最近は絵を描くという概念について色々と考え込んでしまう。
社会性を考慮すると、精査する前に迂闊に何も口には出せないけど、単直に表すと、今までの人生で大事にしてきた"絵"が、必ずしも全ての人に同じように大事に思われてない世界の幅を知った。
描画技術への尊敬が、絵が描かれた背景や筆致を辿る楽しさが、絵を通して描いた人の物語性を読み解く面白さが、色使いのセンスや塗りのテクニックを見た時の憧れが、優れた技巧への興奮が、驚異的な塗り込みへの感動が、そういった憧憬が、世の中の変化や新概念に不合意にねじ曲げられ、一部で一気に無秩序に変貌していき、ときに土足で踏み荒らされているのに対して、それも絵だとされることに、心が混乱し追いつかない。
人間の学生だった頃、イラストレーター志望だった私は部活動に所属せず、家に直帰しパソコンにかじりついてペイントツールSAIで絵を描いてきた。学校の美術部に入って美術部らしい絵を描くのは、なんか違うしデジタルイラストを描きたいからその鍛錬に青春を注ごうと思っていた。
ある夏、美術の授業の先生に「夏休みに地域の美術部合同でデッサン会をやるんだけどよかったら来ない?」と声をかけられた。私は自分が絵が上手いという自信があったので行くことにした。青々とした空の下、コンビニでお昼休憩用の軽食を買ってデッサン会場へ向かった。色んな学校の制服、足元に敷かれたブルーシート、ど真ん中には各校から持ち寄られたモチーフ達に、それを取り囲むようにぐるりと設営された持ち運び軽量イーゼル。席は自由に着いた順に決めていいとのことで、前の方に座った。鉛筆の芯をカッターで削って鉛を露出させていきながらドキドキ高揚した。
この日の体験が、私のお絵描き人生を大きく変えることとなった。デッサンを終えると、皆の作品がクリップで固定されたカルトンが上下二段にズラリと部屋中に並べられる。並べてみると、他の人がどこに着目して描いたかとか、どういう時間配分で進めたのかを比較できてとても面白い。木炭デッサンの道具を持参してた人の作品は色が濃くてカッコよくて羨ましかった。私の描いたデッサンは下段、右側の方だから講評の順番は後半の方。講評の時間では、各校の美術顧問の先生が一点一点の作品に対して実直な評価をしてくれる。
私のデッサンの講評の番がきたとき、心の準備はしていたが予想外のことが起きたもので驚いた。知らない男の先生ふたりが、ブルーシートの上で伏せて、デッサンの下の隅っこに書いてある私の名前を読もうとしているのだ。それまでの講評では、まず作品講評をして、描いた人は誰か先生が聞き生徒が挙手する形式だったので予期せぬ流れに驚いたというか、目の前で大の大人の人がふたりして自分の絵の前で伏せている光景はなかなか衝撃なもので、今でも記憶に強く残り忘れられない。何が起こってるのか分からなかったが、なんと講評の前に誰が描いたのか気になったらしいという。美術部員じゃないのがバレたのか?と思いきやそういう理由でもなく、デッサンの出来がよいと感嘆的に褒められた。画面内へのモチーフの取り入れ方、画面の作り方、空間の表現の仕方、遠景のヒマワリの柔らかくぼけるような表現、布を表すためのタッチの分け方、立体物が直線ではなく魚眼のように遠近を描いていたり、本格的にデッサンを学んでない故の自由でのびのびした描き方だから刺さったんだと思うけど、ベタ褒めされた。ああ、私は本当に絵が上手かったんだ。帰り道、電車の中、うれしくてうれしくて仕方がなかった。
夏休みが明けてすぐさま美術部に入部した。美術授業の卒業生が残していった油絵具の道具を使わせてもらい、初めて油画技法に触れた。ぺたぺた。やっぱり、自分は絵というものが総合的に好きなのだと知る。絵の具を塗り重ねる感覚が楽しかったし、田舎だったので美術の先生に車で美術部一同でよく美術館に連れて行ってもらった。先生の出典作もよく見せてもらった。
写実的な絵にも興味が出て、学校の行き帰りにCGHUBという世界中の絵が上手すぎるイラストレーターやコンセプトアーティストの作品が投稿されるサイトもよく見ていた。
そうした経験や思い出が、私の厚塗りイラスト表現へのかけがいのない根源をつくっていった。
子どもの頃から絵が好きで、周りの優しさにも恵まれて上手くいき、挫折知らずでお調子者に育った私はイラストレーターの仕事や同人活動もトントン始められた。LINEスタンプの売上で奨学金を途中で止めて学費を自分で払うこともできた。
しかし結局、失敗を知らなかったため、その後、漫画の仕事を通したたった一回の挫折で一気に自己を喪失し、能力が落ちて何もできない日が続いて。這い上がるために私は人間をやめ、バーチャルアーティストになって、今また絵を描き続けてる。
"絵"には人の命や息吹が凝縮されていると信じたい。
会話
返信先: さん
違うからこそカモちゃんの絵が好きにどんどん引き込まれてったのはあるよー(個人的な、絵に限らずだけどねw)
絵に人のそういうのがこもってるのはわたしもそう思う
以前なんも決めずに描いた絵が(カモちゃんの影響で買った液タブで初めて描いた絵)… さらに表示