日本国内でもオミクロン感染例が確認されるなど、新しい変異ウイルスへの注目が集まっている。
感染性(感染しやすさ)や伝播性(広がりやすさ)などが高くなっている可能性があるため、引き続き注視が必要であることは間違いない。
しかし、聖路加国際大学QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは「パニックを引き起こすような情報は出ていない」「重要なことは、今できる対策を行うこと」と指摘する。
今後注意すべき点はどのようなポイントか。そして、今やっておくべきこととは何か。
これからの季節、ウイルスにとって「好都合」
ーー坂本さんは12月2日にTwitterでオミクロンの動向ばかりに注目が集まる現状に釘を刺しつつ、「使えるものは使って防御しないと」と発信していました。今回こうした発信をしたのはなぜですか?
現在、オミクロンについて報道が過熱しています。この変異ウイルスには世界中が注目していますし、報道が多くなるのもある意味当たり前です。
そして、これだけ感染状況が落ち着いていることは非常に喜ばしいことです。
だだ、これが永遠に続く保証はなく、デルタが居残る場合でも、感染しやすい好条件がそろう時期がやってくることをもっと気にした方がよいと感じたからです。
あまり報道されませんが、一部の地域では、医療機関や飲食店、保育園に関連したクラスターが起きています。
そして、春から初夏にかけてワクチンを接種した人は、これから発症を防ぐ効果がさらに弱まってくることが予想されます。効果が完全になくなるわけではありませんが、ワクチンを接種していても感染する事例がこれまでよりは増えてくる。高齢者などのハイリスク群では重症化する人も出る可能性があります。
寒さや乾燥は、ウイルスにとって感染する力を維持しやすい環境条件です。また、気温が低下すれば換気をしにくくなります。
昨年よりは忘年会や新年会などで人が集まる機会も多いでしょう。
これらはすべて、人から人を乗り継いで生き延びたいウイルスにとっては好都合です。
この冬、我々の間で広がるのがデルタなのか、オミクロンなのか。これはまだわかりません。しかし、ウイルスにとっては有利な条件が整う時期が来ることを認識しておく必要はあるでしょう。
ワクチン接種など、やるべきこととは?
ーーこうした状況の中で、今やるべきことはどのようなことなのでしょうか?
デルタであろうと、オミクロンであろうと、私たちにできることは変わりません。
まず1つ目はワクチンを接種することです。
国民の約79%がワクチンをすでに2回接種しています。これは素晴らしい接種率です。ですが、そこから先がやや伸び悩んでいるのも事実です。
11歳以下の接種対象ではない人々もいる状況ですが、今後も引き続きこの接種率を少しでも高めていくための努力が必要です。
また、ブースター接種(3回目の接種)も重要です。
海外のデータによると、デルタ変異ウイルスに対するワクチンの発症予防効果は、2回目の接種から6ヶ月が経過すると5割前後まで低下します。重症化を予防する効果は6カ月後も90%以上という高い水準で維持されますが、高齢者の場合は、6カ月以降は重症化もしやすいという報告があります。
現在、ブースターの時期について、2回目接種から6ヶ月後にするのか、8ヶ月後にするのかという点で議論がなされていますが、ブースター接種は積極的に受けるのが良いでしょう。
オミクロンに対するワクチンの効果は現時点では不明です。ウイルスの変異が起きている部位からは、効果が低下する可能性が指摘されています。
ですが、仮に効果が低下するとしてもゼロになるわけではない。多少なりともワクチンで発症や重症化を防ぐことができるのであれば、その効果を得るための接種が必要です。
アメリカの疾病対策センター(CDC)は当初、18歳から49歳の国民に対し、ブースター接種を「may receive」(受けてもよい)という表現で推奨していましたが、オミクロンの発生を受けて18歳以上の全国民に「should get 」(接種すべき)へと改めました。
これは、オミクロンの感染性が強い可能性が高く、ワクチンにより免疫を強化しておくことが少なくとも重症化のリスクを下げられるだろうと考えられているからです。
また、現時点で未接種の人は感染するリスクが高いとして、至急接種することを呼び掛けています。効果があることが分かっている対策を積極的に用いようということです。
ーーワクチン以外には何がありますか?
社会経済活動を回していくことも、当然重要です。
それと同時に、ウイルスにとって感染経路を提供するような行動には気をつけた方が良いと思います。
それはどのような行動かと言われれば、マスクをつけずに近い距離で人と会話をしたり、換気の悪い空間に滞在したり、具合が悪いときに人に会ったりすることです。
つまり、
(1)2回のワクチン接種・3回目の追加接種を受ける
(2)マスクなしでの会話や換気の悪い空間を避ける
(3)具合の悪いときには人に会わない
といった対策が重要となります。
感染対策の専門家が日常的に注意しているのは…
ーー今年は昨年よりも忘年会や帰省などの恒例行事が増えることが予想されています。
リスクが比較的低いのは、2回のワクチン接種を完了(接種後14日以上が経過している状態)してから時間があまり経過しておらず、体調のよい人同士が集まる状況です。
しかし、それでもウイルスがすり抜けて感染する場合があります。
例えば、誰かと食事に行ったとしても、会話の際にはマスクをつけることは対策として有効です。
それから換気が良い店を選ぶことをおすすめします。
また、高齢者など重症化リスクが高い人をそういった場に誘うかどうかは非常に悩ましいポイントだと思いますが、なるべく少人数で、話すときはマスクを使いながら、時間も短めにするといった工夫をすることが勧められます。
帰省は、普段会わない人々と久々に会うという点に注意が必要です。
特に医療提供体制が脆弱な地方で感染が広がることは、避けなければなりません。最終的には感染状況等を踏まえつつ、判断することになるでしょう。
ーー坂本先生自身が特に気をつけているポイントなどはありますか?
基本的に意識すべきポイントは変わりません。近くに人がいる場面では、マスクをつける。
当院ではこれまで1000人近いコロナ患者を受け入れてきました。実際に感染した方を見ていると、やはり「感染しないにこしたことはない」という実感を持ちやすいです。
ですから、先ほど紹介した基本的なポイントは意識をしていますし、マスクを着けていない人が近くにいたら、距離をとります。
感染対策を行っているからといって、外出しないわけではありません。感染状況が落ち着いている時期には子どもとフードコートに行ったり、レストランでご飯を食べることもあります。
ですが、感染者が多い時期には、多くの人が集まって、話しをしている場所は避けています。
外食に行く際、できる限りお客さん同士の席が離れている店を選んだり、出入り口に近く頻繁に外の空気が入ってくる席を選ぶといったことをしています。そしてお客さんの距離が近い店や、換気があまり良くない店は避ける。工夫と言っても、そんな感じです。
意識をしているのは特別なことではなく、基本的な対策だけです。
「基本的な対策をする」ということが「人に会わない」「家で過ごす」とイコールだと捉えている方もいるかもしれません。ですが、そうではありません。
感染者数が落ち着いている状況では、映画を見に行くこともできるし、今後は対策を講じた中でイベントやコンサートなどが開催されることも増えていくでしょう。
基本的な対策をする、ということは決して何もできないということではありません。
「パニックを引き起こすような情報も出ていない」
ーーここ数日はオミクロンに関する情報が氾濫しています。まだわかっていることが少ない段階で、様々な情報が拡散されている場合にはどのように情報を向き合うべきなのでしょうか。
オミクロンについて分からないこともまだありますが、逆にパニックを引き起こすような情報も出ていない。
オミクロンで見つかっている変異は全体で50ヶ所、そのうち30ヶ所以上がスパイクタンパクというウイルスが細胞にとりついて、侵入するときに使う腕のような部位で見つかっている。
それらの変異からは感染力が上がっていることやワクチンが効きにくくなる可能性が指摘されています。ただ、デルタに比べてどの程度感染力が高いのか、どのくらいワクチンの効果が下がるのか、果たして重症化するのか、これらのことはまだ分かっていません。
南アフリカでオミクロンに感染している方の多くは、ワクチンが未接種あるいは1回だけ接種した方だと聞いています。2回接種を完了していて、追加接種を受けている人に対して、このウイルスがどうふるまうのかはこれから明らかになるでしょう。
少し話が変わりますが、最近、中央ヨーロッパ諸国で、デルタ変異ウイルスによる感染者が急増しているというニュースが報じられました。こうしたニュースの受け止め方は人それぞれです。
ある国で感染が拡大しているという情報の「破片」を受け取った時に、例えば、その国の接種率や接種時期、使ったワクチンの種類や期待される効果、導入されている対策や遵守状況などについて、どのくらいの情報を持っているかによって、単に怖いと感じるか、ある程度冷静に受け止められるかは違ってくるでしょう。
多くの方にとって、もしかしたらそういうニュースは、どちらかというと怖く感じるものなのかもしれません。
不安を感じるような情報が多くて、ストレスを抱えている方がいるなら、公的機関からの情報を確認し、現時点で確かと言えることだけを頭に入れておくことをお勧めします。
ーー香港の感染事例について、「向かいの部屋に滞在していただけで感染しており、前例にない強い感染力がある」とする報道もあります。こうしたニュースを目にした際に、どのような点に気をつけるべきでしょうか。
仮に2人の感染者の接点が報道されている通りであったとしても、観察された一事例をもとに、オミクロンの感染力が以前の変異ウイルスに比べて増強されていて、感染者との接触において同じことが必ず再現されると断定するのは、飛躍しすぎです。
現時点でオミクロンがはしかや水ぼうそうのように、通りすがりの人にどんどん感染するような状況は観察されていません。
タイトルや内容がセンセーショナルな報道は、少し冷めた目で見ておくくらいでちょうど良いと思います。
先ほども述べた通り、変異ウイルスの特徴については、今後明らかになりますし、公的機関の情報を確認するとよいでしょう。
ーーデルタの次はオミクロンが登場し、正直うんざりだと感じてしまう人も少なくないのではないでしょうか。
ウイルスが人から人に感染し、分身を増やすなかで変異は起こります。ですから、やっかいな変異ウイルスの発生を防ぐには、世界全体でワクチン接種率を上げて、感染拡大をみんなで抑えていくことが非常に大切です。
そして、変異によってワクチンの効果が低下するのではないかという懸念をお持ちの方もいるかもしれません。
しかし、仮に今のワクチンでは効果が不十分と判断されたとしても、私たちはその変異に対応したワクチンを作ることができる技術を持っています。これは抗体カクテル療法で使用される中和抗体薬についても同様です。また、変異に影響されにくい、治療薬もすでに存在します。
私たちがウイルスに対抗する手段は、この2年で確実に増えました。こうした「安心材料」があることを忘れてはいけないと思います。
コメント0件·