「男はつらいよ」で想定外だった若者からの人気 山田洋次監督が語る「男はつらいよ」の世界

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裏の印刷工場で働く労働者に対して「労働者諸君!」と見下したような呼び方をするでしょう。でも寅は、彼らのような労働者がいることで世の中が成り立っていることを実はよくわかっている。

山田洋次(やまだ・ようじ)/1931年生まれ、大阪府出身。東京大学法学部卒。同年、助監督として松竹に入社。1961年『二階の他人』で監督デビュー。1969年、原作・脚本・監督を手掛けた『男はつらいよ』公開。以後、28年間にわたって続く国民的ヒット映画シリーズとなる。他の代表作として『家族』(1970年)、『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)、『学校』(1993年)、『たそがれ清兵衛』(2002年)、『家族はつらいよ』(2016)など。2023年9月には、90本目の監督作『こんにちは、母さん』が全国公開予定(撮影:尾形文繁)

世の中の主人公は決して自分のようなフーテンの人間ではない、額に汗して働く彼らこそが主人公なんだと、わかっているんです。最愛の妹さくらの夫は印刷工場の労働者なんだから。

――第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』では、阪神・淡路大震災の直後、ボランティアにかけつけていた寅さんが、現地視察をする総理大臣の隣で「おれからもよ、総理によく頼んであるから、な。みんなしっかり頑張ってくれ」と被災者を励まし、総理に向かって「頼むよ!」と言うシーンがありました。

総理大臣をバカにしていたわけではないんです。寅にとっては総理大臣だって1人のオヤジ。1人の人間としてみているだけ。そんな寅の姿に、多くの人が解放感を得たり、元気をもらったりしている。そういうことではないでしょうか。

――寅さんが恋したマドンナたちは、生い立ちも性格もさまざまですが、苦労していて芯が強く、自立した女性が多いように思います。その典型が、登場回数最多のリリー(浅丘ルリ子)でしょうか。

リリーは、この国にはびこる男性の「特権意識」を激しく憎んでいる女性ですね。

ケンカしながらも2人は惹かれ合う

――第15作『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』では、初恋の女性を未練たらしく語る中年男が「僕という男はたった1人の女性すら幸せにしてやることもできないダメな男だ」と呟いたことに、リリーが激しくくってかかりました。

あの場面でリリーが発した言葉は、僕の好きなセリフで、前から使いたいと思っていたものなんです。

リリー:「幸せにしてやる? 大きなお世話だ。女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい? 笑わせないでよ」

寅:「でもよ、女の幸せは男次第だっていうんじゃないのか」

リリー:「へ~、初耳だね。私いままで一度だってそんな風に考えたことないね。もしあんたがたがそういう風に思ってんだとしたら、それは男の思い上がりってもんだよ」

寅:「お前もなんだか可愛げのない女だなあ」

リリー:「女がどうして可愛くなくちゃいけないんだい」


(『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』から一部抜粋)

リリーは女権論者。今だったらMe Too運動のリーダーになっていたかもしれない。

――社会のメインストリームで生きている人ではないからか、リリーには芯の強さを感じます。

寅自身がメインストリームで生きている人ではないからね。だから2人はケンカしながらも惹かれ合うのではないかな。

山田洋次監督インタビュー第2回

山田洋次監督インタビュー第3回

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