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巨額の公金が使われた東京オリンピック。会場運営を担った大手広告代理店などが相次いで起訴されました。番組では組織委員会の元職員4人を取材。

【写真を見る】“お茶汲み”する職員に1日20万円…五輪費用3.6兆円オーバーの“裏側” 組織委元職員が告白【報道特集】

そこで語られた費用が膨張した“からくり”とは。

組織委元職員「電通に頼ることしかできない」

東京オリンピック・パラリンピックの運営業務をめぐる談合事件。

大会組織委員会の元次長や大手広告代理店・電通の幹部らが 次々と逮捕・起訴された。

競争入札が行われなかったこともあり費用が膨らみ、公金が組み込まれている大会費用は当初の7340億円から約5倍の3兆6800億円となった。

報道特集は4人の組織委員会元職員を取材。出身母体は広告代理店、自治体、競技団体など。口々に語られたのは、費用が膨らんだ“からくり”だ。

組織委元職員 望月宣武 氏「素人組織ができることは、もう電通に頼ることしかできない、付け込まれる隙をずっと持っていた」

電通出身 組織委元職員A氏「正直言うと広告業界が麻痺しているのは間違いない。組織委員会側にノウハウが全くない。言いなりにならざるを得ない」

こうした図式は本大会だけではない。招致の段階から代理店が深く関わっていた。

リオデジャネイロオリンピックの閉会式で東京をPRするため、安倍晋三元総理をサプライズ登場させたあのシーン。

約8分間のセレモニーにかかった費用は11億2000万円。このうち、8億円は東京都、つまり公金から支出された。

元東京都職員としてオリンピック招致に関わった鈴木氏は・・・。

元東京都職員 鈴木知幸 国士舘大学客員教授「経費について『どういうふうにして委託業務を作っていくか』と言ったら(上司から)『ダメダメ、もう電通1本』独占みたいになっている。交渉がほとんどできない状態。競争入札できる状態ではないから(費用が)言い値になってしまう」

今回事件となった談合では、組織委員会の元次長・森泰夫被告と電通など7社の間で総額437億円の業務を対象に不正な受注調整が行われたとされる。

電通で20年以上勤め、組織委員会の職員だったA氏は、大会をめぐる“いびつな構図”をこう説明する。

電通出身 組織委元職員A氏「(組織委の)森次長の下には何名か部長がいますけど、電通から出向している部長が当然いますので、受注者側(電通)が人を送り込んで、発注者側(組織委)として調整している」

会場運営を受注した電通が発注者側の組織委員会に社員を出向させ、調整を行ったというのだ。

関係者への取材では、組織委員会に出向していた電通社員が社内向けに作成した資料には 「電通の利益を最大化するよう、組織委員会に社員を派遣すべき」という内容が記載されていたという。

電通出身 組織委元職員A氏「電通の利益を最大化にするというのはもちろんあると思うが、特定の会社に会場ごとに委託して本番まで実施させるというスキームを考えたのは(電通社員)だろうし、それを承認したのは森(泰夫被告)だと思う」

さらに契約の形態にも偏りがみられたという。談合があったとされる2018年度から2021年度までに組織委員会が結んだ契約のうち、特命随意契約の件数が競争契約の約1.5倍に及んでいた。

特命随意契約は、1社のみからの見積額を基準に金額を決めるため、相場より高くなる傾向があるという。

組織委元職員B氏「一般競争契約が基本で、随契が例外。逆なんですよね。組織委員会の場合は競争契約が例外で、随契が基本というような考え。(組織委の上司は)『我々は公益財団法人で、今回は契約の内容とかを公表する義務がありません』と。これは(当時の五輪担当の丸川)大臣が国会で答弁しています」

当時、丸川大臣はこんな答弁をしていた。

丸川珠代 五輪担当大臣(当時)「東京都及び組織委員会が出しておられる経費、チェックを入れるわけですけれども、中には守秘義務がかかっていて、私どもも見せていただけない経費があることをご理解いただければと思います」

組織委元職員B氏「(組織委の上司は)『また過去の長野(五輪)の事例を見ても、会計検査院による検査等々には該当しないので、絶対に外部からの監査の目が入ることがないので大丈夫です』という回答が常にありました」

B氏が契約形態への疑問を上司にぶつけても、 その手法が変更されることはなかったという。

経費がふくらむ“からくり”は、これだけではなかった。会場運営費のほとんどを占める「人件費」だ。

業務量に見合わない「人件費」の単価 

例えば、武蔵野の森総合スポーツプラザで運営にあたるスタッフの人件費は総額で6億2300万円となっている。

オリンピック会場への派遣スタッフを集めるよう依頼された人材派遣会社がある。

ーー鈴木さんのところにもこういった話が?

ファンファーレ・エージェンシー 鈴木泰和 社長「うちの方にも人を出してほしいという話は来ていました」

だが、それは会場運営を請け負った広告代理店ではなく別の会社からの依頼だったという。

ーー御社に来るまでにだいたい何社ぐらい入っている?

ファンファーレ・エージェンシー 鈴木泰和 社長「6社、6番目かそれ以下じゃないか。オリンピックに関してはベースとなる金額がよくわからない。間に何社入っていて、どのくらい抜いているのかというのはあくまでも予測でしかない」

多くの会場で組織委員会から委託を受けた広告代理店は再委託を繰り返し、必要な数のスタッフを確保することが行われた。関わった会社のすべてが「手数料」を得るため、元の人件費が高額になってしまうというのだ。

電通出身のA氏は・・・。

電通出身 組織委元職員A氏「結局一番下に払う金額を決めておいて、それにその会社に利益を足した合計になる。結果としては個人がもらえるギャランティーと、設定されているギャランティー(人件費)の間には5倍とか6倍にならざるを得ないという仕組み」

報道特集が入手した、会場ごとの人件費などが記された組織委員会の内部資料。委託業者の欄には今回、談合に関わったとされる広告代理店などの名前が並ぶ。

電通出身 組織委元職員A氏「中抜きの証拠であることは間違いない。(内部資料の)金額を見ればわかるように」

一覧表には、それぞれの役職にかかる人件費の単価が書かれている。例えば「運営統括」の単価は東京スタジアムが日当30万円、国技館が日当18万7000円となっている。

電通出身 組織委元職員A氏「1つの大会にも関わらず、金額がバラバラなんですよね。一番問題なのは多分そこ。組織委員会側にノウハウが全くない。だから結局、委託業者に委託するしかないし、言いなりにならざるを得ない」

番組が新たに入手した、ある会場の運営費の見積書。この会場を担当していたC氏が取材に応じた。

組織委元職員C氏「会場運営をするために業者(広告代理店)からいただいた見積書。あくまで無観客になる前の見積書」

人件費の日当を示す欄には「チーフディレクター:単価12万円」「リーダー:単価10万円」などと書かれている。だが無観客が決定した後も、この単価が変更されることはなかった。

組織委元職員C氏「単価というものは我々が関知できない部分。当然我々としても業務量が少なくなっているので、単価を減らしていただきたいという思いはありつつも、それが既定路線という形で進んでいた。本当にやるせない思い。上司に相談してさらに上につなげていただいたとしても『金額を精査しましょうか』という回答がなかった。我々現場から声を上げても変わらなかった」

人件費の問題はその価格だけではない。組織委員会に社員を出向させた広告代理店に、準備の段階から支払われていたことが新たに分かった。

組織委元職員B氏「私がいたところでは、大手広告代理店に業務を委託するという形で、広告代理店から常時、約10名の方が来ていただいて、同じ事務所で仕事をすることになった。単価を聞くと1人20万円で」

ーー1日?

組織委元職員B氏「1日20万円ですね。それが4年間続いた」

計算すると、1人あたりの人件費は4年間で1億9200万円。10人だとすると19億円以上になる。その業務は、B氏にはこんな風に映っていたという。

組織委元職員B氏「連絡業務という役職がありまして『連絡業務って何?』と聞いたら、『本社(広告代理店)との連絡業務です』と。特に『これ会社に持っていって』と言われた物を持っていくだけ」

ーーでもそれが常にあるわけじゃないですよね?

「ないですね。ほとんどみんなのお茶を汲んだりとか、本人は(20万円)もらっていないのですが、その代理店には1日20万円払っていた」

組織委員会元職員のC氏も、広告代理店から出向してきた職員の仕事ぶりに驚いたと話す。

組織委元職員C氏「私が見ている限りでは、委託した(広告代理店の)業務に対する仕事をしていただけ。そもそも組織委員会の職員としての仕事をしているところを目にすらしない。もう疑問だらけでした」