岸田文雄政権が2022年12月、国家安全保障戦略など新たな安保関連3文書を閣議決定した。相手国のミサイル発射拠点を攻撃する「反撃能力」を保有し、防衛費をGDP(国内総生産)比で2%に倍増する方針を明記した。厳しさを増す安全保障環境の下で、米国に頼るだけではなく自立した防衛体制の構築を目指す狙いだが、日本の安全保障政策の展開には防衛力の強化や防衛費の増額にとどまらず、外交をはじめとする総合的な政策手段の組み合わせが重要だ。大きな転機を迎えた日本の安保戦略における外交の意義や今後の優先課題とは何か。外務省総合外交政策局の高羽陽安全保障政策課長に聞いた。
岸田文雄政権が昨年12月、国家安全保障戦略など新たな安保3文書を閣議決定しました。日本の安全保障政策は国内政治上の最大の論点の一つであるとともに、国際社会からも大きな注目を集めています。ただ、日本国内では「反撃能力」の保持や、防衛費の相当な増額、そのための財源確保策に関心が集まっているように見えます。外務省の見地から、この3文書の意義についてお聞かせください。
高羽陽・外務省総合外交政策局安全保障政策課長(以下、高羽氏):そもそも「安全保障(security)」とは、外的な脅威に対して、様々な手段で予防・対処することで国家と国民の安全を守る概念であり、軍事によって国を守る「防衛(defense)」よりも広い概念です。この「安全保障」を実現していく上では、国の守りを固めておくことも当然重要ですが、同時に、外交の力によって、日本にとって望ましい安全保障環境を創り出し、脅威の出現を未然に防ぐ、いわば「戦わずして勝つ」ことが極めて肝要です。
今回の国家安全保障戦略では、ますます厳しさを増す安保環境の下で、我が国が持てる国力を総合し、あらゆる政策手段を組み合わせて対応していく必要性が強調されています。そうした総合的な国力を構成する要素として、外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力の5つが明示され、特に「外交力」が第一に挙げられていることは重要だと考えています。このようにDIME(Diplomacy、 Information、 Military、 Economy)の要素を有機的に組み合わせて安全保障戦略を練り上げるアプローチは、いまや世界の潮流となっています。
戦後の日本では、防衛力よりも経済力に重きを置いてきた歴史的経緯もあり、防衛力整備が遅滞しがちでした。その結果、弾道ミサイル防衛用の迎撃ミサイルが必要量の6割程度しか確保できていないなど、既に決まっていた措置ですら十分に実施できていない状況に陥っていました。そうした実情を踏まえると、今回決定した防衛力の抜本的な強化や、防衛費の相当な増額に注目が集まるのは、自然なことと思います。
一方で、安全保障のために外交が果たすべき役割やその重要性は、一層高まっていると思います。今般の国家安保戦略においても、自国の防衛力の強化と並んで、日米同盟の強化、同志国との連携の強化も大きな柱と位置づけられています。さらに、軍縮・不拡散、国際テロ対策、さらには気候変動対策や国際保健、エネルギー安全保障など、狭義の安全保障概念には収まらない幅広い分野での外交上の取り組みが、安全保障戦略を実現していく上での具体的アプローチとして明記されています。
防衛力強化に焦点が当たった結果、「日本が自力で他国からの脅威に対峙できるようになることを目指す」とのメッセージが出ているように見えるとの指摘もありますね。
高羽氏:現在の国際社会の安保環境においては、ほとんどの国が自らの力だけでは平和と安全を確保することが難しくなっているのが現実です。とりわけ我が国については、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に照らしても、自衛隊の力のみで自国の安全が脅かされるようなあらゆる事態に対処するとの考えは、現実的でないばかりか、望ましくもないと考えています。
我が国の安全保障にとって、同盟国である米国の存在は不可欠です。我が国の防衛力の抜本的強化は、日本が最後まで単独で危機に対処することを目指すためのものではありません。日米の間でそれぞれの役割・任務・能力をすり合わせ、同盟総体としての抑止力と対処力を一層強化していくことが重要です。
今回の戦略改訂については、米国と十分にすり合わせが行われたということですね?
高羽氏:はい。米国との間では常日ごろから、首脳や閣僚同士から実務家同士に至るまで、本当に様々なレベルで頻繁に意見交換を行い、双方の戦略観、日米同盟の方向性などをすり合わせています。そのような積み重ねがあるからこそ、今回の戦略が発表された際にも、バイデン大統領や米国政府高官はもちろん、連邦議会議員や有識者からも、次々と日本の戦略を支持・歓迎する旨が表明され、日米同盟の層の厚さを示すことができました。
また、戦略の発表後、1カ月もたたないうちに、両国の外務・防衛担当閣僚が集う日米「2プラス2」の開催や、岸田首相の訪米が実現し、日米の安全保障戦略が軌を一にしていることを確認することができました。
3件のコメント
谷守
自営
“そのような積み重ねがあるからこそ、今回の戦略が発表された際にも、バイデン大統領や米国政府高官はもちろん、連邦議会議員や有識者からも、次々と日本の戦略を支持・歓迎する旨が表明され、日米同盟の層の厚さを示すことができました。
我が国は、現在の
安全保障環境における核抑止の必要性を踏まえ、「核兵器のない世界」に向けた現実的かつ実践的な取り組みを主導していかねばならない、そのような特別な立場にあると思います。
...続きを読む今回決定された新たな資金協力枠組みを活用することで、同志国の軍に対して、沿岸監視のためのレーダーや巡視艇、防弾車、テロ対策機材などを供与することができるようになります。
それは息の長い取り組みになるでしょう。中国との間で「建設的かつ安定的な関係」を築くというのが我が国の対中戦略の基本となります。
その取り組みは、5年間かけてと言わず、できる限り迅速に、野心的スケジュールの下で進めるべきです。速やかに具体化し、成果を出していく、そういう気概と覚悟を持って臨む必要があります。
このほか、自衛隊と外国の軍隊の円滑な協力のための協定の締結や、次期戦闘機の共同開発に関連する交渉など、同志国・友好国との安全保障面での協力も重要な業務です。
安全保障政策課の傘の下には、近年ますます重要性を増している経済安全保障やサイバーセキュリティー対策、海洋や宇宙における安全保障、PKO(国連平和維持活動)をはじめとする国際平和協力、国際テロおよび組織犯罪対策といった分野を担当する複数の室が設置され、大きなファミリーを形成しています。”
→5年と言わず早急に、とは、成程、と。早く、自衛権保有の法的明文化を果たさなければ成らない。
我国の法的困難な状況の中でも、対中・印・露との関係を、粘り強く保っている気配が、行間から伝わって来ました。
国民的には、有事時、流血NO、と言う掛け声を大きくしておかなければ成らない。
railwaysinfo
歴史の中で何が誰のせいだとかと言うのも何ですが…
ロシア、中国、北朝鮮がやりたいことをやりたいだけやれる世界、これこそオバマが目指した世界新秩序だったわけで、彼は孔子平和賞に相応しい。
おかげで日本はエラい迷惑を被っているしウクライナじゃ
罪のない市民が毎日死んてます。...続きを読む匿名
国連の常任理事国が核抑止力を背景に戦争をはじめ、国連も非難することしかできない状況にあり、そのような事態を想定し対抗するためには核抑止力を背景とした力の均衡を図るしかなく志を同じくするもの同士が団結するしかないというのが今の現実出ではないか
。...続きを読む核のない世界を目指さないといけないのは分かるが、持ってしまった技術を完全にこの世から消え去る手段は見当たらないのが今の最大の課題だと思う。
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