公認会計士が商社に転職した後の「年収」と「働き方」

公認会計士が商社に転職した後の「年収」と「働き方」

公認会計士・税理士の藤沼です。

先日、5大総合商社(経理)に転職した会計士と情報交換をしたので、そこで得た情報を共有します。

商社への転職を考えている会計士にとっては、1つのロールモデルになるかと思います。

ご参考程度に読んでいただけたら、幸いです。

この記事を書いた人

1986年生まれ(37歳)
公認会計士税理士

2014年 EY新日本監査法人 入社
2018年 中堅コンサル事務所 入社
2019年 藤沼会計事務所 開業
2020年 アカウントエージェント株式会社 代表

情報インタビュイー
公認会計士T.Kさん
T.K さん

38歳
公認会計士

大手監査法人:6年間会計監査に従事。
5大総合商社(出向):大手監査法人7年目より出向(2年間)
5大総合商社(転職):期間満了後、同社へ転職し現在に至る。


公認会計士が商社に転職した後の「年収」

公認会計士が商社に転職した後の「年収」

5大総合商社での年収は、(各社若干のバラツキがありますが)凡そ下記のとおりです。

転職後年収
転職1年目1,000万~1,100万
転職3年目1,100万~1,200万
転職5年目1,300万~1,400万
転職10年目1,800万~2,000万

※ 海外駐在をした場合、年収は更に2~3割程度増加します。

後述しますが、会計士が5大総合商社へ転職した場合、ほとんどのケースで「マネージャー」ポジションで採用されます。

大手総合商社の経理部給与テーブルでは、マネージャーになると(ボーナス込みで)確実に1,000万を超えます。

その後、1年ごとに50~100万前後昇級し、課長・室長クラスになると2,000万の大台に乗るイメージです。(ここは各社バラツキがあり、課長クラスに昇格すると2,500万ほどになるケースもあります)

なお 賞与の比率が非常に高く、年収の4割~5割程度を賞与が占めます。

なお、福利厚生については監査法人同様、ほぼありません。(ただし例外的に、海外駐在員には全額の家賃補助が出るケースが多いです。)

商社経理の人員数と、公認会計士の割合

商社経理の人員数と、公認会計士の割合

大手総合商社の経理部は、約50~80名ほどの人員で構成されています。

そのうち約2割、つまり10名~20名が公認会計士です。

ほぼ全員が大手監査法人出身の会計士であり、最低でも8年以上の経験を有した会計士陣です。

なお、経理部全体の8~9割が男性でして、基本的には忙しい仕事のため、女性にとって働きやすい環境とは言えません。

商社での公認会計士の仕事内容

商社での公認会計士の仕事内容

商社に転職した会計士の仕事内容は、例えば次のとおりです。

商社経理としての会計士の仕事内容(例)
  • 新規案件・新たな取引の会計税務検討
  • 予算見通し業務の準備のために他部門とのすり合わせ
  • 予算見通し資料のレビュー
  • 予実対比分析のレビュー
  • 営業部からの案件相談の対応
  • 経営陣からの質問対応
  • 開示資料・IR資料のレビュー
  • 監査法人対応

大手総合商社ではマネージャーポジションで採用されるため、「伝票起票」等の仕事は まずありません。

なお、一般的な企業の経理部での働き方は、事業会社の経理に転職した会計士の「働き方」と「給与推移」の記事で公開しています。

英語力はどの程度必要か?

総合商社では、海外ビジネスのボリュームが多いため、必ず英語に触れます。

エビデンスは英語の資料が多く、契約書等を読むリーディング力は必須です。

とはいえ、商社経理部内には「留学経験者」「帰国子女」のような方はほとんどおらず(年に1~2名採用されるかどうか)、ネイティブレベルでの英語力は必ずしも求められません。

TOEICでの点数で言えば、最低でも700点は必要です。(社によっては、700点以上の獲得を必須としている商社もあります)

ただし 様々なビジネスを抱える商社では、特定の分野でしか使われない専門用語・法律用語が多く、これに慣れるまでに多少の時間を要します。

なお、英語力以外の外国語(中国語・スペイン語等)は さほど使いません。基本的に無くても困ることはなく、あれば多少役立つ…という程度です。

IFRSの知識は必要か?

会計士の仕事内容(主に四半期・期末の決算作業)として、ほぼ確実に触れるのがIFRSです。

5大総合商社では、単体F/Sを国内基準で作成し、連結調整としてIFRS仕訳を入れ、IFRS基準の連結F/Sを作成します。

各人が担当科目を有していますから、担当科目に関するIFRS基準を知っている必要があります。

ただし、IFRS経験ゼロで商社へ転職する会計士は多く、転職後に学びながら知識を習得されるケースが多いです。

そのため、必ずしもIFRSの知見が必要となるわけではありません。

大手総合商社での特有の会計処理

総合商社特有の会計論点としては、例えば次のようなものが挙げられます。

大手総合商社での特有の会計処理(例)
  1. 投資関連の会計処理
  2. 子会社判定
  3. 管理会計(主に社内ルールについて)

① 投資関連の会計処理

商社では 頻繁にM&Aに関わるため、PPAやのれん減損(単体減損含む)に関する論点の検討が増えます。

PPAやのれん減損は、BIG4のFASにて特に取り扱うことが多いため、BIG4(アドバイザリー)からの転職者にとっては武器になるでしょう。

監査法人のアドバイザリーに転職した、会計士のキャリアを解説

② 子会社判定

総合商社では 子会社・関連会社が無数に存在するため、重要な意思決定に基づく子会社・関連会社判定が必要となります。

たとえば、出資先の意思決定をコントロールできないような株主間協定がある場合、外部会社と判断されます。

業種ごとに株主間協定書の作りが異なったり、特殊な契約があるケースもあることから、(分量が多いため)エビデンスへの理解が非常に煩雑となるでしょう。

③ 管理会計(主に社内ルールへの理解)

大手総合商社では、その規模の大きさから、社内での制度会計も非常に煩雑(ボリュームが多い)です。

100以上ものビジネスユニットが存在し、各ビジネスユニットごとの業績を「社内制度会計」に基づき作成します。

会計監査では、あるべき会計処理(財務会計)さえ知っていればよく、管理会計目的で計上された仕訳を財務会計数値に修正させれば、それで問題ありません。

しかし、管理会計目的で仕訳を起票する必要のある経理部員にとっては、社内制度会計も非常に重要なルールです。

社内での資金調達における使用金利レートや、適用する税理、費用負担関係など、独自のルールが各ビジネスユニットの数だけ存在します。

これらを(自分に関係する範囲で)全て知っておかなければならないため、転職直後は やや苦労するかもしれません。

商社での公認会計士の残業時間は?

商社での公認会計士の残業時間は?

激務なイメージのある商社ですが、電通の一件以降、残業に対する規制・監視が非常に厳しくなり 残業時間は大きく減少しています。(それ以前は、平気で月100時間以上 残業をしていた人もいたとの事)

繁忙期

ベースとなる繁忙期は、1月・4月~5月・7月・10月です。

個人差・チームにより違いはあるものの、繁忙期の残業時間は 月40~60時間 程度が平均です。

しかし、担当する案件によっては社内からの会計・税務に関する相談事項が増え、繁忙期でなくとも忙しくなるケースはあります。(この点は、監査法人と同様です)

また  1月~4月にかけて行われる予算作成は、期末決算と重なることから、朝7時に出社し深夜に帰宅するというようなこともあります。

閑散期

繁忙期以外の時期は、残業時間がとても減ります。

平均としては月0~15時間程度であり、監査法人時代に比べてワークライフバランスが取れた、という方が多いです。

公認会計士が商社に転職するメリット・デメリット

公認会計士が商社に転職するメリット・デメリット

「忙しいが、高収入」

というイメージのある商社ですが、実際の転職者に聞いた「メリット」「デメリット」をご紹介します。

メリット

公認会計士が商社に転職するメリット
  • 年収が高い
  • 経理にいながら、M&Aに関与できる
  • IFRSのスキルが身に付く
  • 語学力が磨かれる
  • オフの計画が立てやすい

経理部員として、最も給与水準が高いのが5大総合商社の経理です。

監査法人と違い 離職率が低く、ある意味で、会計分野の1つのゴールと言えるかもしれません。

また、経理部では(コンサル・投資銀行等と比較すれば)スケジュールが立てやすく、繫閑を想定しやすいというメリットもあるでしょう。

M&A・IFRS・語学力を高めることもでき、大きなスキルアップにも繋がります。

これらの経験は潰しが利くため、更なるキャリアップ(ベンチャー企業のCFOポジションや、PEファンド等)にも活かすことができます。

PEファンドに転職した会計士の、希少なキャリアと仕事内容

会計士がベンチャーCFOに転職して得た経験・キャリア

デメリット

公認会計士が商社に転職するデメリット
  • 他の職員(新卒入社組み)に比べ、海外駐在の機会が少ない
  • 他企業の経理に比べると忙しい

海外駐在は  ポストに空きが出なければならず、かつ中途採用組みは駐在の機会が少ないのが実情です。

そのため、(他の職員に比べると)駐在のチャンスが少ないことに不満を抱く方も多いようです。

また、スキルアップの一方で忙しいため、ある程度年収を高めた段階で転職される方も一定数います。

商社での公認会計士のキャリア

商社での公認会計士のキャリア

これは各社異なる可能性がありますが、基本的に3~4年に1度のペースで配置換えが行われます。(部外への配置換えはまずありません)

また、社によってはFA制度が用意されており、部内・部外ともに希望した部署への異動が可能なケースがあります。

商社では、このように数年に1度配置換えが行われ、様々な分野の会計スキルを身につけることになるのです。

その後、課長→部長 とステップアップを目指すことになります。

海外駐在は可能?

商社へ転職し、その後海外駐在した会計士はいます。

ただし、そもそも駐在させるために会計士を採用しているわけではないため、駐在するためには最低7年程度の勤務歴が必要になります。

なお、特段ネイティブな英語力は必要とされないことから、英会話ができなくとも海外駐在の枠を獲得するチャンスはあります。

公認会計士が商社へ転職する方法

公認会計士が商社へ転職する方法

商社には大きく2種類あります。

商社は大きく2種類ある
  • 5大総合商社
  • 5大総合商社以外

5大商社への転職方法

5大総合商社に転職したい場合、ほとんどのケースでBIG4からの出向を経る必要があります。

5大商社を希望する方は多く、採用側としては(知らない人を採用するという)リスクを取る必要が無いため、出向者の中で問題のない方に声をかけて採用するケースがほとんどなのです。

5大商社の経理部には会計士が数多く(おそらく、1社につき10~30名程度)在籍していますが、そのほとんどがBIG4からの出向者です。

つまり  大手監査法人のアシュアランス内で高い評価を受け、商社出向枠を勝ち取り、かつ出向先でも高い評価を受ける必要があります。

また、独立性の観点から 監査先クライアントへの出向は不可能ですから、各商社をどの法人が監査しているのか事前に知っておく必要があります。

(参考)監査法人別5大商社クライアント
  • EY:丸紅
  • デロイト:三井物産、三菱商事、伊藤忠商事
  • KPMG:住友商事

5大商社以外の商社への転職方法

豊田通商・双日・兼松を含めた、5大以外の商社に転職する場合は、必ず転職エージェントを利用して下さい。

商社では、配属されるポジションにより、業務内容が大きく異なるケースがあるからです。

どのようなポジションで募集をしているかは公開されておらず(クライアントの目があるため)、エージェントだけに知らされています。

本記事では5大商社を前提にお話しましたが、5大商社以外では状況が異なる可能性もあります。

必ず、転職エージェントから詳細を聞いてください。

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商社への転職に強い転職エージェント

会計士が「商社」を中心に転職活動する場合は、次の転職エージェントがおすすめです。

商社へ転職する場合には、大企業・事業会社に強いエージェントを利用する必要があります。

上記3社のエージェントは、大手かつ事業会社に強いためオススメです。

特に、商社ではM&AやIFRS等、専門的分野が大きく絡みますので、会計士に強いエージェントを選びましょう。

他のエージェントについて、詳細は次の記事でご紹介しています。

【迷ったら1択】公認会計士がオススメする転職エージェント【比較20社】

エージェント選びで失敗をすると、転職までに多くの時間がかかってしまいます。(私のように)

ぜひ、効率的な転職活動を心がけてください。

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