死刑廃止国で犯人が殺害・射殺された人数について整理しました。
何かと参照されるイギリスと日本で死刑執行されると大使館のツイッターアカウントがうるさいフランスについて取り上げます。
- 欧州各国の公権力執行による殺害と日本の死刑の統計
- フランスの2018年の射殺件数は15件、非武装者が8人
- イギリスの射殺事件でも正当防衛事案ではない単独犯・非武装者が含まれる
- 日本の死刑執行人数と射殺事例
- 世界とヨーロッパ諸国の射殺数
- 死刑廃止国は死刑の代わりに現場で射殺=簡易処刑"summary execution"してる?
- フランス大使館のダブルスタンダードが問題
- 死刑には犯罪抑止効果が無い?
- 現場での射殺は非武装・単独犯には為されない?
- 日本では重武装集団による犯行が無いから比較できない?
- 現場の警察官等の負担・巻き添えが少ないこと
- 死刑は証拠に基づく裁判で合理的な疑いを入れない程度の立証を経て行われる
- 冤罪の場合に取り返しがつかないから廃止すべき?
- まとめ
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欧州各国の公権力執行による殺害と日本の死刑の統計
List of killings by law enforcement officers by country - Wikipedia:12月27日魚拓
「国家の法執行官による殺害者数リスト」というページによると、2018年の各国の殺害数(死刑は含まれていない)は以下の通りです。
フランス⇒人数:26人、1000万人あたり3.8人
日本⇒人数:2人、1000万人あたり0.2人
イギリス⇒人数:1人、1000万人あたり0.15人
この表は「射殺」以外の原因も含まれているため、出典を参照する必要があります。
フランスとイギリスは死刑廃止国なので、日本はさらに死刑による死亡者も別に調べる必要があります。
フランスの2018年の射殺件数は15件、非武装者が8人
Vingt-six personnes sont décédées à la suite d'une intervention des forces de l'ordre en 2018 - Basta !:魚拓
2018年、警察の介入により26人が死亡しました。これらの死者のうち、15人が警察官または憲兵による発砲後に射殺された。これらのうち8人は非武装でした。
フランスの2018年の射殺件数は15件、非武装者が8人でした。
15人というのは2018年の日本の死刑執行人数と同じですね。
そして、43年間の殺害人数を視覚化したのが以下のページ
Morts à la suite d'interventions policières - une enquête de Basta Mag:魚拓
これは公式な数値ではありませんが、概ね参考になるものでしょう。
そこでは、43年間のうち、警察の介入の結果または法執行の結果として676人が死亡したとあります。
そのうち、412人が銃器で殺害され、そのうちの235人は非武装であると指摘されています。毎年9.5人が射殺されてる計算になります。
他にも、82人が警察署や憲兵隊で逮捕されたとき又は逮捕されたばかりの移送中に死亡したことや、77人の未成年者が死亡していることが報告されています。
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イギリスの射殺事件でも正当防衛事案ではない単独犯・非武装者が含まれる
Fatal police shootings | Inquest:魚拓
イギリスでは1990年以降に警察等による射撃によって72名が死亡しています。
毎年約2.5名が射殺されている計算になります。
大まかな射殺時の状況は以下で確認できます。
List of killings by law enforcement officers in the United Kingdom - Wikipedia:2019年12月27日魚拓
これを読むと、射殺当時「非武装」だった者や単独犯であった者などが見つかります。
しかもどう見ても正当防衛の事案ではありません。
(正当防衛でなければ警察が発砲できないという日本が特殊過ぎる)
日本の死刑執行人数と射殺事例
日本の死刑執行人数は1993年以降の合計で127人です。
他方、警察等が射殺した人数は、戦後の合計で13名です。
2018年は交番に刃物を持って接近した犯人をその場で射殺した事件と、けん銃で警察官らが殺害された現場で駆け付けた警察官が犯人を撃ち、後に死亡した事件があります。武装した単独犯だということが分かります。
これらを合計すると(射殺は戦後からだが)毎年約5.5人が死刑または射殺により殺害されていることになります。
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世界とヨーロッパ諸国の射殺数
なお、あくまで上記のWikiによればですが、他に日本よりも殺害率が低い国はデンマーク・アイスランド・スイスのみであり、欧州各国は世界の他の地域よりは低いですが、日本よりは高い殺害率です。
世界とヨーロッパ諸国の射殺数は、総体としてみれば、日本の死刑と射殺数を含む数値よりも遥かに高いレベルにあるということが言えます。
死刑廃止国は死刑の代わりに現場で射殺=簡易処刑"summary execution"してる?
こういう主張に対して『死刑廃止国は死刑の代わりに現場で射殺=簡易処刑"summary execution"してるだろう』と指摘されることがあります。
私は基本的にこういう事は言いたくないですが、日本を野蛮であるとか言ってる者に対して揶揄するために用いる反論としてはありだと思います。
死刑が存在しない国から「非人道的」と言われていることに対して、日本の死刑と比較するには、射殺事例が一番適切だろうということで持ち出されているに過ぎません。
論理的には死刑と射殺の数は無関係ですがこうした非対称な状況なので仕方がない。
死刑の「代わりに」現場で射殺しているという事を示すような証拠はおそらく無いので、因果関係なんて分かりっこないです。死刑制度があった国が、死刑廃止をしてから射殺等の殺害が多くなったという事実があるかを考えるのは、治安の変化等もあって無意味でしょう。イギリスは日本よりも(死刑含めた)殺害については低いですからね。
特に本稿では日本の銃殺も含めて論じているのでここでの意味での比較は無関係という指摘はあたりません。
フランス大使館の主張が受け入れられていないのは、主に次に指摘する点が原因です。
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フランス大使館のダブルスタンダードが問題
フランス大使館の主張がおかしいのは、【死刑廃止を日本に迫る理由として「非人道的」等を持ち出しておきながら別の公権力行使の形態で殺害を行ってて、それはあんたらの理屈上は「非人道的」では?】という点です。
要するにダブルスタンダードの問題です。
非武装者が235人射殺されているという点を見ても、殺害せざるを得ない状況でも何でもない事案でも殺害が起こっていることが伺え、射殺をする際の手続・基準が(日本との比較で)緩いと考えられるから、簡易処刑と言われても仕方がないと思います。
死刑には犯罪抑止効果が無い?
死刑には犯罪抑止効果が無いと言う人が居ます。
これは「犯罪抑止効果」を1面だけで捉えているのが原因だと思います。
- 死刑という刑罰法規が存在することによる一般予防効果
※チャイナは死刑が現に行われている事実をもって抑止効果と考えており上記とは異なる意味合い - 死刑がその者に執行されることで「その者による将来の犯罪が無くなる」
「犯罪抑止効果」と言うとき、刑法学でも1番の意味で使われますから、それにしか意識が向かないのはある意味で当然だと思います。
刑事政策というある種の定量的な観測の次元では犯罪抑止効果は可視化されない。
しかし、2番目の効果は絶対的に存在することが明らかです。
そのような考え方をすることが妥当かはともかく、死刑がその者に執行されることでその者による犯罪は行われなくなるというのは「事実」でしょう。
フランスもそれ以上の犯罪が行われるのを防ぐ目的で現場で射殺しているのではないのでしょうか?それともフランスの警察等は快楽で射殺をやってるんでしょうか?
現場での射殺は非武装・単独犯には為されない?
基本的に軽武装・単独犯ならば射殺ではなく制圧・確保するという運用が為されているというのはその通りだろうと思います。
というか「基本的には確保を第一に試みる」というのは先進国では当たり前でしょう。
しかし、先述の資料でも明らかですが、射殺時に非武装であった単独犯のケースはいくらでもあるのであって、非武装・単独犯は射殺されない、ということにはなりませんし、そういう事案のすべてが違法行為として処罰対象になっていることはないでしょう。
非武装であっても集団で殴り掛かるなど、銃器を使わないといけない状況があるのは確かなので、非武装者・銃火器ではない軽武装者に対する射殺だからといって不当だとか言う気は、私はまったくありません。
たとえば歴史上も以下のような事例があります。
朝鮮騒擾(三・一運動)平安南道孟山の「住民54名銃殺」の実際
日本では重武装集団による犯行が無いから比較できない?
確かに、フランスの事件を見ても分かりますが、重武装のしかも集団によるテロ行為の鎮圧・阻止の必要がある事件がある所では、どうしても射殺せざるを得ない場面は多くなります。
私を含む多くの人は、その事自体を残虐であるとか非人道的だと言ってるのではない。
あくまでも日本の制度を批判するために「非人道的」などという文言を使っていることとの整合性を問題視してるに過ぎません。
現場の警察官等の負担・巻き添えが少ないこと
忘れてはならないのは、犯行現場で殺害しない・極力犯人に対して有形力を行使しないことによって、数字に表れない警察官らのケガや精神的苦痛があるということですね。
他方で、銃器を安易に使わないことで関係ない国民が巻き添えになることが無いという効用があるというのも確かでしょう。
死刑は証拠に基づく裁判で合理的な疑いを入れない程度の立証を経て行われる
そして、死刑は訴訟手続のもと、証拠に基づく裁判を経て合理的な疑いを入れない程度の立証がなされた場合にのみ行われています。
ですから、死刑が人権軽視であるとか非人道的であるとかを、現場で非武装の人間もバンバン射殺し、未成年も執行中に死亡するような権力行使をしている国が言ってくるというのは、いったい何様なんだと思います。
冤罪の場合に取り返しがつかないから廃止すべき?
それでも「死刑は冤罪の場合に取り返しがつかないから廃止すべき」と言われます。
しかし、それはどの刑にもありえる話です。
刑罰によって法益が侵害されればそれは回復しないのであり、費やされた時間は戻ってこないのであり、「冤罪の場合に取り返しがつかない」のは死刑も無期懲役などの他の刑も一緒です。それを言ったらおよそ全ての刑罰を科すこと自体の是非を論じることになります。
まとめ
死刑を廃止するか否かは人道問題でも合理性の問題でもなく、国の政策としてどう決断するか否かの問題だと思います。
道路を右側通行にするか、左側通行にするかの違いのようなものです。
死刑を無くして国民の税金で犯罪者を養うのか、それとも冤罪の可能性をゼロに限りなく近づけた上で死刑を執行するのか。
正解なんて無いと思います。
以上