渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

スロウ

2022年08月18日 | open



手玉を動かすことが中心のキャロム
から的玉を狙い通りに運んでポケッ
トインさせ、かつ
手玉を任意の場所
に動かすというポケット種目
に転向
した頃、どうして正規の厚み
なのに
先玉が正規に進行しないのか
対処に
困ったことがあった。キャロムでは
めったに使わないド芯撞きの時に

よくその現象が発生した。
逆ヒネリを入れたら厚く軌道が外れ

る事はキャロム時代からは知って
いたが、ド芯での先玉ズレの現象
については多少面食らった。
スロウの原理について深く知らなか
ったからだ。
今の時代のように誰も懇切丁寧に
手取り足取り教えてくれたりはし
ない。「見て覚えろ」「自分で解き
明かせ」「てめえで考えろ」の時代

だったからだ。
そんな時、超絶勉強になったのが
プロ第一期生で日本のポケットビリ
ヤードの隆盛に歴史的に貢献した
一人藤間一男プロ(1929-)の著書
だった。
戦前生まれのビリヤード選手とし
ては珍しく藤間プロは国立大学
出身で商社勤務も経験した一風
変わった経歴の持ち主のプロだ
った。
藤間
プロの著書は、極めて理路
整然と
「原理」について解かり
やすく書か
れていて、その書籍
のみ、ビリヤード解説書群の中で
は内実が理知的で
燦然と輝いてい
た。

1986年当時で既に出版元での在庫
切れだったようで、書店での注文
も叶わなかったのだが、当時の
撞球仲間の仲良い女性が当該書籍
を在庫
ストックしている撞球場を
探し出
してきた。
東京下町にあるビリヤード場で、
残り数冊だが残っていた。
その彼女に案内してもらって買い
に行った。
(同書は2000年3月
に満を持して
BABジャパンから再刊。フォロー
ショットは手玉がラシャの上を
滑空してから進む、とする旧版
初版当時のままの記述は、2000
年時点ではまだ科学的にそれは
現象として現実には存在しない
事が未発見だった。その後日本人
が科学的にフォローショットの
原理と現象を物証した。
その未知のまま説明されている
物理現象記載部分以外は歴史上
日本人の記したポケットビリヤ
ードの最高の書。『ポケット・
ビリヤード大全』はまさにコン
プリートだ。バイブル的存在)

藤間プロの書籍を読んで、26歳の
私は目から鱗落ち。

元々鱗など着けておらず、皆目不明
の状態だったのだが。鱗どころか
目が開いていない状態。

どうしてある特定の角度のみ「引き
ずられ現象」が起きるのか、その原
理の根本は何なのか、藤間プロ
の書
籍で得心が行った。

そして、なぜどんな時でも上級者は
ほぼヒネリを使うのかも納得できた。
手玉をクッションに入れた後にどう

運ぶかの為にヒネリを使うのでは
ない。手玉と的玉の分離角度の不正
運動の減殺のために、任意に手玉
スピンをかけていたのだ。
ド芯撞きが基本であるとする論の

落とし穴に気づかなかった。
なんでだろうと思って尋ねても、誰
も教えてくれたりはしない時代だっ
たから。「自分で考えな」と。
特にナインボールなどでは、ラスト
ボールは上級者は全員もれなくヒネ
リを入れてスパンと撞いていた。
手玉のど真ん中突きの転がし玉など
絶対にやらない。絶対だ。

よしゃいいのに、真ん中撞きの
ソロリ転がし玉の時ほどスロウ
現象は倍増する。やめてけれ、
オー神様助けてパパヤー(左卜全)
なのだが、レール際の玉を厚く
外すソロリ撞きの人がやらかし
ているのはまずすべてその現象。
球聖戦女子などに多く見られる
現象だが、あれはヒネリによる
スロウ減殺補正とスパンと撞き
出す球勢によるスロウ減殺現象
と、そのどちらも否定して真ん
中ソロリの転がし玉をやって
いるために、どんなに厚みを正
確に取っても確実に外す。
コーナー穴前2ポイント程の
近距離の玉を皆外すような事
を現出させているのは、ソロリ
転がし玉の人たちばかりだ。
これは今でもよく見られるので、
本人が気づいていないか、「真ん
中撞きこそ基本で正確」という
虚構に絡め獲られているのだろう。
意識の変革をして自分の撞き方
を変えない限り、そこからは抜け
られない事だろう。
その自己改革の時期は、早ければ
早いほど良い。
私は幸いに肥土軍作師や先輩から
「玉は撞け」という事をこれで
もかという程に言われたので、
転がしチョン突き玉でのスロウ
外しは極めて早期に脱出できた。
これは年齢も時代も関係ない。
台上の物理現象は永遠不変だ
からだ。
奥田玲生プロ(20歳)のように
スパンとしっかりとキュー出し
をして玉を撞き出す人たちは、
スロウを回避しているのでその
レール際のアングルではまず外
さない。
スロウ外しは、角度の問題では
ない。
物理現象を知悉して、それに
人間が適正対処できるかどうか
の問題なのである。
マイナス要因となる物理現象の
発生起因はどんどん除去した
ほうがよい。
ソロリ転がし玉は、全方位的に
撞球としては適正物理性から
して負因要素を増幅させるやり
方なのだ。

スロウという現象のカラクリを
知らなかったポケットやり始め
の最初の1ヶ月間の中頃までは、
上級者が必ず1/4タップ(ヒネリ
はたとえ1/4タップだろうと確実
に効果が出る)だろうとヒネリ
を入れるのは、これは何故なの
だろうと、
ずっと思っていた。
どうしてここでひねる?と。
上級者たちの撞球を見取り稽古
していて。
理由はスロウというビリヤード
独自
の特殊現象を減殺させるた
めだった。消滅は無理でも、限り
なく軌道に悪影響を及ぼさない
程度に補正を人為的にかけて行く。
順当に的玉を真ん中撞きでも取れ
る角度でもヒネリを使って、しか
もスパンと上級者が撞く正体は
これだったのだ。
また逆に上級者はスロウをも利用
する場合
もある。殺し玉などで
は多用する。ソロリ突きではなく
スッと撞いて手玉を殺す。
とにかくソロリの真ん中転がし玉
はまずやらない。摩擦抵抗の影響
が非常に大きいからだ。

原理が理解できて、合わせの練習

をしたら、ポケット開始後ひと月
後に完璧なシュートと手玉移動で
穴幅1.6のバカみたいに渋い台で
ナインボールの初マスワリが出た。
品川区の武蔵小山にあったとても
古い玉屋だった。スリークッション
1台、ポケット1台の店。
「おめでとう」と店のマスターと

相撞きの上級者の先輩が言って、
そこで初めてマス
を割ったと気づ
いた。集中してい
て、マスワリを
継続中だとは気づか
なかったのだ。
初心者なんてそんなもん。
そして、ゲーム中は会話などせず、

店主も相手も話しかけはしない。
じっと射抜くように相手の撞球を
動作の一つさえ見逃さず見ている。
ビリヤード場での撞球はそういう

ものだった。
店で聞こえるのは玉のぶつかり合

う音と落ちる音のみ。
飲食バーではないので、BGMさえ
流さない。
食事は近所の日本蕎麦屋かラーメン

屋からの出前だ。

現代は技法や原理について解説して
くれているプロが多いので、よい
時代だと思う。
こちらのプロの解説なども、藤間
先生の解説を上回るような丁寧な
説明をなさっている。
初心者の方はとても勉強になると
思う。
 ↓

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