はじめに
会社勤めを始めてから異様に社会が辛くなったので、成人発達障害の検査を受けました。 検査の結果、自閉症スペクトラム障害かつ注意欠陥・多動性障害と診断されたので、検査の流れや自分の症状についてまとめておきます。
発達障害とは
発達障害とは、広義には言語や行動に何らかの不全を抱えた状態を指します。狭義には日本の行政上の定義や学術的な定義により、学習障害や注意欠陥・多動性障害、自閉症スペクトラム障害などを指します*1。
狭義の定義に従えば発達障害といっても様々な障害を含みますが、ここでは自分が診断された障害についてのみ説明します。
まず、自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)について。
ASD の主要な症状には、「コミュニケーション、対人関係の持続的な欠陥」と「限定された反復的な行動、興味、活動」の2つがあります*2。 人によって症状の強度や発現の仕方が異なるので、同じ ASD 患者でも異なる特徴を示します。ある ASD 患者の特徴が別の ASD 患者にも全く当てはまる、ということはないようです。
つぎに、 注意欠陥・多動性障害(以下、ADHD)について。
ADHD の主要な症状は、「不注意」「多動性・衝動性」の2つがあります*3。 これらの症状の詳細は ADHD の診断基準を定めた DSM-5 に詳しいですが、長いので省略します。不注意、多動・衝動性についてそれぞれ端的に説明するなら、不注意: 集中することや整理することが苦手、多動性・衝動性: 落ち着きがなくそわそわしていて順番待ちができない、といったところでしょうか。
ADHD 患者は主要な症状の強さで不注意優勢型、多動・衝動優勢型、混合型の3つに分類されます。自分の場合は不注意優勢型と診断されました。成人になって初めて診断を受ける患者はこちらに分類されることが多いらしいです(担当医談)。
病院と検査内容について
精神疾患なので精神科を受診しますが、どこでも検査をしてくれるわけではないので診断可能な病院を探します。また、成人してから初めての検査か?発達障害の中でもどの障害を検査したいのか?といった条件を気にする必要があります。自分の場合は「成人」「ASD を疑っている」「ADHD を疑っている」という条件になるので、成人向けの ASD と ADHD が診断できる発達障害検査を実施している病院を探しました。
東京都で受診する場合は、東京都福祉保健局が提供しているこちらの資料が参考になります: 発達障害 東京都福祉保健局
自分が受けた検査の内訳は以下の通りです:
それぞれの検査や面接について説明します。
1つ目の、知能検査(WAIS-Ⅲ)について。 この検査では言語性 IQ と動作性 IQ、これらの合成得点である全検査 IQ の3つの指標が得られます。また、IQ の他に言語理解、作動記憶、知覚統合、処理速度の4つの郡指数が得られます*4。IQ や郡指数間での差を個人内差といい、個人内差が有意である場合、発達障害が疑われます。
2つ目の、記憶検査(WMS-R)について。 この検査では言語性記憶(聴覚情報の記憶力)、視覚性記憶(視覚情報の記憶力)、言語性記憶と視覚性記憶の合成得点である一般的記憶、注意集中力、遅延再生の5つの指標が得られます*5。
WAIS-Ⅲ と WMS-R の2つの検査結果は、平均100標準偏差15のガウス分布で表されます。90-109が平均的、110-129が優れている、130-が非常に優れている、と評価されます。
3つ目の、インテーク面接について。 なんか専門家の人(医師ではないこと以外よく覚えてない)との面接を行います。提示された質問に回答した後、日常生活での困りごとを説明するように求められます。質問は医療機関のホームページに掲載されているような発達障害のセルフチェックを詳細にしたようなものと、幼少期の様子を尋ねるものでした。幼少期の様子の回答のために小学校の通信簿や親の同席があることが望ましいとのことでしたが、自分はどちらも用意しませんでした。
4つ目の、精神科医との面接について。 1~3の結果を元にした診断結果と症状や特性の説明、治療方針などを話します。どのような得手不得手があるのか、それはなぜか、といった説明がありました。
検査結果について
知能検査(WAIS-Ⅲ)
IQ および郡指数は平均~優れているという評価でした。郡指数では言語理解と知覚統合、言語理解と作動記憶の間に5%水準で、言語理解と処理速度の間に15%水準で有意な差がみられました。郡指数の大小は 言語理解 > 処理速度 > 作動記憶 > 知覚統合 の順になります。個人内差が有意であるため、発達障害を疑う材料の一つになります。
それぞれの郡指数がどのような能力を表すかを以下に示します*6:
- 言語理解 言語理解、知識、概念化
- 知覚統合 見て記憶したり判断したりする能力
- 作動記憶 新たな情報を記憶、短期記憶に保持、処理する能力
- 処理速度 複数の情報を処理する能力
郡指数算出のための下位検査ごとの評価点(平均10標準偏差3のガウス分布)において、作動記憶の検査である数唱の評価点が7、作動記憶の検査である算数の評価点が15であるなど、大きなばらつきがみられました。
以上の個人内差から、全体的な知的水準と比べてできないこと・苦手なことを強く意識しやすく、不全感を抱いたり自信を失ってしまいやすい、と言えます。
個人内差のまとめとして、以下の特徴が挙げられました:
- 得意なこと
- 語彙が豊富で説明を求められたときに具体的な説明をすること
- 獲得された知識を元に、言語的な洞察によって課題に対する結論を導き出すこと
- 苦手なこと
- 聴覚からの情報を一時的に記憶に留めること
所見として、機械的で単純な記憶力が良い一方で処理を加えた記憶が難しいことが挙げられました。実用上の問題に例えれば、文章による明確な指示は理解して記憶することができますが、口頭での曖昧な指示を記憶することが難しく、何を指示されたのかを理解することが難しいです。
記憶検査(WMS-R)
検査結果より、指標は平均~優れているという評価でした。言語性記憶=聴覚情報の記憶力よりも視覚性記憶=視覚情報の記憶力が優れています。有意水準については不明です。指標の大小は 遅延再生 > 視覚性記憶 > 言語性記憶 > 注意/集中力の順でした。注意/集中力がきれいに平均=100で安心しました。
自分の症状について
ASD 由来の症状
コンテキストを想像して会話をするのが難しい、人の立場や考えを想像するのが難しい、独自の強いこだわりがありそれが害されると強く怒ったり軽いパニックになる、興味の偏り、などの症状があります。
コンテキストや想像力についての症状を端的に表す例として『「洗濯機回しておいて」と言われた時に、洗濯物を干すことができない』があります。 「洗濯機に乾燥機能がついていない場合は洗濯が完了したら洗濯物を干す必要があるので、洗濯機を稼働させる(=回す)だけでなく、洗濯物を干さなければ作業が完了したとは言えない」ということが分からないためにこのような現象が起きます。ちなみに、洗濯機を「回す」というのが「洗濯機に洗濯物を適量投入した後、洗剤類を適量投入し、水栓を開け、適切なコースで洗濯機を稼働させる」ということを指すのは、生活習慣によって強く認識しているので分かります。
こだわりについては、些細なことで事柄に不釣り合いなほど嫌がったり怒ったり固まったりします。例えば、事前の合意なく普段使っている机を整頓されたら、火がついたように怒るか、訳が分からなくてその場で机をぐちゃぐちゃにしてしまうと思います。どんなこだわりがあるのか挙げればきりがないですが、私物を勝手に動かしたり使ったりされるのはとても嫌がります。
興味の偏りについては自覚するエピソードが思いつかないですが、興味のないものに興味がないために自覚していないのかもしれません。
ADHD 由来の症状
注意を持続するのが難しく大抵の行動は2分で飽きてしまう、過剰に集中してしまい他の行動がおろそかになる、情報を整理するのが苦手で部屋や仕事の TODO などあらゆるものが散らかっている、音などの外部刺激が苦手で気を取られやすい、ものごとに取り掛かるのが難しくあらゆる TODO は限界まで先延ばしにされて期限を過ぎる、がんばれない、などの症状があります。
ADHD 由来の症状、とくに不注意に関するものは挙げればきりがないですが、最近困っているのは上記の症状です。
仕事にすぐ飽きてしまうので Twitter、はてブ、関係のない社内ドキュメント、関係のないコードに気を取られてしまい、理想的に作業が進むことはまずありません。学生時代の勉強や授業も同様で、大学の講義を最後まで集中して聞けたことは一度もありません。逆になにかの拍子で過剰に集中してしまい、数時間ほどものごとに取り組むこともあります。例えば、今この文章を書き始めて4時間ほど経過しますが、この節を書くために時計を確認して初めて4時間経過していることに気づきました。食べかけの夕飯と起動したままの MHW:IB を放置しています。お腹は空いているしゲームはしたいですが、文章を書くことが気になってしまっているので仕方がありません。
小さい頃から掃除や整理整頓は苦手で、部屋はいつも散らかっています。いざ片付けようと思っても、何をどうすればよいか見当もつきません。何を捨てなければならないか、何を残さなければならないか、何をどこにしまえばよいかが一切分かりません。散らかった部屋を見ると固まってしまいます。
人が気にならない程度の物音を気にしてしまうので、人が集まるところは苦手です。オフィスで仕事中に他人の話し声が気になって気分が悪くなることがありました。急に音がするのも苦手なので、夜道で知人に声をかけられると必ずびっくりして声をかけた人にびっくりされて、それでさらにびっくりします。
事務手続きや振り込み、睡眠や食事などあらゆるものに取り組むのが難しいために、会社で必要な手続きはギリギリになるか期日を過ぎて担当者に注意され、公共料金の支払いは期日を過ぎ、寝る支度が面倒で睡眠障害になり、出かける支度が面倒で約束の時間には間に合わず、頼まれた仕事の期限もギリギリだったり遅れがちになっています。夏休みの宿題は当然、始業日に間に合ったことがありません。
がんばれないというのは、DSM-5 の診断項目の「精神的努力の持続が必要な課題を嫌う」というのが当てはまります。大学の編入試験勉強をがんばれずに落ちたりしました。がんばれるようになりたいものです。
治療について
診断から2ヶ月ほどしか経過していないため、治療として実施されていることは少ないです。 自分には薬物療法と病院が開催するワークショップへの参加と振り返り(予定)が実施されています。
薬物療法では、ADHD に対してストラテラを処方され、服用中です。ストラテラは少量から服用を始めて効果が出るまで徐々に量を増やしていく処方薬です。現在はごく少量を服用しているため、まだ効果はみられず、副作用も特にありません。ASD には処方できる薬がないため、何も服用していません。また、睡眠障害のために抗うつ剤のレスリンを処方され、服用しています。睡眠障害は発達障害とは別の疾患ですが、発達障害の患者が睡眠障害を発症することは多いようです。医師曰く、薬は一生服用するものではなく必要なときに適宜処方していくとのことです。
ワークショップへの参加は任意のため、診断後の1回目のワークショップは直前に面倒になってしまい参加できませんでした。次回は参加したいと思います。
おわりに
物心ついた頃から変わっているとか不思議ちゃんだと言われ続け、親にはちゃんとしろと言われ続け、小学校と中学校ではいじめられ、高専以降は何をやってもまともな成果が得られないという感覚と不全感に苛まれ、会社勤めを始めてついに適応障害(軽度)を発症して精神衛生をぶち壊すなどの人生を歩んできましたが、なんとなくそういった事象の理由が分かってよかったです。
発達障害と診断されてから精神疾患を持っていることに悩んだりしていますが、何も分からないよりは何か分かった方が解決策も実施しやすいとは考えているので、強く生きていきたいと思います。
免責事項
これは専門の資格を有さない筆者によって執筆された記事です。
本記事に記載される情報、特に発達障害や各種検査、処方薬については、事実と相違のない記述となるように努めてはいますが、筆者が正確性を保証するものではありません。 また、本記事に記載された情報を利用することで生じるいかなる被害や損害について、筆者が保証するものではありません。