蓼食う虫の記

蓼食う虫が虫の居所にまかせて綴った人生観・世界観・国家観と珍談の記録

最高の自分を引き出す法

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昨年来,いつ書店を訪れても,ベストセラーの陳列棚に高く積まれているのが 『スタンフォードの自分を変える教室』著者は,アメリカの若くて魅力的な女性心理学者,ケリー・マクゴニガル

こんな表紙の本ですから,ご存知の方も多いことと思います。



世界的ベストセラーで,日本でも50万部を超える売れ行き。食指が動いて,何度か手にとってみたものの,今ひとつ買い求める決心がつかず見過ごしているうちに,続刊が出ました。

今度のタイトルは,『最高の自分を引き出す法』(スタンフォードの奇跡の教室 in JAPAN)。DVDブックです。今年2月13日に東京・新宿で行われた特別講義をDVD化し,その内容を書物にしたもの。DVDなら画像を見ながら耳で聞くことができるので,これはいい! 読む手間が省ける,とついつい衝動買いしてしまいました。



ケリー・マクゴニガルとは,米のスタンフォード大学「意志力の講座」を担当する心理学博士。専門は健康心理。心理学,精神科学,医学の最新の研究成果を応用し,個人の健康幸せ成功人間関係の向上に役立つ実践的な戦略を提供する講義は絶大な人気を博し,数々の賞を受賞。各種メディアに広く取り上げられています。

自分を振り返ってみれば分かるように,誰しも自分の決めたことを貫けなかったり,物事を先延ばしにしたりという,意志の弱さと闘いながら生きているはず。私など,まさにそう。「三日坊主」という言葉は,私のためにあるようなもの,といつも反省しています。

昨今,書店に行けば,「‥‥上達法」「‥‥アップ術」といった自己啓発のノウハウ本が並んでいますが,私に言わせれば,それは才智に恵まれた一部の“成功者”の体験談。必ずしも科学的・心理学的に体系立って検証された道理とはいえず,部分的に的を射た点があっても,所詮“一つ見方”に過ぎないと思われてなりませんでした。

ところが彼女は,心理学や最新の脳科学の知見を披露しながら,人間が潜在力として持つ「意志力」を引き出す訓練法を,説得力のある斬新な語り口で述べています。一連の書物がヒットしているのは,こういった科学的アプローチによる自己啓発書という切り口が受けたのでしょうね。

私が実際に聴いてみて,何よりも驚嘆したのは,その明快で卓越した口調。原稿やレジメを使わず,視線は終始,受講者に向けたまま。それでいて,冗長な表現や無駄な言い回しが一切なく,充分に推敲された文章のように整然とした話の展開。もちろん,アメリカ人らしくユーモアも交えて。ほとほと感心してしまいました。よほど明晰な頭脳の持ち主なのか,それとも何度も繰り返しているうちに完璧に習熟してしまったのか。おそらく,その両方なのでしょうね。

それではさっそく,その講義内容のポイントを紹介してみましょう。テーマは,書物の標題のとおり,『最高の自分を引き出す法』



◇人の脳は,どんな時に「快楽」に負けるのか

神経科学による最新の知見では,脳は2つあると考えた方が分かりやすい。つまり,脳には2つのモードが存在し,この2つはしょっちゅう切り替わっている。モードが切り替わると,まったく別の性格が表れ,正反対の意思決定を行う。

一つは,「衝動的な自己」目先の利益,手軽な快楽にしか興味がなくなり,辛いことを避けようとする。もう一つは「コントロールされた自己」。長期的な目標を見失うことなく,自分が他人との関わり合いの中に存在することを認識し,客観的に物事を調和させることができる。人は「衝動的な自己」の状態にある時,快楽に走ってしまう。

◇意志力には3つの力がある

意志力とは,大きな視野で物事を見,困難に出合っても悔いのない行動をとる力。脳の「前頭前皮質」が意志力を司っており,その中に3つの領域がある。

①「やる力‥‥前頭前皮質の左側の部分。この部分が働くことによって,困難なことに対してもやる気が起きる。

②「やらない力」‥‥前頭前皮質の右側の部分。この部分が働くことによって,誘惑に抵抗し,「ノー」という力が出る。

③「望む力」‥‥前頭前皮質の左右の中間の一部。この部分が働くことによって,自分が本当に望んでいるビジョンを思い描き,見失うことのない力が発揮される。

◇「最高の自分」を引き出すために知っておくべきこと

ではそのような,「衝動的な自己」の状態に陥ることなく,意志力を高めるためには,どうしたらよいのか。自分自身も驚いているが,その方法が科学的に分析・証明された。これを理解するための研究が「意志力の科学」で,スタンフォード大学で自分が担当している講座。その中で,特に気に入っているのが,これから述べる5つの考え方

(1)意志力を発揮できる生理学的状態

意志力というのは,持っている人と持っていない人がいるといった性質でもなければ,美徳でもなく,脳と体で起こる現象。そんな生理的な状態,身体的反応が,実際に存在する。

命が危険に晒された場合のように,脅威や不安などの心理的ストレスを感じると,脳と体には「闘争・逃走本能」あるいは「ストレス反応」と呼ばれる本能が表れる。心臓の鼓動が激しくなり,呼吸も荒く早くなる。この状態の時,「やる力」「やらない力」「望む力」を司る前頭前皮質の活動は停止され,逆に,アドレナリンコルチゾンなど,闘争・逃走本能に役立つストレスホルモンが放出される。

しかし幸い,人には
闘争・逃走本能とはまったく逆の,休止・計画反応」と呼ぶ本能も備わっている。この状態の時は,心拍数が下がり呼吸が遅なったりする。

たくさんの事例研究や実験を行った結果,誘惑を目の前にした時に,脳と体に「闘争・逃走本能」(ストレス反応)が起こるか,
「休止・計画反応」(意志力の反応)が起こるかを見分けることによって,その人が意志を貫けるかどうかを予測できことが判った。

従って,肝心な時に誘惑に負けたくないと思ったら,わざと呼吸のペースを遅くするなどして,ストレス反応から脱出して,意志力を発揮すればよい,といえる。

(2)意志力は筋肉のように鍛えることができる

更に科学的に判明したのは,睡眠を充分とっていないと「望む力」を司る脳の部分が働かなという事実。寝不足になると衝動を抑えにくくなるので,冴えている自分になりたいと思ったら,脳を休めという単純な方法が効果的。

体のケアストレス緩和などによる心身の回復も,意志力の保有量を増やす効果がある。

たいへん衝撃的だったのはイエール大学の研究。血糖値のレベルが意思決定に影響を与えるという事実。数々の実験によれば,血糖値を操作する(血液中のインスリングルコースの濃度を変化させる)ことで人の意思決定をことごとく操れることが判明した。前頭前皮質は血糖値が上がると活発になり,血糖値が下がると活動が鈍くなることがその理由。そして血糖値が下がると活発になるのは,脳の中央の部分で,これは「衝動的な自己」と結びつく。従って,血糖値があまり低くならないようにすると,意志力が高まる

また,意志力と自己コントロールを司る脳の部分は,学習という行為に最もよく反応するので,筋肉と同じようにトレーニングで強化できる。何か難しい大きなことを始めたりする時,あらかじめ段取りと方法を知っておき,一気にやるのがよい,と考えがちだが,実は違っていた。目標までの道のりをできるだけ小さなステップに分け,一歩一歩しっかり取り組むのが最もよい。体を鍛えるのとまったく同じ。

(3)将来の自分の姿を考える

スタンフォード大学で「現在の自分」「将来の自分」とのつながりについて調査研究した。将来の自分なんてまるで赤の他人,別人と捉える見方。反対に,将来の自分を今の自分とまったく同じと捉える見方。この両者が重なる中間領域には,どちらのウエイトが高いかによっていろんなパターンがある。どのパターンを選ぶかが,その人の意思決定に深く関わっていることが判った。

理想的には真ん中のパターン。つまり,将来の自分を身近に感じ,つながっていると感じる状態が最もよい。将来の自分のためになることをしようと思う一方で,変化も可能だという楽天的な心構えでいれば,新しいことにも積極的に挑戦できる。

自分が選択することの積み重ねが将来の自分をつくるのであるから,良くも悪くも自分を大きく変える可能性がある。従って,何をするにしても,自分は将来どうありたいか,今のような選択を続けて行ったら将来どう感じるだろうか,ということをしっかり考えることが大切。

(4)意志力は他人からの影響も大きく受けている

ハーバード大学の研究者の画期的な論文。意志力とは自己コントロールだけの問題ではなく,他人からの影響も受けているという。例えば,友人の一人が太ると自分も太ってしまう可能性が著しく増加する。夫や妻,その他の家族など大切な人が痛い思いをすると,自分も同じような感覚に襲われる。

「望む力」を司る脳の部分は,目標価値観を覚えているとともに,自分はどういう人間かという自己認識を行う領域でもある。興味深いことに,私たちが自分にとって大切な人のことを考えている時には,同時に自分のことも考えており,脳のこの領域が活発になる。つまり,自分の大切な人が何か変化を起こすと,脳が自動的にその変化を自分の変化として取り込んでしまう,ということ。

また,人間の脳にはミラーニューロンと呼ばれる細胞が数多く存在し,この働きによって,私たちは他人の意志力に感染したり,自分の意志力を他人に移したりする。だから,自分が社会的な環境からどれだけ影響を受けているかについても注目すべきで,特に自分がお手本にしている人目標・価値観を共有している人のことを考えることは,意志力を強くする上で非常に効果的である。

(5)自分への思いやりをもち欲求・ストレスを受けとめる

失敗を恥じたり,罪悪感を抱いたりすると,脳の前頭前皮質が不安・欲求・衝動を生み出す脳の領域を統制できなくなり,意志力が奪われてしまう。反対に,自分を許し自分に思いやりを持てば,それとは逆のことが起こる。葛藤や苦しみを取り除くことができなくても,自分自身の友達になったつもりで受け止めると,冷静で望ましい行動ができる。この時の脳は,欲求・ストレスに関連する脳の領域の活動が鈍くなっており,更に,その領域と,欲求に反応して行動を起こさせる脳の領域との連絡が途絶えているからである。

従って,自分を批判したり恥に思ったり,罪悪感を抱いたりするよりも,自分に対して思いやりを持った方が,はるかに自己コントロールを発揮できる。

そんな思いやりを持つための実践的な戦略「思いやりの科学」著者の担当している講座の一つ)では,次の3つのステップに従って,自分自身との対話を行行う。

気を紛らわしたりせずに,ストレスや苦しみに注意を払う

こんなふうに悩んでいるのは自分一人ではない,ということを思い出す

大切な人に対しだったら,どんな言葉をかけるか,と考えてみる


講義内容のポイントは以上ですが,その要点を更に簡単にまとめてみます。

まず,自分の体に目を向け,睡眠時間を増やしたり,体のケア適当な運動をやったり,呼吸を遅らせる(深呼吸!)といった単純なことを行ってみる。また日頃から,こうなりたいと思う自分の将来の姿を想像する。別の方法としては,誰かにサポートを頼んだり大切な人との結びつきを強化する。そして,失敗したり,思い通りにならない場合でも,自分を許し,自分に思いやりを持つ


こうした彼女の理論(主張)を,私なりに一言で言い表すと,要は「体調を整えて心と体にゆとりを持ち,将来の夢を忘れず,大切な人との絆を強くするとともに,自分に対しても思いやりを持てば,脳と体の働きから自ずと,最高の自分を引き出すことができる」ということなのでしょうね。私の経験からも,大いに納得できます。

こうしてみてくると,科学的(実証的)アプローチによる理に叶った内容はもとより,読み物としても実に面白い。これなら現実的にも,やる気アップに相応の効果があに違いないと感じました。心理学も,実際の“人の救済”に結構役に立つのだなぁ,と認識を新たにした次第です。

とはいえ,ちょっと気になった点もあります。

話のすべてが真に科学的といえるのかどうか,まだ「仮説」の域を出ていないものもあるのではないか。もう少し検証・実証が必要だと感じました。同時に,日本においてもこのような研究をどんどん進めるべきだと思いました。

遺伝的な資質の影響をもっと配慮する必要があるのではないか。確かに誰でも筋肉を鍛えて強化することは可能だと思うが,それは以前の自分と比べてのことであって,もともとの筋肉自体は持って生まれた資質の影響を受けているはず。同じことが意志力にもいえるのではないでしょうか。

確か心理学においても,その人その人で性格が違っていることを認めているはず。だとしたら,各々の性格に応じて,意志力を高める方法に違が出てくるのではないか。この「意志力の科学」がもっと進化すれば,いずれこのような議論もなされるのかもしれませんが。
 
皆さんは,いかがでしたでしょうか?






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