格安ヘアカット店で大トラブル QBハウス美容師が実名告発「未払いの残業代2836万円求めて提訴」
「QBハウスは責任逃れをして、現場のスタッフにリスクを背負わせています」
現役美容師の笠川隆氏(65)が、こう怒りを滲(にじ)ませる。
散髪時間10分、1200円という割安な料金設定でヘアカット業界に革命を起こした『QBハウス』。持ち株会社は’18年に東証プライム市場へ上場し、国内の店舗数は約590を数える。そこで働く美容師8人が2月14日、運営元の『キュービーネット』に未払いの残業代など約2836万円を求める訴訟を起こした。
「同社には直轄店舗以外に、業務委託したエリアマネージャーと呼ばれる個人事業主たちが運営する店などがあります。提訴した美容師は、エリアマネージャーに雇用された人たちです。仕事内容は直轄店と変わらないにもかかわらず、本社採用の社員と待遇面で大きな違いがあります」(全国紙社会部記者)
契約内容を記した書面をもらえない
原告の一人、笠川氏がQBハウスに応募したのは’08年7月のことだ。
「働いていた美容院が閉店し再就職先を探している時に、ハローワークでQBハウスの求人票を見たのです。本社(東京都渋谷区)に連絡をすると、担当者のF氏の面接を受けて採用となりました」
だが、F氏は社員ではなく神奈川県の一部店舗を担当するエリアマネージャーで、給与額などを口頭で伝えられただけ。労働契約法で規定されている、契約内容が記された書面はもらえなかった。
「『QBスタッフ採用書』と書かれた書類(4枚目)にサインをしたのですが、『給与設定』欄は白紙の状態でした。しかし『面接者』欄にはF氏がサインしたので、この地区を担当する本社社員の面接を受けたのだと信じきっていました」
疑問に感じることは徐々に増える。
「私の給料明細書(3枚目)の支払元には『QB HOUSE』と明記され、所属や社員番号欄を見ても本社の正社員のように思えます。しかし、他のスタッフがF氏を『社長』と呼ぶのを聞いたのです。地区担当者であるはずのF氏を、『社長』というのはおかしいでしょう」
F氏からはパワハラも受け始めた。
「入社半年後、いきなり説明もなく一方的に月収を2万円下げられたのです。理由をF氏に尋ねると、『カットする人数が少ないから』と。一人のヘアカットにかけるのは10分程度ですが、時間がかかってしまうこともある。しかしF氏は契約条件などの説明をせず、効率が悪いからと彼の一存で決めてしまいました」
雇用主はQBハウスと信じていたが、契約時の不備やパワハラなどを通じて不信感を募らせた笠川氏。’19年に同じ店舗の同僚たちと労働組合を立ち上げる。地位確認などを求め、F氏とキュービーネットに団体交渉を求めたのだ。
「F氏の説明では、私はキュービーネットと業務委託契約を交わす個人事業主の彼に雇用されたということでした。面接時に説明があればまだしも、今さらそんなことを言われても納得できません。本社社員は社会保険が完備され、福利厚生も充実している。私たちには健康保険や年金保険すらなく、残業代も安く抑えられ不当に働かされていたのです」
笠川さんら原告が請求する約2836万円は、固定残業代と法定労働時間の週40時間を超えて働いた未払い金のうち、請求の時効となる約3年以内の部分だ。
笠川さんらの訴えに対し、キュービーネット(総務人事部)はこう説明する。
「(原告は)当社とは雇用関係になく、当社と業務受託契約を締結しております業務受託者と雇用関係にある方々と認識しております。業務委託先店舗の労働環境の改善については、まずは業務受託者が主体的に取り組むものと認識しておりますが、単独での改善が困難な場合においては、是正や改善に努めてまいります」
原告の代理人を務める指宿昭一(いぶすきしょういち)弁護士が、QBハウスの姿勢をこう非難する。
「同社は4月からカット料金を1350円に値上げしますが、理由として『理美容師の働く環境の向上や人材育成への積極投資』を挙げています。それならまず、エリアマネージャーに雇用された労働者の問題を解決するべきです」
従業員から訴えられたQBハウスの労働実態を、司法はどう判断するのか。
『FRIDAY』2023年3月17日号より
取材・文・撮影:形山昌由
ジャーナリスト