対話するAI「ChatGPT」 学校現場に芽生える期待と懸念

 大量の自然言語データを学習し、まるで人間のように、文脈に応じた応答を生成する人工知能(AI)、「ChatGPT」が話題を呼んでいる。昨年11月、米国の新興企業・オープンAIによって公開されて以降、大学生のレポートを瞬時に書き上げてしまうほどの性能の高さから、学校現場への影響を巡る大きな議論が巻き起こった。さらに今年2月、マイクロソフトがChatGPTの技術を応用した新たなAI搭載検索エンジンを公開するなど、AI開発が新たな段階に差し掛かっている。ChatGPTを使い始めた日本の教員たちは、自身の仕事の在り方が大きく変わる期待を抱く一方、子供たちの学びに及ぼす影響を懸念する。

読書感想文をわずか数秒で生成

 「走れメロス」は、太宰治の名作短編小説であり、人間の愛や友情、正義について考えさせられる素晴らしい作品だと感じました。
 
 主人公のメロスは、信頼していた友人セリヌンティウスを救うため、自らが処刑されることを覚悟して逃亡する姿がとても感動的でした。彼の強い意志と友情に心を打たれました。
 
 また、セリヌンティウスの「人間を信じることが大切だ」という言葉に深い意味を感じました。セリヌンティウスは、自分が無実であることを信じていたため、最後まで信念を曲げずに死を受け入れることができました。この言葉から、正義や真実を信じることの大切さを学びました。
 
 太宰治の文章は、非常に美しく感情を揺さぶるものでした。特に、メロスの心情や苦悩が丁寧に描かれている点が印象的でした。

 総じて、「走れメロス」は、人間の本質や友情、正義について考えさせられる作品であり、深い感動を与える素晴らしい小説だと思いました。

 この文章は今年2月中旬、「太宰治『走れメロス』の読書感想文を、中学生になったつもりで書いて」という記者の指示に対し、ChatGPTが数秒で生成した文章だ。一見、本当に中学生が書いたかのような感想文だが、よく読むと「本当にちゃんと小説を読んだのだろうか」と思わせるような、不自然な表現が散見される。そもそも実際の小説には、「人間を信じることが大切だ」というせりふは出てこない。

 記者が「セリヌンティウスの『人間を信じることが大切だ』という言葉は、小説には出てきません」と打ち込むと、「おっしゃる通りで、申し訳ありません。私の誤りでした。太宰治の短編小説『走れメロス』には、セリヌンティウスが直接『人間を信じることが大切だ』という言葉を発した場面はありません」と訂正した。対話によって次々とアウトプットを生成する点は画期的だが、一見「それらしい」文章の中に、間違いが紛れ込んでいる可能性があることには留意しなければならない。

 ChatGPTは質問に答えるだけでなく、文章を要約する、議論の要点をまとめる、登場人物などを指定して物語を作ることなどもお手の物だ。さらにはエクセルなどと組み合わせて使ったり、プログラミングをさせたりと、多種多様な使い方ができる。こうしたことから米国では、学校現場での活用を巡る議論が盛り上がり、ニューヨーク市では今年1月、教育に悪影響を及ぼすとして、学校での使用を禁止する動きが複数のメディアで報じられている。

 とりわけ、ChatGPTを子供に使わせる場合は注意が必要になる。オープンAIの規約では「本サービスを利用するには、18歳以上であり、オープンAIと拘束力のある契約を締結できること」とされている。米スタンフォード大学の研究機関が今年1月、教員向けに開いたChatGPTの活用を考えるイベントの報告書では、「現段階では、初等中等教育段階の児童生徒の大半は、保護者の許諾や関与なしにアカウントを作ることができない」と説明されている。

 また、子供の安全なネット利用に取り組む非営利団体、コモンセンス・メディアのウェブサイト(2月28日時点)では、「規約では18歳以上とされているが、アカウントを作る際の年齢確認はない。幼い子供がアクセスすると、年齢にそぐわない不適切なコンテンツに容易に出くわす可能性がある。また個人情報が収集され、広告目的などで第三者に提供されることがある」として、「子供が使いたい場合は、大人と一緒に使うのが最善の方法だ」と書かれている。

日本の教員もChatGPTを使い始めた

 都内の公立中で英語を教える岩井健太教諭は、昨年12月ごろにインターネットでChatGPTを知り、さまざまな実践例を調べながら、自分でも使い始めた。「授業で使う素材作りに役立つというのが一番。正しい英語で、かつ新鮮な素材を用意するのは苦心するところだが、それが比較的容易に手に入るのは魅力的だ」と評価する。

ChatGPTを使ってディベートの準備を進める方法を記者に説明する岩井教諭(Zoomで取材)

 他にも、教科書に出てくる表現や単語だけを使って例文を作ることもできる。生徒にとって難し過ぎると感じる英文が出てきた場合は、「もっと簡単な単語で」「この文法事項は使わないで」と対話することで、改良を重ねていく。他にもディベートでテーマを決め、賛成・反対の意見を事前に表形式で出力させるといった使い方もできるのではないか、と思案しているところだ。

 ただ、「すぐにこれを授業で、中学生に使わせてみようとは思わない」と岩井教諭。「使いどころの見極めや、正しい情報に対する感度が必要。平均的な回答や、誤りのある回答が返ってくることも多く、使う側のリテラシーが十分にないと、出てきたものをうのみにしてしまう懸念がある」。

 生徒たちはすでに、グーグル翻訳などのツールに慣れている。ChatGPTについても「今後、便利だからと使いたくなる場面があるかもしれない。その時、出てきた回答が本当に、自分が使いたい場面で使うべき表現なのか、相手との関係性の中で本当に使ってよい表現なのかは、使う側が判断するしかない。そう考えるとやはり、自身の英語の力を高めていかないと使いこなせない。このことは、生徒たちに伝えている」という。

 「こうした便利なツールの数々を、教員が一方的に禁止することは、もはや現実的ではない。生徒自身が自分を律して付き合っていく必要がある。授業の中で使う場合は、生徒に自力で書いてほしい場面では時間を区切って『○○分までは自力で書く。時間になったら辞書も含め、いろいろなツールを使って構わない』といったように使い分けている」と岩井教諭は話す。

子供たちの使用「ものすごく慎重に進めないといけない」

 都内のある公立小では今年に入り、校内研修でChatGPTを使ってみる機会を3回に渡って設けた。4年生担任の藤井淳一教諭は、エクセルで学習評価に関するデータ分析を行う際、どのような関数を入れれば自分が進めたい処理ができるか、ChatGPTに何度も尋ねながらワークシートを作成した事例を紹介した。

校内研修でChatGPTを活用した事例を紹介する藤井教諭

 「出力された関数をコピー・アンド・ペーストして、そのままエクセルで使うことができるし、この関数はこういう意味がある、と説明もしてくれる。できたらいいなと思っていたことが本当にできるようになり、非常に楽しく使えたというのが率直な感想だ」と藤井教諭。研修に参加した教員からは、他にも「学校のウェブサイトに掲載する文章を考えるときに使ってみた」「児童を褒める時の、いろいろな文例を作れそうだ」とアイデアが上がった。

 一方、子供たちの使用については、慎重な声が聞かれた。前出の藤井教諭は「われわれの仕事観すら変えてしまうようなもので、自分自身の使い方についても未知数の部分が多い。教員が道具として使う分にはよいが、子供たちに使い方を教えるとなると、ものすごく慎重に進めないといけない」と警戒する。

 同じく、研修に参加していた6年生担任の佐藤悠樹教諭も「1人1台端末が整備され、子供たちが手軽に調べられるようになったのは良いこと。ただ、学校では子供たちに自分で考えてほしい場面や、自分で練り上げ、作り出してほしい場面もある。ChatGPTは従来の検索エンジンと違い、アウトプットの機能もある。その点で、大人が使いこなすのと、基礎を形成しようとしている子供たちが使うのとでは違いがあり、子供たちが必要な経験を積むことができるよう、使い方を模索しながら活用していく必要がある」と懸念を語る。

ChatGPTは「たまに間違える、優秀な秘書」

 「学習者はテストやレポート作成に使い、教員は課題作りや授業設計の相談に使う――。そういった変化がすでに起こっている。今後、AIと人間が共存する未来は想像に難くない。どう学ぶのか、何を学ぶのかという教育の在り方自体が問い直されることになる。そのため、学習者も教員もAIの能力や性質について理解を深めて、どう一緒に生きていくか、というところにフォーカスするべきではないか」。教育工学を専門とする、東京大学大学院工学系研究科の吉田塁准教授はそう語る。

「AIとどう一緒に生きていくかを考えるべき」と語る、東京大学の吉田准教授(Zoomで取材)

 吉田准教授が特にChatGPTの可能性を感じるのは、「アイデア出し」の部分だという。「授業のアイデアを尋ねれば、ある程度作ってくれるし、選択式のクイズなども作ってくれる。あるトピックに対する身近な例なども出せる。自分が学びたい英単語を使って物語を作れば、パーソナルな教材が出来上がる。授業以外の部分でも、文章の校正やダブルチェックなどにも使える。うまく使いこなす能力を身に付ければ、効率は大幅に上がるはずだ」。

 吉田准教授はChatGPTを「たまに間違える、優秀な秘書」と呼ぶ。間違えるが故に、使う側に必要になってくるのはまず「専門性」だという。「AIは間違えるという認識を持った上で、出力されたものが正しいのか正しくないのかをチェックできる専門性が重要になる。専門でないとしても、少なくとも自分なりに調べて、正解かどうかを判断できる力は必要だろう」と指摘する。「さらに教員という立場であれば、児童・生徒・学生など学習者と共に考え、学び続ける姿勢・態度も重要になる」。

 子供たちに使わせる場合はどうか。ChatGPTには年齢に関する規約があるが、マイクロソフトによるAI搭載のBing検索エンジンなど、年齢制限のないものもある。「今後の規制の在り方にもよるが、教員の監督下で使うことはもちろん、いずれは子供たち自身がAIを使うという学習活動も十分あり得る」と吉田准教授はみる。

 「例えば、教員が使い、出力された結果をクラスで共有してディスカッションするなどの使い方はできるだろう。子供たちが個別にパーソナルな教材を作ってもらい、それに関する間違いがないかなど確認するワークも考えられる。その際、AIは間違えることがある、全てを信じてはいけない、といったAIリテラシーの涵養(かんよう)も必要になるだろう」と指摘する。

3 コメント

500


3 コメント
高評価
最新 最も古い
インラインフィードバック
すべてのコメントを見る

私は英語教員です。chatGPTに私がつけたあだ名は出来杉くんです。

私も実際使ってみましたが、言葉が違和感なく繋がって出てくるので全てうのみにしてしまいそうになります。今回の記事を読んでみて改めて使い方を考える良いきっかけになりました。
言ってることをうのみにしないとは、ウワサ話と似ていないか?とぼんやり思いました。
だからこそ、「リードは本人がする。」そこを崩さず、上手く関わっていきたいです。

ちょうど、教育現場でのChatGPTの利用について知りたいと思っていたので、今回の記事は大変タイムリーでした。AIの進歩は短期間で急激に起こると思いますので、この先のことも見据えて、今後の教育についてしっかりと考えていきたいと思います。

広 告