白冽のマリスガイン 第6話 3月
「もし本当に、子供の操縦する、ワンオフの、人型巨大ロボットが、現代の地上で動いたら?」
注意事項などは第1話の説明文を参照してください。
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「じゃあ学科の点数でもう1人に勝たないと、その……選ばれないの?」
「いや、点数は合格点あればよくて、どっちが選ばれるかは総合的に判断されるらしい。でも点数高い方がそりゃ良いよね」
「予想はしてたけど大変だな~。優鑠」
「今は部活無いし暇だから、まあ」
学校の休み時間、七海と龍之介にアクター最終審査の事を話す。APL… ロボットの操縦方法は隠して。
「頑張って選ばれてくれよ! その時はみんなで観に行くからさ」
「みんなで来るの?」
「アレ自体気になるし」
「私も、弟とお父さんがああいうの好きだから観に行くかも」
「じゃあ七海ちゃんも俺達と一緒に観に行こうぜ!」
「えー」
「『えー』って」
このように優鑠は、学校では周囲に勘付かれないよう"ロボット"や"アクター"などの単語を伏せて、既にアクター応募の事を知っている子達と話した。もちろん本人的には情報が漏れないよう気を付けているつもりである。
卒業式が終わり、学校から三年生は居なくなっていた。今週は公立高校入試が行われている。来週には、優鑠達二年生の進路説明会と教室の引っ越しがある。授業の内容は消化試合となり部活動もコロナのせいで休止のままだったが、三年生への進級は確実に近づいていた。
最終審査は今月末の3月26日土曜日。そこでアクターが決まる。もし選ばれたとしても、アクターの仕事だけに熱を入れてはいられない。
今日も優鑠は宿題を早々に終わらせ、最終審査に向けた勉強と操縦訓練に取り組んでいた。まずは学科の勉強から。
学科試験の出題分野は多岐にわたる。ロボットはもちろん、ショベルなどの重機、クレーン、貨物自動車、油圧、電気、燃料電池、通信、コンピュータ、材料工学、物理学、玉掛けなど。それだけJACEIRAのロボットは大規模で複雑なのだ。
全テキストを真面目に一巡していたらいつまで経っても終わらない。なので優鑠はJACEIRAの小林に指示された通り、用意された要点まとめだけを勉強していた。小林いわく、「要点まとめを全て暗記できれば満点を取れる。そういう風に要点まとめは作ってある」そう。テキストは寝る前に入眠用として読んでいる。
ここで、小林が優鑠に伝授した勉強方法・暗記方法を紹介しよう。
まずテキストの内容を自分なりにノートへまとめる。今回は対象が要点まとめなのでほぼ丸写しとなるが、しっかり自分なりにノートに記す。"音楽聴きながら"など~しながらはダメだ。
まとめたら、次は穴埋め問題を解いていく。穴埋め問題は、新しくノートに作ったり、まとめたノートの要所を色ペンでなぞり下敷きで隠れるようにしたものでいい。スマホアプリやウェブサイトで作成したものでも。とにかく、出題される可能性のある箇所全てをカバーした穴埋め問題を用意しよう。今回優鑠は用意された反復学習用問題を使う。
解いていく前に、穴埋め問題を一度に覚えられそうな量ごとに分ける。例えば単元やカテゴリが"ABCDEFGH"とあれば、"A" "BC" "DEF" "GH"というように、自分が覚えられそうな量で分ける。
そしたらまずセクションAの穴埋め問題から解く。答えは問題とは別の紙などに書く。最初にノートへまとめたので、全然分からないことは無いはずだ。Aを解いたら、思い出せなかった・間違えた箇所を振り返り、覚えて、もう1度Aをやる。こうしてAをほぼ正答できるようにする。
Aをほぼ覚えたら、次のセクションBCを同じように解き、覚える。BCをほぼ覚えたら、それまでにやったAも含めABCを解く。セクションDEFをやった後はABCDEFと解き、GHをやった後はABCDEFGHと解く。このように、セクションを覚えるごとに最初のセクションから一通り解く。ここで思い出せなかった・間違えた箇所は再度しっかり覚え、要注意問題としてマークする。全セクションが済んだ後は、定期的に穴埋め問題を1周し忘れないよう定着させる。
この一連の流れを行うことで、最初にやった所から直前にやった所まで満遍なく確実に覚えられるらしい。もし使った穴埋め問題と逆の穴じゃない方を答える問題や記述問題が出ても、答えられるそう。
優鑠は今までテスト勉強の時、なんとなくノートに書いたりテキストを読んだり、プリントなど既存の問題を繰り返し解くだけだった。そのため、小林に有効的な勉強方法を教えてもらえて感謝した。
最終審査の説明から1週間以上が経った。
学科の勉強は出題分野を一巡し、今は反復学習と練習問題に取り組んでいる。操縦訓練… APLの訓練は、毎日励んだおかげで3Dモデルをほぼ思い通りに動かせるようになっていた。動きのボリュームが狙いと違ったりする時もあるが、とりあえず念じて全身を動かせる。
しかし、まだ操縦訓練には難関が残っていた。
「……」
優鑠はセンサーを被り、真剣な顔でパソコンの画面を見つめる。画面にはいつも通り訓練ソフトの3Dモデルが居た。3Dモデルは腕を広げてふらついている。そーっと右足を出し歩こうとするも、倒れそうになり慌ててバランスを取った。ふらつきが収まったタイミングで左足を出すが、右足がガクっと動いて地面へ倒れてしまう。
優鑠はため息をつきパソコンのSpaceキーを押した。
これはシミュレータだ。ロギングのチェックは念じて思い通り動くか確認できるだけで、3Dモデルは空間に固定されていた。このシミュレータでは、物理演算の効いた空間で3Dモデルを念じて自由に動かせる。本番のように念じてロボットを動かす練習ができるのだ。
優鑠達アクター候補の2人は、ロギングでデコーダの精度を上げるだけでなく、シミュレータである程度3Dモデルを動かせるようにする必要があった。
しかしこれが難しい。シミュレータでは四肢や胴の干渉が反映されるため、動きを念じてそれが正確に認識されたとしても3Dモデルがその通りに動けるかは別だった。そんな状況下で、重力や地面をやりくりして姿勢を維持しなければならない。うまく動かせず姿勢を崩せば当然倒れてしまう。操縦システムに感覚フィードバックが無いのも姿勢のとりにくさに拍車をかけていた。
いちおうロボット・M30の重さが設定されているのか3Dモデルの慣性は鈍いので、現実空間のヒトや人形よりは倒れにくかった。それでも現状、優鑠は直立を維持するのがやっとだ。
優鑠は諦めず3Dモデルを歩かせようとするが、また転んでしまった。3Dモデルの位置をリセットするためにSpaceキーを押そうとする。
が、優鑠はキーを押すのをやめた。
空間の地面に倒れ込む3Dモデルへ優鑠が強く念じる。3Dモデルは、ゆっくり胴を持ち上げ四つん這いで進み始めた。
気付けばシミュレータの練習を始めてから、立ち続けるのも精一杯でまともに体を動かしていなかった。二足歩行は不安定。四肢を持つ動物にいきなり二足歩行しろと言っても無理な話だ。人類だってだんだん直立二足歩行に進化した。優鑠は、まずこの当たり判定と重力と地面のある環境に慣れる事から始めようと考えた。
「――最後に全身を動かした時の動画を見るよ」
「はい」
今日は週に1度の勉強・訓練報告の日。優鑠は小林とTeamsで通話していた。事前に送った動画を2人で一緒に見る。
念じて動かすデコーダの処理だけでパソコンは限界のようで、同時にTeamsで画面を共有したり画面を録画したりすると訓練ソフトがガクガクになった。なので、事前にチェックで3Dモデルを動かしている所を手に持ったスマホで撮影し、その動画で操縦訓練の出来具合を確認した。APLは念じて動かすので両手が空く。
「いい感じになったね。前回からブレが少なくなったし、速い動きの時のキレが増してる。ロギングは今日怪しかった所だけやって、これからはシミュレータの方を集中的に練習していこう」
「分かりました」
「シミュレータはやってみた?」
「まあ~…… はい」
「どう? 動けた?」
「まだ2,3歩しか進めません。バランス取るのが難しくてすぐ倒れちゃいます」
「いやすごいよ! よく歩けるようになったね。あれ物理演算の精度をギリギリまで落としてあるから、ただでさえ大変だと思う」
「この調子で頑張りましょう。勉強の方も」
「はい」
小林は、絶対にもう1人のアクター候補の練度に言及しなかった。アクター候補が相手との差を埋めるために無理しないよう気を遣っているのか。優鑠は自分の練度がもう1人と比べてどうなのか気になったが、意図を考え訊かないようにした。
今日は日中にM30の自立試験があり、通話が終わった後その時の写真が何枚か送られてきた。写真には、例のウェア?を装着し整備デッキから離れて自立するM30の凛々しい姿が写っていた。
M30や小林さん達も頑張っている。自分も、もう1人の事など気にせずやれるだけやらないと、と優鑠は思った。
― 第6話 終わり ―