域の大多数の方や消防団の方が集まって消火してくれましたけど、家財道具もなにもかもビショビショになってしまって。

 火事に巻き込まれるなんて、目に見えない力で出ていくように動かされているんじゃないかって。精神的に出ていかなきゃいけないところまで追い詰められていたけど、物理的にもそうなると思いませんでしたから。

――火事に背中を押されて、再移住を決意したと。

柳生 家族全員で「住むところがないんだもん。引っ越さないとしょうがないね」って開き直りました。お焚き上げだなって。

移住がしやすい地域の条件は?

――前の集落を離れて、現在はどちらにお住まいに?

柳生 高知県の大川村です。お祭りなどイベントが何回かあったので、遊びに行くのも兼ねて2022年の9月あたりから下見をしていました。

 子どもが多いこともあって、保育園も給食費も無償で、無償の学童クラブもあったりと、子育てをめぐる環境がいいことも大きかったですね。

――人口は?

柳生 362人です。

――以前の限界集落が100人以下でしたが、ある程度の人口数も移住のしやすさに繋がりますか。

柳生 人口とパワーはイコールだとは思います。それなりに人口の多い地域に行ったほうが、僕のような経験をすることは少ないんじゃないかと。あと、人口が多くなくても移住者が定住している地域は、移住しやすい条件が揃っている証なので、そういったところで移住するのも無難ですね。

――大川村でも、地域おこし協力隊として活動を?

柳生 完全にフリーでやっていて、YouTubeの収益を頑張って立てていこうと開業届も出しています。

 今度は妻のほうが協力隊の隊員になっているんです。制度的には協力隊を使っていますけど、役場のほうで移住コーディネーターという役職を用意していただいて、移住や空き家に関する業務を役場の上司と連携して取り組んでいます。

 僕がYouTubeをやっていることは大川村の方々も知っていますので、ボンボン動画をアップすると警戒されてしまうかなと。なので、今度は慎重に進めていこうと考えています。妻を通じて、役場の推進課の課長さんや村長さんに許可をいただいて動画をやらせてもらっています。空き家も用意していただいたので、その片付けから再スタートしました。

それでも地方移住をやめなかった理由

――それなりに人口の多い地域に住んだほうがいいとのことですが、地方在住を考えてる人に「これだけは気をつけてほしい」というものがあれば教えてください。

柳生 一番大事なのは礼儀正しさだと思います。挨拶をする、ですね。どんな人間が来るのか、地域の人は気にします。僕も移住して住んでいる側になると、新しくやってくる人が気になりますから。しっかり礼儀正しく挨拶をして、自分がどんな人間かわかってもらうのが重要だと思います。

 これは私もYouTubeのコメントでいただいた指摘でもあるんですけど、最初から自己主張しないほうがいいのかなって。「自分はこの地域のここを変えたいんです」みたいなものを抱いていても、その地域には住んでいる人が大事にしてきた伝統や文化があるので。そういったところを侵害しないように、自分のやりたいことを実現していくというバランスも求められるんじゃないですかね。

――大変な思いをされたのに地方移住をやめなかったのは、なぜですか?

柳生 いま電気代やガス代が高騰していますけど、そうした経済面での不安ですね。お金の面で恐怖を覚えながら生活するのが一番のストレスで。「これからなんの値段が上がるんだろう?」って考えながら暮らすのは、ちょっとしんどいなって。

 薪風呂や釜戸でご飯を炊いたり、可能な限り自給自足をして、その魅力を発信して収入を得るのが、自分としては最も理にかなった生活なのかなって。ほんと、満員電車で通勤するのはもうこりごりなんで。

 柳生明良氏が移住していた自治体の担当者にも話を聞いたところ、「元地域おこし協力隊員がこのような動画を投稿したことや、ご本人と家族が移住を断念したことは残念に思っています。(動画の)内容については事実もありますが、事実でないこともあり、事実を歪曲している部分もあると思います」と話す。また、移住を断念するまでの時系列に関しても、「認識が違う部分がある」と話した。

 

 今後はトラブルを防ぐために、地域おこし協力隊を募集する際は事前により具体的な業務内容を説明し、地域おこし協力隊員と地域の住民が直接の連絡や指示をすることは避けて、間に自治体が入ることを住民にも説明したという。

(平田 裕介)

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