石巻500億、気仙沼200億…被災自治体が巨額貯金のワケ

編集委員・石橋英昭
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 【宮城】震災後、大量の災害公営(復興)住宅を建てた自治体で、国の手厚い補助金が年々、基金の形で積み上がっている。入居者の大幅減や将来の出費増を見込んだ数十年先のシミュレーションでも、残高に余裕があるとする所もある。人口減に不安を持つ被災自治体にとって、ありがたい財源になっている。

 復興住宅は被災地全体で約3万戸が整備された。既存の公営住宅戸数の数倍の住宅を抱えることになった市町が少なくない。今後、大規模修繕や解体費用に多くのお金がかかる。

 一方、自治体にはしばらくの間、入居戸数に応じた補助金が入る。当面は家賃収入だけで維持管理をまかなえるため、将来に備えて基金にした所が多い。

 一般に県や市町村が建てた公営住宅では、安く抑えた家賃と相場家賃との差額の原則50%を国が20年間、自治体に補助する制度(家賃低廉化事業)がある。震災の復興住宅では、補助率が当初5年間は8分の7などと優遇され、相場家賃も建築費高騰で高く設定されている。結果的に極めて手厚い支援が、建ててから20年間続く仕組みだ。

 別の制度も合わせた2021年度の補助金総額は224億円。自治体には家賃収入のほか、対象入居者1戸あたり100万円近くが入る計算だ。

 被災地最多の4456戸を整備した石巻市には、毎年40億円ほどが入り、基金残高が20年度末で約201億円に達した。市は約30年かけて返す予定だった建設の際の借金(公債)を一括償還することを決め、昨年12月議会で154億円を返す予算措置をとった。

 議会に示した財政シミュレーションによると、償還後も基金は年々膨らみ、38年に538億円となる。その後補助金がなくなり、入居者減で家賃収入も減ることから、基金を取り崩して維持管理費や不要になった住宅の解体費にあてる。市は集合住宅の耐用年数(70年)となる89年度時点で、入居は1400戸まで減るが、基金は48億円残ると試算した。

 市住宅課は「人口減がどれだけ進むかなど不確定要素が多い」とした上で、基金の使い道について「高齢化が進む公営住宅の見守りなど、福祉的な施策にもあてたい」と話す。

 気仙沼市は2087戸を建て、20年度は26億円が補助された。石巻市同様に昨年、81億円を一括償還。基金残高は35年に244億円に上る見込みだ。

 同市は人口減を厳しく見積もり、入居戸数は45年には217戸まで激減するとシミュレーション。その上で、入居者を集約して空いた住宅を早めに解体できれば、基金を黒字のまま維持できると試算する。

 山元町は戸建て住宅を中心に490戸を整備した。20年度末で約30億円あった基金は、37年度末には52億円に膨らむ。

 その後の建て替えにかかる費用を差し引いても、基金には余裕があるとして、町は住宅関連以外に使途を広げる検討を進める。移住・定住促進事業やまちづくりの財源にあてる案は12月議会で否決されたが、あらためて基金条例の改正案を出し直すという。

 復興事業でつくられた公共施設が、いずれ自治体財政の重荷になると報じられがちだが、復興住宅に関しては様相は異なるようだ。

 ただ、被災自治体が巨額の「貯金」を持つことには疑問の声もある。気仙沼市の今川悟市議は「国が復興債という借金もして確保した復興財源。人口減に向かう自治体は行財政改革も迫られる。ためておくことが国民の理解を得られるか」と指摘する。

 仙台市などは基金をつくらず、家賃低廉化補助などを一般財源に入れている。(編集委員・石橋英昭

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