女王の女王   作:アスランLS

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【学生データベース】

本条桐葉
クラス:1年Aクラス
誕生日:12月24日
身長:179㎝
体重:73㎏

学力……A
知性……A
判断力……A
身体能力……A
協調性……C-

特技:色々
趣味:自己鍛練、ガーデニング、手品
仲の良い生徒:坂柳有栖、橋本正義、高円寺六助、橘茜
相性の悪い生徒:葛城康平、橋本正義、戸塚弥彦、櫛田桔梗
好物:特に無し
苦手なこと:退屈、怠惰

[面接官からのコメント]
学力、運動神経ともに桁外れに高く、総合力は歴代の卒業生と比較しても1、2を争う逸材だが、おそらくはまだ底を見せていない。小学生の頃はクラスのリーダーとして積極的に周りを率いていたようだが、中学生時代は同級生の坂柳にそれらの役を任せていた模様。
少々独特過ぎる感性を持ち、マイペースでやや協調性に欠けるものの社交性自体はかなり高いため、改善すべきかどうかは保留としAクラス所属とする。

[担任メモ]
マイペースな性格に反してクラス学年問わず交友関係はかなり広く、問題点は現状特に見受けられない。





1巻エピローグ

【side:一之瀬帆波】

 

中間テストまで残すところあと6日。

少し早めに起きた私は朝食を済ませ、制服に着替えて学校に向かう。テスト期間中は毎朝早めに登校してBクラスの皆と教室で勉強をしているのだが、今日は参加できないとクラスメイトには事前に伝えてある。

その理由は先日CクラスとDクラスの争いを仲裁した後、制服のポケットに入っていた一枚の紙切れにある。そこに書かれていたのは差出人の名前と、中間テストについて重要な話があるので、明日の7時半に特別棟へ来るようにという内容だった。

テストについて重要な話となると無視できないし、何よりあの人は少し変わった性格だけど悪戯でこんなことをするとは思えないので、私は指定された時間より少し早めに特別棟に向かうと、目当ての人物は既にそこに佇んでいた。

短めの黒い髪で顔立ちは整っているが少々目つきが鋭く、気弱な人には怖い印象を持たれることもあるだろうが、少し会話すればそんな印象は薄れるであろう、ちょっと変わっているけど気さくで優しい人。

Aクラスの本条桐葉君だ。

 

「おはよう本条君!待たせちゃったかな?」

「おはよう卍解ちゃん。そんなに待ってないから気にすんな」

「卍解ちゃん!?」

「髪色がストロベリーブロンド→苺→一護だから卍解ちゃん。シャケ子よりかは良いでしょ?」

「そ、そうだね。あはは……」

 

いやほんと、性格は少々変わってるんだけどね。

 

「テスト前の貴重な時間削ってまで来てもらった手前、手短に済ませないとなー。……Bクラスはテスト勉強の方は順調かい?」

「うん、今のところ順調かな。打倒Aクラスを目指して、クラス皆で頑張っているよ。……あっ、本条君からしたら気分の良くない話だったかな?」

「そんな器の小さい奴じゃないから気に病まんでよろしい。今回はそんな頑張ってる君達に、ちょっとしたプレゼントを用意しました」

 

ぱんぱかぱーんという掛け声とともに、本条君は紙束を取り出し私に手渡してきた。……っていやいやいや!?

 

「どこから出したのこれ!?本条君今鞄も持ってないのに、この紙束折れても曲がってもいないし……」

「あー?手品のタネをバラすマジシャンがいてたまるかよ、無粋極まりない」

「て、手品って凄いんだね……それでこれは?何か問題集みたいだけど」

「それはな、何を隠そう─」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:綾小路清隆】

 

「─1学期中間テストと、小テストの問題用紙か?去年か一昨年の」

「そ。よくわかったなコージー」

「ちょうどオレもそれを探していたからな。……コージーって俺のことか?」

「綾小路だからコージー。……嫌?」

「いや別に構わないが」

 

アダ名で呼ばれるなんてなんか友達同士のやり取りっぽいし。流石イケメンランキング4位&頼りになる男子ランキング1位と噂の男だ。距離感の詰め方がオレとは比べ物にならないほど上手い。……どうやったら友達ができるか聞いてもいいだろうか?

テスト6日前の昼休みの食堂にて、オレは先日知り合った本条に呼び出され、ちょうど探していた物を受け取った。オレでも見落としかけたほど鮮やかな手口で俺のポケットに紙を忍ばせて何が目的かと少し警戒してここに来たのだが……担任からテスト範囲の変更を知らされていなかったりと、Dクラスは赤点続出の危機にさらされていただけに、どういう意図かはわからんがこの施しはありがたい。

しかし偶然オレについてきていたクラスメイトの櫛田は、やや困惑した表情で本条に訪ねる。

 

「あの、本条君……なんでそんなもの持ってるの?」

「仲の良い先輩にポイントと引き換えに譲ってもらった。この学校大抵のものはポイントで買えるから、覚えといた方がいいよ?」

「綾小路君もそれを探していたって本当?」

「須藤達の退学を阻止するための保険だ」

「でも、過去問は過去問でしょ?今年のテストとは全く無関係って可能性も……」

「ところがそうでもないんだな~」

 

本条はオレに渡した紙束のうち小テストの問題用紙を抜き出し、最後の3問の部分をオレと櫛田に見せた。

 

「この問題、なんか見覚え無い?」

「……あっ!この前の小テストと一言一句一緒だ!」

 

そう、あの小テストは中間テスト攻略のヒントだったんだろう。事前に答えを知る抜け道があるのなら、小テストで散々な成績を出したのに『全員が赤点を回避できる』と担任が断言してもおかしくはない。

 

「どうもありがとう本条君!この過去問を見せてあげたら須藤君達も赤点を回避──」

「ちょっと待て櫛田。この過去問はすぐには見せるべきじゃない」

「ど、どうして?」

「須藤達がせっかく猛勉強をしているのだから、それに水を差したくない。何より信用し過ぎて違う問題が出たらアウトだ、保険はあくまで保険だ。……見せるとしたらテスト前日だな。一昨年はほぼ同じ問題だったと一緒に教えれば──」

「夜、必死になって暗記するね!」

 

オレの考えに櫛田も納得したようだ。今回のテストでのオレ達の目標は満点を取ることではなく、退学者を出さないよう赤点を取らないことだ。欲張ると墓穴を掘る可能性がある。

 

「うーん……一つ助言するならコージー、見せるなら前日じゃなく2日前の放課後くらいにしといた方がいいかな」

「? どうしてだ?」

「前日に覚えようとしてる途中に寝落ちしちゃったらシャレになんないでしょ。君が赤点を危惧してる生徒達って、一人残らず皆しっかり者なの?」

「……ありえる話だな。特に須藤とか」

「ひ、否定しづらいね……」

 

今まで寝落ちなんて決して許されない環境で育ってきたから完全に盲点だった。そんな話を聞いたら不安すぎて、前日までキープなんてとてもできない。

 

「まあそれをどう使うかは君達の自由だ、よく考えて判断したまえ。じゃあ俺はもう行くから頑張ってね、応援してる」

「待ってくれ本条。……最後に一つ聞かせてくれ、どうしてお前は─」

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:龍園翔】

 

「─この過去問が有用なのは納得した。だが、何故これを俺達に渡す?てめえ一体何を企んでやがる?」

 

テスト6日前の放課後。度胸があるのかただのバカか、完全アウェーである俺達Cクラスの教室にノコノコとやってきた、この本条とかいう男にそう問い詰める。山脇の服に手紙を仕込むなんて回りくどい真似して何の目的で来たのかと思えば、中間テストで出題されるであろう問題をプレゼントするときた。

正直こいつにどんな思惑があるのか測りかねている。過去問を餌にポイント等見返りを要求してきたんなら、今後散々利用してから見捨ててやるつもりだったが、あろうことかこいつはただ過去問を渡しに来ただけだと言う。

これで怪しむなと言う方が無理がある。調べさせた手下曰く馬鹿みたいなお人好しの一之瀬だろうが多分怪しむ。今後敵対するクラスをむざむざ有利にする理由なんざ、自分のクラスの誰かかクラス全体がよっぽど嫌い、くらいしか思いつかないが……

 

「ふむふむなるほど。確かにもっともな疑問だリュンケル」

「リュンケルってなんだコラ」

「龍園翔、略してリュンケル」

「ヒュンケルみてぇに言うんじゃねぇ」

「何だよヒュンケル嫌いなの?」

「ヒュンケルは嫌いじゃねぇが、今日あったばかりのテメェに馴れ馴れしくされる覚えはねぇんだよ」

「心配すんな、友情ってやつは付き合った時間とは関係ナッシングらしいぜ」

 

おちょくってんのか素でやってるのか……どちらにせよふざけた野郎だが、突っかかろうとする石崎のバカは抑えておく。俺の集めた情報から判断すれば、こいつは石崎ごときがどうにかできる相手じゃない。

 

「まあ君等に渡そうと思ったのは、ぶっちゃけ思いつきでそれらしい動機は無いさ。けど目的なら答えるのは難しくない。……俺達Aクラスの内情は説明した方がいい?」

「いらねぇよ。葛城と坂柳、二人の頭を支持するグループが対立してるのは調べがついてる。お前が坂柳の方についてることもな」

「ありゃまあ事情通だね、だったら話が早い。なんというかね……葛城が思ったよりつまらない奴で、このままだと苦もなく有栖がクラスのトップに立っちゃうんだよ。堅実な方針一辺倒じゃ、到底有栖には勝てやしない」

 

俺も葛城が非常に慎重かつ手堅い男だと聞いている。いずれAクラスに牙を剥くなら葛城から切り崩すつもりだったが……こいつの話した通りなら近い内に葛城は失脚しそうだ。

 

「クク、結構なことじぇねぇか。てめえのボスが苦労せずトップに立てて何の問題がある?」

「問題大有りさ、歯応えの無い相手との争いなんてただつまらねーだけだよ。有栖だって多分今ごろ退屈してるだろうよ、可哀想に……そう思うと俺ばっかり楽しめそうな奴見つけててやや後ろめたくてな、ちょっとお膳立てをしてやろうかってね」

「お膳立てだと?」

「遅かれ早かれ、俺達Aクラスは他のクラスから狙われるだろう?学校側の言った通りクラス分けが優秀さ順なら、葛城派以下の相手なんて何も楽しめないだろうけどよ……君とかミスターとか卍解ちゃんとか見てると、どうもそうとは思えなくてさ」

「とりあえずお前にネーミングセンスが無ぇことはわかった」

 

おい、なんでそこで心外みたいな顔ができる。

 

「他のクラスにも楽しめそうな奴はちゃんといる。……なら、そいつらのポイントが十分にあれば、有栖がもっと楽しめると思わないかね?この学校ではポイントが多いほど戦略の幅は広がるからさ」

「……ククク。そんなことのためだけに利敵行為を平然と行うなんざ、お前も大概イカれてやがんな」

「クラスの皆には悪いとは思うけど、俺も有栖もAクラスの地位も恩恵も別に興味が無いからね。何より重要なのは俺達が楽しめるかどうかだし。……ああ勿論、信じてついてくるなら悪いようにはしないぜ。期待に応えてちゃんとAクラスで卒業させてあげれば、俺が好き勝手しても誰も文句は言わないだろうよ。……じゃあそろそろ帰るわ。テスト頑張ってね、応援してる」

 

そう言って本条は教室から出ていった。

……奴の目には、一切の曇りも陰りも見られなかった。不安もなく恐怖もなく、最終的に自分が勝つことを確信している。己の能力と実績に絶対の自信が無ければこうはならないだろう。……面白い、どうやら奴は随分と喰い応えのある獲物のようだ。

 

「残念だが本条、テメェの思い通りにはならねぇよ。しばらくは首を洗って待ってな……Dクラスで遊んで、Bクラスを引き摺り降ろしてから、じっくりと喰らい尽くしてやるからよ」

 

まず狙うのはやはりDクラス。山脇から聞いた話じゃ、随分と遊びがいのあるチンピラがいるようだ。まずはそいつを生け贄に、知っておきたい情報でも集めるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと危ない、忘れるとこだった。メアド教えてよリュンケル」

「誰が教えるかバァカ」

「えー。ケチー、紫ロン毛ー」

「ぶっ殺されてえのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【side:坂柳有栖】

 

中間テストも終わり、入学式から今日までを振り返り溜め息をつきます。正直、クラスを真っ二つに割り葛城君と対立したことを後悔しています。今さら悔やんでもしょうがないことでしょうが、まさか葛城君がここまでつまらない相手とは夢にも思いませんでした……入学初日のときの彼の輝きは幻だったのでしょうか……?

最近桐葉に私が葛城君に構ってばかりだと拗ねられましたが、私だって葛城君のせいで貴方との時間が削られるのは不満なんですよ?……とは、対立するよう仕組んだ私の自業自得なので口に出して言いませんけど。

頭脳が私より明確に劣ることや、慎重過ぎて手堅い手段しか用いないことはまだ許容範囲です。ここまでなら私もある程度は楽しめたでしょうし。

私がもっとも失望させられたのは、他でもない彼の覚悟の無さ。

既に私は葛城派に二人ほど、私のお友達を潜り込ませています。葛城君は慎重な方ですので重要機密は派閥の中心にいる生徒にしか共有されていませんが、それでもある程度は情報を抜き取ることはできます。例えば、桐葉経由で渡した過去問の使い方などを。

どうやら葛城君は万一に備えて勉強会を続行しつつ、最終日に過去問を派閥の皆及び中立の生徒で共有したそうです。……そう、リーダーである自分も含めて。

つまり中間テストで私と勝負する予定の葛城君は、負けることを恐れて過去問に目を通したということです。もう一気に冷めましたね、はい。完全に時間を無駄にしました。そんな密度の薄い覚悟でこの私に張り合ったのかと怒りさえ湧いてきます。

 

 

私は桐葉を本当の意味で私のものにするため、出会ってから現在まで幾度となく、1点のミスさえ許されない重圧と戦ってきたというのに。

 

 

 

 

 

 




過去問を渡すに至った経緯の説明は、相手が好感を持ちそうな内容を適当にでっち上げています。綾小路にはここで退学するのは流石にどうかと思ったから、一之瀬には偶然手に入れたけどこれで勝ってもフェアじゃないから、みたいな。


有栖ちゃんと桐葉君は相思相愛で、鈍感属性など持っていないためお互いそのことを自覚しています。なのに付き合っていないのにはちゃんと理由があります。
……ちなみに悪いのは桐葉君です。実は彼にはよほど近しい人間でなければ気づけないだけで、Dクラスに配属されてもおかしくない問題点があります。





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