「心の糧」は、以前ラジオで放送した内容を、朗読を聞きながら文章でお読み頂けるコーナーです。

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坪井木の実さんの朗読で今日のお話が(約5分間)お聞きになれます。

ゆるし

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 若い頃、「この人は苦手だ」と思っていた相手でも、歳を取るにしたがって、次第に受け入れられるようになる。そんなことがあるような気がする。

 たとえば、わたしは若い頃、自己主張が強い相手が苦手だった。こちらの言うことをすぐに否定し、自信たっぷりに自分の説を展開する。まるで、何でも知っているかのような態度で話す。そのような人と出会うと、「こんな人とはやっていけない」と思って距離をとるようにしていたのだ。

 ところが最近、そのようなタイプの人と話すのが、あまり苦にならなくなった。そのような人について、「ああ、この人は、自分に自信がないんだ。人から認めてもらいたい一心で、こんな話し方をするようになったのだろう」と思えるようになったのだ。辛辣に人を批判したり、自信満々に自分の意見を話したりするその態度の奥に、「ぼくを認めて欲しい。ぼくを愛して欲しい」というその人の心の叫びが聞こえるようになった、といってもいいかもしれない。

 なぜ、若い頃は、そのような相手に腹を立てていたのだろう。そう思うと、若い頃は、自分自身も心の中で「ぼくを認めて欲しい。ぼくを愛して欲しい」と叫んでいたことに気づく。自分自身の中にあったその思いが、相手の思いと激しくぶつかりあったために腹がたったのだろう。わたし自身、自分にまったく自信がなかったのだ。

 いまでもまったく腹が立たないわけではないが、昔と比べるとだいぶ受け入れられるようになった。ということはつまり歳をとるにつれて、自分に自信が持てるようになったということだろう。これからはできるだけ、愛を求めて叫んでいる若者たちの苦しみに耳を傾け、寄り添う大人の役割を果たしてゆきたい。