自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会の真実を直撃。 その2「理解増進法を目指す真意と、現在の状況と今後の見通し」

■前回の記事
自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会の真実を直撃。
その1「なぜ自民党が、性的指向・性自認に関する特命委員会を立ち上げたのか?」

「選挙目当てのパフォーマンス」に違いないと、懐疑的な目で見る当事者のアクティビストが多い自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会。
Letibee LIFEは、アドバイザーとして特命委員会に関わられている繁内幸治さん(「BASE KOBE」代表)のインタビューを通じて、自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会の真実に迫ってまいります。

インタビューの前編では、特命委員会が発足するまでの流れを伺いました。
宝塚市議の不適切な発言がきっかけとなって生まれたという流れを考えると、巷間で取りざたされている
「LGBT議連を潰すために特命委員会が発足された」
という説の信ぴょう性を疑わざるをえないと印象が残りました。

LGBT法連合会が提案している「LGBT差別禁止法」。
野党4党が法案を提出した「LGBT差別解消法」。
※詳細はインタビュー前編を参照。

上記の2つに含まれている『罰則規定』がないという理由で、自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会が考える「理解増進法」は骨抜きであると批判する声も非常に多いです。
後編では、その2「罰則規定のない理解増進法を目指す真意と、現在の状況と今後の見通し」
というテーマで、繁内さんが稲田さんへの信書で提案した「理解促進法」(後に増進法に改名)の目指すところとその意義、そして稲田さんが大臣に就任され特命委員会を離れたことでトーンダウンしたのではないかと思われている特命委員会の現状と今後の展望を直撃します。

■前回の記事
自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会の真実を直撃。
その1「なぜ自民党が、性的指向・性自認に関する特命委員会を立ち上げたのか?」

罰則規定のない理解増進法は骨抜きなのか?

いたる(以後”I”):繁内さんがアドバイザーとして参加されている自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会は2016年の2月に始まり、5月に「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」を発表されたわけですが、この間の3ヶ月間大変だったのではないですか?

繁内(以後”S”):本当に大変でしたよ。日々の仕事とNGOの活動をしながら、特にNGOは、図らずも貧困に陥ってしまった方のシェルターを運営していますから、週に2回も神戸から出席したこともありましたし。会議の招集は、2~3日前ってことも多いのです。午前8時からだったり。神戸空港で出発直前に中止なんてこともありましたね。あと5分連絡が遅かったら飛行機に乗ってしまっていました。勤務変更ができず仕事のやりくりが難しい時は、往復夜行バスを利用したり。つまり車中で2泊ですね。55才の私には、非常に厳しかったですよ。

I:そんな想いをされてまとめた「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」に対して、LGBT法連合の提案する「LGBT差別禁止法」や野党4党が法案を提出した「LGBT差別解消法」と比べて、罰則規定のない努力目標のようなもので、選挙目当てに作った骨抜きなものだという批判が非常に多いですよね。僕は個人的には、あの保守の自民党がLGBTの人権問題に目を向けてくれて差別禁止法・解消法に比べればハードルが低くなったものでも取り組んでくれることを評価するべきではないかと考えているのですが。

S:それは根本的に考え方が違うと思いますよ。
リベラルの皆さんから見ると、「罰則規定がないものは骨抜きや」と言うんですね。でも、それはあくまでもリベラルというフィルターを通して見るからそう見えるんであって、そのフィルターを退けた時にどう見えるのかが重要です。
つまり、欧米諸国は本当にLGBTが生きやすいか、否か、ということなんですよ。
確かに、パートナシップ法、シビルユニオン法、同性婚などを実現させた面では欧米諸国が一歩進んでいる、これは間違いないです。
では、「差別禁止法に関してはどうか?」。
私は欧米諸国が進んでいるとは思っていません。つまり、欧米諸国は宗教など様々な歴史的経緯から考えて差別があまりにも厳しいので、法律で禁止せなあかんような国なんですよ、そもそも。
「人権」というものは、本来的には、差別を禁止すれば済むってもんじゃないんです。
歴史上、差別禁止法を作って差別がなくなったことが一回でもありますか?
より潜在化して、より厳しくなっているじゃないですか。それを真似てどうするのでしょうか?
私は、日本でその轍を踏ませたくないから,「理解増進法(促進法)」を自民党に提案しました。罰則規定のある差別禁止法とは、全く別次元のものなので、並べて比べること自体がおかしいのです。
欧米、特に米国ではセクシュアル・マイノリティに対するヘイトクライム(憎悪犯罪)などが頻発していて、差別禁止法を作らないと当事者の生活の平静さえ保てないような国なわけです。セクシュアリティを疑われただけでいきなり暴力が起こる、日本は、このような状況は、ほとんどありません。

I:新木場で起きた殺人事件などはヘイトクライムに該当しませんか?

S:あれは「ゲイなら襲っても警察に届け出ないだろうと思った」という動機ですから、本来のヘイトクライムとは違うと思いますよ。

I:それは確かにそうですね。

S:文明開化で制度だけ入って来ればよかったのに、そこにキリスト教的な性への考えが入ってきてしまったから今の状況になったわけです。
日本は、明治以前は、性に関してもかなりおおらかだったんです。
明治以降なんて、たった100年そこいらでしょ。日本は非常に長い歴史がありますが、欧米からのキリスト教によってこうなっているのに、遅れているとか欧米諸国から思われるのもどうなんでしょうかね。
特に同性婚を求める日本人の当事者や支援者の皆さんには、「遅れている」というような言い方をしないような注意が必要ですね。
保守層の皆さんにLGBTの人権に目を向けてもらうには、「欧米から入ってきた考えに囚われるのではなく、原点回帰をして、わが国らしい考え方に戻りましょう」というアプローチをするべきだと思ったんです。
そこで罰則規定を設けない、理解増進法(促進法)を提案したのです。

I:なるほど、そのお考えはよく分かります。でも、オリンピック開催までに差別禁止法や同性婚を実現させなくてはならないのではないでしょうか? 理解増進法では適合しないのではないですか?

S:そう思っている方は非常に多いでしょうね。
でも、オリンピック憲章に差別禁止法を作れ、同性婚を実現しろとは書いてないんですよ。そこを人権団体等が一方的に解釈して、オリンピックまでに差別禁止法が必要と主張していますが、それは違うと思います。

オリンピズムの根本原則より
6.このオリンピック憲章の定める権利及び自由は人種、肌の色、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。

同性婚を認めなさいとも、差別禁止法をやりなさいとも書いてないんですね。つまり、差別禁止や同性婚という具体的なものではなく、開催国として、当事者の選手が競技に専念できる差別のない環境を求めている訳です。
「差別がない社会=差別禁止法」ではないんですね。
日本のLGBTを巡る状況は、欧米とは随分違うというのが、この話の大前提なんです。
私は、差別が禁止してなくなるならば、いくらでも禁止法を作ればいいと思います。しかし、人類史上、差別禁止法を作って差別がなくなった国なんて一つもないですよ。
それを現在の自民党特命委員会事務局長の宮川典子さんともよく話をします。
ヘイトクライムのように命を奪われるような厳しい状況にあるわけではなく、主に無理解から起こる「いじめやからかい」のある日本は、理解増進法を作って国民のLGBTに対する考え方をボトムアップしていけば解決することだと私は考えているんです。

I:なるほど、オリンピック憲章のことも誤解したままでいましたがよく分かりました。罰則規定と設ける差別禁止法と、国民の理解を深めボトムアップを目的とする理解増進法は、全く方向性が違うものなのですね。

S:一見して、差別禁止法と比べると罰則規定がないから甘っちょろいとか批判されますが、そもそも背景にある理念が全く違うんですよ。
差別禁止法が定められることが目的ではなく、「いかなる差別もない社会」を構築することがゴールですよね。
登山に例えると、差別禁止法では山頂までは登れません。なぜなら、差別禁止を声高に叫ぶと、いいか悪いかは別にして、新たな摩擦が生じるからです。力で押せば力で返されるのが常ですからね。
私は、理解増進法によって、今からの日本は、「人類史上初めて差別禁止法なくして課題を解消した国」になれる可能性が高いと考えているんです。これは、日本が誇りにしていいアプローチではないかと思います。
11月10日には、外務省の西村篤子女性・人権人道特命大使にも、LGBTの人権課題の克服に向けた理解増進法のアプローチについて同様の説明をさせて頂きました。
また、一橋大学でのアウティング事件を考えると、将来の活躍が大いに期待された優秀な学生さんの尊い命を失ったことは本当に悲しいですが、過剰に反応することがあってはならないとも思います。きちんと真相を究明し、再発防止に向けては、大局に立った対策を講じるべきだと考えます。そのことこそが彼の命に報いる唯一の道だとも考えます。
差別禁止法があっても、防げないものは防げないのですから、理解増進法によって、LGBTの当事者が、自らの生き方を恥じなければならないような社会のあり方そのものを根本的に変える必要があります。それには、差別を禁止するのではなく、まさに一人ひとりが立場の違いを越えて相互に理解を増進することが必要不可欠だと思いますがいかがでしょう?

理解増進法が実現するとどんなことができるのか?

I:具体的に理解増進法が実現すると、どのようなことができるのですか?

S:理解増進法ができれば、予算がつきます。
その予算を使って、今まで学校で教えることができていなかったことを教えることができるようになります。
「全国津々浦々あまねく公平に」というのがキーワードですから。

I:ということは学校教育だけじゃなく、自治体が市民に向けての啓発活動もできやすくなるのでしょうか?

S:当然そうです。
法律で定められれば、「しない」という選択肢はなくなります。自民党の理解増進法案では、地方自治体には責務規定が設けられるのですから。

I:なるほど、罰則規定はなくても、自治体に対しての責務規定が設けられるのですね。

S:これが実現すれば、後世評価されるものになると思いますよ。
セクシュアル・マイノリティに関して知らないがゆえに誤解が生じて、いろんなことを言ってる人が圧倒的に多いんですから、日本の場合は。
そういう皆さんに対して、法律を作ってきちんと
啓発活動をしていくと。例えば政府公報として公益財団法人ACジャパンを使うことだってできるでしょうし、各自治体だっていろんなことできる。学校でもやっていくわけだし、数年続けたらLGBTに対する日本人全体の考えは確実に変わりますよ。特にイメージが大きく変わるように思います。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、同性婚も既に5割は受け入れていますよ。別の調査では、LGBTの人権ということに関しては更に多くの皆さんが認めています。
ならば、法律が通って啓発活動を続けたら知らないがゆえに否定的な考えを持っている人たちはどんどん少なくなっていくように思います。
私の大学での講座を受けてくれている学生さんは、LGBTの人権について、ほぼ全員が肯定感を持っています。
きちんと国を挙げて啓発すれば、将来はきっと現在の欧米以上の成果が出せますよ。楽観的だといわれるかもしれませんが、私はそう思います。
ただ現状は遅れているのは事実だから、そこは真摯に受け止めて反省すべきですけど。だから反省をした上で、理解増進ですね。
既に自民党は、「法の下の平等」を定めた憲法14条に照らし、性的少数者への差別が禁止されているとする見解を示していますから、これに基づいてやれることをやるということでしょう。
これはどういうことかというと、最初から同性婚ありきにしてしまうと、保守の皆さんの中で受け付けない人の割合が高くなり、理解増進法案でさえ実現できなくなる可能性が高まるでしょう。だから、理解増進法を作って一年、二年、三年と地道に啓発を続けて理解出来る人を増やしていくことが何より大事です。
先ほども言いましたが、罰則規定を設けずに国民の理解を深めていこうとする理解増進法は、課題の解消に向けた人類史上初めての歴史的なアプローチなんです。私は、他の人権課題は残念ながら、差別・反差別が対立するような形での権利闘争の様相を呈してきた経緯がありますが、幸いLGBTに関しては、日本はそのような形ではなく、国民の理解増進で課題を解消できると考えた訳です。

I:なるほど、非常にクリアになってきました。イデオロギーは別にして、自民党が政権を握っていることは事実であり、与党に如何に耳を傾けてもらうかを考えることは重要ですよね。保守の基盤って、想像以上に強いわけじゃないですか。

S:強いですよ。特に地方に行けばものすごく強いです。
LGBTアクティビストの皆さんは、リベラル色が強いですから、地方の保守基盤の強さは理解していないようです。理解しようとしていないのでしょうか。
ご批判を承知で言わせてもらえば、自分たちの理想だけでは、世の中はそう変わらないと私は思います。東京は確かに人口が1,300万人いますけど、地方の方がはるかに人口は多いわけですしね。
昨年、アメリカの連邦最高裁で全米での同性婚が認められましたけど、あの時の判決は5対4だったでしょ。つまり半数近くは反対なわけですよ。そんな中で保守派に選ばれた新大統領がトランプさんでしょ。だからトランプさんに対して懐疑的な当事者も多いわけです。ところが、トランプさんはLGBT支援を表明していますよね。このあたりも日本の自民党と重なって見えます。トランプだから、自民党だから、と一括りに否定すべきではないんですね。
また、社会のLGBTに対する理解が相当に広がっていない状況では、カミングアウトできる強い人だけが享受できるような制度は、当事者の中で格差が開きますね。
格差が広がることを目的にやってるんですか?
違うはずですよ。そこが完全に言っていることとやろうとしていることが違ってると思います。
だって安倍政権のやっている経済対策に対して、「格差が広がる」とリベラルの皆さんは批判してるじゃないですか。だったら、もう少し理解増進法の真の目的を理解してくれてもいいと思うんですよね。
例えば、渋谷のパートナシップ条例、何人使ってますか?
今の状況では、ほとんどの人は使えないでしょ。状況は、長谷部渋谷区長にも直接伺いました。そうしたら長谷部さんは、
「法の後押しが必要だ。頑張ってほしい」
「自治体をバックアップするという意味でも」
とも言ってくれました。
リベラルの皆さんは、自民党の政策を一束にして考えてしまいますから、一方的な批判ばかりが目立ってしまうのです。
理解増進法が実現して、全国津々浦々の全ての学校でLGBTへの理解を教えるって、どれだけ素晴らしいことですか?
今までも、法務省人権擁護局の啓発活動「年間強調事項」17項目の中に性的指向や性同一性障害に関する記述はありますが、全国の多くの自治体は、はっきり言わせてもらえば、人権週間にしても、取り組みやすい課題しかやってきてないのが現状です。
理解増進法ができれば、全ての自治体がLGBTの人権課題に取り組まなければならなくなるのですよ。市民に向けた啓発だって全ての自治体が取り組めるようになるんです。

特命委員会の現状とこれからの見通し

I :繁内さんのお考えはよく分かりました。ところで、稲田さんが政務調査会から離れて防衛大臣になられたことで、特命委員会の動きが止まってしまう、停滞してしまうのではないかと危惧する声があると言われていますが、そこのところの実情はいかがなのでしょうか?

S:確かに今回の人事を知った時には、衝撃的でした。
政調会長の稲田さんが防衛大臣に、古屋委員長は党四役の選挙対策委員長に、事務局長の橋本岳さんは厚労副大臣に就任されました。基本的に、お三方とも特命委員会から離れる訳ですから。
私も本当に心配しましたが、古屋委員長が留任され、今後もしっかり取り組んでいただけるとの連絡をいただいた時は、よかったと胸をなでおろしましたよ。古屋委員長のお心に感謝しています。

I:ということは、まだ実現する可能性はあるということですか?

S:大いにありますよ。もっと言えば、実現しなければなりません。
特命委員会で進めようとしていることは2つに分けてあるんです。

一つは現行法でできることをまずやりましょうという現実的なアプローチ。
もう一つは、理解増進法を作って根本的な理解を深めていこうというアプローチ。

自民党は、既に与党として菅官房長官に33項目の要望書を提出したわけですから、「それについてどこまで進んだのか?」
という検証を今からしていくんですね。
そこでもアドバイザーとして大事な役目があるように思います。
各省庁の取り組みが進んでいなければ、その理由を聞いて正していけるのですから。
「自民党のアドバイザーって何をやってるんだ?」
「しょせん、お飾りでしょ!」
と揶揄される方も多いですが、すごく重要なことをやってきたし、これからもやっていくんですよ。

I:なるほど。現行法でやれることの進捗状況は今後もお話を伺って記事にしていこうと思うのですが、理解増進法を法案として実現させていく道のりとしてどれくらいのスパンで考えていらっしゃいますか?

S:ちょっとなんとも言い難いところなのです。
確かに稲田さんが党の政務調査会を離れたことでのトーンダウンは否めませんが、これは見方を変えれば、時間をいただけたということだと考えているんです。
古屋委員長は、
「この特命委員会が自民党の中でマイノリティであってはいけないんだ」
と、おっしゃいます。
だからこそ党内での理解増進、つまりLGBTについての知識と理解を涵養するための貴重な時間をいただけたと、私自身は前向きに捉えています。
今後、党内で理解を深めていくプロセスこそが、まさに、『理解増進法』の理念そのものだと思っています。
理解増進法が成立する過程こそ、多くの皆さんのご理解の上に成り立たなければならないものですから。
そもそも理解増進法を成立させるためには、更に環境を整えた上で、全会一致または、圧倒的多数の国会議員の皆さんの賛成がなければならないと考えています。
それを目標にして、今年は、地方を含めた自民党の中での理解を深めていくことに力を注ぎたいとも思っています。

I:これもまたイデオロギーのフィルターをかけて外から見ていると見えてこないものなのですが、稲田さんも自民党の中で闘われていらっしゃるんですね。

S:確かに自民党の中にはいろいろな考えを持つ人がいますから、稲田さんのリーダーシップ抜きには今までのことは語れないですよ。まさに稲田さんしかできなかったことです。

I:では、今、ちょっとトーンダウンしたように見える中で、自民党内で最もLGBTに対する理解が深いであろう橋本事務局長の代わりになる方はいらっしゃるのですか?

S:はい。新事務局長になられたのは宮川典子さん。
山梨県で教員経験のある方です。非常に聡明ですし、教育の現場もよく知っていらっしゃる。
もちろん、LGBTの児童・生徒のいじめについてもなくすべきだと考えていらっしゃる。とても明るい女性が事務局長になられたことで、特命委員会の雰囲気もバランスもよくなったと思います。

I:ちょっとトーンダウンしたように見える今は、自民党の中で理解を深めていく時間。保守層の皆さんにも理解していただきやすい法案を提案したわけですから、党内で理解者をじわじわ増やしていき、次のタイミングが訪れた時に実現させようと、いうことでよろしいでしょうか。

S:まさにおっしゃる通りです。
私は今55歳、60歳になったら定年させていただく予定なんです。そんなに長く続けていくつもりもないです。だから政権与党である自民党のアドバイザーとして、刻々と新しい情報が入ってくる私をLGBTのために役立ててほしいんです。
私には、自分たちの世代がLGBTに対して何もできなかったという思いが強いんです。だからこそ、強引だと嫌われるかもしれないけども、将来に向けて、当事者が政権与党と向き合える基盤だけは作りたいし、そして何よりも大事な基本法(理解増進法)だけは作っておきたい。
それが実現できないと死んでも死に切れん。
そんな思いなんですよ。
いま、自民党のアドバイザーとしては、LGBTの生活上の安心・安全の構築は、国民相互の理解以外に道はないと思います。しかし残念ながら、LGBTの多くの当事者団体が、日本では、自民党が反対し成立する見込みの少ない差別禁止法を目指していいます。これでは結果として、本来日本ではセクシュアリティとは関係の少ないはずの政治的な左右の対立を煽り、解決を遅らせるどころか、差別・偏見を潜在化させ固定化してしまうことにつながりかねないとも思います。
ぜひ、このことを多くの当事者の仲間に知って欲しいですね。
今回の切っ掛けとなった宝塚市議会議員の大河内さんは、保守の議員として、ご自身の経験を活かして草の根でLGBTに取り組んでいこうとされています。
また、私は、永年の同志であるレインボープライド愛媛代表のエディさん、ともに拓くLGBTIQの会くまもとの今坂先生とともに、「全国LGBT理解増進ネットワーク会議」を立ち上げました。
LGBTに対する正確なメッセージが未だ伝わっていない保守層の皆さんに向けても、今までにない、より現実的な協働を始めたいと考えています。

■繁内幸治氏が世話人となっている「LGBT理解増進ネット」のサイト
全国LGBT理解増進ネットワーク会議

以上、前後編の2回に分けて、自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会アドバイザーの繁内幸治さんのインタビューをご紹介しました。
LGBTの人権問題に向き合う法案を成立させることは、セクシュアル・マイノリティ当事者にとって本当に大切なことです。だからこそ、イデオロギーのフィルターをかけた視点で一方的に決めつけて批判するのではなく、フラットな状態で様々な人の話を聞き、自分の頭で考えることが必要だと思わざるをえないインタビューでした。

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ABOUTこの記事をかいた人

いたる

LGBTに関する様々な情報、トピック、人を、深く掘り下げたり、体験したり、直接会って話を聞いたりしてきちんと理解し、それを誰もが分かる平易な言葉で広く伝えることが自分の使命と自認している51歳、大分県別府市出身。LGBT関連のバー/飲食店情報を網羅する「jgcm/agcm」プロデューサー。ゲイ雑誌「月刊G-men」元編集長。現在、毎週火曜日に新宿2丁目の「A Day In The Life」(新宿区新宿2-13-16 藤井ビル 203 )にてセクシャリティ・フリーのゲイバー「いたるの部屋」を営業中。 Twitterアカウント @itaru1964