飯田女子高校の双子が学校を売る? 飯田下伊那地域の高校生による「合説」を計画
プロジェクト名は「学校を売ろう!」。え、学校を売却?いえ、売るのは学校の魅力です―。飯田女子高校(飯田市)2年の双子小池杏奈さん(17)と凜奈さん(17)が中学生の進路選択を支援する活動に取り組んでいる。成績だけでなく、高校の特色や雰囲気を知って進学先を選んでほしいと、飯田下伊那地域の高校生による「高校合同説明会」の開催を計画。2人は今年1月、県内の高校生が探究活動の成果を発表する「全国高校生マイプロジェクトアワード2022長野県Summit」で県知事賞を受賞し、3月の全国大会に県代表として参加する。小池さん姉妹に、これまでの経験や活動内容、プロジェクトにかける思いを聞いた。
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私たちのプロジェクトは、飯田女子高校の魅力を中学生に伝え、入学者を増やそうと始めた活動が発端で、今は飯田下伊那地域の各高校の魅力を伝えることが目的です。住む地域も学校も違う中学生ができるだけ多くの高校を知ることができるように、合同説明会のようなイベントを開くことを計画しています。
女子高は生徒の「やりたい」という気持ちをバックアップしてくれます。中学生向けに学校を紹介する動画作りや体験入学での授業の企画など、生徒が中心になることも多いです。私たちの進学コースEクラスでは探究活動が重視されます。ゲームの必勝法を研究した先輩もいました。勉強と関係なさそうなテーマでも、突き詰めることで思考力や行動力が身に付きます。
■飯田女子高への進学希望に否定的な言葉
喬木中(下伊那郡喬木村)3年生の時、飯田女子高の体験入学に参加し、活気も温かさもある雰囲気に引かれました。公立高校2校の体験入学にも参加しましたが、女子高が最も魅力的でした。
しかし、周囲の友人や学校の先生には「公立高校もあるのに、どうして女子高なの?」など、否定的な言葉や心配する声もありました。女子高の魅力が知られていないと考え、高校の探究活動として、中学生に魅力をPRするチラシを作ることにしました。
1年生で3回、2年生で2回、A4サイズのチラシを作りました。1年生の6月に発行したチラシでは、体験入学の前ということで、体験入学がきっかけで入学を決めた生徒の声、入学者のほぼ全員が女子高に入学して満足していると回答したアンケート結果などを載せました。
デザインは担当の先生に紹介してもらったデザイナーと一緒に考えました。印刷代は学校に負担してもらい、1号につき千部ほど印刷。学校を通じて飯田下伊那地域の全中学校に配布しました。
本年度の1年生約170人にアンケートをしたところ、54%がチラシを覚えていました。うち85%はチラシが女子高への進学を考えるきっかけになったとの回答でした。
手応えの一方、挫折も味わいました。本年度の入学者数は前年とほぼ同じ。大幅に増えると期待していただけに、がっかりでした。
■学力を基準にした高校選びに疑問
入学者数が増えない理由を考える中で、中学校ではテストの成績を基に、「これくらいの点数ならこの高校に」と考える傾向があると気が付きました。飯田下伊那地域の全日制高校は8校と数が限られている事情もあるとは思いますが、成績で高校を選ぶのが当たり前と思っている人は中学生でも多いと思います。
私たち自身が基準にしたのは「好き」という気持ちでした。好きな高校を目指すのは楽しく、勉強や面接練習も苦しくありませんでした。入学後も、チラシ作りなどやりたい活動ができ、「好き」を大切に高校選択をして良かったと思います。
中学生が得られる情報は限られており、学力は基準の一つだと思います。しかし、校風が合わず後悔することがあるかもしれません。一度に複数の高校を知り、自分なりの「好き」を見つける機会を作れないかと考え付いたのが合同説明会でした。学べる学問や専門性、雰囲気といった学力以外の視点を大切にしてもらえたらうれしいです。
合同説明会は来年度中の開催を目指しています。学校紹介をするのは教員ではなく生徒です。中学生に近い高校生の目線で学校の雰囲気や魅力を伝えたいからです。
飯田下伊那地域の各高校の生徒会に協力してもらい、手伝ってくれる人や参加者を募りたいと思っています。各校の理解、協力がないと実現できないので、今後、校長会を通じて依頼し、場合によっては各校にプレゼンをしに行こうと思っています。
■同世代からの共感や応援が力に
喬木中時代の経験や高校でのチラシ作り、合同説明会計画について、昨年12月から今年1月にかけてオンラインで開かれたマイプロジェクトアワードで県内の高校生たちに発表しました。他校の生徒からは「学力だけで高校を選んで後悔しており、中学生の時に開いてほしかった」などと共感の言葉をもらいました。
審査員からは「大きな問題に正面から立ち向かう姿に勇気をもらった」などとエールをもらいました。応援してくれる人がいることは、今後への原動力になりました。
この2年間は決して楽しいことばかりではありませんでした。チラシの内容に悩み、締め切りに追われることもありました。ですが、根本にあったのは学校が好き、自分たちの活動が好きという「好き」という気持ちでした。本年度の1年生へのアンケート結果やマイプロジェクトの感想は、その好きなことを続けることで、他の人の人生を良い方向へ変えるきっかけになるという自信になりました。
学力で学校を選ぶという、これまで当たり前と思われてきた進路選択の仕方を見直したいというのが最終目標です。長い年月をかけて築かれてきた社会のシステムといえるものであり、簡単には実現できないと思いますが、「好き」という気持ちは社会を変えられると信じてこれからも取り組みます。