インターネットの発達と「一億総表現社会」の訪れは、無名のクリエーターらにも希望の光を与えた。しかし、様々なウェブサービスを世に送り出してきた家入一真は、表現者は増えたが受け取る消費者や鑑賞者が枯渇しているという状況に「危機感を覚えている」という。表現する人を支え小さな声を拾い上げるという目的で、資金調達を民主化するクラウドファンディングの「キャンプファイヤー(CAMPFIRE)」を立ち上げたのが5年前。今年10月には新たにファッション分野に特化したクラウドファンディング「クロス(CLOSS)」を始動し、デザイナーらに資金調達のプラットフォームを提供している。インターネットが変化させた世界を見据えながら、その可能性に賭けてきた家入一真は、なぜ今ファッションに目を向けたのか。
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場を提供するだけでいいのか?
―家入さんの専門分野といえば、やはりインターネットですね。
僕は基本的にコミュ障で(笑)。インターネットの本質を考えるのが好きなんですよ。
―コミュニケーション自体も「IT革命」と言われた2000年以降、インターネットによってずいぶん変わったように思います。
そうですね。まさに個人がホームページを作って表現し始めたのが2000年頃で、僕はレンタルサーバーの「ロリポップ」を始めて、2001年に最初の会社のpaperboy&co.(現GMOペパボ)を立ち上げました。インターネットが浸透したことによって、個人がより表現や創作活動、経済活動をしやすくなった。だからその後、個人が簡単にショップを作ることができるサービス「BASE」を始めたんです。そうして気付かないうちに「優しい革命」が起こっていった結果、色々な物事がより個人の手に戻ってきました。これは、インターネットがあらゆることを「民主化」したと言えると思います。
―個人が資金調達するクラウドファンディングもその産物ですね。「CAMPFIRE」の現状はいかがですか?
「個人が声をあげられる世界を作りたい」と考えたことがクラウドファンディングを始めたきっかけで、「CAMPFIRE」をスタートしたのが2011年です。プラットフォームを提供して「みなさんご自由にお使い下さい」というのが従来のスタンス。でも徐々に「プラットフォーマーとして場を提供するだけでいいのか」と問題視するようになりました。クラウドファンディングの市場自体は伸びているんですが、「一部の人がお金集めに使うやつでしょ」という印象もあって、どこか遠い存在のままだったんです。「まだまだやれることがあるはず」と、手数料を下げて敷居を低くするなどしてきたのですが、クラウドファンディングを身近に感じてもらうため施策のひとつとして「ファッション」に注目しました。
―ファッション案件は、これまでも「CAMPFIRE」で扱ってきましたよね。
もともとファッション分野はプロジェクト数が多いカテゴリーでした。それから「音楽」と「ソーシャルグッド(社会貢献)」にも注目していて、これら3つを既存の「CAMPFIRE」のプラットフォームから切り出すことにしたんです。特にカルチャーの切り口は、クラウドファンディングをもっと近い存在にする突破口になるだろうと。それから以前、軍地彩弓さん(雑誌「Numero TOKYO」のエディトリアルディレクター)と話した時に、「ファッションは心に一番近いところにあるはずなのに、すごく遠いところまで行ってしまった気がする」と話されていたのが心に残っていて。ファッションをもっと近い存在にすることが目標です。
―それで切り出されたのが、ファッション特化型クラウドファンディングサービスの「CLOSS」ということですか。サービス名の由来は?
「服=clothes」と「交差=closs」の両方の意味を込めています。単に服というだけではなく、アイデアやデザインも含めて色々な形で交わって新しいことが生まれていく場所になっていけばいいなという思いでつけました。ファッションを「民主化」したい。
―それはどういう意味ですか?
「ファッションのクラウドファンディングをはじめました」と、ただ場を作るだけでは何も変わりません。既に有名なデザイナーでも新しいチャレンジに対して躊躇することはあると思うので、まずはこちらからブランドさんにお声掛けしました。最終的には、デザイナーの卵など、今はまだ無名な方でも使えるようにしていきたいです。そうすれば、ファッションが"自分事"になるというか、少しだけ自分も参加して、共にチャレンジする気持ちになれるかもしれない。「CLOSS」は、ある意味で"共犯"になることで、遠くに感じていたファッションを、もっと引き寄せることができるんじゃないかなと思っています。
―服は身に着けるものなので、便利なプロダクトや持ち運べる音楽に比べると、ファッション分野で一般から応援者を増やすことは簡単ではないかと思います。
だからこそ、意識を変える必要がありますね。ファッションは服を着ることだけではなく、メッセージや物語を持っていて、共感することでファンになるのだと思います。どこか惹かれる、心に刺さる、という要素をファッションが持っていると思っているので、それをクラウドファンディングにつなげられたらいいですよね。
―ファッション業界の方々って、資金調達とかお金のイメージを嫌う傾向にありませんか?
確かに「お金がなくて困っている」と思われるのが嫌だとか、ブランドイメージを気にされる方は多いですね。その気持ちはすごく分かるし、僕らもそういったことをずっと言われ続けてきました。でも、面白いアーティストほど、殻を破ってクラウドファンディングを活用している。僕らはクラウドファンディングを「面白いチャレンジ」だと思う人と一緒に挑戦したい。なので、単に既存ビジネスの資金集めではなく「新しいチャレンジ」と捉える人たちが、「CLOSS」に参加しています。
―それは例えば、どういった内容ですか?
CAMPFIREでは多くのプロジェクトを掲載しているのでこれを生かして、「ソーシャルグッド×CLOSS」「音楽×CLOSS」「地方創生×CLOSS」といった、CAMPFIREならではの掛け合わせのプロジェクトを考えています。
―クラウドファンディング自体のイメージを変えるということですね。
きっと僕らも、これまで努力を怠っていたんだろうなと思うんです。場を作るだけではなく、もっと僕らから寄り添っていくことができるんじゃないかと。すぐに世界が変わる魔法ではないですが、これまでネットサービスの事業者自体が、ちゃんとユーザーと向き合えていなかったようにも感じます。
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