合法大麻販売店に行列…ニューヨークの街に異変 全米で年間7万人死亡の「フェンタニル」混入も
FNNプライムオンライン / 2023年3月5日 12時0分
「また大麻だ……」。マンハッタンを歩いていると、鼻と喉の奥をつく様なにおいによく出くわす。アメリカ・ニューヨーク州で娯楽目的の大麻使用が合法化されたのは2021年。路上で吸う人の姿はいまや日常の光景になっている。
大麻の使用は連邦レベルでは「違法」だが、各州で個々に州法を定めていて、「全く認めない」州から「医療目的の大麻」のみを認める州、「娯楽目的の大麻」も認める州などと分かれている。
ニューヨーク市長は不法営業店の摘発を強調する一方、税収増に期待
マンハッタンにオープンした「合法大麻」販売1号店の外には、寒空の下、50人近くが並んでいた。ここのところ、こうした「合法」な店が次々とオープンしている。
ニューヨークのアダムズ市長は2023年2月、「合法大麻は13億ドル(日本円で1770億円)産業になるとみられる。年間4000万ドル(日本円で54億4000万円)の税収が見込める。これはニューヨーク市にとって凄い勝利になるかもしれない」と息巻いていた。
無論、「合法大麻」とはいえ、日本の大麻取締法には国外で大麻をみだりに栽培・所持・譲り受けした場合などを罰する規定があり、日本人は手を出さないよう、ニューヨークの総領事館などが注意を呼びかけている。
一方で、「合法販売店」から徒歩圏内には不法営業の店が堂々と店を構えている。
営業許可を見込んでか、こうした不法営業の店もあちこちに現れ、夜になっても煌々と明かりがついている。取り締まりが追いついていないのは明らかだが、ニューヨーク市は「順次取り締まっている」とし、さらにはテナントとして認めた家主にも責任を追及していくと強調している。
警察の押収品の中には、見た目がほぼお菓子の大麻入りグミやチョコレートなどがあり、子供が手を伸ばしそうなパッケージに入っている。
取り締まり強化をアピールする背景には、もうひとつ深刻な薬物問題がある。
アメリカをむしばむ「フェンタニル」 “鉛筆先の量”で死も…
アダムズ市長は「大麻は合法化したが、違法販売に目をつぶったりしない。彼らの商品は検査もされておらず、大麻に『フェンタニル』が含まれているケースもある」と警告する。
「フェンタニル」はもともと、医療現場で手術後や進行がんなどの痛みを緩和するために使われるレベルの強力な鎮痛剤で、合成オピオイドだ。
しかし、これが闇市場に出回っていて、CDC(疾病対策センター)によると2022年7月までの1年間でニューヨーク市内で薬物の過剰摂取で死亡した約3000人のうち、8割がフェンタニルで死亡している。致死量は2㎎、鉛筆の先に辛うじて乗るぐらいの量だ。DEA(麻薬取締局)によるとアメリカへの密輸ルートはメキシコと中国がメインで、年々深刻化している。
命を救う手段…でも“焼け石に水”なのか
FDA(食品医薬品局)の諮問委員会は2月、ある薬をめぐって協議した。
フェンタニルなどの薬物を過剰摂取した人に対して投与するオピオイド拮抗薬、「ナロキソン(Naloxone)」だ。これを処方箋なく風邪薬と同様に買える「OTC(Over the Counter)医薬品」として認めるべきかどうか審理の結果、全会一致で認めるべきだとの結論に達した。
鼻スプレーもあり失神した人に簡単に投与することができるが、医師の処方箋は不要でも薬剤師などから入手することが必要だったため、いざ必要な時に手元にない場合が多かった。コンビニやスーパーでも購入できるOTC医薬品にすることで、多くの命を救えるというのだ。これに安心して逆に薬物に手を出す人が増えてしまうのではないかという懸念も議論されたが、それよりも目の前の命を救うことが重視された。すでに、この薬を緊急時用にキャンパス内に置いている大学もある。薬物の過剰摂取で多くの若者が命を落としているからだ。
年間7万人がフェンタニルで死に至る現状に、バイデン大統領も2月の一般教書演説で密売人の摘発強化を訴えた。先日も西海岸のサンディエゴでフェンタニル105キロが押収された。5250万人分の致死量にあたるが、これでも氷山の一角だ。薬物戦争の終わりが見えない。
(FNNニューヨーク支局 弓削いく子、ハンター・ホイジュラット)
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