「監獄は囚人を作る。監獄は私を一変させた」。ビクトル・ユゴーは「レ・ミゼラブル」で、パン一切れの窃盗で獄中19年の不条理を強いられた主人公ジャン・バルジャンにそう語らせる▼安倍政権当時、首相官邸側と放送法の解釈見直しを協議した経緯を記した総務省の「行政文書」が波紋を広げている。苦しい釈明を聞くにつけ、この国では「質の悪い政治は劣化した官僚を作る」と思わざるを得ない▼政府は放送の政治的公平を「事業者の番組全体」で判断するとの立場だった。2015年に「一つの番組でも」判断できると“解釈変更”したのは、当時総務相の高市早苗(たかいちさなえ)経済安全保障担当相。文書は高市氏の言動も4枚分記録している▼だが高市氏は記載にある当時の安倍晋三(あべしんぞう)首相との電話、省幹部との会議、各発言内容を「悪意をもって捏造(ねつぞう)された」と主張。捏造でなければ閣僚も議員も辞職すると言った▼これに対し総務省幹部は「行政文書と正確性は別概念」と迎合。内容が一言一句正確かは確認できないにしても、官僚が自分たちの行政文書を「不正確」とおとしめるのは、自らの存在を否定するに等しい▼国有地売却を巡る森友学園問題では、財務省幹部に決裁文書を改ざんさせられた職員が自殺に追い込まれた。官僚いじめで逃げ切りを図るなら、それは禁じ手だ。