総 "地下アイドル" 化が進む？

―特に活用すべき若手クリエーター側にも「資金やビジネスの意識が足りない」という側面があるかもしれません。

　そうですね。たまに美大で授業をしますが、自分の作品をお金にすることに対する抵抗というか、恥のように感じている学生が少なくないのを感じます。自分が作ったものをお金に変えて、それで生活費や制作費をまかないながら更に新しいもの作りに専念していくのは、本来は美しいことですよね。なのに「お金に幸せを求めていないから稼がなくていい」と。

―それが現代的な価値観なのでしょうか。

　アンダーグラウンドでインディペンデント、決して有名にならないデザイナーっていますよね。ファンはそれなりにいて、服を作れば売れるけど、彼らは普段あまりメディアには出てこない。デザイナーの坂部三樹郎さんはこれを「新しいムーブメント」だと捉えていました。そして彼らについて、面白いけど「怖い」とも話しています。こういうデザイナーが増えると、従来の商業ラインに乗っているファッションはやっていけなくなるんじゃないかと。これこそ、革命がこっそり起きていると言えるのかもしれません。

―お金の匂いのしないやり方が、主流になっていく可能性もある。

　それはもう「総"地下アイドル"化」ですね。"地下アイドル"と呼ばれる子たちが「私たちはイケてないのがわかってるし、夢を見るなんてとんでもない。階段に例えるなら地下と1階の間の踊り場くらいでいいんです」と話しているのを聞いて、衝撃を受けたことがあります。彼女らは、例えば10人のためにライブをやるし物販もする。「少数でもファンでいてくれる方々を大切にして、生活ができればいい」と。アイドルだけではなくて、マルチネレコードというネットレーベルを主宰するtomadくんが、高校生の時から10年以上アンダーグラウンドな活動を続けているという例もあります。音楽業界に限らず「地下化」がもっと進むかもしれない。

―確かに最近はハンドメイド市場が拡大していたり、プロとアマチュアの境目が曖昧な傾向がありますね。その背景はやはりインターネットの発達だと思いますが、比較的ファッション業界のIT化は遅かったように思います。

　そこは、インターネット界を生きてきた僕らも反省すべきだと思いますね。「ネット万能論」なんて言っていた時期があって、でも実際に外の業界からは「ネットなんて虚業じゃないか」とも思われていたのに。ITとファッションの間にも、そういったお互いの溝があったと思うんです。

個人が声を上げられる場にしていきたい

―でも今ファッションは過渡期で、新しいシステムやビジネスを求める考え方になってきています。

　僕らも寄り沿うべきで、できることをやっていけたらと考えています。ファッションとクラウドファンディングをつなげることで、ビジネスの仕組みやイメージも変えられたら。

―「CLOSS」について、目標やヴィジョンを聞かせてください。

　数値目標としては、総支援流通額として年間3〜4億円を目指しています。でも僕のビジネスの考え方のひとつとして、顔がイメージできない人のためのサービスは難しいと思っているんですよね。例えば「クロス」の運営を考える時、僕は友人のデザイナーの顔が浮かぶんです。ファッションが好きでブランドを始めたけど、生活はまだ自転車操業でバイトしながらやり繰りしている。でも僕は彼が作る服が好きで、同じ思いを持ったファンもいます。そんな彼のような実力を持った卵が、ちゃんと食べて育っていけるようにしていきたい。本当に届けたい人に届くようになるべき。そういった人がたくさん出てくる場所にしていきたい。最終的には、そういった「個人が声を上げられる場所」にしていきたいと思っています。

―それはファッションも音楽もアートも、全てのクリエーターに通じるかもしれませんね。クラウドファンディングを通じて、どんな未来を想像していますか。

　若手のクリエーターが育つ環境にしていきたいのが第一。でも何をもって成長とするかは、著名セレクトショップに卸すとか、雑誌に取り上げられるとか、最終的にパリでコレクションをやるとか、これまで王道だったやり方だけではないと思っています。インターネットを通じて新しい形でファンとつながることや、才能や情熱を持った人がやりたいことに取り組める仕組み、そして好きなものを好きな時に買えるようになることも、可能性を広げるでしょう。小さな革命が起こり続けてもっと自由な世界になれば、ファッションはもっと面白くなるのではないでしょうか。

■クラウドファンディングサービスCAMPFIRE：公式サイト
■ファッション特化型クラウドファンディングサービスCLOSS：公式サイト

■家入一真
1978年、福岡県生まれ。株式会社CAMPFIRE代表取締役。株式会社paperboy&co.（現GMOペパボ）を創業後、2008年当時最年少でジャスダック市場へ上場。退任後、BASEやCAMPFIRE、XIMERAを創業。オンザコーナーの立ち上げやスタートアップへの投資育成、現代の駆け込み寺リバ邸の全国展開なども行う。