韓国の女性たちが本音トーク 夫や社会をどう見てる?
近年、『愛の不時着』のヒットなど“第4次韓流ブーム”が到来する中、ドラマや映画を通じて、韓国の女性たちの生き方や暮らしに触れる機会が増えました。
『あさイチ』では韓国ソウルに暮らす30代~40代の女性たちに、ジェンダーの観点から社会をどう見ているか、話を聞きました。
日本と共通すること、韓国ならではのこと…。語られることの少なかった“女性たちのホンネ”です。
(2023年3月15日『あさイチ 世界はブラボーin韓国』で放送予定)
(『あさイチ』取材班)
韓国・現役世代の女性たちの座談会
お話を聞いたのはソウル近郊に住む30~40代の女性4名。性教育の講師や小学校の教師など、教育現場で働いていますが、職場も家族も生活スタイルも異なります。みなさん、日本の社会やジェンダーについての関心や好奇心から取材を受けてくださいました。
イ・ソンギョンさんは、性教育の講師としてフリーランスで働いています。結婚して11年。小学校4年の娘と小学校2年の息子と夫の4人家族です。かつて夫と同じ建設会社に勤めていましたが、出産後、自分だけが仕事を辞めざるを得なくなった経験から、同じ経験や思いをもつ人たちで女性のキャリアや生き方について話し合うサークルを立ち上げました。
イ・ヒョジョンさんとチョン・ヒョンジュさんは、ソンギョンさんのサークルのメンバーで、それぞれ、教育関係の仕事をしています。
ヒョジョンさんは結婚して16年。15歳と10歳の息子と夫の4人家族。働きながら大学院に通っています。ヒョンジュさんは小学校2年生の娘と夫の3人家族。仕事で週3日は家を留守にするなど、忙しく暮らしています。
ソンギョンさんの知人、ホン・スンヒさんは小学校の教師です。未婚で両親と一緒に暮らしています。
“キム・ジヨン”世代の女性たちが感じる“生きづらさ”
座談会のはじめにお聞きしたのは「韓国社会における女性の“生きづらさ”」について。
2016年に出版され、日本はじめ各国で翻訳された小説『82年生まれ、キム・ジヨン』。会社では率先してお茶くみをし、正月は夫の実家で忙しく立ち働く…。そんな、社会が求める“女性像”に束縛され続ける現代韓国の女性たちの生きづらさが描かれ、話題になりました。
みなさんは「キム・ジヨン」とほぼ同世代ですが、韓国社会に女性として生まれ育つ中で、性別をめぐる格差を意識したことはありますか?
私の名前は親孝行の「孝」に正しい「正」と書きます。父がつけてくれました。「親孝行しながら正しく生きなさい」そういう意味なのです。弟がいますが、弟の名前には光る「光」が入ります。「輝く人生を生きなさい」。
息子には自ら「光る」人生を願い、娘には当然のように親孝行する人生を願う親の態度に、私は幼いながらも気づいていたと思います。成長して進路について話すようになると、父は私に「長女だし、経済的に難しいから、あなたは大学で文系に進むよりは実業に進んで早く就職して、弟たちを援助してほしいと」言っていました。
私は女子中、女子高、女子大を卒業しました。最初に入社したのは映画製作会社でしたが、女性職員はたくさんの仕事を担当していたにもかかわらず、男性職員に比べて年収自体が低かったです。安月給に耐えられず1年で辞めて広告会社に転職しましたが、局長や役員には女性が一人もいませんでした。年収や昇任をめぐる差別が より少ない仕事を求めて再び求職活動をした結果、公務員(の教員)になることに決めました。
妻として、母として、嫁として
自分の生まれ育った家庭で、進学・就職で感じてきた男女の格差。結婚すると、家事をめぐって「夫・妻の格差」を感じる場面が多いといいます。
私の夫はリンゴの皮を一度も剥(む)いたことがないといいます。自分が食べるために果物ナイフで剝いたことがないのです。魚も自分だけでは食べません、未だに。自分で食べたことがないと。お母さんがご飯の上にのせてくれるのを食べてきたから。男はそのように育って成人になっていくんだな、と思いました。
結婚してから10年以上、たくさんのことを夫にさせてみようと頑張ってみましたが、習得力がたいへん劣っているので私がある程度あきらめました。だから、夫には、生ごみの袋を私が結んでドアの前に置いたら「捨てに行って」という意味だと伝えています。
ロボットだね。
「捨てに行って」と夫に言うのも労働でしょう。言うより私がやったほうが早いと思わない?
そう。私は最初から、実は新婚旅行に行った時から、この男はダメだと思いました。
10年以上、暮らしているけどね。
そうなの。そんなこともできないのと、おもしろい。私がそのおかげでいろいろできるようになりました。やったことのないことをとてもたくさんして。
運転免許も取ったし。
うちの夫は免許もないから私が運転する、家で解決しないといけないことがあったら私が全て解決する、トイレが詰まったら私が解決する。彼は不便なら不便のまま生きようという人なので。
イ・ソンギョンさんは出産後、夫と家事の分担について何度も話し合い、休日は夫が料理を担当するようになりました。そんなソンギョンさんでもモヤモヤする思いがあるといいます。
周りから「あなたの夫みたいな人はいないよ。優しくて、本当に幸せね」と言われます。私たちの社会では「お父さんたちが家事分担をよくしてくれる」という基準があまりにも低いと思います。
「働くお父さんたちと比較するのはもうやめて、働いているお母さんと比較して」と言いたいです。働くお母さんたちはキムチを漬ける季節になったらキムチを100束漬けるし、夫の実家に電話したり、誕生日や正月などにもプレゼントを贈ったり。子どもが新学期に準備をしないときに(夫たちは)何を準備していいかも分からないじゃないですか。そういう男の人たちと比較して「よくやっている」となぜ言うのか。それが私の一番大きな不満です。
私たちは子どもたちの登校前に毎日必ず、コロナの自己診断アプリで子どもの状態をチェックしないといけません。でも夫には(子どもの状態をチェックすることなどは)想像もできないことです。
毎日、(子どもの学校の)連絡帳にサインをし、子どもがあす何を学校に持っていかないといけないのか、どんな課題があるのかを確認するのも、ほとんどお母さんたちがやっています。それは毎日繰り返され、準備しないといけないことなのに。「掃除」、「洗濯」や「料理」というふうに(男性たちは)大きくしか捉えてない。実はやらなければならない細かいことが溜まると、ものすごく大きなかたまりになるのに、それを分かっていない」
そして、多くの女性たちが負担に感じるのが、夫の母親とのつきあいかたなのだそうです。
姑(しゅうとめ)からしきりに電話がかかってきます。私と何か好みが似ていたり共感できたりするものがあるわけでもないのに。用件もないのです。あまりにも負担が大きいので、夫が横にいるときに「息子の声が聴きたくて息子のことが気になるなら、息子に電話してほしい」と姑に伝えましたが、「息子にはかけにくい」と言うのです。
産んで育てた息子にかけにくいからといって、30年たって、しかも大人になってから出会った私に何の接点があって電話をするのかと不思議でならないです。私の母から電話がかかってきたときに忙しければ「忙しいから」と言って切りますが、姑に対してはそれもできない。
結婚してから姑が当たり前のように、自分の家に出入りするかのように、何の予告もなく家によく来ました。自分のスプーンセットを私たちの家に置いて、自分の布団まで持ってきました。「自分がいつでも家に来て食べて泊まれるように」という気持ちを表明しているのです。私はそれがとても衝撃的でした。
やめてほしいと言ってもやめてくれないので、家中の電気を全部消して居留守を使ったこともありました。
パートナーはいるけれど結婚はしていないスンヒ(写真・中央)さんにも悩みがあるといいます。
私の母や父は子どもを結婚させた人がとてもうらやましいのです。「友達の子どもの結婚式に行ってきた」と言ったり、友達が孫の世話をするのがとても大変だと言っているということすら、うらやましいと思ったりするのです。母が(育児バラエティー番組の)『スーパーマンが帰ってきた』という番組を見るのがとても好きなんです。それを見ているときにはテレビの近くに行かないようにしています。
育児や育児バラエティーの番組が流れるたびに、私は罪悪感を感じてしまう。これは家族と一緒に住んでいて不便です。私が解決できる問題ではないし、解決しようとも思わないのですが。
Q:(未婚であることが教員として)社会生活をする中で不便と思うことはないですか。
子どものいる先生は、学校から任される仕事が少し減る傾向がありますが、私の場合はもっと学校に献身的になることを期待される部分があります。「あなたは家庭もないし世話をしないといけない夫や子どももいないから学校の生活にもっと頑張れるでしょう」と。こんな感じで、学校の新しい事業を一緒にしてみましょうと頼まれることも。既婚女性に比べて結婚していない人たちに負担が回ってきます。
社会に期待することは
性別による生きづらさがまだまだ残る韓国社会。今後、変わってほしいと期待することはどんなことか、聞きました。
私たちはあまりにも「男だから」「女だから」ということに振り回されていると思います。うちの息子が小学校に入る前に、「お母さん、私は男だから先生にはなれないよね?」と言ったんです。なぜなら自分が見てきた(幼稚園の)先生が全員女性でしたから。それで、「そんなことはない、あなたも先生になれるよ」と言ったら、「先生はみんな女なのにどうして私が先生になれるの?」と言うので本当に驚いたことがあります。
自分が考えているとおりに自分の気持ちに忠実に生きたい人はたくさんいると思います。自分が性別にこだわらずに生きられる時代が、ゆっくりだけどくるのではないかと思います。
私の娘がある程度成長したときに、彼女も(結婚するために)「誰かに選ばれないといけない」と思ったり、選ばれるために(外見を良くするなどの)努力にあまりにもたくさんエネルギーをかけたりしないでほしいです。気の合う友達と一緒に家族のように頼り合って暮らしても家族として認められて、お互い世話し合える責任と義務と権利をともに手に入れてお互い暮らしてもらえたらいいな。「絶対に結婚しないといけない」と思わないでほしいです。
でもこの社会で育つわけだから、男の子たちが自分にちょっかいを出されないと寂しいと感じたり、自分はかわいいのかなとか、長い髪にこだわったりするなど、(そうした意識が)だんだん強くなると思うと恐ろしいです。
今後の社会が少しは変わって、子どもたちが自由になれたらとてもうれしいです。少しずつ少しずつ、すでに人々はそういう方向に進んでいるし、逆戻りはできないと思います。私はこれからの社会には希望があると思います。
特に韓国社会では、ある年齢まで何かをしないといけないし、一つの家族形態を築き上げなければならないし、そのために努力をしなければならない。圧力が強い社会でもあります。さまざまな人生が差別されずに認められるそういう社会になってほしいと思います。
私は2人の息子には、とても幼い頃からある意味での性的役割や「男らしくないといけない」ということから自由であってほしいと思っていましたが、社会で育つ中で子どもたちはとても男らしく振舞ったりもします。私の子どもたちが成人になったときには、みなさんが言うように、もう少し他人の目から自由になり、自分が本当にやりたいことが何かを上手に見つけて、周りから尊重してもらえればいいと思います。それと同時に私自身も、『男らしさ』『女らしさ』というものや、他人の目から完全に自由かというと、そうではありません。社会が変わることを願いつつ、私も子どもたちと一緒に変わっていきたいです。
現役世代の韓国人女性たちを取材して…
「あらゆる人が、周りの目を気にせず、自分の思うように生きられる社会になってほしい」と願う4人の言葉は特に心に響き、共感しました。住む国は違えど、同じ願いを持ちながら暮らしている彼女たちとの出会いで、韓国がとても身近な国になりました。
韓国社会のさまざまな側面について、自分たちの経験や思いを、ときにユーモアを交えながら、カメラの前で毅然(きぜん)と、素直に話してくれた女性たちに感謝しています。
誰もが、周りの目を気にせず、自分らしく生きられる日本社会になるために何が必要か、今回お聞きした韓国の女性たちの話も手がかりに、今後も取材を続けます。
【放送予定】『あさイチ』特集「世界はブラボー!知っているようで知らない韓国」
3月15日(水)午前8:15~(総合)
見逃し配信(放送後から1週間ご覧いただけます)