これは当時の服装だからこそおきた事故といえよう。現代の日本人の男はたいてい下着のパンツをはき、さらにズボンをはいている。背後から犬に尻を噛まれても、睾丸を牙で直撃されることはまずない。ところが、江戸時代の男の下着はふんどしであり、しかも下男など肉体労働に従事する者は動きやすいよう、たいてい着物を尻っ端折りしていた。かがむと、木綿の布一枚に包まれただけの睾丸が垂れ下がっていた。犬が背後から睾丸をガブリとやるのは充分に可能だった。勝海舟の場合は武士の子弟だけに袴をつけていた。そのぶん、犬の牙の直撃を免れたのであろう。