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この作品「永遠の愛なんて、俺はまだいえない」は「美しい彼」「ひらきよ」のタグがつけられた作品です。
永遠の愛なんて、俺はまだいえない/yuu_uu_の小説

永遠の愛なんて、俺はまだいえない

3,957文字8分

寝ている平良にイタズラしたくなっちゃった清居です。

2023年2月19日 10:06
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俺が仕事から帰ってくると、たいてい平良は待ち疲れて寝ているか、俺が出演中のドラマを食い入るように見つめているか、どちらかだ。今夜は前者だった。

同棲し始めた頃はそうでもなかったけれど、平良も平良で夜勤の工場バイトを始めたり、野口さんのアシスタントとしてこき使われたり、大学にも行っていたりと忙しい。そのうえ「清居の健康管理は俺にとっての宿命だから」とかなんとか気持ち悪いことを言いながら、食事の準備にも魂を注いでいる。

平良が疲れて寝ていたって、「俺のために起きて待ってろよ」なんて思わない。ましてやチラリとそんな独占欲がよぎったとしても、直接口にするだなんて俺のプライドが黙ってない。それなのに、コイツは俺が帰るのを起きて出迎えることが、王への忠誠の証だとでも思い込んでいるようだ。

そして、いざ眠り込んでしまっていた自分に気づくと、まるで大罪を犯したかのようにひれ伏しながら謝ってくる。もはや、その一連の流れが定番化しつつある。

さて、今夜はどうやって起こそうか……。いや、起こさないでいたほうがいいか。けど……。

以前、またもやダイニングテーブルに突っ伏しながら眠り込んでいる平良に対し、俺なりに気を遣って起こさないでいたことがあった。体のことを考えたら、すぐにでも起こして「寝室で寝ろ」と促したほうがいいのはわかっているのだが、起こした瞬間に平身低頭の勢いで謝られ、「すぐにご飯にする!? 食べられるように準備するね!」と言いながらキッチンへ飛んでいってしまうのが常。せっかくの気遣いを発揮する暇さえ与えない。

気まぐれの優しさを発揮したあの夜、平良を起こさないまま適当に食事を済ませ、入浴し、あとは寝るだけ……といったタイミングでようやっと「おい、平良」と声をかけた。そっとまぶたを開いた平良は寝ぼけ眼のまま「え……ここは……い、いま、なんじ?」とぼんやりした声で訊く。23時過ぎ、俺はもう食事と風呂を済ませた旨を告げると、いますぐ自害せんばかりの勢いで猛烈に落ち込み、数日は引きずってしまった。だから、ここで起こしておかないと、また後々めんどうなことになる。

目の前には、両腕を枕にし、見事なまでに寝息を立てている平良がいる。

すうすうと漏れる呼吸音が、静かなダイニングに響く。たゆたうように、一定のリズムで刻まれるそれは、聞いているこちらまでも眠りの世界へと誘い込むような安寧さに満ちていた。次第に置き時計の秒針の音が重なり、痛いほどの静寂のなかで輪郭を濃くしていく。

ダイニングテーブルには、ガスレンジに置かれた土鍋。二人用の小鉢と箸。コースターの上にコップが伏せて置かれており、すぐにでも夕食を摂れる準備が整っていた。

気持ちよさそうに寝入っている平良を起こさないよう、そっと、そっと、真横の椅子を引き、腰掛ける。そのまま、じっと平良を見つめる。こちらからは、平良の伏せた頭、こちら側に向いた顔が見える。

「………………ひら」

あまりにも寝入っている恋人の姿を見ていたら、むくむくとイタズラ心がわいた。

思い返してみれば、俺が平良のことを一方的に見つめていられるシチュエーションなんて、そう多くはない。

高校生の頃から、俺は見つめられる側だった。平良から注がれる痛いほどの視線を意識したときにはもう、見つめる側と見つめられる側の、言ってしまえば主従関係のような構図が、もう仕上がってしまっていたと言える。

目覚めている平良をこんな風に見つめようものなら、すぐにドギマギしだして、せっかくの隠れイケメンっぷりを分厚い前髪の裏に隠してしまう。恋人に見つめられるなんて、そう珍しい状況でもないだろう。それなのに、平良はいつまで経っても、甘い空気の始まりに慣れない。

閉じられたまぶた、律儀に象られるまつげ、通った鼻筋、わずかに開いた口元。

ここぞとばかりに、じいっと見つめてやる。やっぱり、コイツの顔は悪くない。ちゃんと髪型をセットして、それなりの服を着せてやれば、思わず惚れ直すほどに見違える。自分がどれだけのポテンシャルを持っているか、この男は自覚しようともしない。

まあ、だからこそ、平良は平良なんだけど。

「ひら…………」

起きることを期待しているのか、いないのか。自分でもわからないまま、極限まで顔を近づけてみる。なぜか平良は、寝ている間にキスしようとすると、たちまち気配を察知して目を覚ましてしまう。こちらとしては、惜しいようなそうじゃないような、いやでもやっぱり惜しい気持ちにさせられる。

だんだんと、距離がゼロに近づく。鼻の先と先が触れ、互いの息がわかるほどに接近する。

あ、もしかしたら。

そう思った瞬間に、唇に届いた。ちゅ、と軽い音が鳴る。静寂な空間で、平良の寝息と秒針の音くらいしか聞こえなかったなかで、生まれたその音はひどく甘美に聞こえた。

「…………ん」

一度、唇を離し、数秒だけ様子をうかがってから、また口付ける。今日はよほど、疲れているのかもしれない。

こうなったら、起きるまで好き勝手してやろう。

イタズラ心にさらに火がついたところで、平良の両まぶたが重そうに持ち上げられるのがわかった。わかったけれど、キスは続行した。

「ん、……っえ、き、きよ、…………んん」

またもや飛び起きようとする平良を、抑え込むように両手で顔を挟んでやる。恋人にキスされて目覚めるなんて、どこかの眠り姫のようだ。

夢うつつの世界からようやく現世に帰ってきつつある平良は、最初こそ俺の両肩に手をかけ咄嗟に引き離そうとしたけれど、こちらがテコでも動かない様子を察すると、次第に諦め力を抜いた。上唇を食んだり、舌先をつつき合ったり、遊ぶようなキスに戸惑いながらもついてこようとする。

胸の奥が、じわりとあたたかくなる。その熱は温度を保ったまま、身体中に浸透していく。口元から鳴る水音は、小さくなったり大きくなったりしながら、互いの聴覚を満たしていく。

どれくらいそうしていただろう。もう気が済んだ、とばかりにチュッと音を立てて舌を吸い、ようやく解放してやった。さっきまで眠り込んでいた平良は、起き抜けのキスに相当驚いたようで、軽く息を荒げながらまだぼんやりした目をしている。

「き、清居、帰ってたの」
「おう。さっきな」
「お、お、お、おかえり」
「ん」
「あ、あの、な、な、な……なんで、その……」

平良の吃音を聞くのは久しぶりだ。幼い頃からの吃音症は、年齢を重ねるにつれ軽くなり、とくに自分とふたりでいる間は滅多に出ることはなくなった。しかし、緊張したり、極度のストレスに見舞われると、今でもたまに出るという。

「どうした」
「い、いま、その、な、な、なんで」
「キスしてたのかって?」
「あ、う、うん……」

おかしい話だ。恋人同士なんだから、前触れのないキスをしたっていいだろう。そういった機微が、まだまだ平良には通じない。こちらとしては、おおっぴらに口では言わないまでも、欲しいと思ったときに求めてくればいいと思っている。

それなのに、まだまだコイツは、俺に対して順序だの段取りだのを敷いているんだ。

「俺が」言いながら、平良の顎に触れる。ピクリと反応する。「理由もなくキスしたら」親指と人差し指を使って、クイと持ち上げてみる。親指で平良の下唇に触れながら「ダメなのか」そう問いかけると、平良の目元はたやすく熱を帯びた。

そうだ、その目だ、その目に俺は持っていかれたんだ。幼い頃、何万という人がたった一人のアイドルに熱狂する姿をテレビ画面越しに見て、強烈に憧れた。あんな風に、狂おしいほどの視線の束に焼かれたい、その制御しきれない欲望を、目の前の男はたった一人で満たしてくれる。

いつまでもその目で俺を見てくれ。

もう一度「ダメなのか」と訊いてみる。胸の中にひらめいたイタズラ心は、まだ消えていない。目元を赤くしたまま「…………ダメじゃない、けど」と平良は言う。けど? けど、なんだ。

「ダメなわけない、けど、その……こ、心の準備がないと、おかしくなっちゃうよ」

そうやって、困ったように顔を伏せる平良。その姿を見て、イタズラ心はようやく落ち着いた。俺のことをおかしくさせるコイツを、たまには困らせてやらないと気が済まない。

王に忠誠を誓う従順な家臣のようでありながら、隠れネガティブ俺様気質も併せ持つ平良。寄せられた眉根と、今にも泣き出しそうに潤んだ目元は、俺を十分に満足させた。

「おかしくなれ」
「えっ」
「俺のこと考えて、もっともっとおかしくなれ」

ふたたび両手で平良の顔を包み、真正面からじっと見つめそう言ってやったら、ますます顔を赤らめながら「今日の清居はいつにも増して刺激的すぎる……」とぶつぶつ呟いた。

そのまま「こんな幸せな毎日が続いたらこの命は明日にでも」だの「王の気まぐれにさえも柔軟に対応するのが一兵卒の心得だけど、でもさすがにこんないきなりは」だのいつもの平良ワールドに入っていきかけたので、腹が減った! の一声で現実に呼び戻してやった。

こんな幸せな毎日。

それは、何も平良に限ったことじゃない。俺にとっても、この穏やかな日々は何にも代えがたいものになっている。永遠の愛なんて、俺はまだいえないけれど、それでも。それでも、この幸せな瞬間を積み重ねていくことが、二人の未来に繋がっていくと信じたいから。

慌ててキッチンに飛んでいく平良を見ながら、思う。

こんな日が、ずっと続けばいい。

「清居、明日は休みだからビール飲む?」

そう問いかける、恋人の声がする。

コメント

  • mio

    このアイコンで分かって頂けますかね(笑) シブでも見付けちゃいました☺ とうとう創作までして下さるとは‼ 嬉しい限りです ドラマでは未遂に終わってしまった「うたたね平良にチューするきよたん」が見れてとっても幸せでした ありがとうございます 次作も楽しみに待ってます🥰

    2月20日
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